「みんなでつくろう! 子どもも大人も喜べる楽しい交流の場!」
宮城県東松島市で子どもたちの「会社」が地域を盛り上げています。
農地の約半分が津波に襲われた宮城県東松島市に、
子どもたちが地元野菜を仕入れて販売する「会社」があります。
「ふるさとを元気にしよう」「地区の野菜のおいしさを知ってほしい」
子どもたちの復興計画は、「あかいっこカンパニー」という「会社」に発展し、
大人たちをも刺激して、世代を超えて盛り上がっています。
子どもたちの笑顔は地域の元気の源。田園の風に乗って明るい声が広がっています。
仙台湾に面した東松島市の平野部は、鳴瀬川や定川などの清流が潤し、古くから稲作や野菜づくりが盛んに行われてきました。
冬でも日照時間が長く、園芸作物の種類が豊富。市内の矢本地区が発祥とされるチヂミホウレンソウをはじめ、トマト、キュウリ、長ネギ、イチゴなどは県内有数の生産量です。
東日本大震災の大津波により、東松島市では農地面積約3,070ヘクタールのうち半分以上の約1,465ヘクタールが浸水して、地域の農業は大きなダメージを受けました。
しかし、関係者や各関係機関の努力と、ボランティア、全国そして海外から寄せられた多くの応援と支援のおかげで、平成28年度春の作付け時季からは約92%に当たる約1,489ヘクタールで営農が可能となる見込みです。
再び力強く歩み始めたそんな農業のまちに、大人たちと一緒にふるさとを盛り上げていこうという子どもたちの「会社」があります。
東松島市の赤井地区にある「あかいっこカンパニー」です。
会社とはいっても、法律上の正式な会社ではありません。
会社組織の形態と運営方法を参考にして取り組んでいる、地区の子どもたちの活動です。
地区の子どもたちが地区の農家から野菜を仕入れ、年に1回、朝市を開いて販売します。
設立は平成26年。平成27年現在の社員数は27名です。
社長は中学生、副社長は高校生。「会社」ですから、役員もいれば営業や経理などの担当者も、もちろんいます。
さらには「カンパニー」のロゴや、農家へのあいさつや仕入れ値の交渉などの際に使う名刺も子どもたちが考えて作成しました。
あかいっこカンパニー社長の渥美静花さん(左)
企画や運営も子どもたちが話し合って決めます
長いもの生産者と
地域を知り、社会を学び、交流の場をつくり、みんなが喜ぶことができる。
大人と一緒にふるさとの復興を目指そう――。
野菜を仕入れて売る・・・。それだけじゃない、たくさんの想いが「あかいっこカンパニー」の活動にぎゅっと詰まっています。
「この活動は、赤井地区自治協議会にあるコミュニティ部会で行った『ぼくとわたしたちの復興計画』から生まれたものです」
そう話すのは、赤井地区自治協議会の事務次長で、まちづくり指導員でもある渡邉和恵さん。
渡邉和恵さん(中央)グッドデザイン賞授賞式にて
「まちづくりを考えたとき、子どもたちは震災のことをどう受け止めて、自分たちの地区のこと、未来をどう考えているのか。それを純粋に知りたいと思ったのです」
震災の翌年の平成24年、協議会は、宮城大学事業構想学部の鈴木孝男先生に協力を依頼。震災のとき、自分たちはどう逃げたか、避難所はどうだったかを話し合ったり、市の担当者から東松島市の復興計画の説明を受けたり、さらには赤井地区の歴史や成り立ちを学ぶ「まち探検」を行うなど5回の活動を行いました。
子どもたちは地域のこと、ふるさとが受けた被害のことなど、さまざまなことを学びました。
子どもたちは「私たち小中学生にもできる復興計画ってなんだろう?」「この地区を元気づける方法ってなんだろう?」と考え、話し合う中から、
「赤井は農家が多くて野菜がおいしいよね。赤井の野菜のおいしさを広く知ってもらおうよ」と、活動の方向が決まりました。
こうして、赤井の野菜を紹介しながら地域内外の人たちとの交流もできる子ども朝市「赤井の野菜を食べてけらいん市」を開催することになったのです。
