■テーマ: 地域における商品づくり
■講 師:トランクデザイン株式会社 堀内康広氏
■ファシリテーター:野村総合研究所 坂口剛氏
■参加者:研修生 27名 ※欠席2名
■日 時:令和4年10月22日(土) 13:00~18:00
■場 所:沖縄県立博物館・美術館 美術館講座室
■メンター:鈴木幹直、仲宗根真、知念仁志、翁長佐也子、大城亮子
■サポート:久田友太
講師紹介
トランクデザイン株式会社 代表取締役
クリエイティブディレクター/デザイナー
堀内康広 (ほりうち やすひろ)
1981年兵庫県生まれ。
2009年に「TRUNK DESIGN」を神戸市垂水区にオフィス&ショップをオープン。地場産業や伝統工芸のプロデュースやブランディングのディレクションやデザインを幅広く手がる。
2011年には兵庫県のモノづくりを紹介する「Hyogo craft」を立ち上げ、アパレル・お香・ステーショナリー・テーブルウェアなど自社でプロデュースし、8ブランドを展開。
現在は兵庫だけではなく、日本全国の地場産業や伝統工芸のプロデュース・ブランディング・国内外の販路開拓や地域ブランドディングなどを一貫して支援。
2015年度経済産業省の補助事業「JAPAN ブランドプロデュース支援事業MORE THAN PROJECT」採択事業「播州そろばんプロジェクト」にてプロジェクトマネージャーを務める。
2018年度経済産業省の補助事業「専門家招聘型プロデュース支援事業BrandLand JAPAN[ブランドランドジャパン]」採択事業「hibi 10MINUTES AROMA」にてプロジェクトマネージャーを務める。
2019年度経済産業省・中小企業庁 「令和元年度ローカルデザイナー育成支援に関する委託事業 ichi ふるさとデザインアカデミー」にてメンターを務める。
1)講話「地域における商品づくり」 講師:堀内康弘
1.自己紹介
トランクデザイン㈱は、「街の大工のようなデザイン事務所でありたい」という思いで、ショップやコーヒースタンド、マルシェやイベントも経営しながらお客さまと近い存在で活動している。
2.トランクデザイン㈱の仕事配分
・クリエイティブデザイン 40%
・メーカー・ブランド
・卸トレーディング 30%(上記のメーカー・ブランドと合わせて)
・小売り・カフェ 10%
・メディア・EC 5%
・プリンティングファクトリー 15%
■トランクデザイン㈱=「日本の工芸を未来に1%でも残す」
①地域や産地の「ここにしかない」を見つける
②課題を見つけ、クリエイティブで解決する
③外の目を持って、世界に発信する(近いと見えなくなる)
④やれることはすべてやる
⑤愛を持ってプロジェクトに取り組む
⑥フラットな関係性を作る
⑦結果にこだわる
※クライアントの選び方は、直観で「一緒に飲みに行きたいかどうか?」で決めている
■「全ては作り手のために」
自社“繋ぎ手”としてのミッションは、産地の作り手をどうやって使い手に繋げるか?
■現在の仕事
○「神戸マッチ株式会社」との出会いにより、街の会社と仕事をしていくことに決めた。
ブランド「MATCH DESIGN FACTORY」>「hibi」2つの地場産業をコラボして着火機能付きお香の開発 35か国販売(売上3億)
マッチの工場でやる仕事は全く変わらず、付加価値を付けることで利益が上がる。
・プロモーションのローカライズ
こちらから海外に売りに行くのではなく、日本に来てもらい工場を見てもらいなが
ら、その国ならではのカスタマイズをしていく。
・10年経って「神戸マッチ」は何が変わったか?
