2024/11/16
参加者:安藤正雄、平野吉信、西野加奈子、蟹澤宏剛、志手一哉、小笠原正豊、金岩哲郎、橋本真一、片岡誠、曽根巨充、染谷俊介、大越潤、勝田尚哉、朱正路、唐詩、小峰紡花、神谷友里恵、藤田隼毅
書記:李由由、小島瑚子
日時:11月16日(土)15時00分〜
開催場所:芝浦工業大学 ゼミ室
対面開催
今回の調査では、インドの建設業界の発展と課題を包括的に評価した。調査は主にムンバイで実施したインタビューを基に、建設業の発展過程、契約形態の違い、リスク分担の仕組みについて分析した。
建設業の進化をイギリスと日本の歴史的事例を参考に解明した。
19世紀のイギリスでは、各職種の親方が共同で見積もりを行い、建築家が各職と契約を締結する形態が主流。日本では明治時代に西洋建築が導入され、建設業が急速に発展。初期段階では役所や三菱事務所による直営工事が中心だったが、ゼネコンの信用性が確立するまで長い時間を要した。
2.1. インドの建設業とリスク分担
インドにおける建設プロジェクトのリスク分担の仕組みと契約形態は、多様性がありながらも特定の傾向が確認できる。「Item rate」契約では、発注者があらかじめ設定した単価を基に、実際に使用された資材や作業量に応じて請負業者が支払いを受ける。この契約形態は特に透明性が高いとされ、現場ごとの実情に合わせて柔軟に対応できる反面、進捗管理やコストオーバーランのリスクが発注者側に集中するという特徴がある。加えて、「コストプラスフィー」方式も確認された。この方式では、請負業者が工事にかかった実費に一定の手数料を加えて発注者に請求する仕組みが採用されている。特に、プロジェクトの規模が大きく、仕様変更の頻度が高い場合に適しているとされる。この方式は請負業者にとってリスクが低い一方で、発注者側は費用が膨らむ可能性を常に考慮する必要がある。
一部の発注者は、自らリスクを負う直営工事方式を選択している。これにより、資材調達や人員配置を自ら管理することでコスト削減を図る意図が見られるが、専門的な管理能力が欠如している場合、効率低下や品質問題が生じる可能性が高い。また、特定のプロジェクトではリスクを完全に請負業者に移譲する契約が採用されるケースも確認された。このような契約形態では、請負業者がコスト、工期、品質の全責任を負うため、厳格な契約条件とリスクプレミアムが発注価格に反映される傾向が強い。
インドの契約形態における特徴として、法制度の整備や社会的な信頼構築が未成熟であるため、リスク分担が均等に行われにくい点が挙げられる。特に、契約内容の曖昧さや、途中での仕様変更に対する対応力の不足が大きな課題として浮上している。
さらに、発注者と請負業者の間の交渉力の差が、リスク分担の非対称性を助長する要因となっている。大規模プロジェクトの場合、請負業者が納期やコストに対するプレッシャーを受ける一方、発注者側がリスクを過剰に回避する傾向が見られる。これにより、プロジェクト全体の効率性が低下する事例が多く報告されている。
2.2. ランコ・ボーンのボーン曲線
ボーン曲線は国の発展と建設業の関係を示すもので、GNPが増加するにつれて建設業の生産比率は増加するが、一定の水準を超えると減少することが示されている。インドのデータを加えたグラフを作成した結果、インドの建設業はまだ拡大段階にあり、今後の成長が期待される時期であると予測できる。
2.3. ムンバイ調査とインタビュー結果
インタビュー対象は、ムンバイのAからHまでの8現場で、発注者や施工業者、作業員など60人からデータを収集。調査を通じて、建設業者がどのような契約形態を採用しているか、またリスクをどのように管理しているかについて4つのパターンに分類。
完全直営: オーナーが自ら建設能力を持ち、材料供給なども分離発注で管理。
直営+PMC: オーナーが建設能力を欠き、PMCがリスクを管理。
一式契約: 全てのリスクを施工業者が負い、オーナーは最小限の関与で進行。
地元ゼネコンとの一式契約: 短工期で、コストプラスフィー契約を採用し、リスクと透明性のバランスを取る。
調査対象の8現場では、各現場で異なるリスク管理方法が用いられていた。
生産性や安全性の問題が深刻であり、特に長期工期が生産性低下を招いている状況を確認した。
インドの工事では人力に依存した作業が多く、効率的な建設プロセスが欠如している点が課題として浮き彫りになった。
