2022/01/22
参加者:安藤正雄、平野吉信、小笠原正豊、濱地和雄、蟹澤宏剛、志手一哉
日時:01月22日(土)10時00分〜
オンライン開催
2022/01/22
参加者:安藤正雄、平野吉信、小笠原正豊、濱地和雄、蟹澤宏剛、志手一哉
日時:01月22日(土)10時00分〜
オンライン開催
愛知県の国際展示場というプロジェクトで中部国際空港と直結している国際展示場を2019年に施工したという内容です。この建物を建設した理由は、2020年に東京オリンピックを行うと東京ビックサイトが使用できないので、日本で大規模な展示会を開催するために愛知県が発注者となり始まったプロジェクトでした。
デザインビルドで進めていくことが最初からの想定で動いていました。工期短く、設計期間もあまり取れないため基本設計からのデザインビルドで発注したいということを愛知県が日本設計に相談をしたのが発端でした。
ただ、県レベルでデザインビルドの事例がほとんどなく、手続きなどどのように進めるのかわからない中で手探りの状態でプロジェクトを進めていったということでした。ここで、日本設計にアドバイザーをお願いしました。総合評価方式で受注者を決定して、竹中工務店が受注してプロジェクトを進めたという事例です。
デザインビルドとそれに対するアドバイザーがついていました。アドバイスとは、発注方式を選定すること、その調達に関する条件を考えていくことやQS的な立場でオープンブックの確認、Pure CM(発注者支援業務)を日本設計が行いました。
愛知県が何を気にしてデザインビルドの枠組みをつくっていったのかということに関して、1つはデザインビルドで発注することはそれ程問題ではなかったのですが、総合評価方式でデザインビルダーを選定していく時に、どのような相手が入札の対象とするべきか
という点を悩まれたみたいです。対象者をゼネコン1社にしてしまうと大手しか入札できないので、乙型JVという設計事務所とゼネコンが分業する形のJVでした。両社が対等な関係である協働企業体である乙型JVを入札の条件に入れ、公平性を保つようにしました。
設計案、コストを出してもらうために予定価格を持っていないといけなかったので基本計画の段階で日本設計が入ってある程度プレ設計のようなことを行い、ある程度の予定価格を掴むようにしました。そこから出してきた設計要求条件だけを提示して、プランは出さずにプロポーザルを行うという手続きで進めました。次に、一括で発注してしまうと最終的なコストが高いのか安いのかわからなくなるので、基本設計と実施設計以降に分けて契約されたみたいです。基本設計には、実施設計以降の優先交渉権のようなものを付けた状態で基本設計のプロポーザルを一度行い、基本設計が終わった段階で改めて県の方で見積もりをして予定価格を定め工事金額を含めた契約をします。
実施設計から先のデザインビルドをJVで発注するので、予定価格をGMPという立て付けにしてGMPを設定した上でのデザインビルドにしたということが本プロジェクトの最大の特徴となっています。GMPをつけデザインビルドをするので、1つはコストプラスフィーにするよう進めました。実施設計も含めるためにランプサムで行うのはおかしいという話から、コストプラスフィーとオープンブックで契約をするようにしたそうです。GMPを定めているので、最終的なコストとGMPとの差額分については発注者とゼネコンで折半するというインセンティブをつけました。
愛知県が困ったこととしては、予算を執行していくために全て議会で承認を得ることが難しかったみたいです。GMPを設定するまではあまり問題なく進めることができたのですが、コストプラスフィーのため減額分が出てきます。そこでなぜ減額分が出たのかを議会に説明することに非常に時間がかかったと言っていました。
オープンブックがどういうものであったのかということに関して、梗概その2の方に書いてあります。専門工事会社の方に発注するときには、プロジェクトのホームページで入札の公募をして、それに対して3社以上の入札をします。その中で一番安かったところに決めるという手続きを徹底して行ったそうです。支払いに関しては、竹中工務店から専門工事会社への支払いを証明するために通帳のコピーを全て提出しなければならないということもありました。全てにおいてそれを行うことは大変なので2000万以上の取引に関してアドバイザーに渡して精査してもらう形を取りました。愛知県側としては、レベルでデザインビルドを行うには公平性や議会へきちんとどのように説明をするのかを考えると、デザインビルドではあるが2段階発注をすること、オープンブック、コストプラスフィーの契約は外せないということでした。また、オープンブックをするときにどこまで確認を入れるのかということに関して、より合理化していく必要がありました。
このようなやり方に対して、市レベルではここまできちんと考えている雰囲気はありません。デザインビルドで発注をしていても、ランプサムで契約をしており、あまり深くは議論されていないように思います。そのような意味では、愛知県の事例はクリアな体制であったと思います