収益が大幅に改善した/社員さんが生き生きと仕事をするようになった/若者に興味を持ってもらえる会社になった etc
○Hyogo Craftの発足 ―つくる、使う、伝える。産地から暮らしへ。―
兵庫県の多様な文化から生まれたものづくりの工場を見学しながら、産地と作り手を紹介するウェブメディアを作る
常に職人や買い手と繋がっているメリットもあり、在庫を抱えるデメリットもある
〈自社製品〉
・「森の器」間伐材を使って器を作る(伐採された年月/緯度経度が彫り込まれ、その木の歴史がわかる)
・「iRoDoRi」世界に通用する生地が作れる工場にデザインを提供し、すべて買取して販売まで行う
・「megulu」大量在庫が残る生地メーカーの生地の活用方法をデザインする
・「Ku」淡路島のお香メーカー、香料を手すき和紙の原料にと混ぜて作ったお香
・「王地山焼」洋食にも合う和食器
・「越前角物」井上徳木工 福井県鯖江市のデザイナーコラボプロジェクトに参加。暮らしで使える越前漆器をプロデュース
・「KURA TERRACE」たつのの暮らしを照らす、しょうゆ蔵と大きなテラスカフェ。たつのを味わう、物語のあるモノと出会う、ここにしかない体験をする、未来に伝えたいモノを創る。
・「Local Craft Market ―場所を超えて、想いに触れる―」
コロナ禍の中、オンラインでのマーケットイベントを立ち上げ、現在も2ヶ月に1回のペースで継続中。
・「Local Craft Japan」「現場が一番感動する」海外の方を対象にクラフトを中心にしたツーリズム。海外向けエキシビジョン「手仕事の国 日本を旅するRADIO」
デザイン、ものづくり、地域をテーマにSpotifyで配信
2.研修生同志での共有・質疑応答
赤グループ
Q:1つのプロジェクトに3~10年掛かっているが、長期間保つモチベーションとは?
A:神戸マッチさんも社運を賭けているので、私どもも「基本あきらめる」という選択肢は
ない。「作る必要があるのか?」から考え、取組の切り口が変わってくることもある。
Q(坂口):資金ショートしそうな場合は?
A:相手のショートであれば、こちらから出資することもある。ロイヤリティ契約を前提に投資として完成するまで資金を持ち出す。自社がショートしそうであれば、時期をずらして利益が入るようプロジェクトバランスを取ったり、多分野業務を生み出している。
Q:職人さんとのコミュニケーションの取り方(フラットな関係)は?
A:相手からリスペクトされるような情報を常に持っていったり、自分の熱量を相手に伝えるプレゼンに力を入れる。
坂口:相手に何を提供できるか?ということを常に考える「先義後利」の実例だと思う。
黄グループ
Q:過去の失敗例を教えてください
A:失敗を失敗だと思っていないので思いつかない。マーケットが小さすぎた商品(複写伝票)は、製作する会社から買い取った伝票が在庫として残っているが、現在も発売中。
Q(坂口):もし現在、同じような依頼が来たら?
A:「美しく残す」をテーマに領収書、取り置き伝票を作ったので、ノートのようなステーショナリーや、子供の絵の複写なども考えられると思う。
Q:(子供のころの夢である)カーデザインから、広告の仕事に変わった理由は?
A:デザイナーになってから、「手がけた仕事を目の前で喜ぶ人がいること」が喜びになった。カーデザインは単にデザイナーになるきっかけだったと思っている。
青グループ
Q:海外販路の作り方について教えてください。
A:メチャクチャ飛び込み営業をする。それと展示会に出る(3大メジャー)各展示会の得意不得意や季節も考えて、3年連続出展は必須(バイヤーは出展1年目は買わない)。
出展した国に対して文化がフィットするかどうか、国によって売れる色データや生活文化は徹底的にリサーチする。プロダクト自体のローカライズもやっている。
Q:社員12名の働き方?
A:12名にバイトも入っているので実質は5人で年商1億。皆、問題なく定時に帰り、年休も取っている。社内の飲み会も多め。キャンプ部もあり一緒に楽しんでいる。
年々仕事量を減らしながら、単価を上げているので利益率が上がっている。残業手当はないが、年末のボーナスで大いにふるまっている。部下には、「自分の時間を売らずに能力を売れ」と言う。そのためには日々能力を上げていく努力を求めている。
Q(坂口):ローカライズの前にアレンジがあるのでは?
