人見知りがイベントを楽しむ方法

人見知りがイベントを楽しむ方法(1/3)


 私はイベントに参加するのがあまり得意ではない。イベントといってイメージするのは、「①ひらけた空間、または狭い空間で」「②多くの人が集まっていて」「③音楽や飲食、出し物がある場」。こういった場を心から楽しめる人が、心底うらやましい。


  苦手なのは、疎外感を抱きやすいからだ。以前勤めていた会社では2~3年ごとに転勤があり、そのたびに一人でせっせと引っ越していた。慣れたころにまた引っ越すのでなかなか知り合いが増えず、面白そうなイベントやマルシェは一人でのぞきにいくことがほとんど。札幌雪まつりぐらい大規模であれば観光客とごちゃ混ぜで気楽なのだが、地域密着型のイベントであればあるほど、出店している人やお客さんが親しげだったりする。知り合い同士で盛り上がっているところを横目に歩くとき、会話しているところを割り込んで買い物するとき、「自分はよそ者なんだな」と実感する。ちょっとした交流を期待してイベントに参加するのに、チャンスをうまく生かせない。というか、交流のハードルがいつも高い。当たり前だけど、人が集う場へ行っただけでは知り合いが増えないのだ。


 レッツが10月下旬、浜松市内の「松菱跡地」で「オン・ライン・クロスロード2022」というイベントを開いた。松菱跡地とは文字通り、松菱百貨店がもともと建っていた場所。約20年前に経営破綻し、今は空き地になっている。浜松出身の祖父に松菱を知っているかLINEで尋ねてみたら、「もちろん。懐かしいなあ。浜松っ子のシンボルだったよ」と返ってきた。戦時中、市内が焼け野原になったときも「松菱は焼けながらも、ずーっと気高く立っていた」そうだ。そんな跡地を再び活用しようと、レッツは地域の団体と連携してイベントを企画した。昨年に続き、今年で2度目の開催となる。


 このオン・ライン・クロスロード2022は、ちまた公民館を含めた「まちづくり」プロジェクトの一環だ。フライヤーには以下の説明が書かれている。

 

「新型コロナ時代を経験して、幸せの在り方が大きく変わろうとしています。経済的な豊かさよりも、人とのつながりや持続可能性、それぞれのウェルビーイングについて考え、行動する時代へと変化しています。(略)多様な人たちがともに集い楽しむ場をぜひ体感してください」

 

 障害がある人やない人、子どもから高齢者、地元民や観光客、属性を定義できないさまざまな人たちが、ごちゃまぜ状態で場を共にする。ちまた公民館と通底する理念はあれど、これはまた別の形の「居場所」なんだろうと思い、会期後半の10月29日と30日に参加してみた。29日は「ミングルビレッジ」とコラボし、いわゆる野外フェスが開かれるらしい。ライブステージやマルシェ、スケートボードパークまである中、レッツやちまた公民館のメンバーはどう過ごすのだろう。そもそも私は楽しめるのだろうか。好奇心半分、不安半分で取材に向かった。

人見知りがイベントを楽しむ方法(2/3)


からっとした秋晴れ。10月29日の浜松市は、絶好のイベント日和だった。浜松駅から松菱百貨店の跡地まで徒歩5分。途中、体の芯まで響くようなベース音が聞こえてきた。レッツ企画の「オン・ライン・クロスロード2022」で、すでに音楽ライブが始まっているようだった。


広々とした空き地の地面には道が描かれていて、その先に舞台やマルシェ、スケートボードやBMX用の木製パイプが設置されている。たくさんの人が音楽に合わせて体を揺らしたり、飲み物を手に談笑したりして、「ひさしぶり~」「〇〇さん、来てたの?」などと話している。自分以外の人がみんな仲良さそうに見えて、少し肩身が狭い。これはイベント側の問題ではなく、卑屈な自分の問題なのだ。わかっちゃいるけどそわそわする。


早く知り合いに会いたいなあと思いながら歩いていたら、レッツメンバーのKさんに遭遇した。私も「久しぶり!元気だった?」とあいさつする。自分の声が思いのほか大きくて、Kさんに会えていかにうれしいかを実感する。近くには他のレッツメンバーやスタッフさんもいて、小さく胸をなでおろす。ようやくホーム感が出てきた。


イベントでは美術家の深澤孝史さんが主導したアートプロジェクトが繰り広げられていて、有志参加者が事前にワークショップで作った作品が置かれていた。それぞれがベッドをリメイクして、絵を描くコーナーや休憩場、写真撮影などの「場」を作りあげている。子どもたちが二段ベッドによじ登って遊んだり、歩き疲れた大人が低めのベッドで力なく座ったり。秋空の下に置かれたベッドたちは、不思議な存在感を放っていた。


レッツを通じて知り合ったスズヤさんという男性は、「BED IN PEACE」という作品を置いていた。ジョン・レノンを模した人形の横で、ヨーコとして写真撮影できる仕様になっている。「原さんもどうぞ!」と促され、勇気を振り絞って布団に入ってみた。人前で寝そべるのって、なんだか恥ずかしい。近くにいたスタッフさんや大先輩ライターの小松理虔さんが、笑いながら写真を撮ってくれた。頭の中で「今日はめずらしくイベントを楽しめるかもしれない」とよぎった。