議論
安藤:全体のこの研究会の趣旨からすると、IPDやECIみたいなものをどう考えるのかということがコンテクストになると思います。総合評価やDBなど日本の経験のある枠組みの中にどのように落とし込むのかという模範的な事例だと思います。IPDやPDBを見ている立場からすると少し根本的に違う点があると思いました。
1つは、ゼネコンを取り込むという点で、IPDやPDBだとサブコンにどう設計させていくのか、イノベーションを引き出すのかということが重視されているので、設計をさせていくようにしなければグローバルな潮流とは少し異なると思います。
コストプラスフィーに関係することでもありますが、コストの部分をどのようにマルチパーティーで実現していくのかということが今後の課題の1つだと感じました。
GMPがターゲットプライスになるという点は少し矛盾があると思いました。グローバル的に見ると、もう少しUniformat的に、要するにスキマティックデザインの後に出て設定されるものです。基本設計が終わるということは、数量とモノが出てきている段階で、それはターゲットプライスではなくあくまでGMPだと思います。日本の現状でいうと、
Uniformatや予定価格の算出に関する社会的な合意、システムがありません。また、設計のフェーズでは、モノになる前のデザインとモノに化した基本設計が終わった段階の設計の状態、実施設計という1つフェーズが日本では欠けています。価格をどう評価するのかという点で矛盾があると思い、1つの課題だと感じています。
志手:実際にヒアリングしているときに、愛知県側では請負価格に近いイメージでGMPを捉えていた部分があったみたいです。GMPの考え方について議論していく必要があると改めて認識していたように思います。
安藤:設計者が実施設計までするということが1つ、施工側が設計に関与できるようなインプット可能な設計段階のあたりの仕組みを取り込んでいく努力が必要だと思います。
志手:専門工事会社をどう入れるのかという点で、ゼネコンを入れたデザインビルドの中だとやりづらい部分もあるとは思います。
安藤:鉄骨などはやりやすいのではないですか。設備はやるべき分野だと思います。
志手:コスト的にやるという方がクリアだと思います。このような事例が他の県でも出てくると良いと思うのですが、ここまでの体制で行っている事例がないと思います。初めからデザインビルドで行おうという立て付けで動いていかないと難しいと思います。
岩松:会計法や予定価格制度みたいなものが大きく関わっているように思います。日本の入札契約の仕組みなどが大きな壁になっている気がします。
志手:予算を執行するという手続き上、先に価格を決めないといけないということもあったと思います。
安藤:体制としては、受注者、発注者の両側にコストエンジニアがいて同じ言葉を使うという制度が必要だと思います。
志手:そこは、慣れていたみたいです。発注者側には日本設計のCM群がQSとして付いて、ゼネコン側には担当支店の見積もり部が現場に入りQSとしての立ち位置で情報をやり取りしたということでした。ある意味、イギリスのQSを使用していることと近い話だったと思います。ヒアリングしたときには、見積もりの方がきてくださいました。
岩松:3社は、竹和会(竹中工務店の協力会組織)のメンバーが多かったのでしょうか?そういった情報はありますか。
志手:公募でしたので、基本的には先に声を掛けないようにしていたそうです。ただ、全ての工事において3社全て揃うとは限らないため、3社になるように知っているところに声をかけていたようです。
平野:通常のC Mというよりは発注者コンサルタントであり、アメリカだと普通のDBにあたります。
志手:関係者全員、これはCM at Riskではないと言っていました。
平野:非常に典型的なPBだと思います。これを日本で行ったことは驚きです。
志手:非常にクリアなやり方をしていたと思います。
小笠原:発注者側(愛知県)はどのような体制でしたか。発注者側の担当が途中で変わってしまうという話はよくあると思うのですが、今回のようなある程度規模と期間があるとどういう体制でやられていましたか。
志手:愛知県国際展示場整備室という新たなプロジェクト室を作っていました。なので、プロジェクトを終えるまでは同じ人が担当していました。ただ、当時の担当の方は既に異動されています。
小笠原:異動されてしまうと発注者側にノウハウが残らなかったりするので、何か上手く仕組みができれば良いと思います。
志手:担当者の方も同じようなことを話されていたので、今回のヒアリングに非常に協力してくださったということもあると思います。
田澤:インセンティブの部分を発注者と受注者で折半している部分があると思いますが、サブコンにはどのように取り分を分けていたのかわかりますか。
志手:そこはわからないです。
田澤:ゼネコンが全て取っているのでしょうか。
志手:コストプラスフィーのフィーの部分でも取っていたと思います。
