大学教育学会2017年度課題研究集会 2017.12.3発表
インタラクティブ・セッションⅣ
「第三の領域」における教職員のキャリア形成
【ご報告・ご案内】大学教育学会2017年度課題研究集会(関西国際大学)のインタラクティブ・セッションに採択されました。
この「インタラクティブ・セッション」は今回の集会において試験的に行われるものとのことです。参加される皆さまを交えた情報交換、ディスカッション、グループワーク等を重視するものです。「第三の領域」で働く「新しい専門職」の皆さま、また、その職務にご関心を持つ皆さまの参加をお待ちしております。「あらゆる困難が『現場』にありながらも、学生の成長を支えるために、多様な背景を持つ教員、専門的事務職員が関わっていることを参加者の皆さまと共有し、今後に向けて何が必要であるのか明らかにしてみたい」と願っております。
【2017.12.5 追記】課題研究集会を終えて
当日は、課題研究集会の2日目後半であるにもかかわらず、およそ35名ほどの方がご参加くださいました。ありがとうございます。
ワールドカフェでの議論は大変に盛り上がりまして、「新しい専門職」の可能性や課題についての意見交換ができました。「現場」の立場である皆さまのご発言は詳細かつ重要でございまして、それをふまえてディスカッションするための時間がまったく足りなかったことをお詫び申し上げます。1グループの数を少なくする、または、制限時間を長くする必要がございました。
本研究は遂行の途上でございますが、ひとまずは「新しい専門職」について焦点を絞った課題を設定するというところまでは辿り着いたと自己評価しております。今後とも、皆さまからのお声を聞かせて頂きたく、どうぞよろしくお願い申し上げます。
二宮 祐(群馬大学)
要旨
「第三の領域」における教職員のキャリア形成
Career Development of Third Space Professionals in University
○二宮 祐1・○浜島 幸司2・○小島 佐恵子3 (1 群馬大学,2 同志社大学,3 玉川大学)
1 Yu Ninomiya, 2 Koji Hamajima, 3 Saeko Kojima (1 Gunma University, 2 Doshisha University, 3 Tamagawa University)
1.はじめに:問題関心と目的
大学改革の進行に伴って、主たる職務を教育研究と一般的な事務との狭間である「第三の領域」(Whitchurch 2013)とする教員、専門的事務職員が必要であると主張されて、実際にその配置が進んでいる。たとえば、2015年の文部科学省先導的大学改革推進委託事業における調査の結果によれば、配置している分野は多い順に、学生の健康管理66.6%、図書66.4%、就職・キャリア形成支援54.2%、情報通信・IT48.0%、施設管理40.1%、国際33.2%、地域連携30.3%となっている。その他の分野―執行部判断に対する総合的な補佐、監査、インスティテューショナル・リサーチ、法務、財務、広報、人事、入学者受入、教育課程編成・実施、ファカルティ・ディベロップメント、学習支援、研究管理、研究技術、知的財産、資産運用、寄付―について配置している大学は3割未満である(イノベーション・デザイン&テクノロジーズ株式会社 2015)。とはいえ、大学改革のさらなる展開に応じて、その割合は増加することが見込まれる。
この「第三の領域」で働く教員、専門的事務職員について、たとえば、学習支援に関する専門性の特定(竹内ほか 2016)、発達障がい学生への支援の現状(青野 2017)などのように、個々の分野毎にその必要な資質やスキルは明らかにされてきた。他方で、そのキャリアがどのようなものになっていて、また、どうあるべきかについては、必ずしも十分な検討が行われてきたとは言い難い。
そこで、本セッションでは、これまでの先行研究をふまえつつ、学習支援担当者、リメディアル教育担当者のキャリアについて検討したうえで、「第三の領域」での勤務経験があたっり、本事象に関心をお持ちであったりするセッション参加者のご経験をもとに現状を確認する。このことを通じて、分野を横断してその特徴を明らかにすることが目的である。
2.「第三の領域」への入職経路とその後
入職経路としては第1に、一部のファカルティ・ディベロップメント(FD)担当者、インスティテューショナル・リサーチ(IR)担当者のように大学院を修了して新規に「就職」、第2に、同じく一部のFD担当者やIR担当者、リサーチ・アドミニストレーター(URA)のように研究者や事務職員から「転職」、第3に、キャリア支援担当者や産官学連携コーディネーターのように民間企業から「転職」するというものがあり、いずれの職種においても職位や給与が低位で、雇用契約が比較的短期間である事例が少なくなく、その後の職能開発やキャリア展望に関して問題があることが明らかになっている(二宮ほか 2017)。