中でも過ごし方のお手本を示してくれたのは、久保田壮くんだった。彼はレッツの久保田代表の息子さんで、重度の知的障害がある。音楽好きな壮くんは石が入った器を持ち歩き、カラカラと振って音を楽しむ。この日も舞台の真ん前を陣取り、久保田さんやスタッフさんと手をたたきながら踊っていた。人目も気にせず、ただただ音に乗っている姿に、舞台上のミュージシャンも思わずニヤリ。「私ももっと楽しんで良いのかも」と思えて、不慣れながら体を揺らしてみた。


そんなこんなで過ごしていると、いつの間にか日は落ち、辺りが暗くなっていた。10月下旬ともなると、夜はさすがに冷え込む。松菱跡地の一角はプチ宴会場と化し、私も輪に入れてもらった。誰が持ってきたのか分からない折り畳みの椅子に腰かけ、誰が買ってきたのか分からないワインを飲んだ。地元でもない浜松で出会った友人や初対面の人たちと、楽しく過ごせているのが不思議だった。


人見知りがイベントを楽しむ方法(3/3)


 オン・ライン・クロスロード2022、滞在2日目。レッツのスタッフ水越さんから「ちょっと手伝ってほしいことがあるんですけど」と声をかけられた。地元の子どもたちがハロウィンパレードで松菱跡地に立ち寄るので、お菓子を配ってほしいとのことだった。スズヤさん、そしてライブの手伝いにきていた女性と、段ボールいっぱいに詰められたお菓子を仕分けしていく。お姫様や魔女、虫に扮した子どもたちが列をなし、「トリックオアアトリート!」と言うのを見届け、お菓子を手渡す。愛らしさに思わず笑みがこぼれる。


 このお菓子配りの手伝いで、私はイベントのいち参加者という立場から、さらに一歩内側へ引き込まれた気がした。よく見ると、オン・ライン・クロスロード2022には来場者を巻き込むというか、「もてなされる側」から「もてなす側」へ一転させる仕掛けがたくさんあった。美術家の深澤孝史さんによるプロジェクトもそうだ。有志の参加者がベッドという「場」をプロデュースすることで、空間の一部に責任を持つ。当日やってきた来場者はベッドを利用することで、作品を完成させる役割を果たしていた。スケートボードやBMXでパイプを駆け抜ける人たちも、イベントの景色をつくる要員となっていた。みんな知らず知らずのうちに、松菱跡地の空間を形作る「共犯者」になっていた。


 独自の取り組みをする人たちもいた。例えばデザイナーのタテイシさんは「#旅する本」と銘打ち、自身が作ったベッドに本を数冊置いていた。「好きな本を手放すのは惜しいけど、棚で眠ったままにするのは申し訳ない」との思いから、思い切って「旅に出す」ことにしたのが始まり。参加者は無料で本を譲り受け、読み終えたら次の人へ譲り渡せる。中に印字されたQRコードを読み取るとプロジェクトのツイッターアカウントに飛び、タテイシさんの思いが読める仕組みだ。


 タテイシさんのこのプロジェクトは、おそらく仕事ではない。自発的に好きなことをやっているのだけど、他者を巻き込むパワーがあり、「趣味」と呼ぶのも少し違う気がする。活動、と言えば良いのだろうか。辞書で活動の意味を引いてみたら、「働き動くこと」のあとに「活気をもって、または積極的に働くこと」と書かれていた。「働く」の定義はさておき、活気と積極性がポイントなのが分かる。


私は2022年、いわゆる「推し活」にハマったのだが、これも文字通り「活動」の一種だ。ただ流れてきたアイドルやお笑い芸人の映像を見てジャッジするのではなく、能動的に情報を集め、積極的に誰かを応援する。大げさかもしれないけど、この楽しみを知ってから人生が3倍ぐらい楽しくなった。この能動性を普段の生活や地域で少しだけ発動できると、いわゆる居場所が見つけやすくなるのかもしれない。


オン・ライン・クロスロードは2022、人々の「活動したい」という欲を引き出していたように思う。なぜだろう。2日間参加してみて思ったのは、ハード面でもソフト面でも、「余白」がデザインされていた、ということだった。広い空き地の地面には道があり、ステージやスケートボードパークや店など、いくつかの「山」がある。そしてその「山間部」には、くつろいだり、おしゃべりしたり、座って音楽を聴いたりできる、余白のようなスペースがたくさんあった。


ソフト面の余白というのは、主催者と参加者の線引きの曖昧さだ。参加者はお客さん扱いされてしまうと、その枠組みからなかなか脱せない。でも線引きを曖昧にして、参加者が活動できる余白を残しておけば、あそびが生じやすく、疎外感も抱きにくい。イベントが苦手な私でも今回楽しめたのは、この余白のおかげだったのかもしれない。

 活動って良いな。自分も何かやりたいな。群馬に帰り、そんな気持ちがふつふつとわいてきた。手始めにといっては何だが、後日、近所で開かれていたアートイベントに参加してみた。出展のひとつに、カメラマンが参加者を撮影するプロジェクトがあり、「1枚どうですか」と声をかけられた。こういう日に限って、髪ボサボサのすっぴん姿だったりする。最悪なコンディション、羞恥心、人見知り発動。今までだったら断っていたと思うけど、この日、私は「ぜひお願いします」と言えた。とてもささやかだけど、私なりに「地域での活動」に踏み出してみた。