平野:その分GMPを下げたとかはないですか。
志手:GMPはあまり変えていないと思います。
岩松:議会での説明が大変だったという話でしたが、愛知県議会での議事録に残っているのではないかと思いますが、調査はしましたか。
志手:そこまではしていないです。
安藤:QSが社会に定着して、Uniformat的なものが使えるような積算情報の蓄積が管理されているという体制があればより楽になると思います。
蟹澤:インセンティブがサブコンにも行き渡るようにするには、サブコンの分類もパッケージを少なくして、かつサブコン側にもQSがいないと行き渡らないと思います。
志手:ゼネコンとサブコンの間がランプサムでした。
平野:そこで競争性を確保しているということだと思います。なので、GMPが動いてもサブコンには行き渡らないと思いました。
安藤:IPDとかPDBのアドバンテージだと思います。重要なサブコンをプロジェクトの初めから取り込んでおく必要があると思います。
志手:愛知県の言い分としては、オープンブックにすることでたたくということを防ぐということを言われていました。
平野:サブコンのビットをやったときに、設計のレベルがどの程度であったのかが気になりました。本当のオープンブックにするためには、コンプリートした設計でないとまともな価格競争にならないはずなので、どの段階でビットを出したのか気になりました。
志手:実施設計が完了した後なので、アメリカ的に言うと、90、100%に近い状態のものであったと思います。
平野:そこは、完全にトラディショナル的な形でやっているということですね。
その話とサブコンを早い段階から巻き込み設計に参加させることとだいぶ違うプロジェクトだと思いながら聞いていました。
安藤:これは日本的な工夫をしたものですが、平野先生が仰っていたアメリカのDBだと言えばそこまでの話にもなります。
平野:トラディショナルに沿ったDBのやり方です。
安藤:基本設計あるいはそれより前の段階からサブコン参加させるってことでないと面白くないと思います。
平野:IPD的な話に持っていくとその通りだと思います。
志手:外資系の発注者からは、IPDのような物件のプロジェクトが年に1、2つあるみたいです。そこで具体的にどのようにやっているのかはわからないので、何か田澤さん知っていますか。
田澤:IPDのグループにいるのは、躯体業者の方しかいなかったりとかでした。
志手:ゼネコン側も今回のようなプロジェクトのやり方をするときに、ある程度の経験や知識が必要になってきていると思います。竹中工務店が今回できたのは、CM部門の知識や感覚がある方が、プロジェクトに関わっていたからだと思います。なので、他のプロジェクトで展開しようとした時の課題になる点だと思います。
安藤:今、資材高騰の中で請負側にリスクが大きくなっている状態だと思います。
そういう時にこのようなやり方は頼れる試本となり得ますか。
志手:コストとフィーを分けるということでなり得ると思います。
平野:先程のアメリカの典型的なDBに近いという話ですけれども、二段階契約に近い要素を持っていると思います。そういう意味では今のご指摘は正しいと思います。
志手:基本設計終わってから再契約しています。
安藤:モノになって、数量がでた段階でGMPを作るということです。
平野:GMPを固めてから契約をするという、まさに二段階契約ですよね。もしかしたら、アメリカの方法を勉強してやっているのかもしれないですが。
志手:勉強をされてはいると思います。
小笠原:設計段階で日本設計が設計、施工のアドバイスを竹中工務店の基本設計、実施設計に対して行っているということですか。
志手:言葉上はそうです。
小笠原:実際何をされていますか。
志手:これは竹中工務店にアドバイスをしているのではなく、発注者にアドバイスしています。デザインビルドでやるならこういうやり方ですというようなアドバイスをしています。
小笠原:本来は、竹中工務店の設計部が発注者に説明するような部分をCMという立場から日本設計が行うということですか。
志手:要求水準書を作っていくということが従来のやり方でやるよりも早い段階で割と細かいことを決めないと、デザインビルドでプロポーザルができないので、そこの部分に対して県の人間だけだとできないため予備設計のようなものをまずアドバイスしていくことです。また、オープンブックを付けた方が良いなどの仕組みや細い制度設計の部分にアドバイスすることが主な業務でした。
平野:アメリカの例ですと、DB契約の監理(スーパーバイズ?)の役割をすると説明されていることが多いです。契約通りに進んでいて、施工に向かっていることを発注者の立場で確認するという役割ですか。
志手:第三者監理(応募様式2020)の部分です。
平野:その上の部分の要求水準管理・設計変更確認の部分が要求通りに進んでいるかを確認するということですか。
志手:そうです。基本設計までの間の部分です。間の部分で契約が変わっているみたいです。後ろの部分でQS的な立場で3つ業務をバラバラに受けたということです。