DfMA シンポジウム_vol.1
Design for Manufacture & Assembly SYMPOSIUM Vol.1
実施日時:2025.4.26(Sat.)13:00〜17:30
開催場所:芝浦工業大学 豊洲キャンパス交流棟 大講義室
主催:SIT総研 グローバル建築技術研究センター
協賛:野原グループ株式会社
Design for Manufacture & Assembly SYMPOSIUM Vol.1
実施日時:2025.4.26(Sat.)13:00〜17:30
開催場所:芝浦工業大学 豊洲キャンパス交流棟 大講義室
主催:SIT総研 グローバル建築技術研究センター
協賛:野原グループ株式会社
趣旨説明
・GBTRCセンター長 / 芝浦工業大学教授 蟹澤 宏剛
発表資料
基調講演
・東京電機大学教授 小笠原 正豊
「DfMAにおける建築設計の再構築:制度、職能、協働の視点から」
・シンテグレート合同会社・株式会社ヴィック 代表 渡辺 健児
「BIM時代におけるデータ連携と新しい職能」
発表資料|動画
・SUDARE TECHNOLOGIES株式会社 代表 丹野 貴一郎
「建築生産におけるデータ管理」
発表資料|動画
・株式会社永井製作所 代表 永井 毅
「建築用鉄骨の現状と課題」
発表資料|動画
・藤木鉄工株式会社 専務取締役 布矢 孝幸
「ファブリケーターの生産設計」
コーディネーター
・東洋大学准教授 田澤 周平 / 清水建設株式会社 大越 潤
クロージング
・GBTRC副センター長 / 芝浦工業大学教授 志手 一哉
概要
発表者:小笠原 正豊(東京電機大学 教授)
はじめに
本講演では、「DfMAにおける建築設計の再構築」というテーマを基に、制度・職能・協働という三つの視点からお話を進め、日本の建築実務をどのように位置づけ直していくかについて考察する。
現在の建設業界が直面している社会的背景について
日本の建設業界は少子高齢化や「2024年問題」に象徴される労働力不足の深刻化といった構造的課題に直面している。こうした中、国はBIMやCIMなどのICT技術の活用を推進し、発注方式においても、従来の「設計・施工分離方式」だけでなく、ECI方式など、施工者の早期関与を可能にする新たな方式の導入が進められつつある。
こうした制度・環境の変化を背景に、私たち設計者が担うべき役割、設計そのものの定義、そして設計プロセスの再構築が強く求められてる。DfMAはそのひとつの鍵となる設計思想であり、施工や製造の合理化を前提としながらも、設計そのもののあり方を問う思考の枠組みである。
概念整理
DfMAとは、「Design for Manufacture and Assembly」の略で、日本語では「製造と組立のための設計」と訳される。これは製造のための設計(DfM)と、組立のための設計(DfA)という二つの原則を統合した設計思想・手法であり、建設業においては、工場での製作や施工現場での組立が容易になるよう、設計段階からその最適化を図るアプローチを意味する。
このDfMAという概念と併せてよく使われる関連用語として、以下の三つが挙げられる。
オフサイト・コンストラクション(Off-site Construction)
現場以外の場所で建築の設計・製作・組立を行い、完成品を現場に運んで設置する方式。「どこでつくるか」という空間的な視点を持つ概念。
プレファブリケーション(Prefabrication)
建築部材の一部または全部を現場外で事前に製作する方式。「何をつくるか」という製品構成に関わる視点から整理。
PPVC(Prefabricated Prefinished Volumetric Construction)
仕上げ済みの立体ユニットを工場で製造し、現場に運搬して据え付ける工法。DfMAの成果が最も反映された形式の一つ。
そしてそれらを方向づける設計思想そのものがDfMAである、という整理が可能。つまり、DfMAは単なる技術用語ではなく、「設計における思考の枠組み」や「プロセスの再構築」にかかわる考え方であり、それがあって初めて、プレファブやPPVCといった具体的な建築手法が実現される。さらにDfMAの重要な視点として、「誰と、いつ、どのように設計を行うか」という協働の在り方がある。DfMAは設計者・施工者・製造者が早期に連携することを前提としている。従来の設計・施工分離方式では「設計→調達→施工」という直列型のプロセスが一般的だが、DfMAのアプローチでは「計画・設計・調達」を並行して進めるフロントローディング型のプロセスが重視される。この考え方はBIMなどを活用しながら初期段階で情報を集約し、設計と製造・施工の整合性を高めるために不可欠である。
国際的実践
DfMAが実際に海外でどう実践されているのかを近年の具体的な事例をもとにご紹介。
1. イギリス:国家戦略としての「Platform DfMA」
DfMAを国家的に推進する動きが顕著に見られ、代表的な取り組みが「Platform DfMA」と呼ばれる汎用プラットフォームの構築である。これは、建築やインフラの設計・施工において、共通の部材やモジュール、情報体系を用いて生産効率を高めることを目的とした戦略。この戦略の中核を担っているのが、ブライデンウッド社(Bryden Wood)というエンジニアリングファームで、同社は、政府機関と連携しながら、誰もが利用可能な共通基盤としての設計部材や情報インフラの整備に取り組んでいる。Uniclassという分類体系や、BIMとの高い親和性を持った設計支援ツールを活用し、再利用可能な部材を標準化していくことを重視している。また、RIBA(英国王立建築家協会)では「DfMA Overlay」と呼ばれる作業計画表を2021年に発表し、設計から維持管理に至るまでの各フェーズにおけるDfMAの取り組みを明示的に整理する。
2. ドイツ:木造PPVCによる仮設オフィスの事例
DfMAの思想を環境政策や建設の仮設性と結びつけた先進事例が見られる。「Rosenblöcken West」というプロジェクトでは、国会議員の仮設オフィスとして、CLTを用いた木造PPVCを採用。このプロジェクトは、「20年後に建物を解体し、再利用する」という前提のもとに設計されている。製造から施工までを一貫してBIMで管理することで、短工期・高精度の建築が実現可能に。また、サブコンであるオーストリアのKaufmann社のように、専門工事会社が早期から設計に関与した。
3. シンガポール:国家政策としてのRC構造PPVCの推進
労働政策を背景とした国家主導型のDfMA推進が進められ、特にHDBによる公共住宅事業では、RCのPPVCが積極的に導入。この背景には、国内建設労働者の不足と外国人労働者の長期滞在を制限したいという国家の方針がある為、建設作業をできるだけ現場外で完結させ、現場ではユニットを組み立てるだけという効率化が図られている。PPVCユニットの多くは、隣国マレーシアで製造され、シンガポール国内に運ばれて設置されるという生産・物流の分業体制が構築されています。また、施工においては大林組シンガポール支社が関与しており、設計・製造・施工の全体を一括して担うことで、DfMAの一貫生産が実現。なお、コンクリートPPVCでは、現場でのグラウト接合などにより内装が汚れるリスクがあるため、内装仕上げは現場で行うなど、部材分担の調整も行われており、こうした設計と施工の“すり合わせ”の実践が進む。
これら三つの国際的事例を通じて共通して言えるのは、DfMAは単なる設計手法ではなく、社会的・制度的枠組みを再構築する運動である。特に、初期段階からの協働体制、製造と施工の一体化、設計者の役割変化など、設計思想の更新と制度整備が並行して進められている。
構造的課題
日本において、DfMA的なアプローチの導入がなかなか進まない背景には、制度・職能・文化に根ざした構造的な課題が存在している。本項では、それらの課題を三つの視点から整理して説明する。
1. 制度・契約の仕組みにおける断絶
第一の課題は、日本の公共工事を中心とした発注制度の多くが、「設計・施工分離方式」を前提としている点である。この方式では、基本設計の段階で施工的・製造的な視点が入りにくく、DfMAが求めるような初期段階での協働やフィードバックが制度的に担保されていません。そのため、実務上の設計情報と製造・施工の現場が断絶した状態となり、手戻りや非効率が発生しやすくなる。一方で、DfMAとの親和性が高い「設計・施工一括方式(Design-Build)」や「ECI方式」は日本でも注目されつつありますが、制度面ではまだ限定的です。特にECI方式については、設計の独立性や契約の透明性、発注者の判断力などに対する懸念が残されており、制度整備の遅れが普及の障壁となっている。
2. 職能の分断と情報の非同期性
第二の課題は、「設計・施工・製造という職能の分断」と、それに伴う「情報の非同期性」です。日本の建築実務では、ゼネコンや専門工事会社の中にも“設計者”が存在していても、それらの設計情報が体系的に連携されず、結果として断片的なまま個別に扱われているケースが多く見られる。また、確認申請の図面と工場で使用される製造図面とが乖離しており、法的な責任構造や情報管理体制が曖昧なまま運用されている現状もあります。とりわけ製造者には建築士資格が不要なため、設計図との整合性や設計変更の管理に対する責任の所在が不明確になりやすく、DfMAに求められる横断的なマネジメントが困難となっている。
3. 制度・技術・文化の非整合性
第三に挙げられるのは、「制度、技術、文化の非整合」という構造的な問題です。たとえば、建築確認制度が現場施工を前提とした仕様で組み立てられているため、工場で製作された部材やユニットの性能評価や認定が難しいという現実があります。そのため、DfMAを前提とした部材の性能保証や品質管理が制度的にカバーされていないことが多く、個別プロジェクトごとに“特認制度”を用いた対応を強いられるケースも少なくない。さらに、日本の建築生産は属人的な技術力に依存する傾向が強く、標準化と柔軟性の両立というDfMAにおける重要な要件に対して、体制的な不備が生じやすい構造になっています。また、発注者の多くがDfMAに対する理解や判断基準を持ち合わせていない場合があり、プロジェクト初期段階での合意形成が困難となる点も、大きな障壁となっている。
以上のように、日本におけるDfMAの導入には、制度的な制約、職能的な分断、そして文化的・運用的な慣習といった、多層的で相互に関連しあった構造的課題が横たわっています。これらの課題を乗り越えるには、単に技術的な導入にとどまらず、制度、契約、職能、教育といった広範な領域において、抜本的な見直しと再構築が必要であると考えられる。
課題解決に向けて
