日本語5つのとびら』を使った受身表現の指導について ―複文の受身指導の必要性―

Abstract

受身表現は初級の後半で学習済みとなっているため、その後は担当教員や学習者まかせの傾向がある。実際に使用される受身表現は「先生にしかられて、落ち込んだ」のような「て形」を含む複文が多いが、日本語の教科書においては単文過去の受身表現が多く、複文の受身はあまり取り上げられていない傾向がある。そこで本稿は、『日本語の5つのとびら』の初級編2、中級編、中上級編をもとに受身表現の分析を行い、初級から上級までの各レベルの受身表現の指導方法について考えた。その結果、中級コースで学ぶ受身表現はテキストの中に14例しかなく、「て形」を含む複文の例は1例のみであった。中上級コースにおいては、受身表現は69例あるものの、文の最後に使われる自発表現が主であり、書き言葉重視の受身表現が使われている傾向があった。上級コースにおいては、受身表現は128例あり、連用節、連体節に受身表現が使われており、一気に文の難易度が上がっていることがわかった。この結果に基づき初級で学習した受身表現を運用させた指導を考えた場合、中級コースにおいては、「ても」、「たびに」など、複文を作りやすい文型の中での受身の指導が必要であると考える。中級における複文の練習で受身の視点の統一を学び、中上級、上級の自発の受身につなげていくことが必要である。