ニュース2021

(最終更新:2021年12月29日) 

2021年12月29日:研究論文「不完全競争下における租税の転嫁、厚生、そして帰着」(ミハ・ファビンガ―氏との共著)がJournal of Public Economics誌に掲載受理されました。同論文は、古くはクヌート・ヴィクセルによる1896年の指摘から始まる主題を対象としており、直近の先行研究であるWeyl and Fabinger (2013)を更に拡張・一般化するものです。より具体的には、財・サーヴィス市場における不完全競争を明示的に考慮することで、従量税・従価税の変更に伴う価格転嫁、経済厚生、そして租税帰着(消費者と生産者のそれぞれにどのような影響の違いがあるか)を分析するための一般的な枠組みを提示するものとなっています。とりわけ、需要の価格弾力性や市場支配度指数など、経済学的に解釈可能な諸概念によって特徴付けを行なおうとする、いわゆる「十分統計量アプローチ」(Chetty 2009; Kleven 2021)を採用している点に利点があるものと考えており、実証分析との親和性も高く、本研究は、Hendren (2016)Hendren and Sprung-Keyser (2020)の提唱する「公的資金の限界価値」(Marginal Value of Public Funds: MVPF)概念に対して、不完全競争という市場構造を明示的に関連させたものとなっております。「不完全競争下における租税帰着」というテーマは、従来、Rosen and Gayer (2014)Stiglitz and Rosengard (2015)Gruber (2019)といった財政学・公共経済学の代表的な教科書で、重要ながらも未解決とされていた問題であり、我々の研究は、ミクロ経済学や財政学において、完全競争をベンチマークとするのではなく、不完全競争をそもそもの前提として租税分析を扱えるようにするためのささやかな一貢献となることを企図しております。なお、改訂の際に有益なコメントをいただいた2名の匿名査読者に深く感謝し、また、担当編集者のナタニエル・ヘンドレン先生からは編集者としての通常の責務以上の並々ならぬご関心をお持ちいただき、数多くの助言を与えていただいたことには一言付言しておくべきでしょう。この点につき、深い感銘を受けた経験に言及できることは当職の大いなる喜びとするところであります。今更ながらになりますが、「どのジャーナルに載せるか」などといったような非属人的な世俗的些事に一喜一憂するのではなく、エディターや査読者との「巡り合い」の方こそを大切にすべし。このことを実感できたという意味でも有益となりました。当職と致しましては、今後、産業組織論のみならず、財政学金融論も念頭に置きながら「不完全競争の経済学」を展開していく布石となればと考えております。皆々様からの一層のご指導ご鞭撻の程、何卒宜しくお願い申し上げます。

2021年12月14日:第5回アジア・太平洋産業組織論会議(The 5th Asia Pacific Industrial Organization Conference 2021; APIOC 2021)にて、「内生的ホーミングを伴うプラットフォーム寡占:自由参入と合併に対する含意」(Platform Oligopoly with Endogenous Homing: Implications for Free Entry and Mergers)の研究報告を行いました(佐藤進氏、マーク・トレンブリィ氏との共同研究)。凡そ一か月前に、日本応用経済学会・2021年度秋季大会で報告した際とほぼ同じ内容となっております。企画責任者のジュリアン・ライト先生を始め、コンファレンス開催にご尽力された皆々様方に、この場を借りまして、厚く御礼申し上げます。

2021年11月13日:日本応用経済学会2021年度秋季大会にて、「内生的ホーミングを伴うプラットフォーム寡占:自由参入と合併に対する含意」(Platform Oligopoly with Endogenous Homing: Implications for Free Entry and Mergers)との題目で研究報告を行いました(佐藤進氏、マーク・トレンブリィ氏との共同研究)。内容につきましては共著者の佐藤氏による一連のトゥイートにて簡潔にまとめられておりますので、ご参照いただければと存じます。善如悠介先生から今後の改訂に有益なご討論をいただいたことに深く感謝申し上げます。