前章では、日本におけるDfMA導入の障壁となっている構造的課題を、制度・職能・情報の視点から整理しました。これらの課題を乗り越えていくためには、単に技術導入を推進するだけでなく、建築生産の仕組みそのものを再構築する必要がある。本発表では、今後DfMAを推進するうえで不可欠な三つの方向性について、提言を交えながら説明する。
1. 職能と情報の“つなぎ直し”
DfMAでは、設計情報を起点として製造・施工に連携することが求められますが、現状では情報が職能ごとに分断され、同期されていません。そこで、これらの間をつなぐ“情報の翻訳者”としての役割を持つ人材、すなわち設計情報を編集・調整する知的マネージャーが必要となる。この役割は、BIMマネージャーやファブリケーションコーディネーター、あるいは設計技術者の中でもプロジェクト全体を見通せる立場にある人が担うことが想定される。 従来の「描く設計者」から、「構築可能性を定義・調整する設計者」への職能の転換が、今まさに求められている。
2. 制度・契約のアップデート
たとえば、英国で活用されているPCSAや、米国におけるDesign Assist契約のように、施工者や専門工事会社が設計段階から協働できる契約形態を制度として整えることが求められる。また、ECI方式のように、プロジェクト初期から施工者が関与することで、設計・製造・施工の調整が容易になり、手戻りの削減やコストの最適化につながる。 こうした契約制度が成立するためには、役割の明確化と報酬の正当化、透明な情報共有の仕組みが整っていることが前提である。
3. 情報基盤と教育の整備
第三の提言は、「情報基盤と人材育成」。 BIMやCDEなどの共通データ環境を整備し、関係者間でリアルタイムに情報を共有・更新できる体制をつくることが急務である。同時に、DfMAを担う人材の育成も重要である。 設計者が構造・設備・施工・製造までを見通す力を養うためには、設計教育や実務研修の内容を見直す必要があります。例えば、BIM教育に加えて、製造プロセスやロジスティクスの知識を含めたカリキュラムの整備が挙げられます。今回のように大学でシンポジウムを開催し、実務と教育の連携を図ること自体が、その一環として重要な意義を持つ。このように、DfMAの推進には、「職能の再編成」「制度・契約の更新」「情報と教育の基盤整備」の三位一体の取り組みが不可欠である。
建築の設計・製造・施工が分断されてきた従来の体制から、プロジェクト初期から関係者が横断的に連携する新たな建築生産体制へと移行していくことが、今後の持続可能な建設業の鍵を握っているといえる。
発表者:渡辺 健児(シンテグレート合同会社・株式会社ヴィック代表)
「DfMA」をキーワードに、実際の業務経験を通して、BIMを活用した設計・施工・製作の連携強化と、それに伴う課題について
BIMの本質と進化
「Building Information Modeling」として理解されるBIMRevitやTeklaによるモデリングが一般的だが、我々は「Building Information Management」──即ちマネジメントとしてのBIMを重視する。BIMは単なる図面作成手段ではなく、情報伝達のあり方そのものを変革する技術である。かつて青焼きやCADで行っていた情報共有が、今ではBIMに置き換わり、この変化に伴い、プロセスや成果物のあり方も変えるべき。
全ステークホルダーに最適なBIMを提供
発注者・設計者・施工者といった全てのフェーズのステークホルダーに対し、その立場にとって最適なBIMを提供することを目指している。その為、自らも全フェーズに関与し、実務を通じた最適化を追求している。
DfMAとの関係性と今後の課題
BIMの活用により、設計・製作・施工の情報連携が進むことで、不確実性の削減やプロジェクト全体の品質向上が実現可能となる。これはDfMAの理念と一致し、その実現の鍵を握るのがBIMマネジメントである。しかし、BIMを機能させるには、情報を理解し統合的に扱う専門知識を持つ人材が必要不可欠。また、技術が整っていても、契約形態が従来のままではBIMの力を最大限に活かすことが出来ない。
事例①:ところざわサクラタウンの外装設計支援
プロジェクト概要
設計監修:隈研吾建築都市設計事務所
設計・施工:鹿島建設
外装工事・設計支援:旭ビルウォール株式会社(弊社は旭ビルウォールより依頼を受けて支援を担当)
特徴と対応
アルミ製のエキスパンドメタルパネル約1655枚と、取り付け金物約5000点から構成され、全てが異なる形状の複雑な外装に対応した。 共通部材の活用を目的に、ブラケット形状や取り付けピッチのルール化を支援し、命名規則などの情報ルールの策定も行った。 手作業と並行してプログラミングによる自動モデリング、図面生成、数量集計を実施した。
BIM活用と成果
モデルにはバラ図レベルの情報が要求されており、それに応じて元図の自動生成や数量データの埋め込みを行った。その結果、標準品に依存せずとも高精度な製作と施工が可能となり、品質と生産性の向上を実現した。
課題と学び
設計者やゼネコンとの連携において、情報の齟齬が生じたこと。 特に、鉄骨情報が古かったために、後工程での重ね合わせ時にズレが発生した。 当時はゼネコン側にBIMマネージャーがおらず、役割理解の統一がされてなかった事が原因の一つ。
事例②:ジャパン・スポーツ・オリンピック・スクエアの外装設計支援
プロジェクト概要
設計:三菱地所設計
施工:大林組
外装施工:パルマスティーリサ(弊社はパルマ社からの依頼で支援)
特徴と対応
ねじれを伴う大面積のカーテンウォールに対し、冷間曲げ(Cold Bend)工法を採用。 工場では全ての部材を平らな状態で製作し、現場で応力を加えて曲面を再現する方式を採用した。 有限要素解析とモックアップを用いた事前検証も実施し、施工精度を確保した。
BIM活用と成果
完成形から逆算し、プログラムで3Dモデルと展開図を自動生成し、合理的な製作・施工プロセスを構築した。 大林組の発表によれば、施工期間を15〜20%、コストを20〜25%削減することに成功した。
課題と学び
設計段階では三角形のパネルで割り付けられていましたが、施工性を考慮して四角形への変更が必要となった。 サブコンやBIMエンジニアが初期段階から関与していれば、こうした手戻りは避けられた可能性があると感じている。
事例③:エディオンピースウイング広島(サンフレッチェ広島 新スタジアム)
プロジェクト概要
竣工:2023年
発注者:広島市
設計:日建設計・畑建築事務所・大成建設
施工:大成建設を中心とした共同企業体
弊社支援範囲:基本設計段階から設計支援(クライアント:大成建設)
特徴と対応
複雑な形状をもつサービス屋根に対して Rhinoceros + Grasshopper を用いたパラメトリックモデリングにより、数値入力でリアルタイムに形状を制御しながら、以下の複合的条件を同時にシミュレーションした:
日照
雨水排水
高さ制限
意匠要件
合意形成後は構造部材をモデル上に配置し、構造計算→設計フィードバックという反復的な設計プロセスを実施。 設計終盤では鉄骨ファブリケーターが参加し、Tekla Structures で詳細モデルを作成。その後 BIM 360 に統合し、構造・意匠・設備の干渉チェックやデータ管理を行った。
成功要因
ゼネコン主導でBIMマネージャーが配置され、BIM 360とCDE(共通データ環境)を活用した体制が整っていた事。 3Dに対応できない地場ファブリケーターには、弊社が代行でモデリングを行い、ゼネコンがその費用を負担するという柔軟な対応を行った事。
本案件からの学び
BIMを用いたDfMAの成功事例として、パラメトリック設計・構造連携・データ統合による生産性と品質の両立が可能であることを実感。
プロジェクト初期段階からの関与によって、設計と施工の断絶を防ぐことが出来た。
契約方式が関与タイミングを左右するため、ECI、Design-Build、IPDといった初期段階からの連携体制を構築することの重要性が再認識された。
総括と今後の展望
BIMは、設計支援ツールを超えた「合理化のための情報基盤」であると位置づける必要がある。 しかし、現状では設計事務所・ゼネコン・サブコンが「個別最適」の視点からBIMを導入している為、プロジェクト全体の最適化には至っていない場面が多く見受けられる。我々は今後、事業主に対して直接提案を行い、プロジェクト初期から全体最適の視点でBIM戦略を設計・実践する活動を推進する。
発表者:丹野 貴一郎(SUDARE TECHNOLOGIES株式会社代表)
私が常に問い続けているのは、「建物の形状はどのようにして生まれ、どのようにして建てられるのか?」ということです。つまり、デザインからエンジニアリングまでの一連のプロセスそのものに注目し、これを改善・最適化するためにデジタル技術を活用することを、事業の柱として取り組んでいます。
データ活用による設計・施工最適化の事例紹介
背景と課題
デザイン初期に基準曲線を設定し、曲面パネルを三角分割。
設計側は「三角形の種類を統一」しようとしたが、結果として目地幅の乱れや複雑な下地設計が発生。
現場では三次元計測の扱いが難しく、施工管理に混乱が生じた。
当社の対応と提案
縦目地を通り芯に合わせることで、2次元図面として成立しやすくし、現場の負担軽減。
目地幅の統一により、下地部材やブラケットの標準化が可能に。
下地鉄骨が通り芯に沿えば、三次元計測不要の「プラシット施工」が可能に。
設計の最適化方針
三角形の統一ではなく、施工性・管理性を基準に最適化。
下地ブラケットの規格統一、鉄骨精度の重要性を重視。
「見た目の自然さ=成功の証」。目地が揃うことで精度向上に繋がる。
構法の工夫(事例)
ブラケットを回転させて曲面に追従する構法を採用。
これは計画段階から生産・施工を見越して組み込んだものであり、仮説→モデリング→検証の高速サイクルで実現する。
結論
生産性の高い設計には、「目地管理」「通り芯との整合」「部材の標準化」が不可欠。
三次元設計であっても二次元図面ベースの視点を忘れず、現場に寄り添った設計が重要。
プロジェクトにおける組織体制とマスターモデル管理
組織体制の特徴と課題
海外デザイナーによる基本設計 → 日本の設計事務所が工区ごとの実施設計を担当。
ゼネコンとメーカー・サブコンがセットで工区単位に参画。
弊社はA・B・C工区すべてにゼネコンからの直接契約で関与。
→ 問題点
同じ企業が複数工区に関与していても、情報共有はほとんどされていない。
「3D対応可能」とされているチーム間でも、対応力にばらつきがある。
業務内容が異なるにもかかわらず、契約条件が一律という矛盾がある。
マスターモデルによる一元管理の実践
弊社が基準となる「マスターモデル」を作成し、プロジェクトを統括。
モデルに基づき、海外デザイナーとやり取りし、設計・施工・製作に展開。
マスターモデルの流れ:
形状確定: 海外デザイナーと調整し、建物形状を確定
設計展開: モデルを設計会社に提供 → 設計図作成
製作展開: モデルをもとに一部製作モデルを弊社で作成・提供
