2026/03/27
参加者:安藤 正雄、平野 吉信、蟹澤 宏剛、志手 一哉、岩松 準、曽根 巨充、染谷 俊介、勝田 尚哉、高橋 洸、唐 詩、神谷 友里恵、田中 洋介、李 由由、高山 空
書記:小島 瑚子、定松 恵斗
日時:3月27日(金)15時00分〜
開催場所:芝浦工業大学 ゼミ室
対面開催
1. シンポジウム開催の背景とプログラム概要
1.1 開催の趣旨とDfMAの重要性
業界において技能労働者不足や残業規制の厳格化といった供給制約の時代を迎える中、プロジェクト全体を効率的に遂行するためのパラダイムシフトが急務となっている。その解決策の要となるのが、製造や施工のしやすさを設計段階で予め考慮する「DfMA(Design for Manufacture and Assembly)」である。DfMAの実装には、上流の設計段階で施工側の知見を取り入れる「フロントローディング」の実現と、発注者の早期合意が不可欠であり、これが施工現場の働き方改革に直結する。本シンポジウムでは、このDfMAのアプローチを実践する企業を招き、取り組みの工夫や課題について議論を深める。
1.2 プログラム構成の全体像
プログラムの冒頭では開会の挨拶が行われる。続いて、コスト研の記事をベースとした「リアローディングからの脱却」というテーマで約30分の主題解説を実施する。今回は基調講演を設けず、この主題解説に十分な時間を割くことで議論の柱を明確にする方針である。その後、4社による企業講演、そして1時間のパネルディスカッションへと続く構成となっている。
2. 登壇企業(4社)の具体的な取り組みと講演内容
2.1 安藤ハザマ:製造業ツールを活用したPC製作
オートデスクの製造業用ツール等を活用したプレキャストコンクリート(PC)の製作について発表される。
2.2 長谷工コーポレーション:フロントローディングの3類型とショールーム展開
同社DX推進室長の中野氏(元・設計担当)が登壇し、「設計施工におけるフロントローディングの3類型」をテーマに講演する。長谷工グループ自身が発注者となるケースの強みを活かした「リアルとバーチャルが並走するショールーム」の事例が紹介される。ここではモジュールを事前に全て決定した上で大量に配置し、その場で発注者(施主)に様々な仕様を決めさせるという画期的なプロセスが語られる予定である。
2.3 カワトT.P.C.:配管のプレファブリケーションと新しい働き方の創出
サプライヤー側として、給水・給湯用架橋ポリエチレン管などのプレファブリケーションを専門とするメーカーが登壇する。同社は、基本設計段階で自動配管ルートを生成する自社プログラムを保有しており、設計への組み込みを早期に行う。受注後はBIMデータからカットリストを抽出し、工場で完全に組み上げた状態で現場へ納品するため、現場では「広げるだけで施工が終わる」という極限の効率化を実現している。 また、同社は岩国駅前の空きビルを加工場として活用し、地元の女性正社員やパートタイム従業員を多数雇用している。子供の送迎等に合わせた短い勤務時間を組み合わせ、全体で8時間労働のシフトを回すなど、働き方の面でも地域で重宝される画期的なモデルを構築しており、主に東京の大手建設会社が手掛けるマンション住戸内配管を請け負っている点も注目される。
2.4 野原グループ:BIMを活用したプレカットと加工連携
同社が現在取り組んでいるサービスの全体像として、プレカットの実施、BIMを活用した干渉チェック、壁と内装の自動連携などについて発表される予定である。今回は概算段階の積算や見積もりといった「コスト」の話よりも、現場と加工場の連携部分(お金の手前のプロセス)を主軸とした内容となる。
3. パネルディスカッションの展望と構成
3.1 前回の振り返りとコスト管理の視点
企業講演の後、曽根氏と小笠原先生をコーディネーターとして1時間のパネルディスカッションが行われる。安藤先生より、前回の議論との繋がりを持たせるため、第1回登壇者のVICCの渡辺氏へ参加を打診する提案がなされた。また、フロントローディングやDfMAが「発注者を含めた上流段階でのコスト管理に極めて有効である」という視点を議論に含めることが要望された。
3.2 議論の進行とコーディネーターの役割
4社の登壇者に渡辺氏やコーディネーターを含めると7名規模となるため、1時間という限られた枠内で議論を適切に回すための事前の進行調整が不可欠であると指摘された。 小笠原先生には設計者側の視点を引き出し役割分担を整理する進行が、渡辺氏には「BIMの『M』は単なるモデルではなく『Information Management』である」という本質的な意義を会場へ語りかける役割が期待されている。
3.3 次回(第3回)へ向けた「発注者参画」への繋がり
今回はサプライヤー側の視点に重点を置いた構成となっているが、フロントローディングの実装には「発注者の参画」が欠かせない。そのため、パネルディスカッションでは第1回の振り返りをイントロダクションとして提示しつつ、次回(第3回)の発注者・設計者・施工者によるコラボレーションという着地点を見据えた議論の構成にすることが確認された。
4. 建設業界が抱える構造的課題と解決へのアプローチ
