「阿纂っ!」
「わっ!?・・・透香さんでしたか。
何か、あったのですか・・・?顔が真っ青ですよ」
「妖怪の山が消えたの!しかも、事情を聞こうとした天狗も霧のように消えていくし・・・。もう、何が何だかわからないわ」
「妖怪の山、ですか・・・」
「ここで一番高く、妖怪が多く住む山よ。まさか・・・覚えてないとか・・・?」
「いえ、覚えてますよ。ただ、懐かしいなと思いまして」
「懐かしい・・・?」
「妖怪の山があったのは、確か先代の頃なので、300年ほど前だったでしょうか」
「!?」
「まあ、突然山全体が霧のようなものに包まれて、気が付いたら跡形もなく無くなっていたので、それはそれは大変な騒動になりましたね」
「え・・・?300年前・・・?跡形もなくなった・・・?」
「ええ、むしろ、透香さんこそよく知っていましたね。
「じゃ、じゃあ、天狗は
「天狗・・・ですか。
記憶が無いですね。外の世界の種族ですか?」
「ちょっと待ってください。
記録も、ありませ・・・いや、不自然な空白があります。
これは・・・記憶だけでなく書物などの記録さえも全て消したということですか・・・
かつて歴史を隠す能力を持つ妖怪がおりましたが、これはその比ではありませんね。
完全に無かったことになっている。
透香さん、この異変に関わっているのは相当強力な妖怪です。
下手をすれば幻想郷の賢者たちに匹敵します。
用心にこしたことはありません。
他の場所、幻想郷中に異常がないか見回ってきた方がいいと思います。
人里のことは私たちにお任せください。
下手をすれば幻想郷の存続に関わります。
「こんな時に母さん、姉さんがいたら・・・
いや、泣き言を言ってる場合じゃない。
今は状況を確認するのが先決よ!」
EX 記録と記憶を消す能力の適用範囲
「おーう透香か、遅かったな」
神社に戻るとまるで我が家の様にくつろぐ理紗の姿があった。
「・・・なんであんたがいるのよ」
「いや、人里もなんか物騒になってきただろ?落ち着いて研究も出来ないってもんだ。だから慣れた場所に移ってきたってところだ」
「はあ・・・まあいいけど」
理紗はたまに嫌なことがあると博麗神社に研究に没頭すると称して家出することがあった。
今回も人里のごたごたを嫌って逃げてきた。そんなところだろう。
「まったく、こっちは大変なことがあったのに気楽なものね」
「気楽なものか。私も大変だったんだぞ・・・・
といいたいところだが、その様子だと相当苦労したようだな。
あれだろ?山の方でどっかんどっかんいってたやつが関係してたんだろ」
「!?
あなたなんでそれを」
「いや、あれだけ派手にやってれば人里からでも見えるってもんだ」
「・・・一つ聞くけど、山ってどの山のこと?」
「? 山って言ったら天狗の山以外ないだろ?何言ってるんだ」
「っ! 理紗は天狗の山覚えてるのね! 天狗も!」
「おわ、急にどうした!? 覚えてるよ。てかあんな大きいの知らない人がいないはずないだろ」
「そう、そうよね・・・。
ねえ理紗、あなたいつ頃から神社に来ていたの?」
「ん?そうだな。3日前くらいだったか。山の騒音の頻度が大きくなってきたあたりだな」
「丁度、天魔と大天狗の大部隊がぶつかったあたりね・・・」
「そんなことがあったのか。あれは凄かったなあ。確か山の中頃あたりで起こっていて。
こっから見るとあの・・・。
・・・」
「・・・?どうしたの?」
「なあ透香。私、今何の話をしていたっけ?」
「え!? 天狗の山の話よ。・・・まさか」
「天狗の山?なんだそれ?」
「そんな、天狗の山。山よ。幻想郷で一番大きくて重要な・・・
・・・重要な?
・・・なんだったかしら」
「なんだよー。透香も忘れてるじゃないか」
「・・・うーん、大事な場所だったはずなんだけど」
「覚えてないってことは大したことないんじゃないか。そういう時は一旦置いておこうぜ」
「・・・そうね。やることはいっぱいあるもの。思い出せないものは後回しにしましょ」