第5回「デザイン経営の推進 」
■テーマ: デザイン経営の推進
■講 師:特許庁 デザイン経営プロジェクト 外山雅暁氏(オンライン指導)
■ファシリテーター:野村総合研究所 坂口剛氏
■参加者:研修生 29名
■日 時:令和4年10月29日(土) 13:00~18:00
■場 所:インターナショナルデザインアカデミー 7F講堂
■メンター:鈴木幹直、仲宗根真、大城英樹、與那覇、翁長佐也子、大城亮子
■サポート:久田友太、市川幸平
講師紹介
特許庁 デザイン経営プロジェクト 外山雅暁(とやま まさとき)氏
金沢美術工芸大学美術工芸研究科(大学院)修了。アーティスト活動を経て、2001年に特許庁入庁。意匠審査官、総務部国際課、留学等を経て、2012年から経済産業省商務情報政策局クリエイティブ産業課にてデザイン政策とクールジャパンを担当し、デザイン思考の研究会の立上げ等を行う。その後、2018年2月から特許庁にてデザイン経営プロジェクトの立ち上げを担当。8月からデザイン経営プロジェクト総括チームに所属。
1)講話「デザイン経営の推進」 講師:外山雅暁
1.自己紹介
「知」が尊重され、一人一人が想像力を発揮したくなる社会を実現する
2.デザインの捉え方
3.なぜ今経営にデザインが必要か?
4.デザインの経営の役割
5.デザイン経営の実践
必須条件
① デザイン責任者(CDO,CCO,CXO等)の経営チームへの参画
② 事業戦略・製品・サービス開発の最上流からデザインが参画
■プロセス「ダブルダイアモンド・モデル」
■どの課題を選ぶか?
どの課題を選ぶかについて、ミッション・ビジョン・バリューズが判断基準になる
「ミッション・ビジョン・バリューズ2021」
・ミッション
「知」が尊重され、一人一人は創造力を発揮したくなる社会を実現する
・ビジョン
産業財産権を通じて、未来を拓く「知」がはぐくまれ、新たな価値が生み出される
知財エコシステムを協創することで、イノベーションを促進する
・バリューズ
透明性をもって、公正、公平に実務を行う
ユーザーの立場で考える
前例に拘らず、改善を続ける
プロフェッショナルとして主体的に行動する
特許庁全体の視野に立つ
■I-Open
Patentの語源はラテン語でOpenの意味も持つ
I-Openにとっての「知財」は、決して独占することが目的ではなく、社会価値を共創していくためのツールである。個性や想い、アイデアは、知財化することで、信用を保った価値として具現化し、他社と共有できるようになる。そして、思いのこもった知財は、共感者を呼び、社会を動かすコミュニティの輪へと繋がっていく。
■実際のプロセス(私見)
ダブルダイアモンドの前にもう一つダイアモンドがある。それは「ミッション・ビジョン・パーパス」をまずは個人の思いから始めることが重要。それによってダブルダイアモンドが活かせる。もう一つアイデアが出た後の行動を起こすダイアモンドも付け加えたい。
参考:「デザイン経営のハンドブックと事例集」
2)質疑応答
赤チーム
Q:「デザイン」「知財」「DX」に興味がない人に届けるには?
A:「デザインには何らか可能性がある」と思ってもらうために、成功事例や実績を見せて
いく。デザインは理解されやすい人とそうではない人がいるが、本人がやる気があって変わりたいという主体性のある人の方が理解して頂きやすい印象がある。そういう人をまずは味方に付ける。
Q:投資効果も含めてデザインの価値を教えて欲しい。
A:デザインの投資効果は、長期的に現れ、かつ、売り上げだけに表れるものではないことからKPIで見せることが難いものだが、例えば下請け等だと価格を下げるしか競争する場がないところ、自社製品を作ることで自社の強みによる付加価値が生まれたり、工場見学に取り組んだら売り上げが上がったり、会社のブランディングを進めると従業員がやめなくなり、また、新卒の応募が増えた・・・など副次的な効果も見込めるということをしっかり伝える。
※参照:「数字で見るデザイン経営」
(コメント)事例だけでなく、数字で語ることが経営者にとっては関心があると思う。
2013年に経営者を集めて勉強会をしていたが、「経営者が好きなことでデザインで、いいものとそうでないものを比べて見せると気づきが生まれる」という回答があった。
外山:経営層の過去の経験や、関連する業界でよく使われている言葉選びなども参考にすると良い。(デザイン経営の課題と解決事例)
黄チーム
Q:外山さんのアーティスト活動を教えてほしい
A:陶芸をやっていて、現代美術系の作品を作っていた。また、醬油蔵をアトリエとして貸
し出す活動をしていたら街おこしになっていた。そこで自治体としても街おこしに参加できるといいと思ったのが公務員になったきっかけ。その街は今はさらに拡大して観光名所となっている。(金沢市大野町)
Q:「デザイン思考」を養うための学びを教えてほしい
A:デザイン思考とは様はデザイナーの思考プロセスだが、デザイナーには特に下記のようなスキルがあると考えている。
① 観察力:ユーザー視点での観察(違和感を感じる)
② 好奇心:初めての分野でも自分ごととして関われる
③ 具現力:思ったことを具現化できる
④ 人間中心:ユーザーの感情、行動を考えて製品を作ることができる
⑤ アジャイル:何度も修正しつつ正解を探すことができる
(コメント)これは順番もあるのだと思う。外山さん的なデザインとアートの違いとは?
