第12回 2019.7.18 キャリアカウンセラーの雇用問題(にの)

ある学会大会に参加したときのことです。他分野の学会事情を知らないので一般的なことではないかもしれませんが、大会が開催されている大学の大教室が休憩室として開放されてることがあります。食事やSNSの確認などほんとうに休憩するだけではなく、発表の事前練習を行ったり、参加者同士で情報交換をしていたりします。その大会においても、300人ほどの収容人数があるかと思われる階段状の教室が休憩室として使われていました。前方には大会参加費で賄われている飲み物、お菓子が置いてあり、自由に取ってよいことになっています。大会での研究発表は場合によって殺伐とすることもあるのですが、その休憩室はとてもリラックスした雰囲気になっていました。

午後の早い時間、私は休憩室後方の学生用椅子に座ってお茶を飲みつつ、分厚い冊子になっている発表要旨集を読んでいました。すると、前方にいた数名のグループから「ウチの大学のキャリアカウンセラーが辞めてしまったので、就職活動をしている学生が書いたイーエス(エントリー・シート)を私が仕方なく添削している」と非難をするような口調による声が聞こえてきました。それに応じて、「ウチもそう。キャリアカウンセラーって、たいていすぐ大学を辞めてしまうので、代わりに教員がシューカツ(就職活動)の世話を担わされるのでとても困っている」という憤懣遣るかたない語勢の強い声も聞こえてきました。このとき、私は感情を揺さぶられたためなのか、ひどく悲しくなってしまい具合を悪くしてしまいました。おそらく、このグループの皆さんは大学の教員(学者)なのでしょう。就職活動の支援に関する知識や経験はあまりないでしょうから、そうした仕事を行うことに戸惑いを覚えることは当然かもしれません。マス段階からユニバーサル段階へと歩みを進めた、学生を支援することが重視されるような昨今の大学事情でもあります。

しかしながら、だからといって、中長期的に働くわけではないことに関してキャリアカウンセラーを責めるのはあまりにも酷です。一般的にキャリアカウンセラーやそれに類する雇用についての支援職(2016年に国家資格化された名称は「キャリアコンサルタント」 ですね)は契約社員として雇用されたり、雇用契約でさえなく業務委託契約として仕事が任されたりすることが多いです。ハローワークで採用されたキャリアカウンセラーが短期間の雇用契約しか結べなかった、というニュースを覚えている方もいるでしょう。大学においても同様であり、「任期の定め」を付して採用されることは多いです。キャリアカウンセラーが短期間の就職活動支援だけではなく、教職員と連携して正課や正課外の各種キャリア教育プログラム(コーオプ教育、インターンシップ、業界研究、自らを守るための労働法教育、適性検査の理解、筆記試験対策、さらには、進路に関して家族と揉めたときの相談―カウンセリング―など)に関わって、学生の成長を支援するために中長期的に働きたいという希望を持っていたとしても、1年で雇用が終了してしまうということがあります。このことはキャリアカウンセラーにはどうすることもできない問題です。

もちろん、その休憩室での話題として紹介されている問題が、短期間の雇用契約のために生じたことなのかどうかはわかりません。企業出身のキャリアカウンセラーが大学に存在する様々な慣行を知らないことや、それを知っていたとしてもそもそも慣行が営利目的からかけ離れていることから、何かの軋轢を生じさせてしまうということもあるでしょう。なんだか叱られている気分になってしまうので就職支援のサービスをあまり利用したくない、という学生もいます。ただ、一般論として、「辞めてしまう」キャリアカウンセラーをどうか非難しないでほしいと思います。「辞めてしまう」問題は、大学が指し出す労働条件通知書に書かれていることがらに起因しているかもしれません。そして、この問題はキャリアカウンセラー以外の「新しい専門職」にも生じているでしょう。