第六話 敗北、逃走、そして・・・

ジェガン改のコクピットの中。

エイラはモニターを見つめていた。

映し出されているのは1機のMS。

その機体は、エイラの操っているジェガン改 影型と全く同じ機体だった。

「あなたは…誰…?」

「・・・」

目の前に立つジェガン改に問いかけるが返事はない。

これが返事とばかりに相手のジェガン改が動く。

突然の行動に反応が遅れる。

ジェガン改に、一気に近付いたもう1機のジェガン改が回し蹴りを放つ。

「くっ……!」

激しく振動するコックピット内でエイラは歯を食いしばり衝撃に耐える。

態勢を立て直し、反撃しようとしたエイラが相手のジェガン改の姿を探すが見当たらない。

突然の後ろからの攻撃に機体が激しく揺れた。

前方のモニターに額をぶつけながら、いつの間にか相手のジェガン改が背後に回り込んでいたのだと悟る。

吹き飛ばされたジェガン改は仰向けに地面に倒れ込んだ。

こちらに1歩ずつ近づいてくる相手のジェガン改。

その手には1振りの剣を持っていた。

「その剣は…!?」

緑に光るビーム刃を展開した剣を振り上げたジェガン改は躊躇いもなくその剣を振り下ろす。

迫り来るビーム刃の手前、全周囲モニターの一角に開いた通信画面には相手パイロットの顔が写し出されていた。

「……!?」

エイラが目を見開き何かを口にしようとした。

直後、視界が光に包まれた。


「っ……夢…?」

目を覚ますと視界の左半分は何かに遮られていた。

残りの部分から木造の天井が見て取れる。

1度深呼吸をし、状況を確認しようと耳を澄ます。

雨の降る音が聴こえてくる。

視線を右に向けると、木造の屋根の先、灰色の雲に覆われた空から降り注ぐ雨が見えた。

ふと、エイラはある事に気がつく。

仰向けに寝ているのだが、どうやら頭だけは柔らかいものに載っているらしい。

不思議に思いつつ、とりあえず先ほどから視界の半分を覆っている物の正体が気になり右手を伸ばす。

すると、布に包まれた柔らかいものに触れた。

手に収まらないサイズの柔らかいもの。

「…なんだろう…これ……」

触ってもよく分からなかった。

とりあえず起き上がる。

そして、全てを理解した。

交流広場にある、とあるお店のウッドデッキ。

そこに置かれた長椅子にアイカに膝枕されて寝てたらしい。

アイカはどうやら眠っているらしかった。

「ということは……」

先ほど触れたのはアイカの胸と言うことか・・・。

「大きい……」

そう思いつつ自らの胸に両手を当てるエイラだが、その手に感じるのは小ぶりな胸の感触。

少し落ち込んでいると、眠っていたアイカが目を覚ましす。

「あ、エイラちゃん起きたんだ」

「うん…」

そこで何故、膝枕されていたのかを思い出した。

サツキと名乗る少女の操るガンダムイブリース。

突如乱入してきたその機体に負けたのだった。

惨敗だった。

到底及ぶはずのない相手、その事実に悔しさがこみ上げて来たエイラは思わず唇を噛む。

「エイラちゃん?」

アイカが心配そうにこちらを覗き込んで来る。

「アイカ…ごめん…」

そう言うと降り注ぐ雨の中に飛び出した。

「エイラちゃん!」

後ろから引き止めるかのようなアイカの声が聞こえた。

しかし、立ち止まらず走り続ける。

アイカに弱いと思われるのが嫌だった

アイカに嫌われるのが怖かった

恐怖から逃げるように、ただ雨の中を走り続けた。



気がつくと建物の間にある細い路地にしゃがみこんでいた。

「何してるんだろ……」

気がつくと目から涙が零れていた。

暫く泣いていると、目の前で一対の足が立ち止まった。

顔を上げると1人の少年が傘をさしながら見下ろしていた。

「こんな所で何してるんですか?」

少年の問いかけに

「何も…」

と答える。