4.1 2024年問題と地方自治体の極端な技術者不足
建設業界では、時間外労働の上限規制(月45時間)を週休2日の現場に当てはめると「1日あたり約2時間しか残業できない」という厳しい現実がある。また、他産業に比べて正規雇用・社内雇用へのシフトが進んでおらず、一人親方等を含む業界全体の約2割には社内のDXやIT教育を施す仕組みそのものが届かないという構造的な課題がある。 さらに深刻な問題として、全国の市町村の67%において建築技師が「5人以下」、38%においては「ゼロ(1人もいない)」という実態が報告された。地方で大規模な公共建築等が発生した際、行政側で設計審査や技術サポートを行う人材が枯渇していることが大きな懸念となっている。
4.2 「フルPC化」への投資とオランダの全自動工場事例
こうした圧倒的な技術者不足の解決策として、オランダで視察された「全自動のプレキャストパネル工場」の仕組みが共有された。この工場では、型枠清掃からマグネットを用いたロボット組み立て、鉄筋の自動配置、コンクリート打設に至るまで全自動化されており、わずか14人の作業員で年間2万枚もの壁パネルを製造している。 これを受け、日本のマンション等で一般的な「ハーフPC(上半分は現場でコンクリートを打つ)」方式に固執せず、最初からすべて工場で製作する「フルPC化」への全面的なシフトが提案された。現場ごとの個別工法ではなく、確実な自動化製造ラインへ業界全体で投資を進めるべきだとの強い意見が交わされた。
4.3 点群データの自動処理とデータ軽量化技術
既存建物のレーザースキャンによる「点群データ」の活用についても技術開発が進んでいる。柱や壁などは物理的な凹凸の幾何学アルゴリズム(入隅・出隅)からルールベースで自動的に切り分けを行い、エアコン等の設備機器はAIの画像分類(物体認識)を用いて特定する複合的なセグメンテーション(自動意味づけ分類)が構築されている。さらに、設備に印字された名称をOCR(光学文字認識)で読み取り自動ラベリングする機能も開発中である。 また、ビル全体の高精度点群データが300GB〜400GBという膨大なサイズになり現場のPCで扱えないという課題に対し、現場へのヒアリングに基づき「平坦な壁や床は点の密度を極端に低く間引き、複雑な設備周りだけ高密度に残す」というインテリジェントなデータ軽量化プログラムが開発されていることが共有された。
5. プロセス変革と情報マネジメント
5.1 ターゲットバリューデザインの課題
クライアントを早い段階で巻き込み、一度決めた仕様を設計確定・変更不可にさせる仕組みづくりが最大の課題として議論された。仕様決定が遅れたり、設計確定後の変更要望(ペナルティや追加コストの発生)に対応するための手戻りをどう防ぐかが問われている。 解決策として、プロセス初期に明確な予算や価値の目標を設定し、検証を重ねる「ターゲットバリューデザイン(TVD)」の手法が、DfMAの標準プロトコルとして挙げられた。しかし、基本設計の段階で特定工場の製品仕様を前提とすることへの制約について、発注者の完全な理解を得るためのルール作りが実務上の高いハードルとなることが確認された。
5.2 手戻り削減を目的とした情報マネジメントの徹底
建設DXの真の目的は、派手なIT技術の導入ではなく、無駄な手直しや仕様変更による「手戻り」を極限まで減らすための「情報マネジメント(情報の統括管理)」である。どのタイミングで、誰が、どのような情報をBIMモデルに組み込むかという段取りの管理こそが重要であり、シンポジウムのパネルディスカッションでもこの点に強く焦点を当てて深掘りしていく予定である。
5.3 DfMAのレベル多様性と部位別性能発注
DfMAの取り組みには、断熱材まで工場で一体化させる高度なモジュールから、単なる骨組みパネルまで様々なレベル(深度)が存在する。現場ではなく工場から出荷されたパーツ単体の段階で、耐火・遮音等の建築性能を100%担保できている状態を作ることが、上流設計との連携において不可欠であることが強調された。
6. 今後の展望と学術的展開
6.1 書籍化や長期的な研究枠組みの創設
何回かのシンポジウムを経て、一連の議論を総括して書籍化(出版)したいと考えている。特に、「オープンモジュラー」の思想を日本に導入した際のナレッジ(知識)の再利用などは、有望なテーマとして期待される。
6.2 国際標準のローカライズとオープンな成果発信
単発のイベントに留まらず、日本国内のガラパゴス的な独自ルールを打破し、海外の国際標準ルールを徹底的にリサーチして国内へ適合させる「国際標準のローカライズ」に注力する方針である。これらの研究成果はクローズドな環境に留めず、名称を変更した上でBIM推進サイトやGBTRCのホームページ等を通じ、業界標準の提案としてパブリックに発信していくことを想定している。
6.3 現場技術者の共感を呼ぶ演出と今後の準備
シンポジウムでは最先端のIT技術を綺麗に紹介するだけでなく、実際の施工現場の方々にも登壇してもらい、泥臭い問題やリアルな課題感を語ってもらう演出を取り入れる。聴講する現場の技術者が「自分たちの仕事がどう変わるのか」にリアリティと共感を持てる構成を目指す。