簡易測定手法を用いた 「地域当事者による水質診断」指標の デザイニング

【背景】

2011年に総合地球環境学研究所へ異動し、地域水資源環境のフィールドワークと携わるようになり、自然科学系の知と方法を現場を通して学ぶ中において、「地域の人々が自分たちで環境に関する一定のものさしを持ち、判断することはできないのか?」ということを考えるようになりました。幸いにして現場では、様々な簡易型センサーからパックテストのような簡易測定法も多用していたので、インドネシアの現場を中心に色々と試行錯誤を重ねながら水系大腸菌を中心とした簡易法をオンサイトで実践できる方法を構築していきました。また、2012年の終わりから関わるようになったフィリピンの現場において現地の生活用水、特に井戸水に含まれる大腸菌/大腸菌群の定量評価を試み、現在に至っています。2015年からは科学研究費による予算を獲得することができたため、簡易法活用でオファーを受け、実践をしていたフィリピンのアンゴノ市というところで保健局などと共に実践を重ねてきました。

科学研究費によるプロジェクトの概要などにつきましては、2015年に政策情報学会の研究大会で報告をした資料がありますので、それをご覧いただければと思います。

API11th-Kato-etal-v4-ro.pdf

【地域の人々と共に科学的裏付けをもって考える】

市民の皆さん、保健局の皆さん、市役所関係者の皆さん、そしてフィリピン大学の研究者という異なる立場の人たちが集まりながら観測や協議を行いながら、地道な取り組みを展開してきました。そして、現地関係者との協議・共同作業を通じた水環境測定ノウハウのマニュアル化を行い、以下のような冊子を出しております。

また、科学的な成果については、国際誌に投稿中のものも含めて数本の論文を執筆しております。必要のある方は、遠慮なくお問い合わせください。

Small_Book_Angono_Water_v2.1.pdf

『A Small Book About Domestic Water in Angono, Rizal, Philippines: for Sharing Portable Water for all Local People』(A4版, 43頁)

  • 日本人研究者、現地研究者、現地保険局関係者らと共に地域の人々の疑問に対する回答を一般向け冊子としてまとめました
  • アンゴノ市域の人々が心配していた「生活用水や河川水に含まれる重金属濃度」や「大腸菌の定量評価」などに関して検討を行った結果が記されています
  • 現地行政関係者に配布をし、アンゴノ市図書館などにも納めています
  • 2017年2月および2018年1月に現地集会で解説を行っています

科学研究費としての研究事業は、2018年3月末をもって終了しますが、今後も地道に継続的な研究を展開していく予定です。

現地では本研究課題をきっかけにAngono Water Quality Associationという自主的に組織されたNGOが水質調査計画を立案し、試行的に水質評価を実施し続けています。このNGOには、我々の研究協力者であるアンゴノ市保健局のMr. Gilbert Merinoがコアメンバーとして所属しておりまして、普段は日本にいる我々は各種の報告をFacebookメッセンジャーなどを活用して受け、必要な助言を行いました。SNSなどのツールは、使い方を間違えなければ本当に効果的なコミュニケーションツールとなりうると改めて実感した次第です。

プロジェクトの後半において、地域が自ら考え、立案し、簡易法に基づく水質評価を実施する社会状況の実現を目指した研究として、このような「地域に自律性を生み、定着させていく」という点からも予想外の大きな成果でした。今後もAngono Water Quality Associationはアンゴノ市保健局と共同で、地域のローカルボトル水販売店などの水質調査を行い、「大腸菌群の有無に関する水質評価認証」を展開し、現在も定期的な調査活動を行っています。

【参考情報】