ナメワッカ岳
(カムイ北東尾根から主稜線往復)
○1995年5月3日~6日
○L三浦央 鷲見 吉岡 福嶋(男4名)
○コースタイム
3日
05:22 大正の沢出合で車止め
05:45 カムイ北東尾根取り付き
10:50 Co1670m主稜線
13:55 Co1650m(C1)
4日
07:22 C1
08:54 エサオマン頂上(P1902m)
09:30 札内分岐(Co1869m)C2
5日
04:35 C2
05:45 ナメワッカ分岐(Co1820m)
07:20 ナメワッカ岳頂上(P1799m)
09:12 ナメワッカ分岐(Co182Cm)
10:40~11:10 C2
11:48 エサオマン頂上(P1902m)
14:00 Co1560m C3
6日
05:32 C3
06:57 カムイ岳頂上(P1756m)
07:15 Co1670m主稜線
09:07 カムイ北東尾根取り付き
09:33 大正の沢出合
3日 遠くから、ドスンドスンと小さいが響く音が聞こえてきた。
見るとカムイ岳周辺を東西に走る尾根から、一辺3m位の直方体の雪の塊などが転がり落ちている。
私は「雪崩だ」と叫んだが「いや、あれは雪庇が落ちてるんだ」とW氏。
雪庇の上を歩くのは危ないと聞いていたが、それが落ちていくのを見るのは初めてだ。
その危険性を実感する。地上では生暖かく曇りだったが、高度を上げるにつれて晴れてきた。
しかもすごく暑い。
北東尾根は良好で、なんなく主稜線へ。
ここから先の尾根はさながら雪庇の街道である。
我々はなるべく尾根に近いところを歩いたが、気温が上がるにつれてズボズボとぬかりだした。
それにしても何日か前に通ったらしい先行パーティは勇気があるのか無謀なのか、ずっと雪庇寄りを歩いている。
あの崩壊を目の当たりにしてはその上を歩くのも恐ろしい。
こうして最初はエサオマンを越えて札内分岐まで行けそうに思われたが、ラッセルによる疲労が著しく当初のC1予定地・Co1604mを越えた所で行動を停止した。
暖かい日だっただけに、みんなのプラブーツの中はもうびしょびしょだ。
4日 夜半から激しい風が吹き始め何回か目をさました。風はなかなか止まない。
もう7時を回っており出発する。
エサオマンまでは雪にぬかりながらも何とかたどり着いたが、そこから先は雪が少ないもののひどい南西の風だ。
足元がハイマツでふらふらする上に荷物も重いので、バランスを崩しそうになってえらく疲れる。
札内分岐から南へは完全に向かい風なので私はそこからどうするか迷ってしまった。
本日はここで行動停止と決め、さっそく札内分岐の北東の影にテン場を作り、雪をブロック状に切り出して壁を作った。
まだ昼前である。私はペグに使った自分のピッケルを掘り出して少々尾根歩きをしょうとシャベルを使いだしたが、そこで一瞬の油断があった。
シャベルは札内分岐からエサオマンの北東カールの底に向かってカラカラと音を立てて滑り落ちていく。
Y氏はやめた方がいい、と止めたが私は昼の運動を兼ねて300m下に向かって歩き出した。
今日の斜面の凍り具合なら雪崩もないだろう、と判断したためだ。
途中の木に引っ掛かってないか注意しながら下りていったが、やはりシャベルは一番底に落ちていた。
斜面は急だが凍っているので歩きやすい。
ただ周りは暖かいときに起きた雪崩の跡がたくさんあったから状況によっては取りに行けなかっただろう。
5日 2時半に起床、昨日よりも風は大分弱いしガスも少ない。
我々は4時半過ぎに出発した。
ところがテン場の壁をぬけるとやはりひどい風と吹雪、そしてガスだ。
あられの吹雪が日焼けした顔にあたって痛い。それでも足元はしまっていて絶好調だ。
視界がきかないので地図を頼りに慎重に進む。
ナメワッカ岐を西に折れ、時々現れるナイフリヅジを難なく越えていく。
そのうちに風は弱まったが、アラレが雪に変わった。
さて、いよいよ最後の登りになった。
ハイマツはアイゼンが引っ掛かるといやなので回りこんでみるとそこは傾斜50度の雪壁。
でも我々はそこも難なく乗り越え更に進んでついにナメワッカ頂上に立った。
しかし、Y氏はどうも先ほど通り過ぎたビ一クの方が高そうだという。
地図を頼りに先程の雪壁を登り切ったところのピークに戻るとそこが本当のピークで私の読図の間違いだった。反省。
C2で荷物をまとめ、雪は止んだがひどい向かい風の中をエサオマンヘ。
C3はC1よりも北寄りのところにテントを張った。
6日 風は強いが、まわりの山の頂上以外はよく見える。
足元はよくしまっておりカムイ岳へ。
北東尾根の頭からは完全にガスと吹雪になった。空身でカムイ岳をピストン。
北東尾根は迷いやすい尾根がいくつかあって慎重に降りたつもりだが2回間違ったのでまた反省。
天気は下るにつれて吹雪が雷、みぞれ、雨、と変わってくる。
それにしても日高の尾根は取付きが不快だ。蒸し暑い笹藪を雨に濡れて下っていると、いい想い出がどんどんなくなっていくような気がする。
林道に出たときはほっとした。車は林道をゆっくりと出発した。
私の中で何かが変わり始めている。それまで私は小雨はおろか、ガスであっても山に登ろうという気が起きなかった。
しかし今回や前回のピパイロでもそうだが、たとえ吹雪でもあらゆる状況を判断し、それらを乗り切って目的のピークを踏むことに充実感を覚えるようになってきた。
困難を克服するという点では好きな登攀と似ているのかもしれない。
クライミングを中心とした山行だけでは不十分であるということを今回よく認識したような気がする。
(茶房多種No.203記録・三浦央)