第8回 2018.4.8 専門性の発揮以前に組織文化を知らないと…(HMJ)

今回は「仕事の進め方」について、「新しい専門職」を経験したことのある私の事例をもとにして、感じたことを書きます。

新年度が始まりました。「新しい専門職」として、新天地の大学・研究機関に従事される方もおられるかと思います。それぞれの組織の中での呼称によって、ご自身に求められる役割が大きく変わります。

私は学部所属ではなく、全学組織所属の教員身分で関わってきました。教員組織上、上司の教員がおりましたが、その方は学部に所属しており、必ずしも全学組織でおこなう仕事に関して詳しいというわけではありませんでした。職場に頻繁に顔を出されることもあれば、しばらくお忙しくて来られないときもありました。ですので、指揮命令系統上は上司からの指示を仰ぐことになりましたが、その上司が不在であれば自分でおこなうか、全学組織で業務をしている他の職員さんたちと協働で仕事をしなければなりません。

私と違って職員さんたちは、事務部門内での組織体系がしっかりしており、<上司-部下>の関係は明白です。上司が部下の仕事を管理し、必要に応じた仕事を振り、進捗状況をみながら、部・課・係のチームとして目標をクリアしていきます。部下の皆さんもがんばっています。この事務部門内の組織構造の中で、職員さんから教員身分の私に直接仕事を振るというのは指揮命令系統上、難しいのです(余程、以前に教員と一緒に仕事をしたことがある経験をした人でない限りは)。

仕事の進め方にも教員組織のやり方、職員組織のやり方と独特のものがあります。ときには同じ組織の中でも異なったりします(さらに言えば、誰が上司なのかで前例がひっくりかえってしまうことも見てきました)。従事者からすれば、目の前にやるべき仕事があり、期日が迫っている中で、この進め方云々で停滞するのは非常にストレスが溜まります。もしも長年所属しているのであれば、経験値をもとに組織文化を知り、対処できる方法を会得できたかもしれません。しかし、こういうところでの仕事は新参者に任され、かつ、即効性のある成果が期待されがちです。「新しい専門職」に関わる専門知識、スキルはあったとしても、組織での経験値が少ない人にとってはミスマッチとしかいいようがありません。

私も着任してしばらくは、独自で何かすると「余計なことをしないでほしい」、「手順が違う」などと指摘が入りました。逆に、何をしていいかわからないでいると「もっと積極的に動いてください」、「〆切が迫っているので早くできませんか」などと指摘が入りました。良かれと思ってしたことも、しなかったことも裏目に出ました。もちろん指摘は正当なものでした。「私は何もできない」、「全学組織の業務は向いていない」と自分を責めたものです。

しばらくして、仕事の進め方の違いは組織文化によるものだったと気持ちの整理ができました。個人の問題としてすべて抱え込む必要はなかったのです。とはいえ、個人に抱え込ませてしまう構造、背景があるというのはとても問題だと思います。私だけの苦労、「失敗」であれば、私個人の問題として対処を考えなければいけませんが、「新しい専門職」に従事した私以外のどなたかが私と同じことを感じているのであれば、社会的な問題になります。そのためにも従事している多くの方の声を拾いたいと思っています。

職場で求められるスキル、専門的知識、技術の発揮だけが仕事ではありません。多くの人が関わる組織の中で、それぞれが役割に応じて、各自の能力を発揮しなければならないと思います。「進め方」など些細なことと思われるかもしれませんが、教員身分で、かつ上司が職場にいない中で、顔を合わせ続ける職員さんたちと情報が非対称性の中で仕事をするのはとても気を遣います(当然ながら私に何か言いたいと思う職員さんも随分と気を遣われたと思います)。

言い古されたことですけれども、職場の雰囲気がよければ気持ちよく仕事もできます(そうでないと残念な結果になります)。そこを現場や個人の努力でどうにかすることにも限界があります。私としては個人の責任にするのではなく、組織のあり方、制度のあり方といった世の中の「仕組み」をもっとよくすることが大事なのではないかと思います。

ただでさえ、「新しい専門職」に従事する人の多くが任期付で、そう長くないうちにその組織を離れることが事前に決まっています。短い時期でおこなう仕事(このこと自体にも問題を感じていますが)とするのであればこそ、組織の問題で従事者にストレスを抱え込ませることのないよう与えられた仕事に向き合える環境にしてほしいです。

最後に。新天地で業務に関わられたすべての皆さんにとって、その職場が働きやすいところとなっていることを祈っております。