施工展開: モデルに基づき施工モデル・施工図を展開
マスターモデル管理の効果と課題
弊社がマスターモデルを主導することで、全体の整合性が保たれ、進行がスムーズに。
一方、別組織がマスターモデルを持つ場合、モデルの二重管理による整合不良・混乱・遅延が発生しやすい。
結論
大規模プロジェクトにおける情報とモデルの一元管理の重要性を再認識。
組織横断的な情報連携と契約内容の整合性が、今後の課題。
建築実務におけるデータフローと管理課題
データの流れ:理想と現実
一般的な流れは「デザイン → 基本設計 → 実施設計 → 製作 → 施工」。
初期は一方向の流れだが、中期以降は設計・製作・施工が並行し、相互に複雑なデータ交換が発生。
後期にはすべてが同時進行し、誰が全体のデータを管理しているのか不明瞭な状態が多い。
問題の本質:職能不在と管理責任の不明確さ
多くの現場では、個別担当者がローカルにデータを管理しているのが実態。
「誰が情報全体を管理するのか」という職能・役割の明確化が欠如しており、混乱の要因となる。
データ管理のあるべき姿
現在、「データ主導は事業主へ」との意見もあるが、多くの事業主には閲覧止まりの限界がある。
私の見解では、設計者または専任のデータ管理者(部署・企業)が担うのが妥当。
そうしたデータ管理体制を設けることで、施工中だけでなく運用・維持管理段階でもデータ活用が可能になる。
維持管理フェーズとBIMの断絶
多くのプロジェクトでは、維持管理用BIMが別途作られており、建設時のデータは活用されていない。
原因は、建設中のデータがきちんと管理・引き継がれていないことにある。
提言:データは「図面費用」ではなく「資産」
建設プロジェクトで扱うデータ量は、従来の図面費用の枠を超えている。
データを“資産”として認識し、管理コストを正当に評価することが、今後の建設生産に不可欠。
発表者:永井 毅(株式会社永井製作所 代表)
企業紹介:真面目に鉄骨 永井製作所 「会社紹介ムービー」
https://www.youtube.com/watch?v=Odj4RJ0ZkJU
鉄骨ファブにおける製造フロー、鉄骨Fabにおける「設計」とは?という観点からの説明
1. 製造フローの実態と課題
鉄骨ファブリケーターの工場では、現在も手作業が多く、全体的にアナログな現場であるのが実情。三次元CADや測定器の導入は進んでいるものの、工場内では基本的に平面(二次元)での作業が中心であり、三次元のデータを直接運用するのは難しい状況。
業務の流れとしては、顧客からの依頼を受けた後、図面作成・材料選定・加工・組立・溶接・仕上げ・検査・塗装・出荷・現場施工へと進むが、その前段階に「見積もり」が存在する。
最近では三次元CADや見積支援システムを活用した見積作成も行われてるが、見積段階で作成したデータは、仕様変更や図面修正などにより、実際の設計には再入力が必要になるケースが多く、現場条件の変化も相まって二度手間になることが多い。
構造図・意匠図を照らし合わせて施工図を作成し、部材の単品図まで落とし込むことによって、ようやく現場での製作作業が可能になる。例えば、柱や梁の部材に関しては、減寸作業を経て、パイプや鋼板などの個別部品に加工し、工場で指示書をもとに組み立てる。
現実的には、工場内で三次元データをそのまま活用できる人材が少なく、育成にも時間がかかるため、誰でも理解できる二次元の作業指示書が主な情報源となっています。複雑形状や一品生産の案件が増える中でも、作業の多くはアナログで人手に頼っているのが現状です。
2. 設計業務の変化とコミュニケーション課題
以前は、設計者や関係業者と直接現場で打合せを行うことが一般的。現在ではリモート会議が主流となり、現場との距離が広がった。その結果、意思決定の遅れや情報の分散、錯綜が発生しやすい。
以前は、現場で関係者が集まり活発な議論を通じて即決することができましたが、現在はメールやチャットなどのツールが分散し、設計担当者が一人で長時間悩みながら判断する場面も見られました。今では働き方改革の影響で残業も大きく制限され、各業者からの情報提供も遅れがちになっており、全体工程の調整がより困難になってきています。
3. デザインの多様化と構造の高度化への対応
近年、建築デザインは三次元CADの普及により非常に多様化・複雑化しており、手描きでは難しかったようなカーブや複雑形状の建物が増えてきています。そうした設計に対応することは、製作側にとっては大きな負担ではあるものの、時代の変化に適応していく必要性を強く感じています。
また、地震・台風・竜巻などの自然災害も増加しており、建物に求められる構造的な耐久性も年々高まっています。日本の建築は非常に高い安全性を誇っており、現実には映画のように簡単に倒壊することはありませんが、だからこそ鉄骨業者としての使命は、災害にも耐えうる堅牢な構造物を提供することにあると考えております。
いわゆる「国土強靱化計画」とも連動する話ではありますが、丁寧な設計、綿密な施工計画、それに基づいた確実な施工を一つ一つ着実に実行していくことが、私たちに求められている責務だと日々実感しています。
建設業の課題に関して
1.フロントローディングの難しさ
鉄骨業者は通常、受注後に図面を受け取り、施工図を作成する流れで業務を行っています。しかし、近年重視されている「フロントローディング」の実現は困難です。
その主な理由は、業者選定が契約段階まで遅れることが多いためであり、特に景気が悪化すると、ゼネコンはより多くの見積もりを取り、発注価格を抑えようとする傾向が強まります。その結果、業者との協議は後ろ倒しとなり、初期段階での関与が難しくなります。
2. 意匠図と構造図の整合性の欠如
設計段階で、意匠図と構造図の内容が食い違っているケースが増えています。設計図同士の整合が取れておらず、「どちらの内容が正しいか」を施工側が判断できないことが多いです。ゼネコンや設計者間での役割分担も不明瞭なまま進行し、質疑応答を重ねてようやく内容が確定するため、膨大な時間がかかります。
さらに、図面が確定しないうちに材料の発注を求められることも多く、数億円規模の資材を契約書なしで手配するという非常に高リスクな商慣行が続いています。
加えて、図面作成時に設備や外壁業者が未決定であることも多く、協議相手が不在のまま作業が進められないケースもある。業者変更による設計のやり直しが発生するなど、非効率な事態が現場の負担を増しています。
3. 設計・管理側の専門知識不足と高齢化
鉄骨の専門知識を持つ設計者や管理者が減少しており、工場や現場の実態を理解せずに業務を行うケースが増えています。また、設計事務所側の現場管理者の多くはゼネコンのOBであり、経験は豊富ですが高齢化が進行しています。現在は団塊世代が現役で支えているが、近い将来にはその支え手がいなくなることへの不安が業界に広がっています。
業界全体の課題と今後の展望について
私たちファブリケーターとしては、理想を言えば建物の計画段階からプロジェクトに関与させていただくことが望ましいと考えております。どのような構造であればコストダウンにつながるかを、計画初期から一緒に検討できれば、最終的なトータルコストの削減にもつながり、単に「価格を下げてほしい」と言われるよりも、建設的で前向きな取り組みになると感じております。
また、同じ鉄骨ファブリケーターであっても、保有している設備や生産能力には大きな差があります。そのため、どの業者に相談するかによって、「最適な解」も異なってくるのが実情です。特に、大規模な鉄骨工事(たとえばJB工事など)の場合は、「この方法が最適だ」とする見解が業者によって分かれることも少なくありません。だからこそ、地域や工区単位で、そうした違いをある程度吸収できるような「最大公約数的」なやり方を共通化・標準化していくことが望ましいのではないかとも考えております。
これまでお話ししてきた内容は、やや愚痴のように聞こえたかもしれませんが、これが現場のリアルな声です。特に働き方改革の影響は非常に大きく、私たちも試行錯誤を繰り返しながら対応しております。かつては、施工図の担当者が月に200時間ほど残業するのが当たり前でしたが、現在では80時間以内、場合によっては45時間以内に抑える必要があります。
加えて、若手人材の中には「残業が多いならこの仕事はしません」とはっきり言う方も多くなっており、そうした価値観の変化も無視できません。したがって、限られた時間の中で、いかに効率的かつ確実に設計・製作・施工を進めていくかが、今後の大きな課題であると認識しております。
こうした状況を少しでも改善するためにも、本日のようなシンポジウムを通じて情報を共有し、業界全体で前向きに取り組んでいけることを心より願っております。
発表者:布矢 考幸(藤木鉄工株式会社 専務取締役)
生産設計とは
ファブリケーターにおける「設計」とは、意匠や構造の抽象的な設計ではなく、製造現場に直結する「生産設計」を指す。これは、製品の形状・寸法・穴の位置などをミリ単位で決定する、実務的な設計です。
本発表では、生産設計がどのように現場で活用されているか、情報の連携による生産性向上の仕組みや、今後の課題と改善の方向性について、実例を交えて紹介する。
ファブリケーター(fab)の紹介
建築業界には施主・設計者・ゼネコン・専門工事業者といった多様な関係者が関わっており、ファブリケーターはその中で鉄骨工事を専門に担う立場として位置づけられます。
藤木鉄工では、建築用鉄骨に加えて橋梁分野や仮設構造物の製作も一括で請け負うなど、単なる鉄骨加工にとどまらない業務領域を展開しています。これにより、fabとしての多様な対応力と専門性の高さが特徴づけられています。
Fab生産設計から始まるDfMA
1. 生産設計の位置づけと役割
Fabにおける生産設計は、顧客のオーダーや設計図書、現場要件などの多様なインプット情報をもとに、工作図やNCデータなどの加工可能なアウトプット情報を生成し、製作工場に展開するプロセスです。情報の質と流通のシームレスさが、生産性向上の鍵を握ります。
2. 加工情報の変化と技能者の役割
従来は熟練技能者が二次元図面を読み解くことで製造が成り立っていましたが、近年はCADからのNCデータ自動出力が進み、人が読む図面と機械が読むデータが並立する新たな体制へと移行しています。とはいえ、多様化する建築に柔軟に対応できる技能者の判断力と経験は依然として不可欠です。
3. 複雑な構造と3Dモデルの活用
トラス階を含む複合施設の構造モデルを例に、3Dモデルによって接合部の構成や加工ステップを視覚的に共有し、溶接長・重量・順序などを明確化。作業員の理解を促し、工程計画や作業効率の向上に貢献しています。
4. 詳細工程の構築とボトルネックの可視化
加工指示をステップごとに「ステップ図」として明示し、溶接工数や要員配置の試算を可能にすることで、ボトルネック工程の早期発見と改善を実現。全体最適な生産計画の実践を目指しています。