「そうですか・・・とりあえず立って下さい」

少年はエイラの腕を掴み無理やり立たせた。

「何ですか…」

嫌悪感を感じ掴まれた手を振り払う。

「すぐそこのカフェで雨宿りです」

少年はそう言うと歩き出した。

「………」

一瞬、断ろうかと悩む。

しかし、アイカに嫌われてしまった以上、もう全てがどうでもいいと思えた。

立ったまま動かないエイラを見て少年が踵を返しこちらに来る。

先ほど、振り払われたことで警戒してか、少年は慎重に手を掴む。

振り払う気力すら無くしたエイラは少年に手を引かれ、歩き始めた。

歩いて2分ほどの所にあったカフェに少年に連れられ入店する。

少し暗めの照明を使っているためか、落ち着いたイメージのカフェだった。

少年は壁際の、暖炉に程近い場所にあった椅子にエイラを座らせる。

机を挟み向かい合うようにして少年も椅子に座る。

それと同時にNPCのウェイターが注文を聞きにやってきた。

少年が注文を済ませるとNPCウェイターは立ち去り静寂が訪れる。

静寂の中で数分待っているとNPCウェイターが再び現れた。

出された二つのコーヒーの一つをエイラの目の前に置く。

少年はコーヒーを1口飲むと唐突に話し始めた。

「さてと、出来れば何で雨の中で泣いてたのか教えて欲しいんですけど・・・あっ僕、初月・イリューシンって言います」

(泣いてるの……気がついてたのか…)

見ず知らずの相手なのだが、エイラは何故か彼になら全てを話しても良いと感じていた。

「実は…」

ガンダムイブリースに惨敗したこと。

それがすごく悔しいこと。

アイカという友達の事や、その子に嫌われるのが嫌で逃げ出したことなど、気がつくと全てを打ち明けていた。

初月と名乗った少年が口を挟むことはことは一度もなかった。

ただただ話を聴き、一通り聞くと少し悩んだような仕草の後、呟いた。

「あなたが強さを求める理由は分かりました。

確かに強さを求めるのもいい事だと思います。

けど一つ言わせてほしいことがあります。」

そういうと少しぬるくなってしまったコーヒーを1口飲む。

「アイカさんはあなたの親友なんですよね?

そんな"弱い"からって理由であなたを見捨てるなんて事は無いんじゃないでしょうか?」

それを聞いたエイラは反論出来なかった。

彼の言うとおりだと思ったのだ。

「今すぐアイカさんに会いに行くべきだと僕は思います」

初月のその言葉を聞いたエイラは、席を立つと再び雨の中に走り出していた。

「さてと、エイラさんの分も払って追いかけるか」

そう言うと初月は静かに席を立つ。


雨の中を走り続け先ほどの店に戻ってきた。

必死になってアイカの姿を探す。

「居た…」

先ほどアイカに膝枕されていた席、こちらに背を向けてアイカが座っていた。

ゆっくり近付いていくと、髪や服が濡れている事に気がつく。

雨の中、自分のことを探していてくれたのだろう。

あと数歩のところでアイカが振り向いた。

「エイラちゃん!!」

椅子から勢いよく立ち上がるとそのままの勢いで抱きついてきた。

抱きついたアイカは

「心配したんだからっ」

と泣き出した。

「その…ごめん……」

謝罪の言葉が口をついて出ていた。

それからアイカが泣き止むまで待つと、エイラは全てを打ち明けた。

強くないとアイカの傍に居れないと思っていたこと。

アイカに嫌われたくなくて強さを求めていた事。

ガンダムイブリースに負け、アイカに弱いと思われ、嫌われると思い逃げ出したこと。

アイカは何も言わずエイラの話を聞いていた。

話し終わるとアイカが口を開く。

「エイラちゃん、バカなの?」

真顔で言い放ったアイカはそのまま言葉を続ける。

「弱いから何て理由で嫌いになるわけ無いよ、私達親友でしょ?」

その言葉を聞いたエイラは、アイカに抱きついた。

"親友"

