迷路を彷徨う妻

迷路を彷徨う妻

By 藤よう

若島津健さん目線

(どうしても誘惑に勝てず!)大好きな源三さんに思いを遂げさせてしまった結果、ストーリーは、思わぬ昏い深みへと落ちていき、このままいつかこのお話にエンドマークを付けることができるのか、甚だ不安な展開へと進んできてしまったのですが、この深海の闇に一条の光を探して、もう少し先に進んでみようと思います。

今回の更新を前に、うっかり基本設定をあちこちへ読みに行ってしまったことで、忘れていたような設定を思い出してしまったようなところもあり、これまで通りの有り得ない展開&設定に加え、薄っすらcanon(オフィシャル設定)が出てくるかもです…。

何はともあれ、これだけ長年、キャプ翼に心の一部を人質にされたまま生きてきていながら、『サッカー』というものへの知識はとんと深まらないままです。近頃、「この合宿の設定自体がそもそもありえないんじゃ…」という弱気が、さらに更新を足踏みさせる要素になってきております…。ぜひ生暖かい瞳で、かつ薄目で色々な矛盾、間違いを見逃していただけましたら幸いです。

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日向さん、大好きです

目の前の日向さんは、なんだか不思議そうな顔で、俺を見つめた

大好きなんです、あんたが

心が躍る!『こんなにもあなたのことが好きなんです』って、この人に、面と向かってはっきりと言えるなんて!

日向さんは、らしくない、ちょっと照れたような顔をして、その両腕を差し出し、俺の身体を固く抱きしめた

それこそ息も止まりそうな喜びに、日向さんを力いっぱい抱き返そうとしたとき

全ては闇に消えた

なにもかも

暗闇の中で手を伸ばした

すぐそこにあるはずのあの人の背中に

指先が触れた気がした

あの褐色のなめらかで、くっきりとした筋肉の浮いた逞しい背中に

自分の身体なんかよりもよく知っているあの熱い肌に

でも俺の指は空を切り…

もう届かない!

全身に氷水を浴びせかけられたような、恐怖にも似た衝撃に、俺は息をのんで

目を開いた

日向さん。

目の前には、穏やかな顔で眠る日向さんの寝顔があった。

高く真っ直ぐに伸びた鼻梁、意思の強さをそのまんま表したような力強い眉、高い頬骨から滑らかに真っ直ぐな傾斜を描く頬には僅かに無精ひげが浮いている。

今朝は髭剃りを省略したんだ。

この人、髭は似合わないのに。特に無精ひげは。

俺の身体にまわされた固い筋肉質の腕。

俺に触れる日向さんの身体から、いつもの熱いくらいの体温は感じるのに、俺はガタガタと歯を鳴らしかねないほどに震えていた。

指先が氷のように冷たい。

頭を浮かせてナイトテーブルの時計に視線を投げると、眠っていたのは、2時間ほどだったことが分かった。

俺は静かに、ゆっくりと日向さんの腕の中から抜け出し、バスルームへと入った。

服を脱ぎ捨て、肌が赤くなるくらいの熱いシャワーを浴びた。

なんだかわからない感情に襲われて、嗚咽を漏らした時、ふと、内ももを伝い落ちていった、ぬるりとした感触に息が止まる。

昨夜の行為の残滓。

俺は、若林に抱かれたんだ。

それは夢でも、幻でもなく、紛れもない現実だと、内ももを伝うそれが語っていた。

一瞬前まで、胸の内に溢れかえっていた激しい感情が、すっと引いていった。

静かにゆっくりと息を吐き、目を閉じて、俺はシャワーを浴び続けた。

そっと内もものぬめりを洗い流し終えた時、カチリとバスルームのドアが開く音がして、俺は目を開いた。

日向さんが一糸まとわぬ姿で、無造作にバスルームに足を踏み入れてきた。

「シャワー空きますよ」

「おう」

俺はシャワーを止めずに、日向さんと入れ替わりでシャワーストールから踏み出し、熱いシャワーのおかげで、やっと血の気が戻ってきた指先がそれでも震えようとするのを意思の力でなんとか抑え込んで、タオルウォーマーから温かいバスタオルを掴み取った。

「熱ちっ、お前、どんな温度でシャワー浴びてんだ。やけどすんぞ。身体真っ赤になってっじゃねえか」

おそらくはほとんど水に近い温度にシャワーを調整しつつ、ぶつぶつ言いながら、遠慮のかけらもなく俺の裸身をなぞる、日向さんの視線を感じる。

遠慮?

この人と一緒に風呂に入ったり、一緒にシャワーを浴びたりしたことなんて小学生の頃から数えきれないくらいだ、数年前、身体の関係を持つようになってからはそれこそ自分自身でも知らなかった深いところまで、全てを晒しあってきたこの人に、“遠慮”なんてことを考える俺がどうかしているのか。

こんな時、いつもの俺はどうしてた?