5. 加工機との連携とデジタルシフト
これまで汎用CADから手作業で生成していた加工情報も、現在は専用CAD・BIMから直接出力する動きへと変化。データ変換や再入力を省略し、情報がシームレスに加工機へ伝達される体制が構築されつつあります。
6. 生産体制の再定義と品質確保
こうした変化に対応し、人から情報中心の生産体制へ移行する中で、Fabにおける生産設計者の役割は、正確で即時性ある情報生成と工程管理にあります。また、3Dモデルを用いた作業姿勢や検査工程のシミュレーションにより、技能者の品質意識と納得感も向上しています。
7. 今後の展望
デジタル化・IoT・ネットワーク化の進展により、進捗管理・品質監視・遠隔操作といった高度化も現実的になっており、人と機械の適材適所の分担が一層重要になってきています。
fab生産設計の課題
1. 働き方改革と産業の魅力
近年の「働き方改革」により、長時間労働の是正と多様な働き方が求められる一方、fab業界は依然として若者にとって魅力的な職業とは言い難い。産業としての魅力向上が重要な課題です。
2. 設計変更の増加と技術力の必要性
設計段階での変更や意匠図・構造図の不整合が頻発しており、fabには柔軟な対応力と高い技術力が求められます。
3. 生産設計プロセスの後退と非効率性
加工機・工程管理・CAD性能が向上する中で、生産設計プロセスはむしろ後退。専用CADと汎用CADが並行使用されることで重複作業が生まれ、生産性が低下しています。
4. モデル優先型フローの提案
従来の「工作図優先」型から、「モデル作成優先」型への移行を提案。専用CADで一括モデリングし、二次元CADは仕上げのみに使用することで、情報の重複を避け、生産性を向上させます。
5. FK期間の重要性
未決定事項の確定から加工情報生成までの期間(FK期間)を「静かな情報生成期間」として公式に工程計画へ組み込むべき。これにより正確な情報整理とスムーズな生産計画が可能になります。
6. モデル連携型フローと承認プロセスの革新
設計BIMとの連携により、モデルベースでの承認が実現。図面による承認に頼らず、整合性照合による効率的な承認フローが可能です。
7. フロントローディングと契約の明確化
初期段階から情報確定を意識した契約(フロントローディング契約)の導入により、後工程の追加対応を抑制。契約範囲・責任を明確化することで、FK期間の保全と生産性向上を両立します。
8. 人材育成とIT環境整備
専用CADの操作技術向上、fabと設計者の相互理解、最新ITによる情報連携環境の整備が今後の鍵となります。
コーディネーター:田澤 周平(東洋大学准教授)/ 大越 潤(清水建設株式会社)
テーマ1:誰に雇われてプロジェクトチームに入ることはありますか?また設計事務所・ゼネコン・協力会社へのプロジェクトに関与するメリットデメリット
(渡辺)
事業主、アトリエ設計事務所、組織設計事務所、ゼネコン、サブコンといったあらゆる立場のプロジェクトに関わっており、それぞれに明確なメリットとデメリットが存在する。
まず事業主との関係では、BIMの流れを公式に構築することが技術的には可能になるというメリットがあります。予算の最適化において事業主の理解は非常に重要です。設計事務所に「BIMをやってください」と求めても、従来の設計費のままでは対応しきれないという現実があります。ですので、事業主の理解と予算設定が整っている場合は非常に進めやすくなります。一方で、事業主にはモデル作成そのものに対する直接的な興味が薄いため、モデルそのものの意義を理解してもらうのが難しい場合もあります。
アトリエ設計事務所との仕事は、BIMの本格的なワークフローに深く関与することは少ないため、比較的自由にものづくりの面白さを感じられるという点で楽しい部分があります。しかし、大きなデメリットとしては予算が極端に少ないことが挙げられ、正直なところ、その点はある程度割り切って取り組んでいる状況です。
組織設計事務所との関係では、問題の事前調整に関与できる可能性がある点がメリットですが、やはり事業主のBIMに対する理解不足が根本にあり、予算の再配分が進んでいないという課題があります。そのため、設計事務所側も疲弊してしまっているという印象です。また、設計サイドには生産設計に対する理解がまだまだ不足していると感じています。その結果、後工程で大幅なやり直しが発生するような事例も多く、我々が事前に「これは問題になる」と警鐘を鳴らしても、予算がつかないために実行に移せないというもどかしさがあります。
ゼネコンとの協働では、協力会社とのデータ連携を通じたプロジェクト全体の調整が可能になる点が非常に良いところです。ただし、ゼネコン内でも部署間の予算配分の調整が難航することがあり、同じ会社内であっても我々が思うように動けないというジレンマがあります。
最後にサブコンとの関係では、製作側との連携がうまくいく点がメリットですが、私たちが関与するのはプロジェクトの終盤、つまり「最後のツケが回ってきた」タイミングであることが多く、非常に厳しい状況の中で対応しなければならないのが現実です。先ほどファブリケーター側からも話がありましたが、毎日徹夜で対応し、プログラムを書く余裕もなく、ひたすら手作業でモデルを修正・調整し続けるような過酷な状況に追い込まれることもあります。
このように、関与する立場ごとにそれぞれのメリット・デメリットが存在し、我々はその都度異なる戦いを強いられています。
(大越)
今のお話は、先ほどのプレゼンで触れられていたフロントローディングの話にも通じる部分があるように感じています。現状を変えるための課題として考えると、やはり「エンジニアリング」──つまり詳細設計をどこまで早期に深めていけるかという点において、その設計業務にかかる費用(フィー)を誰が、どのタイミングで負担するのかという問題があるのではないでしょうか。率直に言って、どの段階で、誰がそのコストを担うことが最も効果的だとお考えですか?
(渡辺)
ただ、我々が事業主に直接関わっている理由のひとつは、少なくとも予算の再配分、つまり掛け替えをしっかり行わなければならないという問題意識があるからです。ただし課題なのは、設計者にある程度予算が割り当てられたとしても、その予算内で生産設計の領域まで実質的にカバーするのはなかなか難しいという点です。ですので、やはり初期段階から施工者にも関わってもらう必要があり、結果的には設計段階における予算をもう少し増やすことが必須だと私は考えています。
(大越)
少し長くなってしまうかもしれませんが、そのように設計予算の拡充が必要だとした場合、現在の建築設計は、法的な枠組みの中で基本設計や実施設計の範囲が明確に規定されていると思います。その枠組みの中に、生産設計が入り込む余地が今のところないようにも感じていて、そこが根本的な課題なのではないかと私は思うのですが、その点についてはいかがですか?
(渡辺)
おっしゃる通りです。厳密に言えば、現行の枠組みの中で生産設計まで完全にやりきるのは難しいのが実情です。ただ、生産設計の段階で問題になりそうな箇所、たとえば以前の例で出したような「三角形の割り付けを四角形にしてしまう」ような設計ミスを、あらかじめ避けることは可能だと思います。そういったレベルでの関与であれば、今の制度の中でもなんとか対応可能な範囲だと思っています。
ただし、問題なのは、今日の議論にもあったように、サブコンが営業費の中でそうした調整を行ってしまっている現状です。つまり、予算をもらわずに、自社の受注のためにスペックイン(仕様に自社製品を組み込むこと)を前提として動いているわけです。そうなると、サブコン側が非常に特殊で高度な納まりを設計してしまい、それ以外では対応できない構成になってしまうというリスクが生じます。一方で、設計者側としては、「そんな複雑な納まりはいらない。もっと一般的で汎用性のある納まりにしてくれ」という意見もあり、両者の意見の食い違いが顕在化しています。
この部分については、私自身もどうすれば良いのか明確な解決策が見えていない状況です。制度と実務、設計と施工、それぞれの立場の間にあるズレが、今後の大きな課題であると強く感じています。
(丹野)
当社はこれまで事業主と直接契約したことはなく、組織設計事務所かゼネコンとの契約が中心です。サブコンやメーカーとも関わりはありますが、直接契約を結んだことはありません。
設計事務所に雇われる立場としてのメリットを考えると、正直あまりはっきりしたメリットが思いつかないというのが本音です。ただ、初期段階からプロジェクトに関わることができ、最初の形を決める段階で意見を言えるという点は確かにメリットだと思います。すでに決まったものをあとからどうにかするのではなく、決めるプロセスそのものに関与できる意義は大きいです。
一方で、デメリットとしては、渡辺さんもおっしゃっていたように、生産設計の立場から意見を述べても、設計者がその価値を理解していない、あるいはそもそもものづくりの実態をよく分かっていないことが多く、こちらの意図がうまく伝わらないというジレンマがあります。「こうしておいたほうが後々問題が起きにくい」というアドバイスも伝わらないことが少なくありません。
ゼネコンとの仕事においては、日本のゼネコンは全体を俯瞰して見る立場にあるため、設計や施工、そしてサブコンやメーカーの意見をトータルで調整しようとする点において、大きなメリットがあります。こちらの話にも比較的理解を示していただきやすいと感じています。
しかし、ゼネコンの中でも現場の方々と接する機会が増えると、やはりデジタルの知識が乏しいという問題に直面します。「それを二次元の図面にして、寸法を入れて出してほしい」といった要望が出てきてしまい、その対応に多くの労力がかかるというのが現状で、今、最も大きな課題となっています。これがゼネコンに関わる際のデメリットだと感じています。
また、ゼネコンに雇われた立場で、サブコンやメーカーとも密に関わることも多いのですが、彼らもそれぞれに確立したやり方を持っており、その中で変革の必要性を感じている一方で、ゼネコン側がその認識を持っておらず、「なんとかやってよ」と押しつける場面が多く見られます。
そうした状況の中で、私たちのような中間の立場にある会社が間に入ると、「なんとかしてあげたい」という気持ちはありますが、やはり雇用主がゼネコンである以上、最終的にはゼネコン側に有利な方向にまとめなければならないという板挟みの難しさも感じています。
(大越)
すみません、私自身もかつてゼネコンにいた立場なのでよく分かるのですが、やはり契約関係というものは非常に自由度が低く、必然的にどこかの下請けに入るという構造から抜け出せない現実があります。そのため、こうした構造的な制約は簡単には払拭できないのではないかと感じています。そうなると、むしろ独立した組織として、建物のオーナー、つまり事業主と直接契約する形の方が、エンジニアリングの立場としてサポートしていく上では理想的な形になるのでしょうか?
