人妻との熱い夜

人妻との熱い夜

by 藤葉

ここまでガードを下げた若島津の姿を見るのは知り合って以来初めてだった。

さっきの日向とのちょっとしたやり取りの中に、こいつをここまで動揺させるなにかがあったことは確かだが、俺にはそれを詮索するつもりはなかった。

男同士でおかしな表現かもしれないが、思いがけず巡ってきた美人とのデートを楽しむだけだ。

とはいえ、若島津は俺が話しかければ答えはするものの、完全に心ここにあらずで…。

おおっと。

階段も見ずに足を踏み出そうとした若島津の身体を間一髪抱き寄せた。

ゴールキーパーの本能が発動したまでだが、この絶妙なスーパーセーブを誰かに褒めて欲しいところだ。

思ったとおり、若島津の身体は俺の腕の中にしっくりと納まった。もちろん、華奢だとか、小柄だとかいうつもりはないが、俺は規格外の東洋人だし、ドイツには、こいつよりも抱き応えのある女性が山ほどいる。

長い黒髪からふわっと香る、これはシャンプーか?俺の腕の中で無防備に俺を見上げる若島津には、どうしようもない保護欲をかき立てられる。

日向め、いったい何をしでかしたんだ?

***

こいつの前では口が裂けても言えないが、ライバル心をむき出しにして向かってくる若島津には、正直昔から何度もゾクゾクさせられてきた。普段のこいつには、押さえつけて踏みにじってやりたいと思わせる、男の征服欲を駆り立てるような色気がある。

だが、今日の若島津は、全くの別物だった。

若島津が上の空であるのをいいことに、今日の俺は思う存分、普段見慣れない若島津の姿を堪能させてもらった。

穏やかな視線で、美術品や絵画を見つめる若島津の横顔には、崇高ともいえる美しさがある。

さらさらの黒髪を時々かき上げる仕草、襟足に覗く白いうなじ、くどいようだが、こいつが男だということは百も承知しながらも、芸術品を見ている本人自身がまさに芸術品だ。

心ここにあらずであるからこそ、というべきか、俺のくだらない冗談に全く構えた様子もなく喉の奥で小さな笑い声を立て、肩や腰に回した俺の腕を気にする様子もなく、至近距離で笑顔の若島津が俺を見上げるたび、そのふっくらとした唇を思う存分むさぼりたくてたまらなくなった。

これが日向と一緒にいる時のこいつの姿なんだろうか。

馬鹿げた噂のとおり、日向は、この唇を思う存分味わう立場にあるのか?

普段、チーム外のライバルたちの前では寸分の隙も見せることのない若島津のこんな無防備な姿を独り占めしておきながら、よりにもよって最大のライバルである俺の前で体裁を繕うことも出来なくなるほどに、日向のやつ、若島津を傷つけたっていうのか?

俺は、突如沸きあがった強烈な嫉妬心から、日向を心底嫌悪した。

日向、コイツに何をした?

***

日が暮れる頃になっても、美人を手放したくなくて、俺は三杉から仕入れておいたレストランへと若島津を引っ張っていった。

若島津は、寛いだ様子でワインを飲みつつ俺ととりとめのない会話はしながらも、ほとんど料理に手はつけなかった。

穏やかそうに見える若島津の内側で、昼過ぎに日向と別れてきて以来、ずーっと張りつめ続けていたものが、そろそろ限界に達しているのを俺は感じ取っていた。

俺の冗談にまた小さな笑い声をもらした若島津の目から、信じられないほどまん丸の涙の粒がぽろぽろと零れ落ちたとき、俺はその何かが折れたことを知った。

レストランを出た俺達は川沿いを少し歩き、若島津が酔いに足元をふらつかせると、俺はその場で足を止めて若島津の身体を胸に抱き寄せた。

若島津は、それをきっかけに俺にしがみつくようにして俺の襟元に顔を押し付け、声を殺して本格的に涙を流し始めた。

熱い涙がシャツに浸み込むのを感じつつ俺は不謹慎ながら、正直感動していた。

若島津が、俺の胸で泣いている。

ほんのガキの頃から宿命のライバルとして、今までまともに腹を割って話もしたことがなかった若島津が、だ。

今日一日、これまでの関係からは考えられないほど若島津と身近に過ごし、その笑顔を見つめ、その身体に触れ、今はこうして腕の中にしっかりと抱きしめている。こいつが正気に戻ったとき、あっさりと腕の中から手放すことができるものかそれを不安に感じるほど、俺は若島津という存在に愛着を感じはじめている。