2021年9月29日:当職による研究活動の一環と致しまして(いわゆるアウトリーチ)、およそ一カ月に亘って開催されました京都大学アカデミックデイズ2021の最終日に登壇し(オンライン開催、19:00~20:00)、「ゲーム理論で考える組閣」と題してお話しをさせていただきました(当日のスクショ。お題を決めさせていただく7月始めの頃、「今、世間はオリンピック開催のことばかり気にしているが、9月にでもなれば、どうせ自民党総裁選の話題一色になっているであろう」と考えまして、12月刊行予定の拙著『データとモデルの実践ミクロ経済学-ジェンダー・プラットフォーム・自民党』(慶應義塾大学出版会)から、関連トピックを選択致しましたが、よもや当日に当の総裁選が行われることまでは全く予想ができておりませんでした自らの力不足を痛感するばかりでございます(汗)。このような「生々しい」話題を通じて、拙著のテーマでもあります、「データ分析とモデル分析の両輪を兼ね備えた現代経済学の懐の広さ」をご視聴の皆様にお伝えしたつもりでしたが、いかがでしたでしょうか(こちらもまた、登壇者の力不足は否めないところではございますが・・・泣)。さて、人類は、大学にわざわざ出向かなくても、家でゴロゴロしながらライヴ配信に参加できることを知ってしまいましたので、来年以降、そういう需要に配慮してハイブリッド配信を行うのか(設営が大変そうです)、それとも対面でのライヴに限ってしまうことで良しとするのか、頭を悩まされるという局面が全世界の各所で予想されるところであります。こうして将来のことばかり書きますと、再び自らの力不足を痛感することになりそうですので、これくらいに留めて置くことに致しましょう(爆)。ご参加の皆様方及び弊学のスタッフ一同に深く感謝申し上げます。

2021年7月16日:小樽商科大学・経済学研究会(旧土曜研究会)にて「不完全競争におけるパススルーと租税の厚生指標:一般的分析」(Pass-Through and Welfare Measures of Taxation under Imperfect Competition: A General Analysis)との題目で研究報告を行いました。本報告は、5月3日の学会報告と同テーマのものですが(ミハウ・ファービンガ―氏との共同研究)、現在、当該論文を大幅な改訂作業中であり、タイトルの変更にもそれが反映されています。また我々の結果のキモを、学部1回生レヴェルの概念でどのように直観的に伝えられるかにも試行錯誤をしております。研究会では、今まで我々が気付いていなかった幾つかの論点をご指摘いただきました。コーディネーターの土居直史先生を始めとして、ご参加の方々には深く感謝申し上げます。

2021年6月27日:日本応用経済学会2021年度春季大会における「学会賞受賞講演」の機会を頂戴致しまして、「第3種価格差別研究の過去・現在・未来」というタイトルでの研究経過報告を行いました。当職自身の研究活動の一端を紹介しながら、第3種価格差別に関する研究のこれまでの進展と現在の状況、そして、今後の展開の方向性について若干の私見を述べさせていただいた内容のものとなっております。このような機会を与えてくださいましたことに対しまして、学会賞選考委員の先生方を始めご関係の皆様方に深く感謝申し上げます。

2021年5月3日:第19回・産業組織論国際会議(The 19th International Industrial Organization Conference)のセッション「価格競争と動学」におきまして、「不完全競争における多次元パススルーと厚生指標(Multi-Dimensional Pass-Through and Welfare Measures under Imperfect Competition)」との題目で研究報告を行いました(ロバート・リッツ先生からのご討論に感謝申し上げます)。本研究では、実証的な研究への方向性を見据え、出来るだけ一般的な経済的環境を念頭に置いた上で、政府による公共政策の導入や変更が、消費者や企業にどのような異なった影響を与えるのか、そして、どれだけの経済厚生損失が生じるのかという基本的問題について、市場競争が不完全競争的であることを明示的に考慮した上で考えるという内容の基礎研究となっております(ミハウ・ファービンガ―氏との共同研究)。なお、同学会では、セッション「コーヒー・先延ばし行動・ファッションを結びつけるものとは? それはこのセッション」(10月11日)で、ポール・ハイデュース先生による研究ご報告「先延ばし市場(Procrastination Markets)」に対する討論者も務めさせていただき、限定合理的な消費者を前提とした時の市場競争の価格への影響というテーマについて学ばせていただく機会を持てましたことにも深く感謝申し上げます

