第4回 2017.7.14 【特別企画】クロストーク「大学改革と新しい専門職」

白川優治(千葉大学)×崎山直樹(千葉大学)×二宮祐(群馬大学

その1

2017年6月某日、千葉大学に参りました。そこで、新しい専門職についてお詳しい白川先生〔教育社会学〕、崎山先生〔近現代史〕から、新しい専門職と現在進行中の大学改革をテーマとしてお話しを伺いました。(二宮)

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ごあいさつ

二宮(以下、二) 今日はお時間をいただきまして、ありがとうございます。

白川(敬称略:以下、白) おいでいただき、ありがとうございます。千葉大学の白川です。

崎山(敬称略:以下、崎) 千葉大学の崎山です。

二:ありがとうございます。(名前をおっしゃってくださったので)テープ起こしのときに助かります。二宮を含めて、以上の3人でお送りいたします。

崎:(笑)


「新しい」専門職の事例―教育学習支援担当者

二:それで、「新しい」専門職と名前をつけていますけれども、FDの担当者、IRの担当者、キャリア支援の担当者、リサーチ・アドミニストレーター、あとは産官学連携コーディネーター。実は、これから論文を書こうかどうか迷っているところなんですけれども、ボランティアコーディネーターとか、あとは何がありますか。

白:千葉大では、教育・学修支援の専門職の配置と育成に取り組み始めています。それが「新しい」専門職、「第三の」専門職になるかどうかは別ですけど、そういうテーマもあり得るでしょうか。

二:むしろ、なるかならないかの瀬戸際のところも興味深いと思っていまして。

崎:(笑)

二:もし、ならないんじゃないの?っていう事例があれば、どうしてならなかったの?っていう問いが立つので、実はそれはありがたいと思っています。今おっしゃっていただいたような学習支援の専門家であるとか、あるいは男女共同参画社会コーディネーターとか、よく教職員採用の公募が出ますけれども。そういうものについて、今どういうふうに実際に養成されているのかということと、それとは違ってあるべき姿がどうなのかというところのあたりを、お話しを聞かせいただけたらありがたいと思っています。

白:二宮さんからお話しいただいた、さまざまなテーマの「新しい」、ここではそれを二宮さんたちは「第三の」、えっと、「第三の」専門職でしたっけ?

二:「第三の領域」。

白:あ、「第三の領域」でしたね。

二:「サードスペース」って言ってますね。

白:「第三の領域」の専門職は、それぞれテーマによって、その背景とか状況などの、現状は違うと思います。それについては、すでに二宮グループで論文も書かれていますし、それはすごくよくまとまっていて、勉強になりました。その上で、この第三の領域として先行的に進められてきたものはFDだと思うので、FDerといったものがどういう状況にあるかということを考えてみることが、他のものを考える際の一つの参考になると思います。何といえばいいでしょう。

二:モデル?

白:そう、モデルになるかと思います。ただ、そのFDにしても、この10年、15年ぐらいの高等教育改革、大学教育の大きな政策的な動向の中で出てきた、まさに「第三の」新しいテーマだと思います。やっぱり、この「第三の」ということがいちばんポイントだと思います。大学という機関が、教員か職員かという二つの大きな役割、職務区分の中で運営されてきたことに対して、伝統的な大学や大学教員、大学職員の役割にはなかった新しい仕事がどんどん増えてきている。それの中の象徴的なものがFDといったような状況だと思います。そして、FDに限らず、このような新しい仕事を担当しているのが、さきほど二宮さんがおっしゃったような、さまざまなテーマの専門家、専門職ということなんだろうと思います。このことについて、先ほど少し申し上げた、千葉大学が教育・学修支援の専門職を養成するというプログラムに取り組むときに、一度、全体状況と日本における歴史的な背景を整理、確認をしてみたところ、やはり、大学改革のなかで、大学の在り方が問われてきたことが大きな理由にあるようでした。あと、最近の動向としては、文科省が中教審の審議のなかで、一昨年あたりに、「第三の」専門職の状況を調査して発表しています。そういった政策的な動きも背景にあると思うんですね。

二:千葉大で進められている教育学習支援の専門職が必要と認識された理由って、たとえば、どういうものがありますか。というのは、選抜性が高くない大学ではリメディアルが必要であるとか、あるいは専門教育であっても補習が必要であるとかっていうのはよくお聞きするんですね。他方、国立大学で教育・学修支援の専門職が必要であるという認識は、他の大学ではそれほど高くないような気がしているんです。どうして千葉大学では、その認識が高まったんでしょうか?