学習支援担当者、リメディアル教育担当者についても同様の問題があると指摘できる。両者ともに、ユニバーサル化によって求められるようになった職種である。まず、学習支援担当者については、特に文部科学省によって2003年度から開始された特色ある大学教育支援プログラム(特色GP)以降の学生支援に関する各種プログラムにおいての目玉の一つであったといえよう。従前から雇用されている専任教員と一緒に「現場」で働く業務を担っていた。そこでは、人的・予算的な資源が恒常的に不足していたり、全学的に目指すべき価値が共有されないために他の教員からの支持が得られなかったりするという困難があったりする(大島ほか 2013)。
次に、リメディアル教育担当者については、90年代にはその必要性が認識されていて―学部1年生を教える「現場」ではそれよりも古くから―、とりわけ英語、日本語、数学、理科に関する専任教員が担う場合もある一方で、高校までの学習内容や、それを身に付けさせるための適切な手法についての理解が弱いこともある。そのため、現役または退職した中学校や高校の教員を採用して正課外講座を依頼したり、大学内の「学習支援センター」で学生の対応をお願いしたりしている―入学前教育と合わせて外部業者に委託することもあるのだが、外部業者も同様に退職教員を組織化しているだろう―。
このように他の職種と同じように、その職種を担う専門家を養成するための教育訓練機関があるわけではなく、他の分野からの「移動」や中高教員の雇用という方法で、必要な人材を集めている。そのキャリアパスは曖昧であり、専門性を維持、向上させるために採用後にも必要となる(であろう)教育訓練も用意されているわけではない。そのうえ、支援する必要のある学生の数を限定するわけにもいかないことから、担当者の工夫に任せきりになってしまうという問題が生じている。
3.セッションの予定
当セッションは次のような進行を予定している。
時間配分
(1)成果報告(30分)
質疑応答時間を含む。
(2)グループ・ディスカッション(25分)
参加者数が多い場合には ワールドカフェ方式 で行う。ワールドカフェとは小グループで議論をした後に、1人を除いて他のメンバーが個々に別の小グループでの議論に参加して、相互に前グループの議論を紹介、共有してさらに議論を深める方法であって、時間がある限りこの作業を繰り返す。なお当日のコーディネーターは報告者がおこなう。
(3)まとめ(5分)
報告者が(2)で作成された論点メモをまとめて発表する。
ご参加頂きたいと思っているのは、前述のFD担当者、キャリア支援担当者、IR担当者、学習支援担当者、リメディアル教育担当者はもちろんのこと、直接的に学生に関係する教務系事務職員、初年次教育担当者、留学生支援・海外留学担当者、図書館司書、臨床心理士・カウンセラー、男女共同参画社会コーディネーター等の皆さま、あるいは、間接的に教育に関係することにもなるアドミッション・オフィサー、カリキュラム・コーディネーター、地域連携・貢献担当者、IT支援担当者等の皆さまを考えている。
あらゆる困難が『現場』にありながらも、学生の成長を支えるために、多様な背景を持つ教員、専門的事務職員が関わっていることを参加者の皆さまと共有し、今後に向けて何が必要であるのか明らかにしてみたい
<参考文献>
青野透(2017)「発達障害学生と大学教育―職員対応要領を中心に」『大学教育学会誌』39(1).
イノベーション・デザイン&テクノロジーズ株式会社(2015)『大学における専門的職員の活用実態把握に関する調査報告書』(文部科学省先導的大学改革推進委託事業).
二宮祐・小島佐恵子・児島功和・小山治・濱嶋幸司(2017)「高等教育機関における新しい『専門職』―政策・市場・職能の観点から」『大学教育研究ジャーナル』14.
大島勇人・浜島幸司・清野雄多(2013)『学生支援に求められる条件―学生支援GPの実践と新しい学びのかたち』東信堂.
竹内比呂也・白川優治・山崎千鶴・井上真琴(2016)「これからの大学における教育・学習支援の専門性」『大学教育学会誌』38(2).
Whitchurch, C. (2013) Reconstructing Identities in Higher Education: The Rise of Third Space Professionals, London: Routledge.
<付記>
本研究はJSPS科研費 16K04619 の助成を受けたものです。