月の民からの侵略
月の民、兎たちの顔が一緒で見分けがつかない
地上の方が先に攻め込んでこんなことをした
と身に覚えがない
危険なやつらは粛清だと
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「今はもう、隣のやつと見分けすらつかん。
手に持つものも銃ではなく刀であった…はずだ。それも刀を持っていたという朧げな記憶だけで、どんな刀かはまったく思い出せない。
根本からもう、違いがなくなっているのだ。この汎用品の銃のようにな!
地上の奴にこの様な芸当が出来るとは思わなかった!しがそれを月にまで向けるとは!
もはや猶予はない!地上全ての浄化を持って、この侵略を阻止する!!」
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迷いの竹林の中心から広がっていく沼は、まるで磁石の様に月の民たちだけを吸い込んでいく。
彼ら彼女たちは逃げようとするが、次第に強くなる吸引力に抗うことが出来なくなり、沼に吸い込まれていく。
抗うことも助けを求めることも出来ず、沼は全ての月の民たちを吸収する。
透香の目の前に1人の月の民が逃げてくる。
しかし、沼の吸引力に勝てず、態勢を崩して転んでしまい、そのままずるずると沼の方へと引きずられていく。
月の民は助けを求めるように必死の形相で透香に手を伸ばす。
口は助けてとひたすら叫ぶように動いているが、その声は聞こえない。まるで声だけ先に吸い込まれてしまったかのように。
沼に問答無用で月の民が吸い込まれていく光景に恐怖し、固まっていた透香であったが、目の間に助けを求める月の民に、震えながらも手を伸ばそうとした。
ゆっくりとした足取りで震えながらも手を差し伸べる。
それに応じるように月の民も、竹や草に縋り付きながら必死に腕を伸ばす。
あと少しで手を掴めそうなところ
そんな時、月の民が掴んでいた竹や草が地面ごと剥がれる。
あっと思った瞬間にはもう遅く、月の民は沼へと吸収されていった。
その顔に絶望の表情を浮かべながら・・・
透香の手は何もつかめず空を漂う。
そして、助けられなかったことを理解するとだらりと腕は垂れ、そして崩れ落ちた。
目の前には全てを吸い尽くした底なし沼だけが広がっており、竹林の跡形など全く無くなっていた。