月の音が聴こえる
「月と呼吸」 12.5×35(cm) 2017年
初めて月の音を聴いたと思ったのは
牛深に泊まり
一晩中月を描いていたとき
部屋の東側と西側に大きな窓があって
月の出と月の入をどちらも眺めながら
窓から描くことができた
ちょうど満月か満月に近い月齢だった
夜中に月の光を描いていて
紙に月の光がどんどん広がっていって
初めて生紙(きがみ)に親しめた気がした
このとき初めて月の音も聴いた
月の唄といってもよいような細い細い旋律の音
耳ではなくて
皮膚のような 側頭部で触感的に聴く感じ
すごく細い旋律で
普段には聴いたことのないような感覚だった
そのとき ああやっぱり月は唄うんだなと思った
それから初めて生紙に描けたと思って
今までのモチーフに加えて月を描くようになった
「月夜の懐」 17.5×25(cm) 2016年
「月と呼吸」 12.5×35(cm) 2017年
遠い日のむかし話
月は語る
過去から未来まで様々な話を
車座になって皆で語る
あたりはまるで風の音しかしない
ときおり夜の鳥がつんざく鳴き声が
夜の湖水に響きわたる
夜長の月の話である
「旅人のこころ」 17.5×25(cm) 2016年
静かな みなもの真ん中で
ひとりオールを漕ぎながら
小舟に浮かび 海へ漕ぎ出す。
潮の匂いを嗅ぎ
新しい月を眺めながら
懐かしい場所へと帰っていく
やがて寄せる夜
波間に抱かれ
ゆらりゆらりとねむりにつく
「月の道を辿る」 21.1×14.9(cm) 2015年
「月と呼吸」25×35(cm) 2019年