白:千葉大学の場合には二つのことが関連します。一つは、アカデミック・リンク・センターという、学内組織のセンターのこれまでの取り組みが背景にあります。もう一つは、国際教養学部という伝統的なディシプリンに基づかない新しいタイプの学部を作ったことです。この二つのことがつながっています。後者の話に関連すると思いますが、国立大学の場合には、伝統的なディシプリンに基づいた学部が多いので、そこでは学習支援ということがあまり重要視されてこなかったといったのはご指摘のとおりだと思います。しかし、千葉大学が2016年に作った国際教養学部は、学生が入学後に自分の専門分野や研究課題を、自分で探して作っていくという特徴をもつ、レイトスペシャリゼーションの学部なのです。そのため、こういったテーマを勉強したいのであれば、こういった授業を受ける必要があるとか、事前にこういうことを学習する必要があるということを、アドバイスをする人が必要で、その専門家が必要だということになりました。その役割をもつ学修支援の専門職を、千葉大では「スーラ(SULA(Super University Learning Administratorの略:スーラと呼称))」と呼んでいます。そういったものを新たに配置して、実際に学生への学修アドバイスの場面で活躍してもらう、そういう流れがあります。他方で、アカデミック・リンク・センターに関しては、2011年に図書館をベースにした学内の学習支援組織としてセンターを作ったわけですけども、このセンターの活動をもう少し発展的に拡大していくためには、教育・学修支援というテーマの専門職を養成するという、次のステップに進むことが必要だろうという流れができました。教育・学修支援という観点で、千葉大のアカデミック・リンク・センターがこれまで取り組んできたことや、持っている強みを生かしたかたちで社会的な貢献をしようということで、2015年に教育関係共同利用拠点の認定を受けて、教育・学修支援の専門職養成のための履修証明プログラムを始めることにしました。千葉大の中では、この2つの話が今年ぐらいから一つの仕組みとしてつながりはじめてきて、SULAとしての役割を担う職員の人は、アカデミック・リンク・センターのプログラムを受講するという状況ができつつあります。

二:その場合の「SULA」。

白:はい。

二:専門職の方というのは、ジョブ・ローテーションで仕事を回していくというかたちではなくって、本当にもうこれは専門職であると理解していいでしょうか。

白:そこが非常に難しいところです。この専門職の話は、千葉大の事例に限定せず広い視点でその在り方を考えると、結局のところ、人事、処遇の問題をどのように位置づけるかということになると思います。ジョブ・ローテーションで回っていく伝統的な職員の仕事としての議論と、ジョブ・ローテーションではない専門職として就くポストや仕事としての議論があります。「新しい」専門職を考えるときに、これまであった職員や教員と違うかたちの専門職としてのポストが作れるかどうかが重要な課題だと思います。千葉大の「SULA」に関しては、「学務系専門職員」という位置づけにはなっています。ただ、そうなっているんですけども、まだ、現在、2年目というところもありますので、ジョブ・ローテーションとの関係をどのように作っていくのかは、これからだろうと思います。これについては、崎山先生のほうから何かありますか。

崎:やはりどういう専門性を持っているのか、どういう役割を期待されているのかというところを、かなり明示的に定めてしまわないと難しいかなと思っています。というのも、ジョブ・ローテーションでできると判断できればこれまで通りジョブ・ローテーションで順繰りに研修を受けて、その役割を果たし、またその後はその経験を他の部署で活かしてもらう。これが大学全体としてメリットがあると考えられれば、そういう形に落ち着くかもしれません。しかし、そうではなくて、やはり専門職として、どうしてもこの専門性が必要である、そのためには、こういうキャリアや資格が必要だという形になれば、それは専門家としての処遇が必要になるでしょう。現時点において「SULA」は、キャリアとしてどういう専門的な過程を経験しているかを問われていませんし、将来的にそれがどこまで専門性が要求されるのかもまだ定まっておりません。これらの課題については、実際に運用しながら検討や議論が始まった段階にあります。ただそこの部分を解決しないと、うまく説明できないのではと感じております。

二:なるほど。大学院へ勉強しに行ってもらうとかっていうこともあり得ますか。たとえば、東大、広島大、桜美林大とか。

白:専門職としての専門性、専門的能力をどのように身につけるかについて、大学院というものを考えたときには、大学院の在り方が非常に重要だと思うんですね。というのは、現在の高等教育を専門とする大学院は、今おっしゃったような東大広島大桜美林大などがあるわけですが、アカデミックな大学院か、もしくは大学マネジメントを専門にする大学院になっています。たとえば、新たな特定の業務とか特定の専門的な職務といったことを考えたときには、それらの大学院で学ぶ内容そのものが対象となる職務に直結するかどうかと考えると、そこにはちょっと違いが出てきてしまう。もちろん、アカデミックに広く学ぶことは意味があると思うので、その違いがいけないということではないのですが、しかし、大学院での専門職養成ということになると、そういった個々の職務に直結するようなテーマの大学院のコースというものが、これからできるかどうかというところかなと思います。これもちょっと千葉大の宣伝みたいになるんですが、千葉大が…。

二:千葉大でお作りになる?

白:いや、実は、作った、と話になるんです。

崎:作った(笑)。

二:あ、そうなんですか。すみません。知りませんでした。

白:いえ。千葉大学では、この4月、2017年4月に、人文社会科学系の大学院について、それまでの人文社会科学研究科を改組して、人文公共学府という名前に組織名が変わったんですが、その中に、教育・学修支援の専門職養成のコースというものを設定しました。まさに、大学での教育・学修支援を仕事としたい人たちをターゲットにしたコースなんです。ただ、できたばかりでうまくいくかどうかはこれからなので、ここができたから、このテーマの専門職養成はもうこれで大丈夫です、みたいなことを言うつもりはまったくないんですけども。ただ、大学院と新しい専門職の関係というのは、例えばFDとかIRとかリサーチ・アドミニストレーターとか、そういったような人たちを養成する大学院のコースはないわけです。その問題をどう考えるかということだと思います。