インドの建設業は、他国と比較して成長途上にあり、技術力やリスク管理能力が不十分。発注者がリスクを引き受ける一方で、請負業者が信頼されていない状況が多く見られる。セメント消費量の分析からも、インドはまだ建設需要のピークに達しておらず、今後の需要増加が確実といえる。
今回の調査結果は、インド建設業界の発展に向けた重要な示唆を提供する。技術力の向上、効率的なプロセスの確立、そして信頼関係の構築が今後の課題解決に不可欠である。
岩松からの質問: 「アイテムレート契約とコストプラスフィー契約の違いは何か?」
勝田の回答: アイテムレート契約では、発注者が単価を提示し、それに基づいてリスクを分担する方式で、特定の作業単位に対する金額が決まる。例えば、施工面積や作業内容ごとに単価を提示し、その増減リスクは発注者が負う。一方、コストプラスフィー契約では、発注者が実際のコストに加えてフィーを支払う方式で、フィーの明確化と透明性が求められる。勝田は、コストプラスフィー契約が透明化を追求するため、請負者が不正な請求を避けることを意図していると説明した。
蟹澤からの質問: 「設計や数量の確定度について、どのように進められているか?」
勝田の回答: インドのケースにおいて、発注者側が数量の把握能力を持つ場合が多く、変更がなければ問題なく運用できると述べた。これは、発注者が計画段階でしっかりと積算を行い、予算内で進行できる場合に限る。特に、発注者側に設計や数量の確定能力がない場合、問題が生じることがあると指摘された。
橋本からの質問: 「PMCがQS業務を担当する場合、インフラプロジェクトにどう関わるのか?」
勝田の回答: PMCがQS業務を担当するケースがあることを確認し、その役割が明確化することで、インフラ整備における調整がスムーズになると指摘した。
4. 直営施工とデベロッパー
金岩からの質問: 「インドでは、設計や数量積算は誰が行っているのか?」
勝田の回答: インドのデベロッパーでは、直営で施工を行う場合、設計や積算もデベロッパーが担当することが多いが、能力が足りない場合は外部の専門家を利用するケースも存在する。
5. インド建設業の現状に対する意見
蟹澤からの質問: 「タタグループの病院建設に関する能力についてどう思うか?」
勝田の回答: タタグループ自体には建設業務の能力があるが、このプロジェクトに関しては、外部業者が関与しているため、現場の能力に疑問を呈する場面もあった。また、PMIの関与がプロジェクトの調整にどれだけ貢献できるかについても意見が交わされた。
現在、蟹澤研究室の博士課程2年目として、日系企業の海外展開に関する研究を進めている。
大学時代から蟹澤研究室で研究を行っており、タイの事例を基に、日系総合建設企業の新規事業展開における留意点や課題について調査してきた。特に、法制度、労働環境、現地企業の人材確保に関する研究を行い、建築学会大会などで発表している。
現在進行中の研究では、主に以下の点に焦点を当てている。
1. 日本の生産年齢人口の減少と外国人労働者の受け入れ
日本の競争力低下と建設需要の増加に伴い、労働力の確保が重要な課題となっている。特に、ベトナムや中国、フィリピンからの技能実習生の減少に伴い、インドネシア、タイ、ミャンマー、カンボジア、モンゴル、バングラデシュからの労働者が増加している。
2. 調査対象国と地域
送り出し国: インドネシア、ベトナム、バングラデシュ、フィリピン、インド、ネパール
受け入れ国: マレーシア、タイ、韓国、台湾、香港、オーストラリア、シンガポール
これらの国々で、労働者の流入とそれに伴う問題を調査している。
3. 現地調査の進捗と分析内容
現地調査では、送り出し国と受け入れ国それぞれにおける制度や政策の実態を把握するため、企業、学術機関、大使館へのヒアリングを中心に進めている。また、現地での労働者の状況を直接観察し、彼らが直面する課題や成功事例の収集も行っている。以下に主な進捗と分析内容を示す。
送り出し国における調査は、現地の送り出し機関、政府機関、教育機関との協力を通じて進めている。
技能訓練プログラムの現状:
ベトナムやフィリピンでは、送り出し機関が提供する技能訓練プログラムの標準化が進んでいる一方で、インドネシアやバングラデシュでは、トレーニングの質やカリキュラムに地域差が見られる。この違いが労働者の受け入れ国での適応度や雇用機会に大きな影響を及ぼしている。
送り出し契約の透明性:
インドとネパールでは、送り出し機関と労働者間での契約内容の透明性が課題となっており、手数料の不正や労働条件の齟齬が問題視されている。これに対し、ベトナムでは政府による監督が比較的強く、不正防止に一定の成果が見られる。