その一言でエイラは救われていた。

エイラはアイカに抱きついたまま、今まで溜め込んでいたものを全てを吐き出すかのように泣き出していた。

暫くすると、先ほどの少年が再び現れる。

そこで珈琲の代金を払っていなかったことに気が付いた。

慌ててログを確認するとどうやら初月が支払ってくれたらしい。

「珈琲のお金……」

メニューを開き初月に珈琲の代金を払おうするが

「奢りのつもりで連れていったから大丈夫ですよ」

どうやら初月は受け取るつもりは無いらしい。

「けど……」

それでもエイラが払おうとするのを感じ取った初月は

「なら僕と勝負してください。

それでチャラにします。」

と勝負を申し込んで来た。

「そういうことなら……」

と勝負を受ける事にした。


______________________________

視界がハッキリするとエイラはジェガン改のコクピットに座っていた。

軽く手を動かすと1度深呼吸。

機体の状態を確認し準備が終わるとレバーに手をかけた。

「ジェガン改機動戦闘装備……エイラ・シャドウ、出る……」

いつもの様な気だるげな感じだが、その顔は少し晴れ晴れしていた。


カタパルトから飛び立ったジェガン改は地面に足をつけると辺りを見渡す。

周りには高層ビルが建ち並んでいたおり、見上げると遥か上空にも街が見える。

しかし広がる街に明かりは一つも見えない。

「廃棄コロニー……」

今回のマップはコロニー内部らしい。

地面やビルに触れている限りは遠心力による疑似重力が働くため通常の地上戦が出来るが、1度離れてしまえば無重力化での戦闘となる。

「厄介…」

ひとまず大通りから移動すべきと考え、すぐ側にあった路地に入り機体を隠す。

地形データを開くと周辺の地形を頭に叩き込みつつ狙撃に適したポイントを探す。

少し離れた所にコロニーのメインシャフトに繋がるサブシャフトが1本そびえ立っているのが見えた。

崩壊しかけているとはいえ、周囲のビルより高い。

「あそこが...最適か.....」

選択肢の中では高さ、距離ともに最適だと判断し移動を開始する。

敵に見つからないよう、大通りを避けながらサブシャフトに向かう。

ビルの合間を走り抜けると数分後にはサブシャフトの根元にたどり着いた。

サブシャフトの内部はモビルスーツ一機が通るには十分な空間が確保されていた。

スラスターを吹かしながら慎重に通り抜けていくと、円筒状のサブシャフトの途中に一面が崩れ先ほどのビル群が一望できる場所を発見する。

うつ伏せになりライフルを構え、ジェガン改が狙撃の準備を整える。

コクピット内のスコープを覗き込み敵の姿を探す。

「見つけた……」

はるか遠方、エイラから見て頭上に見える街を低空飛行する黒い人影が見えた。

エイラはその影の正体を見るため、スコープの倍率を調整する。

「よし……」

スコープに映し出されたのは黒く塗装された1機のモビルスーツだった。

黒をベースに所々がオレンジ色に塗られた機体。

ベース機体は今のところ分からない。

しかし、敵の大まかなサイズが判明すれば狙撃するのに最低限必要な情報は揃っている。

スコープの隅に表示される敵機との距離、それと自分自身の経験。

その二つから敵のスピードを予測、敵の急所を狙い撃つために偏差を取る。

ダイバーズのゲームシステムには、スナイパー時に使用できるロックオン機能が存在する。

しかし、エイラはあえてそれを使用しない。

ロックオンされた側にロックオン警報が出てしまうこと。

敵をロックオンすると取れる偏差が少なくなってしまうこと。

この二つからエイラはロックオン機能を使用しないで普段から狙撃をおこなっていた。

今回もロックオンの一歩前の状態、簡易ロックオン状態での狙撃。

完全にロックオンすれば機体名などの情報も表示されるようになる。

しかし、不意打ちのチャンスを潰してまで入手するほど重要な情報では無い。

偏差を取り終え、ライフルのトリガーに指をかけたエイラがタイミングを見計らい、引き金を引く。

その瞬間、スコープの中に見えていた敵機の顔がこちらを向いた。

ツインアイとスコープ越しに目が合う。

一直線にコロニー内を駆け抜けた赤色のビームは寸分違わず狙い通りの場所に着弾する。

しかし、その一撃は狙っていた敵機を穿つことは無かった。

完全な不意打ちだったはずなのに、敵機は飛来するビームをひらりと交わしたのだ。

「なっ!?……」

必殺の一撃になるはずだったビームを躱されたエイラは驚く。

が、すぐさま思考を切り替え、次の行動に移る。

シャフト内部を急いで降下し、ビルの建ち並ぶ市街地に再び降り立つ。

