第9回 2018.7.18 (語り部知らず)

夏の怪談シリーズ

(もちろん、すべて架空のお話です)


●怪しい数値


現場の人(事務員)A:「成果報告書」に施設利用人数を示さないといけません。

現場の人(任期付)B:ここは作りたてなのでほとんど利用学生は来ていませんよ。

組織のえらい人:とにかく1つでも高い数値を書け。

現場の人(任期付B):1日30人来たぐらいが最高で、平均すれば10名ほどかと。トイレに行ったり、授業に行ったりすることもあるから、1名が仮に4回出入りすれば、30×4=120とかになりますけど、これすごく怪しい数値ですね。根拠も弱いですし。

組織のえらい人:じゃあ、それ(120名と記載)でいこう。

現場の人(任期付)B:でも、それは「延べ利用」とか「推定」とか示しておかないと。正確な数値とはいえませんよ。

組織のえらい人:大丈夫、責任取るの君だから。



●影武者


組織のえらい人:この活動の目に見える成果は出ていないのかね?

現場の人(任期付):ないです。

組織のえらい人:とにかく見つけ出せよ。

現場の人(任期付):地道にやるほかないのではないでしょうか?

組織のえらい人:なんでもよいんだ。なんかあるだろう?

現場の人(任期付):この間、ある学生から相談をうけて、活動先での調査の実施の企画と流れを助言し、アンケート項目を考えてあげました。

組織のえらい人:で、どうなったんだ。

現場の人(任期付):アンケートを実施し終えたから、こちらでそのデータを入力して、集計をしてあげて、結果のファイルをあげました。学生はそのファイルをまとめて、活動先にパワーポイントを使って報告すると言っていましたよ。今度グラフの貼り付け方法を教えないと。

組織のえらい人:これ全部、学生がやったってことでいこう。活動のフィードバックに対して、すべて自分たちで企画できているとはすばらしい。この実行力は目に見える成果だよ。

現場の人(任期付):今の話、聞いていましたか?

組織のえらい人:いやー、目に見える成果は着実に出ているね。


●仕事場


現場の人(任期付):仕事が終わりません。増員してください。

組織のえらい人:人事は私の仕事じゃないんだ。

現場の人(任期付):でしたら、仕事の量を減らしてください。

組織のえらい人:君は裁量労働制だし、若いから、2名分、いや3名分の仕事はできる。分身の術を使えばいいじゃない。あはは。

現場の人(任期付):何、言っているんですか?

組織のえらい人:君専用の仕事場もあるんだから。若いときしか無理は効かないから。頑張って。頼むよ。任せたよ。

現場の人(任期付):・・・・・・。


語り手:こうしてこの任期付教員は仕事場へ朝定時に出勤、そして日付が変わる時間までの残業の日々が続きました。今はもうこの仕事場は事業も終わり閉鎖されています。任期付き教員も組織のえらい人もここにはいません。それでも時折、この付近から夜遅くなると「特任教員が1名、2名、3名…」と悲しげな声が聞こえたり、聞こえなかったりするそうです。



●勝手にこんなことしないでください


現場の人(事務員)A:この事業は任期付きB先生が専任教員ということでご担当となっております。ですので事業に関する業務はすべてお願いします。

現場の人(任期付)B:細かい話ですが、この仕事場の清掃とか、来客対応とかも入りますか?

現場の人(事務員)A:もちろんです。

現場の人(任期付)B:わかりました。私がすべておこないます。


語り手:あるとき、学外からとても偉い人がその仕事場に来ました。現場の人も組織のえらい人も同席します。


現場の人(任期付)B:(学外からのとても偉い人へ)遠いところからご足労いただきましてありがとうございます。お茶どうぞ。

現場の人(事務員)A:何しているんです?

現場の人(任期付)B:えっ。いつものようにお客さんへのお茶出しですが。

現場の人(事務員)A:「いつものように」ってなんですか?

現場の人(任期付)B:事業に関することはすべて私の仕事ですから(って言ってたじゃん)。

現場の人(事務員)A:こういう仕事は私たちのやることですから。お客様に失礼でしょう。勝手にこんなことしないでください。(学外からのとても偉い人へ)すみません、お見苦しいところをお見せして。

組織のえらい人:(学外からのとても偉い人へ)Aさんはいつも気が利きましててね。こうやってB先生の負担を少なくしようといつも配慮してくれています。

学外からのとても偉い人:ほー。

現場の人(任期付)B:・・・・・・


(繰り返しますが、すべて架空のお話です)