ニュース2020

(最終更新:2020年12月28日)

2020年11月27日京都大学大学院経済学研究科経済動学セミナーにおきまして、耐久財の静学モデルと動学モデル:森嶋の「耐久財のディレンマ」再考」及び、 Chicago Price Theory Meets Imperfect Competition: A Conduct Parameter Approach”(当研究室・修士課程1年、宝楽爾氏との共著)に関して研究報告を行いました。両者の内容とも、2019年に出版された『シカゴ価格理論』(プリンストン大学出版会)で解説されている内容の拡充となっております。まず①につきましては、第15章「耐久的生産要素」において展開されている動学モデルと、森嶋通夫(1994)『思想としての近代経済学』岩波新書が提示している「耐久財の静学モデル」との類似性に着目し、両者を対比的に論じています。なお、副産物として、森嶋(1994)が、主に名目価格の硬直性を説明するために構想していた「耐久財のディレンマ」には概念的な難点があることも指摘しました。②に関しましては、完全競争が一貫して仮定されている第11章「産業モデル」の分析を、「市場支配度指数アプローチ」によって、不完全競争を包括するものとして一般化しています。なお、これらのプロジェクトは、当職の標榜する「不完全競争の経済学の(再)構築」との関連で位置付けられるものであり、コーディネーターの佐々木啓明先生始め、ご参加の皆様方から数々のご意見をいただける貴重な機会となりましたこと、ここに深く感謝申し上げます。

2020年11月5日:令和2年度・豊西総合大学(愛知県立豊田西高等学校)にて、市場における不完全競争:独占禁止法と競争政策の意義」 との題目で、経済学部志望の主に2年生の皆さんを対象に模擬講義を行いました。「大学で学ぶ経済学の雰囲気」の一端の紹介も兼ねながら、去る7月1日に公正取引委員会から報道発表された「愛知県立高等学校の制服の販売業者に対する排除措置命令等について」を素材とし、カルテルの弊害と競争政策の意義について、近年における当職の研究関心を反映して、ゲーム理論を用いずに(更に言えば「供給曲線」という概念も揚棄して)、「市場支配度指数アプローチ」に依拠しながら説明をさせていただきました。

2020年10月27日:弊学トップページの「研究教育成果情報」にて、当職の関わった研究が一般向けに紹介されました(プラットフォーム上の事業者間関係における特徴的様相の解明 )。先日、学術雑誌European Economic Reviewに掲載許可された研究論文「両面市場における事業者間交渉(Business-to-Business Bargaining in Two-Sided Markets)」(マーク・トレンブリィ氏との共同執筆)の内容解説となります。「本研究は、今後のプラットフォーム企業に関する学術的研究や政策的論議において、基礎的な論点の提供を与える役割を持つものと期待されます」との紹介をいただいております。 

2020年10月13日:去る3月に、研究論文「両面市場における事業者間交渉(Business-to-Business Bargaining in Two-Sided Markets)」(マーク・トレンブリィ氏との共同執筆)の掲載を希望して、学術雑誌European Economic Reviewに投稿しておりましたが、複数の査読者からの改訂要求を踏まえた改訂作業を経まして、この度、担当編集者から同誌での掲載が許可されました。プラットフォーム運営事業者と利用事業者間との取引においては、少なからず交渉的要素がつきまとうものと考えられますが、従来からの研究ではこの点に関する分析が手薄という状況です。そこで、本研究では、それに明示的な着目をした分析を行いました。より具体的には、プラットフォーム運営事業者が、利用事業者に対して硬直的な一律料金体系ではなく、柔軟で機動的な料金体系を運営することによって、より多くの利用事業者の参加が促される。そして、間接的ネットワーク外部性を通じて、両面市場のもう片方である消費者側の利用も促され、それは、更に利用事業者にも恩恵をもたらす。本論文においては、そういった循環の仕組みにおける効率性に関しての議論が、事業者間取引の交渉的側面に焦点が当てられながら提示されています。我が国における競争政策的論点との関連で言えば、「プラットフォームにおける事業者間取引での優越的地位の濫用」に関する議論に対して示唆を与えるものと期待されるでしょう。ちなみに、余談ですが、掲載希望先をEuropean Economic Reviewと選定させていただきました背景には、EU諸国では、我が国と同様、事業者間における優越的地位(支配的位置)の濫用に対する規制が、競争法上、重要な位置付けにあるという現状に鑑みたという点もございます。

2020年10月10日:日本経済学会2020年度秋季大会のセッション「産業組織(理論)」におきまして、クールノー型プラットフォーム競争」との題目で研究報告を行いました(佐藤進先生からのご討論に感謝申し上げます)。プラットフォーム間の合併は、間接的ネットワーク外部効果のために、合併による市場支配度の上昇はかえって経済厚生の高まる余地が大きい(「大きいことはいいことだ」)と考えられがちです。しかしながら、本研究は、クールノー型競争の考え方を援用することによって、消費者や企業が、一つのプラットフォームのみを使うのか(single-homing)か、あるいは複数のプラットフォームを使うのか(multi-homing)、その全体的な割合が、プラットフォーム合併の経済厚生的帰結に関わることを指摘しています。このことは、プラットフォーム間の合併評価の議論においては、考慮しなければならないプラットフォーム特有の論点があることを示唆していると言えるでしょう。なお、同学会では、セッション「税の実証分析」(10月11日)で、白石浩介先生による研究ご報告「消費税の転嫁と市場の競争条件」に対する討論者も務めさせていただきました。

2020年10月3日:当研究室の丹下一尚氏(修士課程2年)が、法と経済学会2020年度(第18回)全国大会のセッション「競争政策」で、「競争政策・消費者政策のためのミクロ経済学」への一試論-不完全競争への市場支配度指数アプローチ-」との題目の研究報告を行いました(林秀弥先生からのご討論に感謝申し上げます)。「市場支配度指数アプローチ」による不完全競争の分析の応用例として、企業結合(合併)と行動経済学的話題について言及がなされています。 スライドの最後でも指摘されているように、(1) 競争当局の実務担当者向けの研修や、(2) 議員向けのレク、あるいは、(3) 経営者に対して、経営戦略策定の際に今後益々必要とされる競争政策的・消費者政策的な制約を意識させる啓蒙活動、といった機会で有効性を発揮するアプローチと言っても過言ではありません。

2020年9月20日:名古屋大学 ミニ・オープンレクチャー2020不完全競争の経済学のはなし」の動画配信が開始されました。近年における当職の研究関心を反映し、経済学の未習者に対して(主に高校生を想定)、ゲーム理論を導入することなく(更に言えば「供給曲線」という概念も揚棄して)、カルテル等による「市場支配力の形成・維持・強化」(平成22年12月17日最高裁判決(いわゆる「NTT東日本事件判決」))によって引き起こされる「競争の実質的制限」(昭和26年9月19日東京高裁判決(いわゆる「東宝・スバル事件判決」))の弊害を、経済理論的な観点から解説する内容となっています。