2021年2月8日:去る2月5日、公正取引委員会競争政策研究センターご主催のCPRCセミナーきまして、「競争政策・消費者政策のためのミクロ経済学: 不完全競争市場の分析のための市場支配度指数アプローチ」という題目での研究報告をさせていただく機会を頂戴致しました。前半部では「不完全競争市場分析のための市場支配度指数アプローチ」の弱点につきましても率直に述べさせていただき、また、後半部におきましては、我が国の「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」の第一条で謳われている同法の目的に鑑み、試論的試みと致しまして、今後は、競争政策と国民経済全体との関係についても経済学の分析対象とされねばならないという問題意識と、その試みの一端を紹介させていただいた次第でございます。経済政策と言いますと、財政政策と金融政策がまず真っ先に思い浮かばれますが、いわば、健康な国民経済を維持していくための日々の健康管理・基礎体力作りを担うトレーニング・コーチに相当するものが競争政策であり、その意味では、財政政策、金融政策、その他の政策に比してもその重要性には疑い得ないものがあるという当職による年来の問題意識が、ご参加の皆様から頂戴しました数々のご質問と併せまして、一層強化される機会なりましたこと、心より厚く御礼申し上げます。

2021年1月27日:本日発売の経済セミナー2021年2・3月号に、「耐久財の静学モデルと動学モデル-森嶋の「耐久財のディレンマ」再考」と題して寄稿をさせていただいております。「耐久財のディレンマ」とは、理論経済学者による経済学史の試みとして出版当時注目を集めた、森嶋通夫『思想としての近代経済学』(1994年、岩波新書)で唱えられた概念ですが(2004年出版の『森嶋通夫著作集1  動学的経済理論』には、より専門的な解説が収められています)、令和2年度・夏学期の大学院講義で、ジャッフィー、ミントン、マリガン、マーフィー『シカゴ価格理論』(2019年、プリンストン大学出版会)を用いたことを切っ掛けに、同書第15章「耐久的生産要素」で解説されている定式化の視点から、森嶋による「耐久財のディレンマ」を再考してみたという内容になっております。当職による広義での研究活動の一環(learning by teaching)ではございますが、いわゆる英文査読誌への投稿には適さない内容と判断致しまして、ただ、「耐久財のディレンマ」という概念は、日本語圏に属するある一定の世代以上にとっては、それなりに流布した用語になっていると思われる事情もございまして(もし、初耳ということでしたら、それはあなたが何よりもお若いという証拠です。どうぞご安心ください)、邦語での一般的媒体での発表を模索し、有難いことに『経済セミナー』様に拾っていただいたという次第でございます。この場をお借り致しまして、学術と一般社会とを繋ぐ数少ない邦語媒体としての同誌様のご活動に深く敬意を表させていただくと共に、謹んで益々のご健勝とご発展を祈念申し上げます(ちなみに、別件ではございますが、「国民国家を形成するのは新聞と小説である」というアンダーソン・テーゼが思い起こされるというところです。しかし、21世紀も早20年が経過し、両者のプレゼンスがとみに下落していると思われるのは何か示唆的でありましょうか。いや、「新聞的なもの」「小説的なもの」は形式を変えて益々、この世界を徘徊・跋扈しているのかも知れません。何だか、二人の著者による某マニフェストウ(こちらは、若者であろうとなかろうと世界中の誰もがその書名を知っていますので割愛致します)の冒頭の一文みたいですが)。なお、同論稿の概要は、主要な内容だけでしたら、こちらのスライドをご覧いただくことが可能ではございますが、直接、拙稿にお目通しをいただくことで、付随的に「読書の楽しみ」に触れることの出来る中身になっているのかも知れません。