文化・言語教育の課題:
各国での調査を通じて、文化・言語教育の質が労働者の成功に直接関わることが判明した。特に日本語教育の不足が、日本における技能実習生のストレスや生産性低下の一因となっている。
受け入れ国では、政策と実態のギャップ、外国人労働者の生活環境、雇用企業の対応などを主な調査テーマとしている。
雇用契約と労働環境の実態:
韓国では、外国人労働者に適用される最低賃金や労働時間の規制があるが、建設現場では違法な労働環境が未解決のまま存在する事例が確認された。一方、シンガポールでは、労働環境の改善が進んでいるが、寮の過密化が依然として問題である。
ビザ制度と長期的な影響:
台湾では、外国人労働者が長期雇用されることを想定したビザ制度が整備されており、技能向上の機会が提供されているが、一部の国では、短期労働者としての扱いが中心であり、安定的なキャリア形成が難しい現状が見られる。
地域ごとの政策差:
同じ受け入れ国でも、地域ごとに政策実施状況にばらつきがあり、例えばタイではバンコク周辺と地方部で労働者の待遇が大きく異なることが明らかになっている。
現地調査では、労働者へのインタビューも実施し、以下のような具体的な課題が浮き彫りになった。
賃金格差:
労働者は自国の平均賃金を大きく上回る給与を期待して渡航するが、実際には生活費や手数料を差し引くと利益が限られるケースが多い。
社会的孤立とストレス:
言語や文化の違いによる社会的孤立が、精神的なストレスや早期帰国の原因となっている。
スキル移転の不均衡:
技能実習制度の目的であるスキル移転が、実際には十分に行われていない例が多く、単純労働に従事することで終わってしまう問題が見られる。
現地調査を通じて得られた知見に基づき、送り出し国と受け入れ国の制度間の連携不足や、労働者支援のための包括的政策の欠如が主要な課題として浮上している。次のステップとして、これらの課題に対する具体的な解決策を提案するため、以下を進める予定。
各国間での政策比較を通じた成功事例の特定
労働者支援のための現地教育プログラムの設計
企業と政府間の連携を促進するためのガイドライン作成
4. 今後の課題と方向性
送り出し国のデータ分析については、インドネシアとベトナムに関しては調査を終え、次にタイとマレーシアに注力している。特に、各国での労働者の待遇や制度の違いを明確にすることが課題となっている。今後は、労働者数の変動と政策の影響を照らし合わせた分析を行い、外国人労働者の受け入れにおける最適な政策提言を目指している。
橋本からの質問: 「現在の現場では、職長が韓国人で労務管理や品質管理を行うシステムは維持されているのか?」
小峰の回答: 韓国ではゼネコンが重層構造を取らず、職長が一労働者として雇用されつつも管理者として機能するケースが一般的。外国人職長が全体の40〜50%を占めており、多くが韓国語を話せる韓国系外国人である。
橋本からの追加質問: 「ワーカー層には韓国人がほとんどいないのか?」
小峰の回答: その通りで、若い世代の労働者の多くは外国人で構成されている。詳細な確認は今後の調査課題。
蟹澤からの質問: 「小規模現場と大規模現場で外国人労働者の割合が異なる理由は法律の影響か?」
小峰の回答: 大規模現場ではカードシステムなど管理体制が整備されている一方、小規模現場では適用が不十分な場合があり、不法滞在者が関与する可能性もある。
橋本の意見: 「ほとんどがソウルに集中している現状について、地方との比較も気になる。」
小峰の回答: 地方の状況については今後の調査で深掘り予定。
岩松からの質問: 「韓国の労働時間は現在どのようになっているのか?」
小峰の回答: 残業代は平日1.5倍、休日2倍、さらに休日の残業は3倍という条件であり、外国人労働者にとって短期間で稼ぐ魅力がある。
蟹澤のコメント: 「日本の1.25倍と比較すると、韓国の方が残業条件は良い。」
橋本からの質問: 「現場代理人や事務所長が55歳で定年を迎えることが、労働環境に与える影響は?」
小峰の回答: 定年制度は変わらず、トップマネジメント層の労働環境には課題が残る。
蟹澤の意見: 「韓国は中小企業が少なく大企業が中心の産業構造であり、これが労働市場に影響している。」
志手からの質問: 「送り出し国と受け入れ国の対比をどのように進める予定か?」
小峰の回答: 韓国、マレーシア、タイを受け入れ国として分析し、それぞれの特徴をまとめる計画。送り出し国としてベトナムを含めるかは検討中。