月の音が聴こえる
月の音が聴こえる
初めて月の音を聴いたと思ったのは
牛深に泊まり
一晩中月を描いていたとき
部屋の東側と西側に大きな窓があって
月の出と月の入をどちらも眺めながら
窓から描くことができた
ちょうど満月か満月に近い月齢だった
夜中に月の光を描いていて
紙に月の光がどんどん広がっていって
初めて生紙(きがみ)に親しめた気がした
このとき初めて月の音も聴いた
月の唄といってもよいような細い細い旋律の音
耳ではなくて
皮膚のような 側頭部で触感的に聴く感じ
すごく細い旋律で
普段には聴いたことのないような感覚だった
そのとき ああやっぱり月は唄うんだなと思った
それから初めて生紙に描けたと思って
今までのモチーフに加えて月を描くようになった
遠い日のむかし話
月は語る
過去から未来まで様々な話を
車座になって皆で語る
あたりはまるで風の音しかしない
ときおり夜の鳥がつんざく鳴き声が
夜の湖水に響きわたる
夜長の月の話である
静かな みなもの真ん中で
ひとりオールを漕ぎながら
小舟に浮かび 海へ漕ぎ出す。
潮の匂いを嗅ぎ
新しい月を眺めながら
懐かしい場所へと帰っていく
やがて寄せる夜
波間に抱かれ
ゆらりゆらりとねむりにつく