(丹野)
そうですね、理想としてはまさにその通りだと思います。実際に日本でも大規模なプロジェクトになると、コンストラクション・マネジメント(CM)会社が入るケースがありますが、本来であれば、我々のようなエンジニアリング会社がそのようなCM的な立場として独立して機能できれば最も良い形だと思っています。つまり、設計者や施工者とは異なる、第三者としての立場を確立するということです。
ただし、それを実現するには、事業主側に一定の知識と理解が必要です。我々のような会社の役割や価値を正しく認識していただかないと、「立場はあるけど予算はない」「意見は求められるが通らない」といった、形骸化した存在になってしまう恐れがあります。そして、こちらがどんなに丁寧に説明しても、事業主がそれを理解できないとなると、結局うまく機能しません。そういった危惧は常にあります。
(大越)
さらに言えば、CM的な立場でプロジェクトに関与する場合、その介入によってどれくらいの経済的なメリット、すなわち「儲け」を生み出したかを定量的に示す責任も出てくるように思います。そこまで含めて、エンジニアリングサポートという業務が今後成立していく可能性はあるのでしょうか?
(丹野)
はい、可能性は十分にあると思います。実際、私たちのようなポジションの会社は、渡辺さんの会社も含めて少しずつ増えてきています。ただ、現時点で最も困っているのは、そうした独立した立場で契約をしたときに、我々が責任をどこまで取れるのかという問題です。なぜなら、我々の会社は、工事全体の規模に対してまだ小規模であり、たとえば「この設計判断のせいで5,000万円の損失が出た」と言われた瞬間に、簡単に倒産しかねないという脆弱さがあります。
つまり、やっている内容や担っている役割に対して、会社の規模が追いついていないというバランスの悪さがあるわけです。今後この業態を社会的に成立させていくには、そのあたりのリスクの取り方や責任の分担、制度的な後ろ盾なども含めて、慎重に設計されていく必要があると思います。
(大越)
このような話を聞いていると、日本では現実的に制度や構造の面でまだ厳しいところがあるのは明らかですが、海外でも同じような状況なのか、それとも異なるのかが気になります。仮に海外でも同様の問題があるとして、それでも何かが違う、何かが足りていないような感覚があるんですよね。たとえば、保険制度のようなものが関係しているのではないかと考えているのですが、そのあたりについてはどう思われますか?
(丹野)
そうですね。私自身は海外での業務経験がないので、詳しくは分かりませんが、その点に関しては小笠原さんの方がより詳しいかもしれません。ただ、保険制度については、確かにあるとは思います。ただし、うちのような中小規模の会社が加入できる保険というのは非常に限られていて、建築プロジェクト全体の工事費規模に対応できるような保険には入れないという現実があります。そこは大きな課題かもしれません。
(田澤・まとめ)
今までの話をまとめると、まず渡辺さんからは、事業主側から依頼を受けても予算がつかない、あるいは設計者経由での依頼の場合も設計フィーしかなく、生産設計の範囲まで手が回らないという指摘がありました。また、大越さんからは、法制度上、設計業務の範囲が定められており、その中に生産設計が組み込まれていないという構造的な課題も示されました。
さらに、小笠原先生の冒頭の発表でも触れられていましたが、サブコンは営業活動の一環として設計的な検討行為を行っており、それが制度的に認められているわけでも、正当に報酬が支払われているわけでもないという実態もキーワードとして挙がりました。
また、丹野さんからは、設計者側が生産設計に対する理解を持っていないという指摘がありました。ただし、それは決して怠慢というわけではなく、設計者も実施設計の段階で非常に多くのことを決めなければならず、その中に生産設計まで含める余裕がないという現実もあるということです。生産設計に関する多くの事項が、設計段階で空白のまま残され、着工後に決定せざるを得ないという構造になっているのです。
これは、蟹澤先生が指摘していたように、「設計しながら製造しながら施工する」という、工程が並列化して進む現在の建築プロセスの実態にも通じており、太郎さんのスライドの最後にあったような「全員がすべてを同時並行で進めている」状況を示すものであると感じています。今回のやりとりで明らかになったのは、制度、予算、役割理解、保険、そして情報の断絶といった多層的な課題が絡み合っており、それをどう乗り越えるかが今後の大きなテーマだということです。
テーマ2:契約前に行う行為というのはどうゆうものがあるのか?(着工する前にどのような打ち合わせをされているのか)またそれに伴う課題
(布矢)
はい。私たちは鉄骨加工業者、いわゆるファブリケーターとして業務を行っており、契約先の大部分はゼネコンです。中には、間に商社が入る形態もありますが、今回はゼネコンから直接請け負う場合を前提にお話させていただきます。
契約前において重要なのは、まず契約内容を明確にすることです。これは非常に大きなポイントです。私たちファブリケーターは鉄に関わる範囲を担当するわけですが、その「鉄の工事範囲」がどこまでを含むのかを契約前にしっかり整理する必要があります。構造体としての鉄骨はもちろんですが、付帯鉄骨や付帯金物を含むかどうかなど、範囲を明確にすることが求められます。
また、大規模な建築物になると、鉄骨工事を複数のファブリケーターで分担する場合もあり、その際の「施工区分」についても事前の調整が必要になります。さらに、施工試験の実施や技術営業的な側面である仕様・性能の整理といった事項も、契約に先立って詰めておく必要が出てきます。これらは契約金額に直結するため、非常に重要な打ち合わせ項目となります。
そして、もう一つ踏み込んだ話として、契約内容の整理以外の「実質的に業務が始まってしまっている行為」があります。たとえば、まだ正式な契約が結ばれていないにもかかわらず、材料を発注したり、図面を描き始めたりといったことです。永井さんからもありましたが、こうしたケースは業界でもよく見られると思います。
しかし私は、このような「契約前に原価が発生する行為」はフェアではないと考えています。たとえ現場の営業担当が「これくらい先行して対応してほしい」と言ってきたとしても、やはり正式な契約や合意がない状態で原価を伴う業務を進めるのは、本来あるべき姿ではありません。
そこで、私たちの会社では、営業窓口に対して以下のような方針を徹底するようにしています。すべてを包括的に一括契約するのが難しい場合には、フロントローディング的に先行業務だけを契約しておく、または材料費が発生するなら、その部分のみの契約を先に結ぶ、という具合に契約を細分化して進めるようにしてもらっています。要するに、「原価が発生する前に必ず契約を交わす」という基本ルールを守るという姿勢です。
これは契約前であっても、また契約後であっても、すべての業務において共通する「ショールール」として運用しようと努めており、社内でもその徹底に取り組んでいるところです。
(大越)
今のお話は、永井さんが先ほど述べられていた内容とも重なりますが、やはりこれまでの業界慣習として、契約前に材料を発注してしまうという行為は、ある程度黙認されてきた現実があると思います。ただ、近年のコンプライアンス重視の流れや企業としての責任ある在り方を考えると、やはりそれは望ましくない行為であり、見直していく必要があると思います。その点について、ここ数年で何か変化が見られたのか、あるいは会社としての取り組みが業界全体にも広がっているといった兆しを感じることはありますか?
(布矢)
そうですね、そうした理解はここ数年で確実に進んできていると感じています。ゼネコン側においても、我々ファブリケーター側においても、「契約前に原価が発生するような行為は適切ではない」という認識が広がってきており、具体的な対応として、たとえばフロントローディング費だけを切り出した契約や、材料費のみを先行して契約するような「契約の細分化」に理解を示してくれるゼネコンが増えてきている印象があります。
これは一つの「ショールール」として業界内に徐々に浸透してきているものであり、かつてのように「元請けだから何を言っても従わせられる」というような一方的な関係性、いわゆる“元請け・下請け”のヒエラルキー的な構図が、少しずつ変わり始めていると肌感覚で実感しています。
以前であれば、サブコンに対して一方的に指示を出し、「とにかくやってくれ」と通していたようなケースも少なくありませんでしたが、最近では発注者側も、「契約のある範囲でしか対応できない」という考え方を共有し、理解を示してくれるようになっています。これは、業界の健全化や、プロジェクトの透明性向上という面でも前向きな変化だと捉えています。
(永井)
皆さんがすでにお話しされた内容と重なる部分が多いのですが、私の方からも少し補足させていただきます。まず、材料の発注についてですが、過去にはBCP(Business Continuity Planning)対応の一環として、鉄の納期が十数か月に及ぶというような、非常に深刻な鉄不足の時期がありました。そうした状況下では、プロジェクトが本格的に始まる前から材料を「押さえておく」必要があり、商社やメーカーと一体となって動くことも多々ありました。特に大型案件では、この「先押さえ」の対応が不可欠だったと思います。
ただし、最終的な発注の確定は、あくまで図面がしっかりと揃ってからでないとできません。そのため、契約のタイミングと材料手配のタイミングが曖昧になることもあり、これが現場としての難しさの一つでもあります。海外の状況と比較すると、日本のこうした事前対応のスピードや柔軟さは、ある意味すごいことなのかもしれません。
また、契約前にどこまで踏み込めるかという点については、やはり「客先との信頼関係」が非常に重要です。見積もり段階や計画段階からどこまで関与できるか、どこまで協力体制を取れるかは、こちらがそのプロジェクトを「自分たちがやる」前提で動けるかどうかにかかっています。特に九州では、ファブリケーターが現場の建て方まで含めて担当することが多く、搬入経路の確認や建て方計画の策定、さらにはコスト削減提案まで、最終契約前にかなりの部分に関与するケースもあります。
現在では建設業法も改正され、「現場に物を納める前には契約を結ぶこと」という原則がより強調されるようになりました。これに関しては、業界全体としてもかなり遵守されてきていると思います。ただし、実際に契約を結ぶ時点では、元となる図面がまだ確定していないという状況も珍しくなく、それに伴い生産業務が契約後にずれ込んで発生するのは、ある程度避けられない現実です。
また、見積もり段階から多くの調査や提案に協力したにもかかわらず、ゼネコン側が最終的に案件を受注できなかった場合、こちらには一切の報酬が発生しないということもあります。いわゆる「信頼関係」だけでの協力にとどまり、労力が報われないケースも依然として存在します。こうした構造的な問題については、まだ大きく変わっていないのが現実ではないかと感じています。以上です。
(大越)
どこまでをドライに切り分けるかというのは難しい問題ですが、たとえば先ほど話に出てきたような「材料発注が十数か月待ち」といったケースにおいて、鉄筋であれば元請け側が在留資金を出してリスクを担保するという手法が取られていることもありますよね。そうなると、契約の観点から言えば、ファブ側がリスクを負わずに済む仕組みも可能ではないかと思います。しかし鉄骨の場合、元請けが直接鋼材を確保するというのは現実的に難しい部分があるように思います。そうした中で、ファブ側がリスクをある程度負わざるを得ない状況が続いているように見えるのですが、そのあたり、どのように管理しておられるのか教えていただけますか?
