多賀城市 多賀城高校

「私たちには伝えたい今と、創りたい未来がある!」

宮城県多賀城高校。防災の未来を学ぶ「災害科学科」が誕生。

千年前の津波伝承も残る宮城県多賀城市。

このまちの県立高校に、全国で2例目となる「災害科学科」が誕生します。

目指すのは、命と暮らしを守る未来の創造者の育成。

理を知り、命を守る科学を学ぶ。出会いと絆をつくり、寄り添い、伝える心を育む。

「私たちの防災活動や願いを、全国に発信していきたい」

可能性と元気がいっぱい。宮城の高校生たちが新しい一歩を踏み出します。

仙台市の北東に位置する宮城県多賀城市。

市の名前は今から約1300年前に大和朝廷が開いた「多賀城国府」に由来します。

貞観11年(869)には、東日本大震災後「千年に一度の規模の地震」としてクローズアップされた「貞観地震」と、それに伴って発生した大津波が国府を襲った記録も伝えられています。

宮城県多賀城高等学校は、普通科7クラス、840人の生徒が通っています。

その多賀城高校に、平成28年4月、新しい学科が誕生します。

名前は「災害科学科」。全国で2例目となる防災系専門学科です。

宮城県多賀城高等学校

リーフレットより

平成23年3月11日に発生した東日本大震災のあと、宮城県では、学校における防災教育の重要性を再認識し、平成24年度から全国に先駆けて県内の公立学校全てに防災主任※を配置。大震災の経験と教訓を踏まえ、防災教育を推進しています。

※防災主任:主に自校における防災教育の指導的役割を担うとともに、保護者や地域住民、関係機関等との連携の窓口となります。

さらに県は、防災や減災などが学べる学科を県立高校に設置することを決定しました。

万が一の災害発生時に、命とくらしを守ることができるスペシャリストを育てること。

それが多賀城高校の「災害科学科」の目指す教育です。

「設置校として本校が選ばれたのは、多賀城市が公共交通の便に優れ、仙台市内や他県の大学・研究機関などと連携しやすいこと。また、市内にある陸上自衛隊多賀城駐屯地や、隣の塩竈市に本部を置く海上保安庁宮城海上保安部(海保第二管区)などとも連携や協力をして、助言がもらえる体制をつくりやすいことなどが理由です」とお話しくださったのは、佐々木克教教頭先生。

「7クラスあった普通科を6クラスとし、災害科学科を1クラス新設。第一期生は平成28年4月に入学の予定です」

あの日、3月11日——。

多賀城市内にも津波が押し寄せ、陸上自衛隊多賀城駐屯地や、通学路でもある国道45号や県道仙台塩釜線(通称・産業道路)などが浸水しました。

被災した多賀城市(平成23年4月撮影 「みやぎ・復興の歩み3」より)

塩釜港や仙台港にも近い多賀城高校。帰宅の機会を逸した生徒108人が校内で一夜を明かしました。当時、学校には備蓄食料がなかったので、職員室などにあったお菓子などをかき集め、みんなで分け合ったりしたそうです。

在校生に犠牲者はいませんでしたが、自宅が被災したり、家族を亡くしてしまった生徒がいます。

しかし、生徒たちは、今回の震災の経験を活かそうと、震災直後から数々の試みを開始しました。若い彼らには、悲しみや辛さを乗り越えようとする、未来へと向かい始める力があったのかもしれません。

浸水域をピンク色で示した通学防災マップの作成や、実際に津波が到達した高さを示す標識を通学路の電柱に設置する取り組みもその一つです。

通学防災マップ

津波浸水標識の設置

また、平成27年3月14日、仙台市で開催された国連防災世界会議のパブリックフォーラム「世界防災ジュニア会議」にも参加。

若い世代の目線から災害に備え、被害を最小限にするための知恵を考えるこの会議では、デザイン性の高い防災グッズ、廃油で発電したり太陽光での蓄電装置を搭載した「減災電源車」、着替えができない状況下でも快適に過ごせる女性用下着セットを提案するチームなど、一般企業やNPOを中心にユニークな9団体が最優秀賞である「グッド減災賞」を競いました。その中で、多賀城高校が発表した『命を守る 未来に伝える』が最優秀賞に選ばれました。

世界防災ジュニア会議の様子

他にも、校内で開催された防災ワークショップを通じた意識の高揚、起きてしまった災害と向き合う方法の学習なども積極的に行ってきたほか、県内外の高校生、仙台市内の大学に留学中の海外の同世代との交流も盛んです。

「留学生の皆さんに津波浸水域を案内したり、松島で一緒に遊覧船に乗ったり。伝える、というスキルも学べました」と話すのは語学研究会の佐藤千咲さん(1年生)。

「復興している現状だけじゃなく、もともとの地域の魅力を伝えていきたいです」

平成27年10月に行われた「JAXA(宇宙航空研究開発機構)」との連携授業では、衛星の防災利用について学びました。

「地理の授業で学んだ内容と結びついて分かりやすい授業でした。将来は教師を目指していますが、自分の知識や経験を皆に伝えていきたいです」(佐藤匠さん/1年生)

「東日本大震災のような災害は、また世界で起きるかもしれません。少しでも被害を小さくできるよう、衛星や科学技術が役立ってほしいです」(冨士原茉奈さん/1年生)

平成27年12月には、阪神淡路大震災を経験した神戸市から神戸大学附属中等教育学校の訪問を受け、意見や情報の交換を行っただけでなく、そこには友情も芽生えました。

「知り合いも友だちもいなかった東北。でも、来るたびに誰かと知り合い、今では仲良しの友だちがいる東北です。もう知らなかった土地じゃなくなりました」(渋谷祥子さん/神戸大学附属中等教育学校4年生)

また、全国に先駆けて「環境防災科」が設置された兵庫県立舞子高等学校とも、連携や意見交換などを行いながら、より交流を深めていく予定です。

在校生の皆さんの声も伺いました。

「3.11以降の僕たちの取り組みが、もっと目に見えたり分かりやすくなっていくと期待しています。当時は中学生でしたが、全国からの支援は本当にうれしかったです。自分だけじゃなくみんなで力を合わせて復興を盛り上げていくことが恩返しになるのかなと思います」(大槻有矢さん/2年生/生徒会総務)

大槻有矢さん

「宮城県で最初にできる災害科学科です。多賀城高校が減災や防災の面で高校生たちをリードして行けたらいいなと思いますし、私たちの活動や願いももっと全国に発信していきたいです」(岩佐彩音さん/2年生/生徒会長)

岩佐彩音さん

「災害科学科」は理系に軸足を置いた学科になります。「自然科学と災害」「くらしと安全」「情報と災害」といった授業や実習もあり、全国の大学、防災科学技術研究所や宇宙航空研究開発機構、海洋研究開発機構、国交省東北地方整備局などと連携・協力。

また、東北大学災害科学国際研究所所長の今村文彦教授ら多くの大学の先生方も防災教育専門アドバイザーとなります。

「理系の大学への進学を視野に入れています。将来的には自然環境や、災害・防災の研究、都市計画や心理学などを学んで、各方面で活躍する防災・減災のスペシャリストになってほしいです」(佐々木教頭先生)

自然災害は、これからも世界のどこかで起きてしまうかもしれません。

しかし、その発生を予測し、あるいは備えを講じ、被害を最小限に食い止め、状況に対処していく能力と人材がますます必要とされていきます。

「守り、伝え、未来を創っていく」

高校生たちの夢と可能性をのせて、宮城県多賀城高校災害科学科が今春、新しい歩みを始めます。