複線径路等至性アプローチを用いた省察活動の可能性と実装に向けて

要旨

発表者が担当するAPUの日本語科目における受講生らの自律学習に目を向けると、こちらが求める水準に達していないと思われる学生が少なからず見受けられる。その理由として、外的調整が強めともとれる日本語科目のカリキュラム、一部の学生にとっては日本語よりも英語の優先順位が高いと思われる点などが挙げられる。一方で、これらの学生の自律学習を促すための工夫を発表者自らが積極的に行って来なかったという反省もある。そこで、本学学生の自律学習促進に向けた仕掛けとして「複線径路等至性アプローチ(以下、TEA)を用いた自己分析のための活動」を考案した。

TEAとは文化心理学に依拠し、時間を捨象せずに個人の人生を理解しようとする方法論であり、調査対象者の行動や選択、意識変容などを探るのに適した質的研究手法である。発表者は、これまでに研究者としてTEAを用いて複数の調査協力者の人生径路を描き出してきたが、その都度、協力者から「人生が可視化され、良い振り返りができた」、「目標が明確になった」といったフィードバックを受けていた。その経験から、TEA理論を自己分析ツールとして活用すれば当人の省察が円滑に行われ、自律学習が促進されるのはないかと考えた。そこで、本発表ではTEAを活用した過去の実践研究をレビューし、その知見を踏まえて考案した「TEAを用いた省察活動案」を紹介する。そして、今後の実装の可能性や課題についても検討する。