(永井)
はい。おっしゃるとおり、鉄筋とは違って鉄骨に関しては元請けが直接材料を発注・確保するという仕組みはなかなか取りづらいのが実情です。実際、ゼネコンから直接受注する場合には、基本的にその材料調達のリスクはファブ側が負っています。ただ、これは過去の構造的な経緯も関係していて、バブル崩壊後に多くのファブリケーターが経営難に陥り、材料を購入できないケースが増えました。その結果、鋼材店や商社が「信用が足りない」という理由で直接の取引を断るようになったんです。
このような状況の中で登場したのが、商社を介しての「材料支給」型の取引です。つまり、商社が中間に入り、材料を押さえたうえでファブに供給するという形ですね。現在では、この商社経由の取引が全体の約半分にまで増えてきていると思います。特に地方では、地場の鋼材店がゼネコンからの受注をもとに材料支給を行い、さらには加工(切断・穴あけなど)まで請け負うケースが非常に多くなっています。
中にはさらに極端な分業形態も出てきていて、たとえば施工図の作成から原寸リストの作成、材料の調達・加工までを鋼材店が担い、ファブ側は溶接・組み立てだけを担当するという、いわば「下請けのさらに下請け」のような立場に追い込まれてしまうケースもあります。こうなると、ファブ側に求められる品質管理の責任に対して、実務的な主導権が薄れてしまい、品質面で問題が起こるリスクが高まります。
この点については、組合としても問題視していて、一部では是正に向けた動きも出ています。つまり、材料の信用問題だけでなく、それに伴って業務の分業構造自体が大きく変化してきており、その変化が新たな課題やリスクを生んでいるという状況なのです。ですので、現在の我々のリスク管理は、単なる材料確保というレベルにとどまらず、取引構造そのものの見直しや業務配分のバランスの再調整といった観点からも考えざるを得なくなっています。話が少し脱線してしまいましたが、そういった背景があります。
(大越)
いまのお話、少し話題がずれているついでに伺いたいのですが、今の構造というのは、一方でワタナベさんや丹野さんのように「詳細を詰めていく」エンジニアリング的な仕事の話と、もう一方で「製作そのものを分離して発注する」ような話が混在しているように感じています。将来的に、鉄骨ファブの立場から見たときに、「ものを決める=エンジニアリング」と「製作を実行する=製造」が完全に分離していくような可能性はあるのでしょうか?つまり、エンジニアリングを独立した業務として切り分けていくような形です。
(永井)
それは、十分あり得ると思います。実際に今すでに、商社さんやゼネコンさんの窓口的な役割を担っている会社、昔で言えば「ブローカー」と呼ばれていたような存在の会社が増えてきています。そういったところが、図面の手配や材料の手配を一手に引き受けている例も多く見られます。
そうした動きの中で、「どこまでをエンジニアリングと呼べるのか?」という問題は非常に曖昧になっています。たとえば、複数の製作会社を集めて、BIMを活用しながら図面を取りまとめ、原寸作業や一次加工を分散して発注し、それらを組み立て・溶接して出荷する──というような形態も実際に現れてきています。
しかしこのような分業が進むと、ファブによって図面の取り扱い方や受け取り可能なデータ形式が異なってくるため、最終的には「二次元の図面データでしか受け取れない」という現実に直面します。そうなってくると、設計初期段階でBIMを使っていたとしても、製作段階でその情報が活かされず、BIMの本来の価値が失われてしまうのではないかと思うのです。
つまり、エンジニアリングと製作が完全に分離していくことで、設計から製作への一貫した情報連携が断絶される恐れがあるということです。BIMが持つポテンシャルを十分に発揮するには、むしろこの分断を防ぐような組織設計や運用が求められるのではないでしょうか。そんなことを日々感じています。はい、少しまとまりませんでしたが、そんなところです。
(布矢)
永井社長から「エンジニアリングと製作の分離は可能ではないか」というお話がありましたが、私としては「可能な部分もあるが、一方で『おや?』と思うところもある」というのが率直な印象です。
私が先ほどのスライドでもお話ししたように、ファブリケーターが担っている領域、特に生産設計というのは、単に形状を決めるだけではなく、板の大きさや位置、穴の寸法、溶接の方法など、きわめて詳細かつ実行可能性に直結した情報を扱う領域です。たとえば「溶接による収縮を理解していますか?」と問われても、多くの場合それはファブ自身の経験やノウハウに基づいており、外部が簡単に判断・設計できるものではありません。
エンジニアリング業務として「モデルを作成する」「そこから工作図を出力する」までは、ある程度切り出して外部に委託することも可能だと思います。ですが、あくまでもそれは設計図レベル、20分の1あるいは30分の1といった「抽象化された情報」にとどまります。
それに対して、たとえば「穴の位置を正確に決める」「板のサイズを加工精度を考慮して設定する」「スカラップ(溶接時の逃げ)を取るかどうかを判断する」「開先加工をどのようにするかを決める」といった領域になると、これはもはや“エンジニアリング”というより“製造と直結した生産設計”の領域です。つまり、この部分までエンジニアリングとして分離・外注化するのは非常に難しいと考えています。
この点は、先ほど丹野さんがおっしゃっていた「ものづくりを理解していないと、情報だけ持っていても意味がない」というお話にも通じるところがあると思います。設計情報を持っているだけでは不十分で、それを「どう作るか」まで理解し、現場で実現可能な形に落とし込むには、製作に深く関わる知識と経験が不可欠です。
ですので、エンジニアリング業務の一部を切り出すことは可能でも、全てを分離して独立運用するのは、現実的にはかなりの困難を伴うのではないかと考えています。
テーマ2:設備サブコンや外装会社との収まり調整はどのようにしておりますか??他の専門工事会社との調整に関する課題があれば教えてください
(永井)
鉄骨については、かなり前の段階でロール材の発注などが必要になるため、設計が早く決まるんですけど、設備や外装はその時点でまだ決まっていないことが多い、という話があります。そもそも、ゼネコンも含めて、設備サブコンや外装の付帯鉄骨などをどう決めていくかというところに課題があると感じています。
最近では、設備業者は比較的早く決まる傾向にあるのですが、特に外装や仮設に関しては決まるのが非常に遅いんですよね。それで、鉄骨の図面はもう描けていて、その骨組み自体は作れるんだけど、たとえば外装の受け材について業者と相談したくても、「メーカーがまだ決まっていない」という回答が返ってくることが結構多いんです。
こういうことは、いまだに現場でよく聞きます。大型工事、特に超高層のプロジェクトなんかだと、下の階から順に業者が決まっていって、ある程度上の階に進む頃には関係者が揃っていることが多いので、あまり問題にならないケースもあります。ただ、地方の中小規模の物件になると、こうした「業者未決定のまま調整を求められる」という事態は、今でもよくある話です。
そういった意味では、まだまだ改善の余地があると感じています。以上です。
(布谷)
はい、うちもサブコンなんですけども、例えば外装だとか設備だとかっていうところで、まず外装業者が決まっていないというのは、一つ論外じゃないかなというふうに思っています。ターゲットがいないわけですから、これは論外だと思います。
情報については、例えば設備の貫通についても、鉄骨の加工業者の方で一本図たるところの伏図を出して、それに対して設備屋さんの方で貫通の指示をいただくというような形、これはもう従来型といった形ですけども。
今は、あれはCSVなのかちょっとわからないですが、私自身専門的なところまでは詳しくないものの、設備業者さんの穴座標についてもデータとして取り込めるような仕組みが、今はもうできてきているようです。貫通補強の要領についても、認定を取っている補強材メーカーさんがいますので、そちらの方で補強や保険についても検討していただけるような仕組みが整ってきているのではないかと思っています。
あとは、業者さんが決まったら、その業者さん側の施工図を入手して、それを鉄骨の方に取り合いとして反映していくという作業になります。
これからは、共通の言語があるのであれば、それを一つの物件情報として、鉄骨があり、そこに外装業者や設備業者が情報を入れていくというような、一元化した管理の仕組みができれば、だいぶお互い、ゼネコンさんにとっても有利でしょうし、各サブコンさんにとっても情報が取りやすくなるのではないかと思います。
今は、それぞれの、たとえば当社で言えば鉄骨の工作図、設備の配管図、それから外装図といったように、専門業者ごとの図面管理という形になっているわけです。これをどうやって同じ言語で統合していくか。今はIMC(Information Modeling and Coordination)なども普及してきていますけれども、そういった形で一元管理できるような、建築工事としての情報収集のあり方が今後求められてくるのではないかと考えています。
(田澤)
渡辺さんのスライドの最後で「CD環境」とかおっしゃってましたよね。皆さんで擦り合わせをする環境ができてきて、今布谷さんがおっしゃっていたようなことがだんだん可能になってきた、というお話がありましたよね。
(渡辺)
そうですね。環境としては整ってきてはいますが、それを本当にマネジメントできる人材がまだ揃っていない、というのが現状だと思います。たとえばIFC(Industry Foundation Classes)のような仕組みも存在はしますが、それを適切に活用し、プロジェクト全体の情報をマネジメントできる「BIMマネージャー」という職能が、日本ではまだ完全に確立されていません。
海外ではこのBIMマネージャーが独立した専門職として認知されており、設計・施工とはまた別の立場で全体をコントロールする役割を担っています。一方で日本では、たとえばEIRのような上流から下りてくる情報管理指示文書自体の整備・普及が不十分で、全体としてまだ「誰が情報を統括するのか」が曖昧なまま進んでいる状況です。
つまり、デジタルの情報を“使っている人”はいても、“マネジメントしている人”がいないという、いびつな状態になってしまっているのが今の日本の建設業界の現実ではないかと思います。
(田澤)
それはやはり、発注者がそういった情報管理の重要性を理解していないところから始まっているのでしょうか?