若島津が震えるように俺の襟元で一つ大きく息をついた。

『その時がきたら、簡単に決心をつけられるってずっと思ってたんだ。この関係に将来はないって、最初から覚悟してたから…』

微かな声音だったが、確かに聞こえた。

二人の何を知っているわけでもなかったが、日向のことを言っているのだ、とぴんときた。

今日何度目になるのかわからないが心の中で激しく日向を罵った後、宥めるように声をかけると、若島津がするどく息を吸い込んで勢い良く顔を上げた。

みるみる頬が真っ赤に染まっていく。

声に出していたとは思わなかったと再び俺の肩口に顔を伏せた若島津に軽口を返しながら、するすると滑らかな手触りの黒い髪を指で梳いた。

「俺のホテルに来るか?」

今晩このままこいつを手放すことなど、もうできなかった。

俺の肩から顔を上げた若島津は思いのほか静かな表情で俺をじっと見上げた。

***

全日本の合宿に一晩前乗りした俺は、日本から参加のメンバーとは別のホテルに部屋をとっていた。合宿前の一晩くらい、文字通り、思う存分手足を伸ばして眠りたい。

俺達の背後でドアがゆっくりとしまった時、灯りのスイッチを探る俺の手を押しとどめて、若島津は身体をすり寄せて来た。

両腕を俺の首に回し、薄暗がりの中で、まるで溺れる寸前の人間のような顔で、やつは俺を見つめた。

これ以上ためらうつもりはさらさらなかった、俺は僅かに身をかがめ、ついに、若島津の唇を自分のものにした。例え、それが今晩だけのことだったとしても。

俺の腕の中の若島津はためらいもなく俺のキスを受け入れた。

俺は急激に高ぶる情欲に喉の奥で唸り声をあげながら、若島津の服を剥ぎ取っていった。

コートを脱がせ、シャツのボタンを外し終わった時、若島津が俺の手を押しとどめた。

再び視線を合わせた時、若島津の中で何かが切り替わったのを感じた。

この目だ。いつでも俺をゾクゾクさせる。

若島津は無言で俺のシャツのボタンを外し、俺の胸筋、腹筋に指を這わせながら両手を撫で下ろし、俺のズボンのベルトに手をかけた。ベルトを外し、ズボンの前を開くと、俺の前に膝をつきながら、既にどうしようもなく存在を主張している俺のモノを下着から取り出して、ためらいもなく口に含んだ。

今日一日俺を悩ませ続けたあの唇が、俺のモノを!

俺は視覚からの刺激だけで、達してしまいそうになった。

貪るように俺を頬張っている若島津の舌の動きをそのまま楽しみたい気持ちを抑え、俺は一声唸ってやつを押しとどめ、力ずくで掬い上げるようにしてやつを立たせた。

俺のモノに蹂躙されて早くも赤く膨れ、俺の先走りと自らの唾液で艶々と光る唇に張り付いた一筋の黒髪をかきあげ、フィールドでのあいつそのままに俺を睨み付けてくる若島津の頬を両手で挟んだ。

「俺を利用して自分を貶めようなんて思うなよ。そんなことに俺は付き合うつもりはない。日向との間になにがあったのか、それを聞くつもりもない。これは今日の俺とお前のデートの締めくくりだ。お前がどう思おうと、ここでは、この部屋の中でだけは、お前を俺の恋人として扱わせてもらう」

若島津の顔が泣きそうに歪んだ。

俺は震えるその唇を静かについばみ、若島津の身体を胸に抱き寄せた。

俺達はキスを交わしながらゆっくりと服を脱いでいった。

若島津の肩からシャツをすべり落とし、乳房ではない、引き締まった胸の筋肉に掌を這わせた。

一年中サッカーフィールドにいるとは信じられないほどに色白のその肌は指に吸い付くように滑らかで、淡い色の乳首がぽつんと尖がって俺を見つめている。

今まで、女が好きだという自分の性的嗜好に疑いを持ったことなどなかったが、若島津の紛れも無い男の身体を目の前にして、俺の勃起は微塵も静まる様子を見せない。

ついにお互い全裸になると、俺はもう一度存分に若島津の唇を深く味わい、それからおもむろに若島津のウエストを両手で掴んで床から持ち上げ、キングサイズのベッドに横たえた(この俺が、シングルの部屋なんかに泊まると思うか?)。

わずかに呼吸を荒くした若島津が、その身体の上に乗り上げた俺を見つめた。

「逃げるなら今だぞ」

低く囁いた俺をじっと見つめたまま若島津は首を横に振った。

さすがにもう限界だった。

男同士のセックスが基本的に何を中心に展開するのか俺は知らない。

股間のものを手で擦りあう?口で?

しかし今の俺は、いつもの俺のやり方で、若島津を愛したかった。

身体を一つにつなぎ、大事に、慈しんで、恋人を愛するいつもながらの俺のやり方で。

俺は素早く考えをめぐらし、ナイトテーブルの近くに置いた手荷物を探って、ハンドクリームとして常に携帯している(もちろんGKにとって手は命だ)ワセリンのチューブを引っ張り出した。

若島津は俺の手の中のものを見つめて、覚悟を決めたように一度目を閉じ、俺の目の前でうつ伏せになった。

枕の上でかすかにその横顔を見せた若島津は、俺に向かってわずかに尻を浮かせた。

目の前に二つ並んだ滑らかな半球とその間に息づく窄まりを目にして、再び自制心の極限に挑まれつつも、俺は、まず猛りきった自分のものにワセリンをまんべんなく塗りつけ、それからさらに指にたっぷり搾り出して、若島津の背中に覆いかぶさった。

