2025/06/07
参加者:安藤 正雄、西野 加奈子、蟹澤 宏剛、志手 一哉、小笠原 正豊、田澤 周平、金岩 哲郎、岩松 準、片岡 誠、KIEU TRI CUONG、朱 正路、神谷 友里恵、田中 洋介、唐 詩、張 梓麒、李 由由、高山 空
書記:小島 瑚子、田村 真理
日時:6月7日(土)15時00分〜
開催場所:芝浦工業大学 ゼミ室
対面開催
1.DfMAシンポジウムでの課題と日本の状況
DfMAシンポジウムでは、設計段階における生産技術の関与がテーマだったが、共通の反応として、設計参加のタイミングが遅れるためDfMAの実施が困難であるという点が挙げられた 。有力なBIMコンサルタントは、プロセスの上流段階での関与を望んでいるものの、契約上はゼネコン(GC)またはサブコン(SC)の下請けとして「生産設計」支援の役割を自認している現状がある 。この「生産設計」が日本型建築生産システムの特質であり、市場成長期にオーナーのリスクをGCが引き受けることで形成された 。GCはリスクを引き受けることでレント(利益)を獲得し、そのために設計を含むサプライチェーンマネジメントにおけるGCの裁量が不可欠だった 。この裁量を保証するのがDB(デザインビルド)やDBB(設計施工分離)における「生産設計」であるとされている。しかし、日本の「生産設計」は、意思決定を遅らせることでリスクを回避しようとする「テールローディング」の指向性を持っており、変更はコストではなく利益確保のための必要条件と見なされてきた 。安藤氏は日本のBIM適用シーンにおいて、本当にフロントローディングの意味が理解されているのか疑問を呈している。
2.「フロントローディング」への転換の必要性
「成長の終焉」によりレントの獲得が困難になり、引き受けたリスクがキャンセル不可能になっている現在、コスト高騰による着工延期や事業変更・中止が相次いでいる 。このコスト高騰は需要増大ではなく、供給制約(リソース不足、投資不足)によるものであり、オーナーとGC双方にとって大きなリスクとなっている 。このような状況下では、「テールローディング」によるコストコントロールはもはや有効ではないと安藤氏は強調した 。英米では、DBBに対する不信任から「対立から協調へ」というパラダイムシフトが起こり、建築技術の高度化・多様化により、設計情報やコスト情報を持つのがアーキテクトではなくSCであるという認識が広がっている 。そのため、GCやSCの設計への早期参画(ECI、IPD、IPD’ishに類する調達方式)が、DBBの問題点を解消する唯一の有効な方策と見なされ、「フロントローディング」の手法として採用されている 。フロントローディングとは「設計のモノ化」であり、基本設計や実施設計の段階で数量や仕様を決定し、コストを確定させることである 。これにより、ファストトラックによるコストコントロール効果がさらに向上する 。
3.フロントローディングと協働の類型
DBBが設計と施工の間にコミュニケーションがない形態であるのに対し、CM at RiskやIPDは設計段階でのGC/SCの関与を通じて共同が行われる 。特にCM at RiskとIPDは、GCの選定に競争入札ではなくQBS(資格評価)が用いられ、CM at Riskでは基本設計段階の終わりまでにGMP(保証最大価格)が設定され、IPDではさらに目標コストに基づいて設計を進めるTarget Cost Designが採用されることで、コストコントロール効果が高まると 。コストコントロール効果のポテンシャルは、DBB < Bridging DB < Novated DB < CM at Risk < IPD の順に大きいとされている 。これらのパラダイムシフトの成果を日本に適用することで、オーナーのイニシアティブ(デマンドプル)によってテールローディングをフロントローディングに転換できる可能性がある 。
4.日本の調達慣行への適用と今後の調査研究
日本の調達慣行とECI方式の親和性については、Bridging DBやNovated DBがプロポーザル方式+DB(公共・民間)と、CM at RiskがDBB(民間)と、IPDが繰り返し発注を行うオーナーとそれぞれ親和性があるとされている 。テールローディングの日本の慣行を前提にEIR(発注者情報要求)やBEP(BIM実行計画)を検討しても意味がなく、英米の各種ECI事例や日本の事例のEIR、BEPを収集分析する必要があると主張している 。また、日本の慣行と親和性のあるECI方式について、パイロットプロジェクトを誘導し、フロントローディングの効果を検証して標準を示す必要がある。
最後に、安藤氏は日本のCM at Riskに関する誤解についても言及し、国土交通省の理解と実態が異なっている可能性を指摘している 。CM at Riskは本来DBとDBBの中間的な存在であり、民間では「Cost reimbursable Contracts plus a fee and a GMP」や「Negotiated (general) construction contract」と呼ばれていたもので、便宜的に「CM」の呼称が適用されたとしている 。日本の「ピュア型CM」がCM at Riskと混同されている可能性に警鐘を鳴らしている。