外山:デザインはユーザーがいて、ユーザーのために課題を解決すること
アートは、モノの見方、視点を変えるもの。
デザイン思考の中で発送を膨らませる部分では、アート的なものもツールとして使えるのではないか。
坂口:大きな災害があった時に、アートが心のよりどころになることもある
青チーム
Q:経営者の方と一緒に、数字まで踏み込んでデザインしている方の事例を教えてほしい
A:この質問は経営者にKPIの様な形で数字的な効果を理解してもらうと言うより、デザイナーの採用の効果をどう理解させるかということだと思う。私の周囲にもデザイナーが多いので、その中で成長してするデザイナーの事例をお話ししたい。そもそもデザインは理解され難いので、企業からの仕事依頼は「HPデザイン」だったりするが、その時に、ロゴマーク等の変更まで提案できる人が成長していると思う。なぜ、そのロゴマークを変えなければならないか、ブランディングの必要性まで説明ができ、理解させられると、その結果成果がでるので、次の仕事に繋がるという流れが生まれている。実績を作るまでは汗をかく必要があるが、後になると経営者とチームになって、企業のブランディングまでやっている。その結果が長期的に数字として表るのだと思う。
(コメント)ダブルダイアモンドの事例のように企業側だけでなく、デザイナー側との関わりとして説明できる
緑チーム
Q:特許庁の活動的で楽しいイメージを受けた。プロジェクトチームのメンバーの選定方法を教えてほしい
A:プロジェクトメンバーはほとんどが公募に手を上げて参加している。我々は公務員なので、通常業務は100%こなしつつ、自分で時間を作ってプロジェクトに参加している。特許庁はとても固い組織なので、逆に私どもでもできるのであれば民間企業ではよりやりやすいのではないか。
(コメント)プロジェクトを立ち上げた時に離脱された方に共通するものはあったのか?
外山:本業が忙しくなって出られなくなる人はいるが、嫌になって辞める人はいない
桃チーム
Q:(クリエイターの立場として)メンバーが何でも言える場を作るには何が必要か?
A:ブレインストーミングの「ルール」や「部屋づくり」にも気を遣う。そもそも今までのヒエラルキーの中での仕事のやり方とは違うことを最初に説明する。また、付箋を使うのは誰が書いたか分からなくするため、議論の中に決裁者を入れていくのも重要。
久田さん
Q:「デザイン経営宣言」に勇気を貰った。その宣言をどうやって出したのか?また、次の
戦略は見えているのか?
A:そう言って頂けると大変うれしい。そもそも我々も宣言を出す予定はなく、研究会自体をワークショップのような形で行ったり、特許庁のトップを巻き込んで議論した結果、幹部もやってみようと言ってくれて宣言を出すことができた。
研究会にはWebデザイナーや、プロダクトデザイナーなど多分野の方が参加していたので、「デザイン」の定義を決めること自体が難しかったが、議論の結果、デザインとは「ブランド」「イノベーション」が資するものであることとの共通認識ができた。
デザイン経営宣言後、いろいろな取り組みを見てきて足りていなかったのは、ミッションやビジョンやパーパスの必要性だと考えており、個人的にはデザイン経営2.0が必要だと考えており、提案しているところ。
A:次のフェーズは「パーパス」を重要視していく方向に向けていきたいので、特許庁だけでなくさまざまな部署を横断して、一緒に考えていく活動を始めている
3)ワークショップ「事業の骨格作り」
ソリューションも作って終わりではなく、そこで出てくる課題を取り上げながら更にバージョンアップをして欲しい
■売ることを意識し、商品の骨格を作る
事例:自転車のかご
・かごに 革の鞄を入れると鞄が削られる
・鞄以外に買い物をする時、かごの容量が変わる
① 基本となる商品の内容を考える
総合事務 局鈴木さん
Q:クリエイティブとビジネスの両方言語を持っていると思うが、もの作りが好きだとビジネスにのめり込みにくいのでは?
A:(ビジネス力を伸ばしたのは)①私は自分の会社にいると経営全般をみないといけない。②自社ブランドを持っているので資材の仕入れから販売まで、お金の流れが自然に身に着いた。③数字が好きなのもあるが、自分たちが儲からないと相手を儲からせることができないことを売れてきてから理解した。
Q:クリエイターから経営者への腹をくくった瞬間は?