(渡辺)
そうですね、今はそう言わざるを得ないと思います。ただ、最近になって変化の兆しも見えてきています。具体的な企業名は出せませんが、ものづくりに関わるある発注者から、しっかりとしたEIRが出てきたことがあり、「おっ」と驚かされました。
それによって逆に、地場のゼネコンさんたちが「これはどう対応したらいいのか…」と混乱してしまうような事態も起きてはいますが、とはいえ、こうした動きが出てきたこと自体に、私は期待しています。少しずつでも、情報マネジメントのあり方が発注者側から変わっていくのではないかと、そう感じています。
共通の質問:「設計や検討、コーディネーションがBIMに置き換わってきたことで変わったこと」と「今後変わらなければならないこと」があれば、教えてください。
(渡辺)
変わった事は、意匠、構造、それから設備などの各種連携や干渉チェック、さらに環境シミュレーションや工程・コストの事前検討など、あらゆるシミュレーションが可能になったという点です。それによって、プロジェクトの不確実性を事前に減らすことができるようになりました。こうした技術をうまく使いこなせているケースにおいては、建築プロジェクトの効率も質も確実に向上しています。これは、従来と比べて進んできている点だと思います。
ただし、こうした取り組みを実現するためには、「予算の付け替え」や「契約スキームの再構築」が必要になってきます。そこに必ず行き着いてしまうのが現状です。
今後変わらなければならないこともいろいろありますが、まず大きいのは「事業主のデジタル情報活用に対する意識改革」だと思います。建物は事業主の資産ですから、その資産をどのように管理するのか、そのためにどうデジタル情報を活用するかという視点がないと、EIRすら作ることができません。
たとえば最近出てきているEIRの内容を見ても、それが本当にその事業者にフィットしたものになっているかというと、まだ「一般的なテンプレート」レベルで止まっている印象があります。本質的な意味でのEIRの活用や策定ができるようになるまでには、まだ少し時間がかかるだろうと感じています。
そしてもう一つ、建設業界全体、特に設計事務所や施工会社の中間管理職以上の層における「意識改革」が必要だと思っています。実際、昨年あたりからはそうした中堅層へのレクチャー依頼も増えてきています。
若手は、比較的スムーズに3Dや情報管理に取り組み始めることができますが、それをマネジメントする側──つまり中間管理職や経営層がデジタルを理解していない。しかも、経営側は「分かったふりをしている」ことも少なくない。たとえば株主に対しては「我々はちゃんとBIMやってます」と言う必要があるからです。
しかし実態としては、分かっていない経営層が中間管理職に命じ、中間管理職もよくわかっていないまま若手に「これをやってくれ」とオーダーを出す。それで出てきたものをチェックしようとしても、誰も本質を分かっていないから正しく評価ができない──という悪循環に陥っているケースも見られます。
その意味で、BIMやデジタルを担う「人材の育成」も急務です。「こういう人材が必要だよね」とは言われているものの、実際には人がいない。すべて兼務になってしまっていて、設計者がBIMもやる、現場の人が情報管理もやるというような形になっていて、正直「それはきつすぎるだろう」と感じています。はい。
(大越)
今お話にあった、いわゆるリテラシー教育のようなものについてですが、ゼネコン側としてもこの点は非常に気にしている部分です。若年層からその少し上の世代に対しては、教育の機会も比較的取りやすく、浸透させやすいという感覚があります。ただ一方で、管理職クラスになると、やはり日々の業務に追われていて学ぶ時間がない、というのは実情としてあると思います。
実際、私の以前の勤務先でも、若手が「やりたい」と手を挙げても、40代くらいの中堅層が「そんな時間はない」「やらなくていい」と潰してしまうような場面がありました。その結果として、新しい取り組みがなかなか前に進まないというケースも見られました。
とはいえ、最近では若手の中でもデジタルに関する知識が確実に増えてきている実感があり、それによって組織全体にも何らかの変化が起きてくるのではないかと、個人的には期待しています。こうした状況について、渡辺さんはどのように見ていますか?
(渡辺)
本当に、そこは期待したいところです。よく言われる話ですが、「我々の世代が抜けないとダメなんじゃないか」といった声も確かにあります。
ただ、実際に若い世代の方々は、私たちが予想している以上に高い関心を持ち、知識や知見を積極的に獲得しつつあると感じています。それ自体は非常に良い流れです。
ただ、その知識や取り組みを会社全体の方針や業務プロセスとしっかり結びつけて、実際の業務改善や文化として根付かせていく──そこがまだ多くの会社で難しいところなんだろうな、という印象を持っています。なので、今は「期待している」という段階ではありますが、もう一歩踏み込んで変革につながるような動きになってくれることを願っています。
(丹野)
ネガティブな意味で言えば、BIMに置き換わったことで「今まで見えなくてよかったものが見えるようになってしまった」という点があると思います。これによって、作業が増えてしまったという現実があります。
二次元の図面だけのときは見えなかったから「後でいいか」とできていたことが、BIMによって見えてしまい、「今やらなきゃいけない」という状況になってしまった。つまり、後でもよかったはずのものが、放置できなくなった。これはフロントローディングの逆のような話でもありますが、BIMが原因で処理のタイミングが前倒しになった、ということです。
また、設計者のスキルによっても違いが出ます。熟練者であれば「ここは後で考えればいい」と判断して進めることができますが、若手であれば「ここはどうなっているんですか?」と気になってしまう。結果として、それを解決するために時間がかかってしまう。これは効率がいいとは言えないし、段階に応じて「今やるべきこと/やらなくていいこと」を見極める教育が必要だと思います。
これは今後変わらなければならないことでもあります。モデルができると、まるで建物が完成したかのように錯覚してしまう人もいます。鉄骨なんかでもそうですが、「このモデルができたからもう鉄骨作れますよね」と言われることがあります。でも、実際に鉄骨をつくる際のエンジニアリングというのは、そんなに単純な話ではありません。
「どのくらい歪むのか」とか、「熱の影響はどうか」とか、「図面に書いてある穴径のままでいいのか」といったことを判断していかなければならない。こうした知識がちゃんと広まっていないと、見えてしまったがゆえに“やらなきゃいけないこと”がどんどん増えてしまう、という問題があると思います。
(大越)
それって結局、知識レベルの話に行き着くような気がしますね。特に鉄骨のディテールって、考えなきゃいけないことがすごく多いじゃないですか。設計の観点から見れば、例えばガセットプレートがどちら側につくかっていう話は、設計上はあまり重要ではないこともあります。でも、それは施工上は非常に大きな意味を持つわけで、どこで誰がどんな判断をするかが変わってくる。
そういったことを設計者自身がどれだけ考えられるか。もしそこまで踏み込める人材が増えてくれば、設計の質も上がっていくと思うんですけど、現状ではなかなかそこまで行き着かないというのが実態じゃないかと思います。
そういう意味でいうと、丹野さんのような立場や、渡辺さんのようなポジションの方が、設計段階からファブリケーションの知見を取り入れていくような、今の設計のやり方よりもワンランク上のアプローチをしていかないと難しい時代になっているのではないでしょうか。そのあたり、どうお考えですか?
(丹野)
そうですね。設計者がやることが多すぎるというのは事実だと思います。役割の設定が非常に難しくなっていますよね。少し前までは「日本の設計者は図面を描かない」と言われていたんですが、それはそれで問題ですし、今のようにやることが多すぎるのも問題です。
何度も出ていますが、「設計」という行為に対して、ちゃんとお金をつけることが大事だと思います。たとえ設計事務所がすべてをできなくても、今営業レベルでやっているような業務を、きちんとエンジニアリングとして契約に含めることができれば、人も増やせるし、役割分担もできる。そういった体制づくりが重要だと思います。
今のように「申請図を書くために何日もかけている」というのは、やっぱり設計者としてはまずい。そういった業務をシステム化したり、役割分担したりして、効率的に回せるようにしていくべきだと思っています。
(永井)
BIMの義務化が話題に上がったのは、もう10年ほど前、ゼネコンや国交省あたりから「BIMを推進しましょう」と声がかかった頃からだったと思います。幹部クラスの掛け声は非常に大きかったのですが、どことは言いませんけれども、その掛け声に現場も我々もかなり振り回されたというのが正直なところです。
現場でも苦労が多く、当時は「正直、いいことはあまりなかった」という印象でした。ただ、BIMがある程度使える人材が現場にいると、干渉チェックや検証作業がスムーズにできるようになったという話を、うちの設計担当がしていたので、そういった点は良かったのかなとは思っています。
ただ、我々がモノを作る現場では、開先の形状や溶接による伸縮、ガセットの位置など、非常に細かい寸法や条件が求められます。ゼネコン側が必要とするデータと、我々が製造・加工に本当に必要とするデータとでは、その量も内容も大きく違います。おそらく、情報量としては10倍、場合によっては100倍違うのではないかと思います。
たとえばゼネコンさんが欲しがるのは、せいぜいボルト穴の位置くらいで、開先形状までは求めていない。でも、我々としてはスクラップの形状も含めて、すべてをモデルに入れていないと加工も製造もできません。そのまま工場で使える加工データとして出力できないし、現場にも持って行けない。
こうした情報のズレというのは、いまだに大きいなと感じています。ただ、三次元をしっかり理解してくれている現場の方が少しずつ増えてきていて、その意味では少しずつ良くなっているのかなと感じています。
(布矢)
私も永井さんと同じく、BIMモデルへの期待や役割について、上流側と製造現場(下流側)とでかなりギャップがあると感じています。
最近では「BIMモデルを提出してください」という要望が、ゼネコン側から出されるケースが増えてきています。私のスライドでも紹介しましたが、たとえば「工作図先行型」のアプローチでは、専用CADでまず二次元図面を出力し、それを加工情報として扱ってきました。
ところが、ゼネコン側はそれに加えて「三次元モデルも欲しい」と言ってくる。これが施工管理目的なのか、あるいはクライアント向けのプレゼンなのかはわかりませんが、結果的に我々は二次元も三次元も両方やらなければならない。しかも、その三次元モデルは製造には無縁なものである場合が多いです。
我々が製造に本当に必要とするのは、モデルから取得できる実寸法に基づいた加工情報であり、上流で求められているモデルとは求める内容が大きく異なっています。ここには明らかな乖離があります。
ただし、今私が注目しているのは、将来的に「上流が変わるから下流が変わる」のではなく、「下流側が変わるからこそ、上流も変わらざるを得ない」という流れが来るかもしれないという点です。
たとえば、近年では工作機械自体がIFC形式の三次元モデルから直接加工情報を欲するようになっています。図面ではもう対応しきれなくなってきており、人が手で入力していた情報をモデルから直接取得する時代が来る。さらに、技能者の教育においても、モデルを使って視覚的に情報を伝える必要が増えてきており、二次元図面では対応が難しくなってきている。
こうした背景から、製造現場の側から「三次元情報が必要だ」と言い出す時代が来ている。つまり、上流からの要請ではなく、下流からの必然によって、三次元情報が標準化されていく。そうなれば、中間の設計業務も変わらざるを得なくなり、工場の進化に設計が追いついていく、あるいは追従せざるを得ないという構造が生まれると思います。
それは後退ではなく前進だと私は捉えていて、むしろそういった流れを期待しています。
(大越)
先ほど、二次元と三次元の両方を扱っているというお話がありましたが、仮に今後、三次元のモデルデータがそのまま工作機に連携されるようになってくると、確かに二次元図面というものは必要なくなってくるかもしれませんよね。
一方で、現在はまだ「製作図の承認」という行為自体が、紙媒体=二次元図面を前提に行われています。そう考えると、今後はこの承認の仕組みそのものを、紙ベースの図面からモデルベースの承認に切り替えていく必要があるように思います。その点について、現場の実感としてはいかがでしょうか?
