フィリップ・コトラーほか著『非営利組織のマーケティング戦略〔第6版〕』メモ-4(2005.12.13)

フィリップ・コトラー, アラン・R・アンドリーセン著. 井関利明監訳. "第6章 市場細分化、ポジショニング、ブランディング". 非営利組織のマーケティング戦略〔第6版〕. 東京. 第一法規, 2005, pp.207-249


2005.12.13

加藤久明

1. はじめに〔pp.207-209〕

(1)本書の中心論点:非営利組織のマーケターが、(組織レベルの責任を負っている場合でも、キャンペーン計画を担当している場合でも)、ターゲット顧客からどのようにして望ましい行動を引き出すか

(2)本章における検討課題:(a)ターゲット顧客を誰にするか、(b)顧客にどのような行動を望むのか

(3)膨大な業務を限られた予算内で行う非営利組織は、すべての人々に向けてすべてを行うことは不可能である⇒そのため、対象者を選択し、行動を選択しなくてはならない。

2. 市場細分化の問題〔pp.209-234〕

(1)マーケティング戦略において最初にすべきこと:市場ターゲットへのアプローチ立案⇒しかし、ターゲット顧客の形態と規模はさまざま⇒そのため、マーケティング・マネージャーの基本的課題は、このような複雑さにどう対応していくかということになる。

(2)すべての対象者に同様に対応⇒規模の経済性が働く反面、市場の多様性が無視され、結果としてターゲット顧客の誰一人のニーズも満たすことはできない⇒しかし、すべての対象者にそれぞれ個別の対応を取ることは、膨大な費用を要するため、多くの非営利組織にとっては現実的ではない。

(2)「マーケット・オブ・ワン(個別市場)」:対象者に対する個別アプローチ⇒情報技術の活用によって、費用対効果が向上しつつある〔pp.210〕。

(4)高度な市場細分化手法のプロセス〔pp.210図6-1〕

(a)「市場細分化の決定」:概念化と調査段階であり、マーケターがターゲットに「したい」グループを特定・描写する⇒市場細分化基準の明確化、決定したセグメントの特徴の明確化、個々のセグメントの魅力の評価が必要。

(a1)市場細分化情報:次のような意思決定に役立つ〔pp.211〕。

(a1-1)「量的決定」:様々な顧客グループに対して、組織の資源をどの程度投入すべきか。

(a1-2)「質的決定」:選定されたセグメント毎に、特定の観点からどのようにアプローチすべきか。

(a1-3)「時間的決定」:マーケティング活動の実施にあたり、どのセグメントを優先し、そのセグメントを後回しにすべきか。

(a2)市場細分化を行うための観点〔pp.211-213〕。

(a2-1)「相互排他性」:セグメントが、概念的に他のセグメントから分離可能か。

(a2-2)「網羅性」:潜在的なターゲット顧客のすべてが、そのセグメントに含まれるか。

(a2-3)「測定可能性」:選定されたセグメントの規模、動機、行動能力などを測定可能か。

(a2-4)「到達可能性」:選定されたセグメントに効果的に到達し、働きかけることが可能か。

(a2-5)「実体性」:選定されたセグメントは、働きかけるに値するほどの規模をもっているか。

(a2-6)「反応の差異」:市場細分化の枠組み自体は、(a2-1)~(a2-5)の基準を満たしながらも、いくつかのセグメントにおいて、量的差異、タイプ差、戦略実施タイミングの差異に、まったく同様の反応が現れることがある⇒この場合、概念上のセグメントの分離に意味はあるが、運営上は意味が無いことになる。

(a3)細分化の基礎となる基準〔pp.213-, pp.214 図6-2〕

「一般的」変数

⇒あらゆる形式に適用可能

「行動特性的」変数

⇒ひとつの形式や種類の行動のみ

「客観的測定尺度」

⇒第3者の観察によって検証される。

年齢、収入、性別

居住地域

地位の変化

家族のライフサイクル

社会的階層

過去の行動

(1)購入量

(2)店、ブランドの嗜好

(3)ロイヤリティ

意思決定での役割

「推定的測定尺度」

⇒それぞれの回答者に固有の心理状況であり、回答者の発言から推測されるもの。

性格

心理学的ライフスタイル

(例:プリズム)

価値観(例:パルス2)

信念、認識

BCOS要因〔pp.133〕

意思決定の段階

(a4)客観的・一般的測定尺度:最初に行う単純な細分化の指標〔pp.215-219〕

(a4-1)デモグラフィック(人口統計学的)市場細分化:対象者の欲求、嗜好、利用率などは、デモグラフィック変数と深く関わっている。また、この変数は、他の多くの変数と比較して、測定が容易である⇒「年齢」、「世代」、「性別」、「所得」、「人種と民族」、「地理的市場細分化」などの応用に関する説明〔pp.216-219〕

