首謀者は倒され、この争いも終わった。天狗の山もこれで元の秩序だった社会に戻っていくだろう。
つまり、この異変は解決されたということだ。
ふうと息をつき、笑みを浮かべるもの
抱き合って喜び合うもの
嬉しさのあまり泣くもの
天狗たちはみな、種々様々な感情で解決を喜ぶ
透香も自分が異変を解決できたことに安堵し、笑みを浮かべる
…ふと、透香が空を見上げると、はるか上空から光が下りてきていた。
淡い光であり、一見するとただの日向と変わりないように見える。
しかし、その光はゆっくりと着実に下りてくる。
勝者を称えるかのように
まるで天からの贈り物かのように
そして、その光は天魔へと降り注ぐ。
天魔は光を受け入れるように手を広げる。
その天から称えるような光景に周りの天狗たちも皆、見とれてしまう。
…一瞬、天魔がにやりと笑った気がした。
突然、光が強く輝く。
突然の輝きに目をやられたかと錯覚したが、すぐに視界が回復する。
回復した視界、その先には、先ほどと同じように手を広げる天魔と…
仰向けに血塗れで倒れている文がおり、その胸には1本の弓矢が突き立っていた。
その光景を見た瞬間、周りのざわめきを聞く間もなく、透香の目の前が真っ白になった。
・・・意識が戻ってくる。
目を開けると視界がぼやけている。
数回瞬きすると、視界が回復してきた。
・・・だが目の前にあったのは
何の起伏もない一面の平原であった。
「え・・・?」
周囲を見渡す。
天狗がいなくなったどころではない。
妖怪の山そのものがなくなっていた。
山自体がなくなったわけではない。
しかし、あったとしても小山程度。
博麗神社のある山が今一番高いという事態になってしまっていた。
妖怪の山の消失。
事態はただ消えたというだけに留まらない。
そこに住んでいた妖怪・妖精・神・その他生物、
神事に関わるものや場所、封印されているものなんかもあったはずだ。
それらが全て消えたとなれば、幻想郷の根幹に関わってしまう。
透香の背中に嫌な汗が流れる。
再度、周囲を見渡すと、遠くに1匹の妖怪の姿が見えた。
急いでそちらへと向かう。
先ほど見えた妖怪は天狗であった。
天狗は必死の形相でやってきた透香に驚いている。
透香は一息ついてから、その天狗に話しかける。
「ああ、ごめんなさい。急に妖怪の山が消えたものだからびっくりしちゃって・・・。
ねえ、あの後、天魔と文はどうなったの?」
「・・・?天魔?文?それに妖怪の山?なんだそれは?」
「…え?待って。あなた天狗よね・・・?それに住処の名前も忘れたの?」
「天狗・・・。まあ私は天狗だが住処は・・・
・・・あれ?」
「・・・どうしたの?何か思い出した?」
「私は、天狗で、そして私は・・・誰だ?」
そう言った天狗は次の瞬間、
輪郭がぼやけていき
周囲に溶けていくかのように
消失した
「!?」
愕然とする透香
透香は先ほど天狗がいた場所に恐る恐る手を伸ばす。
しかし、そこに感触はなく、ただ指の間を風が凪いでいくだけであった。
手が、足が、いや、全身が震えてくる。
何が起こっているのかはわからない。
しかし、その結果は明白だ。
「消失した」という結果が。
八雲紫の死から連続して発生する異変。
この大異変はまだ始まったばかりである。