「全国に伝えたい。宮城の元気と感謝!」
宮城県利府町のフェスティバルが思いと絆を未来につなぎます。
「感謝の思いと地域の魅力を発信します!」
全国から駆けつけた仲間と共に奏でる祭りの音色。
青空の下、力強く響き渡ります。
津波被害を受けながらも、県内外からのボランティアと共に
沿岸被災地の支援を続けた利府町の皆さん。
支援や応援で結ばれた絆は、未来へとつながっていきます。
宮城県利府町は、仙台市の北東、仙台平野を東西に横切る松島丘陵に抱かれた人口約3万6000人の町です。
松尾芭蕉の「おくのほそ道」にも、利府について記述があります。
「おくの細道の山際に、十符の菅あり。今も年々十符の菅菰(すがごも)を調(ととの)へて、 国守に献ずといへり」
(おくの細道の山際に、十符の菅菰の材料となる菅が見られた。今も毎年十符の菅菰(敷物)を作り、藩主に献上しているという。)
その昔、菅という草を乾燥させ編み込んで作った敷物のことを、その編み目が十筋あることから「十符の菅菰」と呼んでいました。
現在の利府町周辺が「十符の菅菰」の産地だったことから「十符の里」と呼ばれるようになり、その呼び名が現在も継承されています。
東日本大震災では利府町の沿岸部にも津波が押し寄せました。
浜田・須賀地区では漁港が損壊し、多くの住宅が浸水被害を受けました。
復興が進む浜田漁港
住民は全員避難して無事でしたが、国道45号はガレキに覆われ、JR仙石線のレールはへし曲がりました。地盤沈下のため、満潮になると冠水に悩まされるようにもなりました。
震災から4年半が経過した平成27年10月11日。
町内の高台にある宮城県総合運動公園「グランディ・21」の円形広場で、秋の恒例イベント 第25回 「十符の里 − 利府」フェスティバルが開催されました。
震災が発生した平成23年は開催が見送られましたが、毎年、町民の誰もが楽しみにし、そして町民みんなでつくる秋祭りです。
まちの団結力の象徴でもあります。
物産や飲食物を販売するために町の人たちが出店しているテントの一角で、「利府町婦人会」も宮城の名物「はっと汁」などを提供していました。
「震災の時には鉄道も止まり、自家用車はあってもガソリンがなかった。ガスも電気も水道もストップしてしまいました。震災直後の数日間は、私たち自身の暮らしもままならなくて、心配と不安で胸がいっぱいでした」
とお話しくださったのは、利府町婦人会の会長で宮城県地域婦人団体連絡協議会の副会長でもある伊藤きよみさん。
利府町婦人会会長 伊藤きよみさん
「でも、全国地域婦人団体連絡協議会をはじめ、日本中の婦人会からもたくさんの励ましをいただき、本当に元気づけられました」
被害が比較的小さくて済んだ利府町は、複数のインターチェンジを持つ交通の要衝であり、震災直後から多くの支援物資が全国から届けられました。宮城県県総合運動公園などの大きな施設は、物資の集積施設として利用されました。
応援・支援のボランティアや団体なども集まり、利府町は仙台市、多賀城市、塩竈市、松島町など、被害が大きかった沿岸市町への支援基地として機能しました。
支援活動には、利府町内からもたくさんの方が参加しました。
「私たちは、家は流されていない」
「隣の町の人たちが苦しんでいるのだもの」
「市町の境界線はあっても生活圏は一つ」。
全国からやって来たボランティアの人たちと一緒に、利府町の人たちも、届けられた物資の仕分け、避難者のための炊き出しなどに携わりました。
約300名の会員がいる利府町婦人会も、支援に参加した団体の一つ。
結成68年の長い歴史と強い団結力を誇る「利府町のおかあさんたち」です。
全国からの励ましを受けて、利府町婦人会は、町の総合体育館で避難者のための炊き出しをローテーションで実施しました。
地区によっては、震災直後から近隣の高齢者世帯への声掛けや安否確認、おにぎりや・味噌汁、飲料水などの提供、避難所のトイレで使用する水の汲み出しなどを行いました。
「日本中の婦人会からたくさんの仲間が応援に駆けつけてくれました。炊き出しは1カ月ほど続け、肌着や衣料品、生活用品などの物資の仕分けもみんなで一緒に行い、多くの人にお渡しすることができました。日本のおかあさんたちの優しさと絆をとても強く感じられたものです」(伊藤さん)
「日本中からの励ましの言葉、支援物資、義援金などにたくさんの元気をいただきました。語弊があるかもしれませんが、震災という悲しい出来事の一方で、絆という力の大きさを感じられたのは素晴らしいことだったと思っています」
伊藤さんの目がやさしく輝きます。
利府町婦人会の団結力は震災後ますます強くなった、と伊藤さん。
「がんばれという声とともに届けられた応援や支援に対するお礼は、今、がんばっている元気な私たちの姿をお伝えすることかなと思っています。今、あらためて、全国の皆さんにお礼を言いたいです。感謝の気持ちでいっぱいです」
平成27年の「十符の里 − 利府」フェスティバル のテーマは「笑顔 元気で 更なる飛躍」です。
運営委員長である小山田加代子さんは、
「利府町としては一大イベントですが、東北・宮城県の中のひとつの小さな町のお祭りです。でも、全国の方から気にかけていただき、これまで福島県、長野県、静岡県などから太鼓演奏や民踊などで参加してくださった皆さんも大勢いらっしゃいます。支援や応援がキッカケで始まった交流が、これから未来へも続いていく・・・。こんなに元気をいただけることはございません」
と、ますます明るい未来への想いをお話しくださいました。
「十符の里−利府」フェスティバル運営委員長 小山田加代子さん
今年もまた、県外からは、山形花笠踊り(山形県)、信濃国松川響岳太鼓(長野県)、岩代國郡山うねめ太鼓保存会小若組(福島県)といった多くのゲストが駆けつけてくれました。そして地元の誇りである利府太鼓や、利府中学校吹奏楽部も、もちろん参加。
山形花笠踊り
利府中学校吹奏楽部
利府太鼓
フィナーレは、利府太鼓の演奏にのせて、大人も子どもも一緒に踊れる町のオリジナル舞踊「利府祭人」の群舞。
「笑顔 元気で 更なる飛躍」というテーマそのままに、明るい声と力強い太鼓の音が、丘の上に広がる空の、雲の彼方にまで伝わっていきそうでした。