すぐさま予め決めておいた次の狙撃ポイントに向かうため、ビルの合間を高速で駆け抜ける。

第2の狙撃ポイントとしていたビルが見えてきたその時、ロックオンアラートが鳴り響く。

「間に合わないか……」

気だるげに呟いたエイラは第2の狙撃ポイントに向かうのを諦め、機体を反転。

迫る敵機に正面を向けつつ、後ろ向きに移動して迎撃しつつ敵機との距離を取れるようにする。

レーダーを確認するといつの間にか補足していた敵機の位置が表示されていた。

敵機を捉えていたのに気が付かなかったのは初弾を避けられていたことにそれほど動揺していたということか・・・。

敵機は、何本かの細い道の先にある交差点の角に向かって右側から迫ってくる。

ビルの角から飛び出してくであろう敵機に備えるため、移動を中止。

敵機を迎え撃つ準備をする。

ライフルの照準をビルの角に合わせ、深呼吸。

「よし……」

レーダーに映し出される赤い光点が交差点に近づいてくる。

「そこ……!」

赤い光点がビルの角に来たタイミングでエイラは引き金を引く。

周囲のビルを赤く照らしながら大通りを一筋のビームが駆け抜けた。

放たれたビームは、敵機の左肩を浅く穿つ。

「外れた……!」

攻撃が外れたのを確認したエイラは機体を反転、すぐに距離をとりはじめた。



その機体はビルの影に身を潜めていた。

ガンダムAGE-2ダークハウンドをベースにした改造機、ガンダムAGE-2「エヴォリューション」のコクピット内に座る初月・イリューシンは苦笑いしていた。

「能力なしでこの狙撃精度か。

参ったな。」

さっきの一撃は"能力"がなければ負けていた。

先程、ビルの影から交差点に飛び出した時、ジェガン改の構えるライフルの銃口。

それは、確実にエヴォリューションのコクピットを捉えていた。

"能力"の発動状態ですら機体を逸らし肩アーマーを犠牲に急所を外すのがやっとだったのだ。

「ちょっとした油断が命取りか・・・

師匠が認めただけある。」

初月は握っていたレバーをしっかりと握り直す。


崩れかけているビルに身を隠したジェガン改は手にしていたスナイパーライフルを構える。

黒とオレンジ色に塗装された敵機を照準に捉えると引き金を引いた。

放たれたビームは今までと同様に躱されてしまうが、エイラは照準を微調整し2発、3発と連続で光弾を放つ。

サブモニターに銃身がオーバーヒートすると警告が出るが、構わず撃ち続けた。

十数発目を放った所でスナイパーライフルの銃身が焼け付いた。

「ごめん……」

スナイパーライフルをビルに立て掛け機体を移動させる。

ホバー移動しつつ背面のシールドバインダーに装備されたビームライフルを引き抜く。

「きた…」

ロックオンアラートが鳴り響くと同時に後ろに迫った敵機に機体を振り向けると、後ろ向きに移動しながらビームライフルを撃つ。

同時に敵機もビームを撃っていた。

それぞれが放ったビームはお互いの装甲を掠め、装甲を焦がす。

ジェガン改がライフルを撃ちつつビルの合間を縫うように進む。

それをAGE-2 エヴォリューションが追いかける。

相手を捉え損ねたビームが周囲の建物を焦がしていった。

「キリがない…」

エイラはどうするべきか悩んでいた。

このままこの状態を続けても決着は着かない。

「何か…」

辺りに使えそうな物が無いか探す。

それが仇となった。

後ろ向きに移動していたジェガン改の踵がボロボロになっていた路面に引っかかり大きくバランスを崩してしまう。

ジェガン改が転んだ衝撃で脆くなっていたビルが崩れ落ち、ジェガン改に降り注ぐ。

コクピットの中、衝撃で意識が朦朧としかけたが何とか持ち堪える。

正面のモニターに目を向けると、左手に光剣を持った黒い巨人が1歩、また1歩と迫っていた。

「くっ…」

レバーを操作しジェガン改を起き上がらせようとする。

しかし、崩壊したビルに機体が挟まってしまって立ち上がる事が出来ない。

目前まで来た黒い巨人、AGE-2 エヴォリューションは足を止めビームサーベルをこちらに突きつけた。

「エイラさん、貴女との勝負、面白かったです。

けれどここまでです。」

AGE-2エヴォリューションのパイロット、初月はエイラに向けて終わりを宣言する。

「……」

思わず唇を噛む。

この状況で勝ち目があるとは思えなかった。

AGE-2エヴォリューションがビームサーベルを振り上げる。

「……」

エイラはただ振り上げられたビームサーベルを見つめていた。



否、エイラが見つめていたのは振り上げられたビームサーベル。

その手前、ジェガン改の全周囲モニターに突如現れた一文だった。

「貴方はこんな所で終わってしまうの?」