平成27年11月8日の子ども朝市「赤井の野菜を食べてけらいん」 雨の中でがんばる子どもたち
「計画ができたのが平成25年の2月でした。そして春から2カ年計画で、復興計画を実施する年として活動を開始。農家の訪問や朝市の会場内での場所決めなども子どもたちが主体となって動きました。また『ゆりあげ朝市』をみんなで見に行ったりもしました」(渡邉さん)
さらに翌年の平成26年には、
「もっと楽しく、もっと積極的にいろいろなことがしたい」
と、子どもたちと協議会は「会社をつくろう!」と決定。
こうして「あかいっこカンパニー」がスタートしました。
「赤井の野菜を食べてけらいん市」は、11月の第一土曜日に開かれます。
野菜の購入や販売の計画を立てる仕事もあれば、農家を訪ねて野菜を仕入れるバイヤーの仕事もあります。
仕入れ価格はいくらにするのか、何をどれぐらい仕入れるのか、交渉は農家ごとに行います。また、どの農家がどの時期にどんな野菜を作っているのかも知らなければなりません。農家を訪ねてやりとりする中から、野菜のことや地域のことを教わったり・・・。
「そういうコミュニケーションが大切だと考えます。子どもたちと大人たちが交流し、地域のことを考え、協力し合う場面も増えていきました。
今年度の副社長である及川つくしさん(石巻西高3年生)は、
「友だちに誘われて高2の秋から参加しました。ボランティア活動もしたいと思っていたし、地元・赤井のために貢献したいという思いもありました。初めのうちは農家の人たちとのやりとりなどがたいへんでしたが、だんだんたくさんお話もできるようになったし、学年を超えて仲よくなれたり、どんどん楽しくなっていきました」
営業担当の渡邉みのりさん(石巻好文館高校2年生)は
「農協の方から仕入れ価格の設定とか、難しかったけれどいろいろ教わり、また、ポップを作ったり、名刺交換したり、たくさんのことが経験できました。みんなと話し合う中でアイデアもどんどん出て、友だちも増えた。それが楽しいです。」
渡邉みのりさん(左)と及川つくしさん(右)
「子どもたちのやる気が、地区の起爆剤にもなっている」と渡邉和恵さん。
「大人たちが『朝市に来て楽しい』だけじゃなく、じゃあ俺たちも何かやろうと、お菓子屋さんが『朝市で販売して』とケーキを作ってくれたり、おにぎりや駄菓子、加工品を提供してくれたりと、そんな地域の元気にもつながっています」
こうした子どもたちの取り組みは、公益財団法人日本デザイン振興会の目に止まり、平成27年度の「グッドデザイン賞」を受賞しました。
この賞は、社会を豊かにする商品やサービスに贈られるものですが、家電製品や乗用車など「モノ」だけではなく、ビジネスモデルや地域づくりなども対象になります。
グッドデザイン賞受賞の記念パネル
「あかいっこカンパニー」の受賞理由は「みんなが喜べて、交流できる場」。
子どもたちが話し合い、活動し、大人たちをも巻き込んで、みんなにおいしい野菜と笑顔を届けてきた。その活動が高く評価されたのでした。
今春、仙台市内の大学に進学する及川つくしさんは
「私自身は活動からちょっと離れるかもしれません。でも協力は続けたいですし、カンパニーもずっと続いて、赤井を盛り上げていってほしいです」
渡邉みのりさんも、
「『お年寄りとの交流もしたいね』なんて話し合っています。お茶ッコ飲みの会を開いたり、朝市だけではない交流の機会をもっと増やしたい」と話します。
震災という出来事を機に、地域の絆をもう一度、以前よりも深めようとする赤井地区の大人と子どもたち。世代を超えた交流や関係が生まれ、広がっています。
まちの未来への希望と、元気と笑顔を生み出す「あかいっこカンパニー」の活動は、まだまだ地域を刺激し続けそうです。
2015年秋 子ども朝市のポスターをみんなで作成