フィリップ・コトラー, アラン・R・アンドリーセン著. 井関利明監訳. "第3章 戦略的マーケティング計画". 非営利組織のマーケティング戦略〔第6版〕. 東京. 第一法規, 2005, pp.91-128
2005.11.15
加藤久明
1. はじめに
(1)マーケティングを行うための「体系的なプロセス」:マネジメント層が、顧客本位のマーケティング志向を理解し、自らの組織でそれが行われていると確信した際に必要な次へのステップ。
(2)「組織のマーケティング計画(OMP)」と「キャンペーン・マーケティング計画(CMP)」
(a)組織は、長期的なマーケティング計画を作成する必要がある ⇒OMP
(b)組織は、特定のキャンペーン実行に多くの時間と労力をつぎ込む⇒CMP
(3)第2部は、組織レベルとキャンペーン・レベル双方において、戦略策定プロセスを適用するための、基礎的概念と論点に焦点を当てる⇒その中で、第3章は、組織レベルとキャンペーン・レベル双方のプロセスに関する概観を行っている。
2. 組織のマーケティング計画(OMP)〔pp.94-122〕
(1)「組織のマーケティング・プランニング・プロセス(OMPP)」〔pp.95, 図3-1〕
(a)分析:「組織内部に関する分析」と「組織が外部で直面している市場環境に関する分析」
(b)戦略:「マーケティング活動の目的と目標の設定」と「コア・マーケティング戦略の明確化」
〔コア・マーケティング戦略は、長期的かつ多様なキャンペーンを行う枠組みとなる〕
(c)実行:組織とキャンペーン・レベルの双方のマーケティングを効果的に行うため、(c1)適切で効果的な体制の構築、(c2)効果測定と統制システムの準備、が必要である。
(2)計画プログラム:具体的には、以下の3つの決定に区別される〔pp.96-101〕
(a)使命:組織の基本的目的であり、達成すべきこと。
↓ 〔われわれの目的は何か、顧客は誰か、われわれは顧客に向けてどのような価値を提供できるか〕
(b)目的:組織が重要視する社会的影響度、市場占有率、成長、名声、などの主要変数。
↓ 〔組織の目指すべきおおまなか方向を示し、それに沿って計測可能な目標が設定できる〕
(c)目標:規模、時間、そして責務に関して明確化された組織の具体的なゴール。
〔進捗状況や人材評価、問題点の把握などを解決するため、評価・統制と操作・計測が可能〕
(3)組織文化〔pp.102-106〕
(a)多くの非営利組織の文化:カリスマ的存在の指導者によって、彼等の描く組織イメージどおりに形成される⇒しかしながら、深刻かつ組織固有の文化の衝突が発生している⇒この問題の多くは、正常な成長のダイナミックスによって引き起こされる。
(b)大部分の非営利プログラムと団体:社会福祉に前向きに取り組む個人、あるいは急ごしらえのグループによって始められている⇒初期段階において、「社会奉仕文化」に支配されている。
(c)社会奉仕文化:非営利組織の初期段階においては、理想的⇒「意義深い社会奉仕が報酬」という理念が無ければ、組織の窮乏状況は耐え難い⇒理念は、組織の仲間意識のなかで形成され、構成員たちは、理念を拠り所として、批判と悲観論者たちの意見に耐える。
(c1)この文化が生き延びる理由
(c1-a)競争相手が無く、十分な存在需要のある時、人々が本当に求めているサービスを組織が提供できている。
(c1-b)外部からの監視の目が行き届かないために、組織が自由に行動できる。
(d)民間部門では、文化の衝突が過渡的⇒これに対して、非営利分野では衝突を果てしなく長引かせてしまうことがある⇒さらに、トップ・マネージャーたちが対立のもとになりがち⇒トップが症状を認識し、真剣に向かい合うことが重要⇒解決方法〔pp.106〕
(4)組織の強みと弱みの分析〔pp.107-108〕:
(a)2つの「弱み」の形態
(a1)環境面、組織上の制約面:組織が「行動する」際に生じる
(a2)組織構造、戦略、戦術面:マネージャーが、これらの不適切な側面に気付かないことが多い。
⇒マーケティング機能を含めた組織全体の運営について、「外部監査」を行うことが重要。
(b)外部環境の分析:「外部監査」へのフォロー〔pp.108-111〕
(b1)パブリック(公衆):「パブリックとは、複数の人びとや組織、または両者を含む識別可能なグループであって、その現実のまたは潜在的なニーズが何らかの形で満たされるべき対象集団である」〔pp.109〕⇒組織の主要なパブリックについて〔pp.110, 図3-3〕
(b2)競争環境:劇場を例としたケース〔pp.114-116, 図3-4〕
(b2-a)欲望競争相手:対象者が、満足させたいと思っている他の強い欲望。
(b2-b)一般的競争相手:対象者の特定欲求を満足させられるような、他の基本的な方法。
(b2-c)サービス形態競争相手:対象者の特定欲求を満足させられる、他のサービス形態。
(b2-d)事業競争相手:対象者の特定欲求を満足させられる、同じサービスを提供する他の事業体。
(b3)マクロ環境:非営利組織が活動する世界を形づくる、諸影響力の存在を理解が重要。
(5)ポートフォリオ計画〔pp.116-119〕
(a)分析段階「(4)」の情報:組織の使命、目的、目標を更新する基礎。
(b)更新は、ポートフォリオ計画に基づく必要がある:「全体的展望」を用いて系統的に行う。
(c)「選択可能性」というポートフォリオ:換言すれば、「潜在的選択権」⇒投資家の場合と同じ。
(d)大学を事例とした、「提供物/市場・機会マトリックス」〔pp.117, 図3-5〕
(6)コア・マーケティング戦略〔pp.119-122〕
(a)OMPPにおいて最も重要な段階。
(b)組織が定めたマーケティグ目標を長期的に引継ぎ、成し遂げるための基本的な推進力。
(c)全体的なマーケティング計画の骨格を形成し、次の3要素から構成される。
(c1)ひとつあるいは複数の「特定ターゲット市場」の選定。
(c2)明確に定義された「競争的ポジショニング」。
(c3)一般的競争相手と欲望競争相手なども含む主要な競争相手との差別化を図るためのポジショニング戦略によって、ターゲット市場のニーズを満たす、慎重に設計・統合された「マーケティングミックス」。
3. キャンペーン・マーケティング計画(CMP)〔pp.122-126〕
(1)具体的なプロセス〔pp.123, 図3-6 ; pp.124, 図3-7〕
(a)聞き取り:対象顧客に対する聞き取りを行い、影響を与えるターゲット顧客を完全に理解する。
(b)計画:聞き取りによって得た顧客情報を、行動プログラムに反映させる。
(c)事前調査:ターゲット顧客に対して、計画の中心要素の事前調査を行う。
(d)実行:4P(Product, Price, Place, Promotion)のすべてが決定⇒キャンペーンが実際に立ち上がる。
(e)モニタリング:重要な段階のほとんどのプログラム成果を、追跡システムにてモニタリングする。
(f)再循環・修正:(e)モニタリングにて得たデータを、(a)聞き取りと(b)計画段階にフィードバックする。この際に、キャンペーン・マネージャーは、新しいアイデアについての「事前調査」を忘れてはならない点が重要である
4. 結章〔pp.126〕
(1)戦略的マーケティングをタイムリーかつ効率的に実行するために:非営利組織のマネージャー⇒計画のための効果的なコントロール・システムの開発・導入が課題となる。
(2)システムからのデータ:戦略的目的のために重要であると同時に、外部の評価者と資金提供者に情報を提供するためにも必要である。