海 の 記 憶

「雨」 70.5×116.8(cm) 2001年

私にとって絵を描き続けるということは

無限の可能性の道を歩み続けてゆくということであり

時には思いもよらぬ光景に出くわしながら

遠く遥かに広がる故郷の海へ帰っていくことです


「光の海」 80×92.2(cm) 2000年



「故郷の夢」 91.2×135(cm) 2000年



「天上の海」 91.2×135(cm) 2000年



「心に向き合う時間」

私は学校を終えてすぐ、小さな車に家財道具一式をつめこみ、フェリーではるばる沖縄本島よりもっと先へ渡りました。行き先は「石垣島」八重山諸島のうちのひとつです。島の周囲は約162キロ、年間平均気温は24.0度と暖かく、サトウキビ畑と美しい珊瑚礁に恵まれた宝石のような島でした。そこで働きながら古い一軒家を借りて、絵を描くために1年半ほど住んでいたのです。


そもそもの島との出会いは学生時代でした。一度行ったらその空にすっかり魅せられてしまったのです。その後は毎年夏休みになると、小型バイクを持って島に渡り、1〜2ヶ月キャンプ場にテントを張って滞在しました。海が間近のそのキャンプ場で朝夕、雲や海をせっせとスケッチしていました。東京育ちの私がずっと考えていたことなのですが、ダイレクトに自然の中に身を降ろして生活をし、この土地で制作をしてみたいというのが、島に住んだ大きな目的でした。


石垣島での日々、海を目の前に眺めながら生活していると不思議な感覚を味わいました。それは、自分の心が裸にされるような、何も隠せないむき出しの心を見てしまうような・・。目に痛いほど鮮やかな海や、しけに怒り狂う波、まっ赤に燃える雲。それらを見ていると日常がすぅーっと遠くへ引いていき、心の奥底に眠る気持ちにイヤでも触れてしまうのです。覆い隠すものがない研ぎ澄まされた光景のなかで、本当にたくさんの、自分自身の感情に出会うことの出来た時間でした。


そんな思いの詰まった一年半、島のことはいつ思い出しても焦がれるように懐かしく、まるで自分の一部分を置いてきてしまったような気持ちにさえなってしまいます。

「天国の門」 148×413(cm) 2001年 北海道立釧路芸術館蔵