日向さんは、別の男に抱かれた俺の身体に、何か痕跡を見つけただろうか。

洗面台の大きな鏡に映る自分の身体に視線を投げることすらできないまま、手にした大きくて分厚いタオルで全身を覆って隠したくなる衝動を押し潰し、俺は殊更にゆっくりと髪と身体を拭いた。

「エアコンのせいか、なんか身体が冷えちゃって…」

「若島津」

シャワーの水音をものともせずに、日向さんの声がバスルームに響く。

「お前がさっき寝る前に言ったことだがな…」

「………」

「昨日、お前が何を感じて、考えて、一人でどんな結論を出したのかは知らない。

お前もよく知っての通り、俺は、何か行動を起こす前に、立ち止まって考えるってことができねえ。だが今ここで、それを改めるって約束したところで、まず無理だってのも、自分でわかってる。それを約束できるなら、そもそもお前にあんなことを言わせることもなかったろうしな」

俺はタオルを握った手をシンクのふちに乗せ、身体を支えた。

「俺は、あんたに変わって欲しいなんて…」

「ああ、お前はでも、もうこんな俺の傍にいるのはうんざりだと思ったわけだ」

「違う、ずっとあんたの近くにいたいから…」

「近くにいたいから、距離を置くってのか?」

「………」

「そういうのも、俺にはわかんねえ。お前にも、反町なんかにも、よく単細胞だ、真っ直ぐにしか進めないイノシシだって言われてるけどな。俺は目の前に見えてるもんしか見えねえし、理解できないってことなのかもしれねえ。

だが、お前はきっと考えて、考えて、考えて、そんで今出した答えってことなんだな。

そうすればお前は楽になるってことなのか?」

辛すぎるから。

常に自分の気持ちに真っ直ぐに生きている日向さんだから、いずれ誰か別の人間のものになるあんたを…

今のポジションで、あんたのすぐ隣で見てるなんて、きっと俺には耐えられない。

だから…

俺は、日向さんに背中を向けたまま、小さく一つうなづいた。

「なら、俺はそれを尊重することにする。まあ、とりあえずはってことだけどな」

自分で望んで、日向さんから答えをもらった。

でも、日向さんの言葉に、俺の心の奥底のどこかが、固く固く凍り付いたのを感じた。

そんな心を抱えたまま、俺のフランス合宿が始まる。

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キスをしていた。

むさぼるように。

俺は、固い筋肉質の身体を掻き抱いて、砂漠を彷徨い歩いた人間が一滴の水を味わうように、甘く蕩けるような唾液を欲し、相手の口中に舌を蠢かせた。

力強い手が俺の腿を掴み、脚を押し広げ、待ちかねてひくついているソコに、熱い先端を押し付ける。

俺は待ちきれずに、身体を開いてそれを受け入れ…

ああっ!熱いっ!

腹の奥が灼けつくような熱さに、全身に鳥肌が立つ気さえして、乳首が固く凝(しこ)る。

荒れた固い指先で、その敏感に尖った突起をきつく嬲られ、俺は我慢できずに引き締まった相手の背中にきつくしがみついて、腰を蠢かせた。

もう少し…

あと少し…

唐突に暗闇で目を開いた。

胸を突き破りそうに高鳴る動悸と、荒い呼吸音。

たった一人の部屋で、天井を見上げ、痛いほどに屹立した股間に恐る恐る手を伸ばそうとして、腕も絡めとるように身体に巻き付いたシーツに阻まれた。

自分の哀れさに、我知らず涙をこぼした。

合宿開始から3日が経とうとしていたが、ほとんど眠れない日々が続いている。

昼間くたくたになるまで練習して、泥のように疲れ切って、それでも夜、一人になって合宿所のベッドで目を閉じると、夢を見る。

繰り返し、繰り返し、何度も、あの人の夢を。

夢の中では、何の悩みもなく笑いあって、愛し合って…

そして目が覚める、たった一人で。

『友達』になったあの人のことを思い出す。

なんとか自由にした震える手でシーツを身体からはがし、着ていたTシャツとボクサーショーツを脱ぎ落しながらバスルームへと向かった。

肌を刺すように冷たいシャワーの下に立って、浅ましい我が身を呪った。

完全に身体が冷え切るまで、水のシャワーに打たれた俺は、シャワーを止めて一つ息をついた。

びしょ濡れの身体にバスタオルを巻き付け、ドア脇のトレイから鍵だけを握りしめて、カーペットに残る足跡も気にせず素足で部屋を出た。

迷いもなく、隣の部屋のドアの前に立ち、小さくノックする。

10秒待ってドアが開かなかったら、自分の部屋に戻る、妙に冷静にそんなことを考えた。

7、8、9…

カチリと小さな音を立てて、ドアが開いた。

濡れネズミの、バスタオル一枚を纏った俺を目にして、若林は少し悲しそうにも見える笑顔を浮かべ、無造作に太い腕を伸ばして俺を部屋の中に引き込み、その厚い胸にびしょ濡れの俺を抱き込んだ。

「なにやってんだ、お前は」

若林のTシャツ越しの体温に包まれ、俺は目を閉じて、あの人とは違う、がっしりとしたその広い背中に両腕をまわした。

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健ちゃん!

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~奥さん!俺…、俺、若道流空手、入門するかもっス~:新田君目線へ続きました

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