A:アレンジとリサーチを徹底する。現在も日本6古窯の仕事があるので、全国の日本酒とコラボで売っていくように考えている。他にも漆器や他分野の工芸も交えて実施する。
桃グループ
Q:地元にいると魅力に気づきにくいのでは?
A:私も神戸らしさを考えるのが難しいので、あえて仕事は受けない。
Q:今の肩書は?また、他の社員はどのような仕事の仕方をしているのか?
A:私の肩書はプロデューサー。社員は自社の事業をすべて話して、さまざまな仕事を兼任してもらうこともある。
Q:(お話に合った)海外でのVR営業のように、WEBを使うことは多いのか?
A:リアルの代替えがオンラインではなく、リアルよりオンラインの方がよいという仕事を探している。
Q:沖縄の魅力を教えてください
A:個人的には小さな地域に染織が密集しているのは魅力だと思う。ただ、職人さんが緩すぎてビジネスになりにくい。職人さんのモチベーションをどう上げるかがポイント。
(坂口):他の地域と異なるのは、モノづくりで参考になるのは少ないと思うが、売り方は参考にして欲しい。
緑グループ
Q:「地域や産地のここにしかない魅力を見つけること」が一番のポイントだと思ったが、職人さんとの意見の相違があった場合、そのすり合わせはどうやるのか?
A:(王地山焼については)彼らはトランクデザイン㈱とのコラボがすべての仕事ではなく、新しいものもあれば昔のものの復元もしている。
Q:伝統職人の理想像は?
A:「使う人の気持ちを考えて作る思考が職人には欠けている」ので、そこに寄り添うことが大切。寄り添うためには、膨大な引出しを持っているプロデューサーになること。
県庁 仲宗根さん
Q:リスクもあると思うが、海外展開の手法を教えてほしい
A:皆さんが不安に思っているほどリスクはない。自社では、送料と関税は相手の負担にしてもらい、日本円で取引してもらうのが条件。
総合事務 局鈴木さん
Q:クリエイティブとビジネスの両方言語を持っていると思うが、もの作りが好きだとビジネスにのめり込みにくいのでは?
A:(ビジネス力を伸ばしたのは)①私は自分の会社にいると経営全般をみないといけない。②自社ブランドを持っているので資材の仕入れから販売まで、お金の流れが自然に身に着いた。③数字が好きなのもあるが、自分たちが儲からないと相手を儲からせることができないことを売れてきてから理解した。
Q:クリエイターから経営者への腹をくくった瞬間は?
A:サラリーマンを辞める時点でその覚悟は必要だった。現在は、数字の分かるデザイナーが求められていると思う。
実行委員 久田さん
Q:私も複数プロジェクト同時並行で進めたいが、どうやったらスピード感があがるのか?
A:社員には常に「詰めろ」と厳しく言っている。メッセージやメールで返事が来ないなら
電話で話す。PAを付けて社員も職人も一緒に育てている
〈まとめ〉
坂口:前提として、今回のプログラムは、左脳側のスキルを分かりやすく理解することが目的にある。数字に触れる機会が少ないのであれば、所属先でも、親しみのある大企業でも構わないので、PLでも見て、どのような状況にあるのかを想像してはどうか。最終的には数字がエビデンスになるので、数字の成り立ちや構成をもとに、数字の裏側を理解しようとしてみてはどうか。
3.ワークショップ「アイデアの出し方」
■アイデアを出すことは 才能 ではなく スキル である
なぜ、アイデアを出しづらいのか?