空いた手で長い黒髪をかき上げ、耳の後ろにキスを落としながら、ワセリンにまみれた指をソコにはわせ、ゆっくりと押し込む。

若島津は一度鋭く息を飲んものの、すぐに身体の力を抜いて俺の指を飲み込み始めたが、第二関節までが入り込んだところで明らかに俺の指の侵入を拒む完全に反射的反応で俺の指をぎゅっと締め付けた。指が食いちぎられそうだ。

俺は、若島津の耳の後ろから首筋にゆっくりと舌を這わせつつ、若島津が再び身体の力を抜くのを待ち、それから指を二本に増やした。

二本の指を根元まで抜き差ししつつ、噂に聞く例の神経の束-前立腺を探して、慎重に内壁を擦りあげた。

まもなく若島津のはっきりとした喘ぎと、中に入れた俺の指を絞り上げる万力のようなキツイ締め付けを感じて、俺はその場所を探り当てたことを知った。

俺はそこを集中的に刺激しつつ、ゆっくりと若島津をほぐしていった。

若島津の身体がもう一本増やした俺の指を無理なく受け入れるようになった時、俺は、指を抜き、モノに手を添え、腰に力を込めた。

俺の先端がきつい筋肉の輪を押し広げ中に潜り込んだ時、若島津はか細いすすり泣きのような声を上げ始めた。指に感じたのとは比較にならない強烈な締め付けに息を飲みながら、俺はぎゅっと目を閉じて、若島津が身体の力を抜くのを待った。

頬に口づけ、乳首の突起、そして滑らかな腹部をマッサージするように撫で下ろしながら俺は囁きかけ、最後についにシーツに押し付けられる形で半分立ち上がった若島津のモノを軽く握った。

「しーっ、お前を傷つけたくない、身体の力を抜いてくれ、…ぅ、そうだ、…いいぞ」

若島津が身体を緩めるのに合わせて、ぐぅーっと腰を押し込む。

全てが収まると、俺を取り巻くその体内の熱さにめまいがした。

快楽を求めてそのまま勢いに任せて抜き差ししたい衝動を抑え、俺は胸を若島津の背中にぴったりとつけるように抱いたまま右側に身体を倒した、体勢の変化に伴って若島津があげ続ける小さな声が俺をさらに刺激する。

自由な左手を若島津の腿から腰骨の辺りをこねるように這わせながら、さらに腰を押し付けた。

それを繰り返す内、静かな俺の律動を若島津が受け入れ始めたのを見て取り、俺は若島津の左足を抱え上げ、大きく身体を開かせて、先ほど見つけた神経の束めがけて大きく腰を動かし始めた。若島津の内壁が絶妙のタイミングで抜き差しする俺の棹に絡み付いてくる。そしてどこまで突いても果てのない、この底なしの深み…。

女とやって、こんな感覚を味わったことはない。これがアナルセックスなのか。こいつの身体が特別なのか。それともこいつと俺との身体の相性によるものなのか。

その感覚に完全に溺れて激しく腰を動かし続けている内、若島津が身体をがくがくと震わせ始めた、深く、さらに深くを求めて腰を押し付ける俺の全てを飲み込んだまま、若島津は俺からの刺激だけで俺がそこに触れるまでもなく一人で達したのだ、と気付いた。

若島津の絶頂に伴うとどめの締め付けをくらって、俺もついに限界を越えて弾け、今まで経験したこともないほど大量に若島津の中に発射していた。

全身に噴出した汗が身体を伝うのを感じた。心臓が苦しくなるほどの荒い呼吸をつきつつ若島津の心臓に手を当て、同じように早い鼓動を確認して、俺は汗に濡れた長い黒髪に顔を埋めた。

「中に出しちまった」

若島津が背後に腕を回して、俺の髪から頬、首筋を撫で下ろした。

「うん、感じる」

若島津は掌を俺の首筋から自分の下腹に移して、ため息のように言った。その言葉と一緒に力の抜け始めた俺のものから最後の一滴まで搾り出すように、きゅっと締め付ける。

俺は腰を密着させたまま、上半身をよじって若島津の顔を覗き込んだ。

顔に張り付いた髪を梳き上げると、ピンク色に頬を上気させた若島津の顔が現れた、泣いたためか、性行為のためか、わずかに赤く腫れた瞼は軽く閉じられ、サッカーコートを思いっきり走り回った後のような荒い呼吸をしている。

「もう眠いか?」

若島津は少し笑顔を見せて、首を振った。

「もう少し、このままでいてくれ。離れないで…」

「ああ。朝まででも抱いててやる」

俺は若島津の肩に唇を押し付けて言った。それから枕に頭を落とし、若島津の肩から腕をゆっくりと繰り返し撫でる。若島津の身体が小さな笑いの振動を伝えてきた。

「帰らなきゃ」

「浮気したと思われるか?」

「………」

「泊まっていけ。ずっと抱いててやるから」

「うん」

(奥さん、ついに浮気しちゃいましたよ!この後、ど、どうなるの…)

妻の朝帰り : 若島津健さん目線へ続く

妻が離婚を考える時:若島津健さん目線へ戻る

c翼を知っていますか?へ戻る