(a4-2)地理的市場細分化:対象者の欲求や反応を、地理的な単位によって細分化する。最近では、地理的位置情報にライフスタイルを結びつけた、「地理的分類法(geoclustering)」と呼ばれる手法も存在する〔pp.219〕。

(a5)一般的・客観的測定尺度:数年後、より複雑な細分化を行うための指標〔pp.219-222〕

(a5-1)社会階層:比較的等質で、永続的な区分。非営利分野において、明確な消費選好を示す。

(a5-2)家族ライフサイクル:人生において、消費行動に大きな変化がある場合、そこに判断基準の変化が存在するという考えに基づく概念⇒典型的なパタン〔pp.220〕⇒しかし、網羅的な変数ではなく、世帯の重要なグループ(高齢独身者、離婚者、片親家庭など)が大抵は含まれていない⇒社会的サービスを行う非営利組織のマーケティング計画においては、それらの世帯が非常に重要な意味を持つ。

(a5-3)多変量細分化:多変量統計手法を用いて、客観的予想をカスタマイズすること。具体的には、収集可能な市場細分化変数を全て集め、問題となっている行動予測に有効である小さな部分の組み合わせを使い、最終予想におけるそれぞれの変数貢献度について相対的な評価を行う。

(a6)客観的・行動特性測定尺度:将来の反応性に関する、過去行動などの予備材料〔pp.222-227〕

(a6-1)購買状況:プロダクトを購入する時の状況によって区分。

(a6-2)使用者のタイプ:非使用者、使用経験者、潜在的使用者、初めての使用者、常用者…etc

(a6-3)使用率:プロダクトの少量使用者、中量使用者、大量使用者などの細分化。

(a6-4)ロイヤリティのタイプ:ある特定の実在するものへの消費者選好の強さを表現。

(a6-5)推測的・一般的測定尺度:個性や価値、ライフスタイルによって対象者を細分化。

(a6-6)パーソナリティ:非営利組織における、高関与型の交換についての細分化に役立つ。

(a6-7)価値:パーソナリティほど継続的ではなく、日常生活で少しずつ変化していく。

(a6-7-1)手段的価値(instrumental values):進行中の活動を、最後まで実行できるように誘導。

(a6-7-2)究極的価値(terminal values):最終的な選択を導く価値。

(a7)推測的・行動特性的測定尺度:次のようなものがある〔pp.227-230〕

(a7-1)信条

(a7-2)便益

(a7-3)犠牲

(b)「ターゲット・マーケティング」:いくつかの市場セグメントを選定し、それぞれの資源投入量を決定し、それぞれのポジショニングとマーケティング・ミックスを開発するという活動〔⇒pp.230〕

(b1)マス・マーケティング(無差別マーケティング)

(b2)差別化マーケティング

(b3)集中化マーケティング(ニッチ・マーケティング)

(b4)マス・カスタマイゼーション

3. ポジショニングの問題〔pp.235-241〕

(1)ポジショニング:提供物がターゲット顧客の考えのなかでは、どのような「位置づけ」がされており、その顧客が提供物とどのような関係があるのか⇒効果的なポジショニングの3要素。

(a)現在のポジションの認識

(b)主な競争相手のポジションの認識

(c)提供物に関する競争相手との差別化の決定

(d)ポジショニングの他者への認知

(2)ポジショニングの選択肢(Al Reis & Jack Trout)〔pp.240-241〕

(a)「現在の能力を積み上げること」

(b)「ニッチ分野を探すこと」

(c)「再ポジショニングによる競争」

4. 非営利組織にとっての意識的ブランド戦略の展開〔pp.242-248〕

(1)ブランド:ある種の情報提供を果たすと同時に、感情を伝え、さらには個性さえも伝える。

(2)ブランドを創り、育て、維持するのは困難な仕事⇒そのため、組織は継続的にブランドに力を入れ続けなければならない。

(3)ブランディングの初期段階と全般的な考え方⇒ポジショニングと類似している〔⇒pp.245-248〕

(a)自ブランドと、競争相手ブランドの現在のポジションを認識する。

(b)調査結果を分析し、方向性を決定する。

(c)新しいブランドのポジションに到達する方法を決定する。

(d)統合的な戦略があることを確認する。

(e)すべての人の賛同を得る。

(f)できる限り事前テストを行う。

(g)定期的にモニタリングを行う。