その一文を目にした瞬間からエイラは不思議な感覚に陥っていた。

まるで機体と自分自身が一つになるような感覚。

何故か、エイラはその感覚が心地良かった。

気がつくと先ほどの一文が変化している。

「貴女の決意を聴かせなさい。」

その一文でエイラの気持ちは切り替わる。


AGE-2 エヴォリューションがビームサーベルを振り下ろす。


絶望的な状況の中でもエイラは諦めていなかった。

「私はこんな所で諦めてなんかいられない!!」

そう叫ぶと武装スロットから三つ目のスロットを選択、トリガーを引く。

ジェガン改が頭部バルカンを放つ。

放たれた弾丸は、AGE-2 エヴォリューションの持ったビームサーベルの持ち手を正確に撃ち抜いていた。

AGE-2エヴォリューションは、ビームサーベルを投げ捨て距離を取ると反対の手で持っていたハイパードッツライフルをジェガン改に向ける。

エヴォリューションのビームサーベルが爆発した事で機体にひっかかっていたビルの残骸が外れたらしくジェガン改が立ち上がる。

AGE-2エヴォリューションがハイパードッツライフルの引き金を引く。

「そのくらい読めてるっ!」

放たれたビームをジェガン改は姿勢を低くして躱す。

ビームサーベルを引き抜いたジェガン改がエヴォリューションの懐に飛び込みビームサーベルでAGE-2エヴォリューションの右腕をハイパードッツライフルごと斬り捨てた。

AGE-2エヴォリューションはすぐさまビームサーベルを引き抜きジェガン改に切りかかる。

ジェガン改はもう1本のビームサーベルを引き抜くと両手に持ったビームサーベルをクロスさせAGE-2エヴォリューションのビームサーベルを受け止めた。

「私は間違ってた」

ジェガン改のコクピット内、エイラが小さくつぶやく。

「間違ってたことを教えてくれた貴方には感謝してる。

けど、私はここで負ける訳にはいかない!」

2機の持ったビームサーベルが激しく火花を散らす。

「僕にもプライドがある。

簡単には負けません!」

初月も簡単には負けるつもりは無い。

AGE-2エヴォリューションがジェガン改のビームサーベルを少しずつ押し込んでいく。

「私は負けない!

アイカの傍に居るために強くなるんじゃなくって、アイカと一緒に歩く為に、アイカと一緒に強くなるって決めたから!」

それは、エイラ自身の決意を言葉にするのと同時に、この試合を見ているアイカに対する宣誓でもあった。

エイラは手元のボタンの中からリミッター解除と書かれたボタンを押し込む。

ジェガン改の両手足、ジェガンのパーツを流用した部分の関節が大きく軋む。

「ごめん、ジェガン改。

もう少しだけ力を貸して!」

機体の所々に使用されたジェスタのパーツのジェネレーター出力に耐えきれずジェガンのパーツの関節が悲鳴を上げていた。

「リミットは30秒・・・それで蹴りをつける」

押し込まれていたジェガン改がAGE-2エヴォリューションのビームサーベルを押し返しはじめる。

クロスさせてたビームサーベルを振り抜き、AGE-2エヴォリューションのビームサーベルを弾き返した。

弾かれた勢いを利用してAGE-2エヴォリューションが空中へ飛ぶ。

「逃がさない!」

ジェガン改はスラスターを全開にすると宙へ飛んだ。

すぐさまジェガン改とAGE-2 エヴォリューションの距離が縮まる。

その時、ジェガン改のスラスターの一つが火を噴いた。

一気にジェガン改の速度が落ち、AGE-2エボリューションとの距離が開いていく。

「私は・・・勝つんだ!」

ジェガン改が宙を漂っていたコロニーの残骸を足場にして宙でジャンプした。

2機のモビルスーツがすれ違い、一瞬赤い閃光がきらめく。

コロニー表面に着地したジェガン改が崩れるように倒れこむ。

直後、空中に漂っていたAGE-2 エヴォリューションが爆発を起こした。



「勝った...」

リミッター解除と戦闘でのダメージでボロボロになったジェガン改の中で気だるげそうに呟く。

ふと機体の損傷度を示すモニターに目を向ける。

「無理させすぎたか...」

機体各部の損傷は激しく、モニターは黄色や赤色の注意書きであふれていた。

ふと、もっと自分の技量があったらここまで無理させなくて済んだのだろうかと考える。

「戻ろう...」

深く考えることはやめ、エイラはジェガン改のコクピットを後にした。



誰もいなくなった廃棄コロニーの高速道路。

そこに、一台のモビルワーカーが止まっていた。

迷彩塗装の施されたモビルワーカーの傍らに立った少女が、双眼鏡から目を離す。

「観測対象の『ν‐type能力値』、上昇を確認」

そうつぶやくとモビルワーカーに乗り込みどこかに走り去っていった。