A:サラリーマンを辞める時点でその覚悟は必要だった。現在は、数字の分かるデザイナーが求められていると思う。
■コスパについて考える
■5W2Hから情緒的価値を捉えてみる
(お題)皆さんは日用品である「XX」メーカーの社長から、既存商品をベースに、新しい
XX:ハンバー、ほうき、洗面器、ろうそく、ごみ袋
1.まずはXXの一つを選択する
2.5W1Hのフレームから、全く新しい商品の内容を検討する
1.アイデアが誕生した背景や経緯を明確にする
―どのような困りごと、どのような状況を解決しようとしたのか
―なぜ必要と感じたのか、欲しいと感じたのか
2.実際の商品内容やイメージを記載してみる(図・特長)
〈発 表〉
黄 G
「プレゼントできる推し面器」
背景:個人利用をしてもらいたかった
いつ:ライブ前後/どこで:風呂/誰が:ファン/誰に:推しに。推し友
どのように:ライブ会場/機能:壁掛け可能、お湯で顔が出てくるなど
ターゲット(数):BTSファン(韓国+日本200万×20%=10万人)/価格:3000円/売上:3億/売り方:ライブ物販ではなくファンクラブEC
(コメント)権利関係や機能開発には諸々あるが、面白いアイデア。ODM型の提案なのがよい。
緑 G
「初めてのお手伝いハンガー」
背景:子供(3~4歳児)のいる忙しいお母さん向け、子供の教育と家事手間軽減。
機能:裸の絵が描かれているハンガーで販売。ハンガーラックや音のなる提案などもあり。
ターゲット(数):30代共働き、教育熱心、1人子(3歳児91万人×10%=)/価格:ハンガー5セット5000円+ラック1万/売上:13:5億円/売り方:自社ネット販売+都内実販売
桃 G
「トラッシュ!縞袋」
背景:前日に出したいが、猫が荒らすのを防ぐ、気軽に捨てられるごみ袋。
機能:猫が嫌がる匂い、音。ジップロック・ポケット・伸びる機能、袋が豹型に変形など
ターゲット(数):ゴミ出しが難しい、猫を飼う中南部(6回×39万)/価格:300円/売上:7億/売り方:猫カフェ、コンビニ、量販店、ペットショップ
(コメント)ごみ袋に掛けるカバー提案なら何度でも使えるので次にお題にしたい
青 G
「ほうき」
背景:子供へ提案する初めてのほうきとして民具開発。
いつ:記念品として(七五三)/誰が:生産農家、家庭で母親と一緒に作る/誰に:子供向け、家族/どのように:部屋が片付いていく/機能:初めてのお掃除意識が芽生える、捨てられている藁などを使うのでコスパがよい
ターゲット(数):学生(622万人学年の50%)/価格:700円/売上:2億1千万/売り方::BtoB、WS教育資材
(コメント)記念品として渡すので予想販売ができる
赤 G
「My Bathtime Candle」蝋燭の意義や形に拘る
背景:冠婚葬祭でしか使われないろうそくを日常使いさせたいという相談あり
誰に:一人暮らしのOL/機能:時間単位のメモリ付き、香り、音、色の変化をオーダーメイドで設計できる専門店が生まれる、蝋燭キットも販売
ターゲット(数):一人暮らし30代社会人(250万人×40%=100万)/価格:2000円/売上:20億/売り方:サブスク(毎月4本送付)
(コメント)ターゲットが明確に定まっているのでイメージしやすい
【発展させるためのポイント】
① 具体的なユーザー増を描けるか?
② 想定顧客となるユーザー数(年代、性別ではなく、悩みを持つ人や利用シーン)
③ 差別化のポイント
④ 適切な値付けとは?(競合比較、コスト積算、ユーザーリサーチ)
⑤ 市場・売上のサイズは以下で試算
単価×ユーザー数
尚、経年で市場を捉える場合は、以下を加味する
・商品の市場への展開シナリオとは?
・市場の何%を取っていくのか
・類似商品の市場への投入シナリオは?
・商品のライフタイムとは?
・耐用年数、買い替え
⑥ 販路はあるか(どこで売るか×どうやって売るか)
どうやっているか:マネタイズのパターン
基本/定額制モデル/従量制モデル/オークションモデル/会員制モデル/広告モデル/マッチングモデル/ライセンスモデル/マイクロ取引モデル/フリーミアムモデル/金利モデル
4)クロージング
※サンプルフォームあり
事業スキームをきちんと描くためには、フォームに沿って1枚にまとめ俯瞰的に見れるようにする。その上で、事業としてやるかやらないかを決める
堀内さんは売り上げの何%をロイヤリティとして貰っていた。そこまで計算しておくと企業へ向けの説得力が増す。
講師外山氏指導画面
ファシリテーター坂口氏WS