(布矢)
ええ、その点については、完全ではありませんが、すでに一部で「IFCモデルを用いた承認」という事例が出てきています。ただ、その際も、あくまでも補助的に二次元図面を一緒に提出している、というのが実情です。ですので、「変わりつつある」とは言えますが、まだ完全にモデル承認へと移行しているわけではありません。
この移行を本格化させる上で大事なのは、「何をもって承認とするのか?」というエビデンスの考え方だと思っています。今までは、「図面があるから承認しました」と紙にハンコを押すことで承認行為の証拠が残っていた。でも、「モデルで承認しました」となった時に、その照合結果をどう記録するのか、というところがまだ課題です。
実は、私のスライドの三つ目あたりでもご紹介しましたが、前段階の設計情報として「この情報だけは絶対に外してはいけない」という内容をしっかり定義した上で、それに基づいて製作側が提供するモデルが、どう一致しているのかを照合できるような仕組み──つまり、「モデルの中のどの情報を見て承認したのか」という記録が取れるようなフレームを整える必要があるのではないかと考えています。
そのように、設計情報と製作モデルの情報を、承認の際に照合可能な形で一元管理できる仕組みがあれば、モデルベースでの承認も現実的に運用できるのではないでしょうか。今後、そうした方向に進んでいくべきだと感じています。
まとめ:理想的なプロジェクトの関与方法または最後に一言
(渡辺)
今日の話の中でも「エンジニアリング」という言葉が頻繁に出てきましたが、私たちの立場はいわば「データをつくるエンジニア」であり、現段階ではそれが我々のポジションだと思っています。
ただ、例えば我々が「バラ図まで書く」といった話をしていても、実際には溶接のような製作現場のディテールにまでは踏み込めないのが現実です。ですから、製作の現場での知識や経験が必要な領域は、今後も絶対になくならないと考えています。
たとえテクニカルに切り離すことが可能だとしても、それが実際に成立するかは別問題であり、これは今後の大きな課題の一つだと捉えています。
また今後は、たとえばアラップのようなエンジニアリング主導の設計者や、CM(コンストラクション・マネジメント)会社がBIMや生産設計に深く関わっていく流れも出てくるでしょう。そうした中で、「エンジニアリングをどこまでカバーするのか」「その情報をどのようにデジタルで扱うのか」ということは、もはや逃れられないテーマであり、真剣に考えていかなければならない領域だと強く感じています。
(丹野)
理想的なプロジェクトへの関与については、実はあまり明確に「こう関わりたい」と考えたことはないんです。むしろ、「理想的なプロジェクトって何だろう?」ということの方が気になっていて、見た目には楽しそうな建築やプロジェクトがあったとしても、関わって楽しいとは限らないというのが正直なところです。
すごく単純に言ってしまえば、「関わっている人たちみんながやる気を持っている現場」こそが、楽しいし、理想に近いプロジェクトなのかなと思います。
また、今日のシンポジウムのテーマに立ち返って、DfMAを進めていく中で、今回のように鉄骨ファブリケーターである永井さんや布矢さんが参加してくださったのは非常に意義のあることでした。
鉄骨におけるDfMAとは何か、我々はどのように関与できるのかを考えていく中で、最も理想的な形は、「お互いができること、できないことを正しく認識し合い、それを率直に言い合える関係を築くこと」だと思っています。そして、それが契約として明文化され、きちんと責任の所在と役割が整理されていること。
つまり、「できること/できないことを明確に認識した上で成り立つ契約」があってこそ、理想的なプロジェクトになるのではないかと感じています。
(永井)
理想的なプロジェクトの関わり方についてですが、ゼネコンさんとのお付き合いの中で、いつも感じることがあります。たとえば「協力会」という枠組みがあると思うのですが、そこに所属するということは、ある程度の技術力や信頼関係が認められているということです。そうした会社同士が、最初の段階からプロジェクトに関わり、打ち合わせを重ねて効率よく進めることができれば、実はコストも下げられるのではないかとよく思います。
もちろん、現実にはコストの縛りや仕様の標準化による推奨など、別の要素が絡んできて、そう簡単には進みませんが、やはりモノづくりというのは多くの会社が集まって行うものです。であれば、能力のある会社が集まって取り組むことで、トータルのコストも下げられるはずだと思うのです。
また、プロジェクトを進める中で、所長さんを含めた現場の担当者の方々の能力によって、我々も一喜一憂します。厳しい現場でも、信頼関係がしっかりできていると、最後には「やってよかった」と思える現場になります。だからこそ、信頼関係がきちんと構築された環境で仕事ができることが、理想的だと感じています。
(布矢)
DfMAとは何なのか -改めて、そう考えさせられる場でもありました。生産性向上や情報展開の効率化を突き詰めていくことによって、建設プロジェクトに関わるサプライチェーン全体が「合理的だ」と感じられる世界が作れたらと思います。
ここで言う合理性とは、特定の企業だけが一人勝ちするのではなく、関係する全ての事業者が納得し、納得感を持って役割を果たせるような仕組みのことです。だからこそ、「生産性」「情報の親密性(精度)」という要素を追求していくことが、最終的には業界の魅力の再構築につながるのではないかと感じています。
まずは、一つひとつ、今やれることを着実に積み重ねていくことが大切であり、そうすることでDfMAの理念に少しずつ近づいていけるのではないかと思っています。抽象的な話にはなりましたが、私自身はそういった感覚でDfMAに向き合っています。
(田澤)
冒頭、小笠原先生からもお話がありましたが、DfMAは世界的な人手不足やCO₂削減といった課題に対応する設計手法である、という視点で今日のシンポジウムが始まりました。
ただ、現状の日本においては、設計そのものというよりも、より下流の「生産設計」や「施工中」に焦点が当たっているのが実態だと感じました。また、皆さんの発言からも、「設計と施工を並行してやっている」という構図が浮かび上がってきたと思います。
その中で、デジタル化、BIM化、DfMA化が進むと、これまでの日本的な進め方が通用しなくなり、抜本的な変革が求められていることが明らかになってきました。報酬や設計料、フロントローディング費用、設計者の多忙さ、生産設計への理解不足といった具体的な課題もたくさん出されました。
それらを一つずつ解決していくことが、布矢さんがおっしゃった「業界の魅力の再生」にもつながっていくのだと思います。
なお、今回の「DfMAシンポジウム」は「Vol.1」というタイトルが付いておりますので、今後もこのような議論を続け、深めていく必要があるのだと感じています。本日は、パネリストの皆様には踏み込んだお話や、ギリギリの資料までご提示いただきましたこと、心から感謝申し上げます。ありがとうございました。
志手一哉(GBTRC副センター長 / 芝浦工業大学教授)
本日のディスカッションを通じて、いくつか発展的に考えさせられることがありました。まず、ますます重要になってきているのが、人材の育成や生産知識、そしてエンジニアをどう捉えていくかという点です。さらに、事業主チームへの参画に関連して、事業主の意識の底上げが必要だと感じました。特にフロントローディング費用の扱いや、契約前段階での協力の在り方など、これに対応できる人材の存在は、結局のところ事業主がチームをどう組み立て、どう捉えるかにかかっているのだと思います。
また、エンジニアリングの分離という話と、DfMAの考え方にも関連する話がありました。形としての提示の仕方と、それをどう具現化するかという「ものづくり側」の考え方、そしてその生産設計をどのように捉えるのか。また、サブコン同士のコーディネーションをCD(コーディネーションドキュメント)という手段でどう実現できるかといった技術面も非常に重要です。
さらに、データマネジメントと「もの決め」のマネジメントが一体になっていないと、プロジェクトの整合性に問題が生じます。BIMマネージャーという言葉はデータ寄りの意識に偏りがちですが、実際にはデータの管理と意思決定の管理は表裏一体であり、両者の整理と統合的な運用が必要だと強く感じました。
サブコン同士のスムーズなコーディネーションも不可欠であり、そこにはゼネコンや設計者の関与も重要です。ただし、単に「データを渡す」といったレベルではなく、相互にデータをシェアしながら進められるようなCDプロセスの設計が必要で、日本ではこの点にまだ十分な理解が及んでいない印象も受けました。
このように考えていくと、建設プロジェクトの体制をどう構築するのか、費用をどのように配分するのか、また能力のある企業の集合体でないとプロジェクトはうまく進まないのではないか、という問題に直面します。そうしたとき、事業主の意識や知識の底上げが不可欠であると、改めて痛感しました。
また、冒頭で紹介されたように、プログラムを用いた設計や検討の在り方も印象に残りました。プログラムの利用は、結果から逆算して計算し、形を導くというプロセスを取るため、設計者の役割は最終的な形を精度よく導くことに集約されていく可能性があります。そこから先の詳細は現場に任せるという分業の形もありうるのかもしれません。そうなると、設計者の役割とは一体何なのか、あるいは現状のように忙しく重複作業が発生している状態をどう解消していくのか、ということも考えさせられました。