アナザーストーリー①

アナザーストーリー①麺づくりが始まる

45歳、運送会社の冷凍倉庫で事故が起きました。アイスクリームケースを運ぶ荷台がレールの途中で止まったのです。止まった荷台を手動で動かして、再起動させたときに、後発から来た荷台に右足を挟まれました。実際どのくらいの時間挟まれていたのか、ほんの数秒だったかもしれないが、とてつもなく長い時間と感じるほど挟まれました。挟まれた足を諦めて足がなくなることを覚悟した瞬間、足が挟まれたまま荷台は通り過ぎて行きました。無駄な力が抜けたのが幸いしたようでした。何とか現場から離れ、足の感覚がないまま、足を引きずり、社員の手を借りて病院へ行きました。


足がなくなると覚悟したので、足が残っていただけでも運がよかったです。甲の部分は横にまたがるレールの跡が残り大きく腫れ、足裏には親指ほどの刺さった穴が開いていました。安全靴はボロボロになっていましたが、安全靴のおかげで、足は守られたと思っています。会社を辞め、怪我した右足を引きずり働けないと困っていたところ、弟がお店を再開するため手伝ってほしいと連絡がありました。


若い時に、レストランやテーマパークで接客した経験もあるし、携帯やインターネットで集客する仕組みを販売してたこともあり、弟の店で接客と集客を担当しました。弟の店移転オープンしてからは2年目、順調で何も問題らしい問題もありませんでした。テレビや雑誌の取材もありました。私個人は平素から危機感を持つタイプなので、いつ何がおきるかわからないという気持ちで、新しい取り組みは何だろうと考えていました。人間万事塞翁が馬、調子のいい時にこそ何がおきるかわからないし、ピンチの後に準備した者だけにチャンスが来ると経験でも知っていました。


ラーメン特集の雑誌を読むと「こだわり」の多くが、スープだったりチャーシューだったりすることに気が付きました。ラーメンなのに「麺」について触れているお店が少なかったように思います。ふつうは名店のこだわりに目が行き真似しがちなのですが、私は書かれていない部分を想像してみました。書かれていない麺の謎に着目し調べてみると、大半のラーメン店は製麺所の麺を仕入れている事実にたどり着きました。


製麺所は安価にするため、大量生産し流通させないといけません。大量生産のために大きな設備投資をします。大量生産するものだから、保存しなければいけません。保存するために、どうしても乾燥させたり保存料を使用したりします。企業大量生産するので、保存できなければいけません。おいしさの優先度はどうしても二の次になります。大量生産する必要がなく、必要数の生産が可能であれば、おいしさを追求できると考えました。


自家製について触れると、麺を仕入れているラーメン店が主流だったため、自家製を売りにするラーメン店もあります。「自家製」は売りではないと、製麺機の融資をお願いしたとき、銀行の担当者には言われ、確かにそうだなと思いました。自家製だからおいしいのではなく、美味しいものは美味しいし、自家製でも美味しくないお店もあるということです。だから自家製をPRする必要は全くないとのことでした。


自動販売機の麺を隣のプレハブで作っていると聞いて驚く人が多いです。ガラス越しに製麺機があり、弟のお店の通路越しに見えるのですが、気づいている人も少ないぐらいアピールをしていません。美味しいと感じてもらえるならば、どこの麺だろうとお客様にとっては関係ないと自然と思うようになりました。