フィリップ・コトラーほか著『非営利組織のマーケティング戦略〔第6版〕』メモ-2

フィリップ・コトラー, アラン・R・アンドリーセン著. 井関利明監訳. "第4章 ターゲット顧客行動の理解". 非営利組織のマーケティング戦略〔第6版〕. 東京. 第一法規, 2005, pp.129-169

2005.11.22

加藤久明

1. はじめに〔pp.129-131〕

(1)全てのマーケティング戦略と戦術の成否⇒ターゲット顧客の行動に影響を及ぼすかどうかで決まる。

(2)あるプログラムの最終目標が、精神的な部分的変化に「とどまる」⇒それは「教育」ないしは「宣伝」であって、マーケティングではない。

(3)マーケティングの概念と原則は、あらゆる行動目的に適用できる⇒例示された範囲〔pp.131〕。

(4)マーケティングの最終目標は、行動を変えることである⇒前提として、顧客中心主義が存在⇒そのため、「ターゲット顧客行動の理解」を始めることが不可欠である。

2. BCOS要因:Benefits, Costs, Others, Self-Efficacy〔pp.132-137〕

(1)人々はどうしてマーケターの望みどおりに行動するのか⇒主体としての個人の行動決定が、内部要因と外部要因の複雑な組み合わせに起因している。

(2)「BCOS要因」(アンドリーセン, 1995):顧客調査の方法と、成功するための計画策定の方法を論じるとき、繰り返してこの手法に立ち返ってみることが必要である。

(a)利得(便益)・効果(Benefits):コストの見返りとして、得られるもの。

(b)コスト(Costs):民間部門では、一般的に金銭と時間。

非営利部門では、苦痛、困惑あるいは自尊心の喪失、犯罪、他の複雑な要因であったりする⇒これに対して、非営利組織のマーケターがなすべきこと⇒それらの大きなコストを補って余りある利得を提供すること。

(c)他者要因(Others):行動は、利得とコストよってのみ引き起こされるわけではない⇒ターゲット顧客を取り巻く「他者」からも、多くの影響を受ける

(d)自己有効性(Self-Efficacy):実際に行動に移しても良いという個人的な確信⇒マーケターが声を大にして呼びかけたとしても、簡単には成功しない⇒成功のためには、自己有効性の問題が解決される必要がある。

(3)交換の中心的役割:マーケティングの基本的な課題⇒マーケターが望むものが何であれ、「顧客が知覚する利得を最大化し、そのコストを最小化させること」。〈留意点:顧客が受け取る利得⇒マーケターの属する(供給側)組織の支払うコスト/顧客のコスト⇒組織の利得〉〔pp.134-135〕

(a)交換の形態:交換による影響を理解し、対象者たる顧客の視点から検討しなくてはならない。

(a1)二者間で行われる場合

(a2)多者間で行われる場合⇒「第三者」の存在

(a2-1)顧客の側に立つ者

(a2-2)マーケター(の属する組織)の側に立つ者

(a2-3)交換を「促進する」ために必要な「独立第三者」

(a2-4)いずれの側からも独立し、交換の決定または内容に「影響を及ぼそうとする」者

(b)取引の範囲

(a)継続的取引:当事者間において、交換契約に基づき、継続して行動しなくてはならない取引。

(b)限定的取引:特定の1回限りの行動ないしは、複数回行われるが一定期間に限定された取引。

(4)対象者(消費者)行動理解のレベル

(a)非営利組織のマーケティング・マネージャー⇒組織の成功を左右する対象者(消費者)行動を理解する必要がある⇒まず、具体的には、4種類の運営上の問題に関わる意思決定が必要〔pp.136〕

(a1)市場再分化の問題

(a2)マーケティング・ミックスの問題

(a3)それぞれの市場にどれだけの費用、人員、希少資源を投じるのかという問題

(a4)実施時期の決定に関する問題

(b)4種類の意思決定を最適に行うために、さらに4種類のレベルに基づく過程が存在する〔pp.137〕

(b1)記述的理解:ある時点での市場特性の把握(記述)をするレベル。

(b2)関連性の理解:ある時点での顧客の行動や特性が、他のどのような行動や特性と関連しているのかを知ろうとするレベル。

(b3)因果関係の理解:対象者行動の原因を知ろうとするレベルであり、ここにおける理解は、関連性を超えて決定的な意味を持っている。また、マネージャーが原因をマーケティングによって影響を及ぼせるものであれば、それは極めて重要な情報となる。

(b4)因果関係の説明能力:「AはBの原因である」⇒「なぜそうなのか」という点については、仮説を持っているだけ⇒そのため、マーケターが成すべきことは、どの説明がもっとも良く当てはまるかによって変容する。

2. BCOS要因による対象者行動の概念化〔pp.138-146〕

(1)多様な対象者(消費者)市場の理解を深めることは簡単ではない⇒しかし、個人的観察と定型調査の組み合わせも、正しい概念化や対象者行動モデルに基づいている限りにおいては、非常に効果的

(2)マーケターが影響を及ぼせること⇒対象者(消費者)に行動する決意を促す⇒決定の2側面

(a)関与

(a1)「関与とは、意思決定者によって、その購入や消費の行為が個人的に重要性や関連性が高いと思われるとき、問題解決行動が活性化させることである」(Engel & Blackwell)〔pp.138〕

(a2)以下の条件のいずれかが観察された時、高い個人の関与が見受けられる。

(a2-1)その行動によって、対象者(消費者)のセルフ・イメージが投影されるとき。

(a2-2)行動の「失敗」による経済的、また個人的なコストが高いとき。

(a2-3)「誤った」決定による個人的、あるいは社会的なリスクが高いとき。

(a2-4)外部の(マーケター以外の)関連グループからのある一定の行動をとることへの圧力が強く、またそのターゲット対象者が従順なとき。

(b)複雑性

(a1)交換は、意思決定者の複雑性によっても変容する。

(a2)複雑性は、関与と意思決定の経験によって変化する。

(a3)非常に複雑な意思決定過程の例⇒〔pp.139, 表4-1〕

(3)非営利組織における交換のほとんどは、「高関与型」⇒それは、高度な変換処理であり、非常に精緻な作業である⇒意思決定の特徴づけ〔pp.140〕

(a)自己イメージの基本的な側面を伴う。

(b)個人的、あるいは経済的に大きな犠牲を伴う。

(c)誤った選択をした場合、個人的、あるいは社会的に大きな損失を被る危険性がある。

(d)仲間からの大きな賛成もしくは反対の圧力がある。

(4)高度で複雑な意思決定:必要性が感じられると、顧客は4つの段階へと進む〔pp.140-146〕

(a)前熟慮段階:マーケターが関心を持つような行動を考えていない段階

(b)熟慮段階:ターゲット顧客が行動について考える段階。

(b1)熟慮初期:顧客は、利益とコストを中心とした行動に関する検討を開始する。

(b2)熟慮後期:ターゲット顧客が、利得を考えずに選択肢を検討している段階。

(c)準備・行動段階:キャンペーンに弾みがつき、相当数の顧客が準備・行動する段階。

(d)維持段階:人々に望ましい行動を継続してもらうためのキャンペーンを実施する段階。