日本人はインオブボックスが得意(改良、便利にする、使いやすく)だが、これからはアウトオブボックスが必要
■手法⑴:視点・視野・視座を変えてみる
視点・・・何の、どこを見ているか
視野・・・見ている範囲
視座・・・どの立場、どの場所から見ているか?(誰かになりきってみる)
視座を変えることに加えて
☑立場を変える(いろんなユーザーになる)
☑感情を変える(悲しい時に使う、怒っているときに使う)
☑時間を変える(過去に巻き戻す、未来に早送りする)
⑵要素を変えてみる① 潜在欲求を予測する
ユーザー × 状況 × ユーザーの潜在欲求 → 売れる商品・サービス
⑶要素を変えてみる② 5W1Hから捉えてみる
何を:商品サービス
いつ(昼夜転換、季節のズレ、記念日)
どこで(屋内外、特定の施設、オンライン)
誰が(作り手=ユーザー)
誰に(徳的にカテゴリー、特定のウォンツ)
どのように(伝え方、書き込み方を変える、販路を変える)
⑷あえてネガティブなテーマを設定してみる
最低なことを想起させるお題を設定して、アイデアを広げてみる
⑸マイナスに着目してみる(バグリスト)
「非」「不」「未」「無」
(参考)打ち消しの言葉・バグリスト
こどもだから・・・・・こどもだからこそ
田舎だから・・・・・・田舎だからこそ
障碍者だから・・・・・障碍者だからこそ
⑹要素分解し掛け合わせてみる(マンダラート)
■お 題
沖縄の「これは売れる!」と思うお土産とは?
1.もらってもうれしくないものを起点とする
2.書き出したモノから、どんどん発想を拡げていく
発表では、①お土産の名称とは?②お土産の内容とは?③いつ、どこで、誰に売る?
〈発 表〉
黄グループ
① 「俺のチンすこう」
② コンセプト:俺の気持ちを伝える
③ ターゲット:会社でのお土産に配れる
(ネタになる、いいものが1つだけ入った罰ゲーム風など)
・生産者の顔が分かる(顔写真のステッカー)
・面白い味:失恋味/筋肉ムキムキが作ったコシのある/ヒージャー中味味/ウミヘビ味/嫌いな人に上げるいやがらせ用/一緒に作れる
(コメント)単に素材だけで考えず「雪塩」でも失恋といった気持ちを取り入れるのが良かった
赤グループ
① 「撒けばオキナワ 星の砂(捨てられるお土産)」
② 貰った方が重荷にならないよう、捨てる理由を考えて売る
庭に撒くだけで「沖縄に連れていくよ」というストーリーを創れる
(コメント)捨てるスチュエーションをもっと考えられそう、切り離す、忘れられるetc
緑グループ
① 「食べる泥だんご」
② ひたすらに振っていると団子状になる素材(ちんすこうのかけら)
③ レンタカー事務所で販売し、沖縄旅行の道中、移動時間や待ち時間で退屈する子供向け
(コメント)特にいつ、どこで、が明確なのが良かった。
青グループ
① 「琉球プレミアムアイスー死福のお酒タイムー」
② 豆腐ようなどの味のするアイスクリーム
③ ターゲット;富裕層(高級志向)の方が夜に食べる
販売:ハイエンドなホテルや Barでも出してお土産にもなる
桃グループ
① 「かるいし58」
② 海に流れ着いた軽石をそのまま箱詰めで売り、オリジナルのシーサーが作れるもの
中には軽石と共に、県内の名工が軽石を使って作ったサンプルが入っている
オプションで選手権があり、投稿してもらうと得点がある
(コメント)人任せなデアゴスティーニのようだが、お客様との接点があるのがよかった
クロージング
アイデアの骨格になるのが「コンセプト」であり、「いままでなかった」という視点が大切。
アイデアは苦し紛れに出すものではなく、心に余裕があり楽しみながら出てくるもの。
アイデアを出した時に(他人に取られないよう)抱えこむ人がいるが、その時点のアイデアはまだ形になっていなくてなんの意味も持たない。チームで議論するときは、追いアイデアをどんどん加算しながら対話することに意義がある。
堀内氏講演風景
質疑応答・ワークショップ
坂口氏ワークショップ