第一話 黒の狙撃手

薄暗い中、明滅する幾つかの光

外を映し出すスクリーンに拡がるのは、いくつもの星を含んだ暗い宇宙空間、それをコクピットシートに座りながら眺める1つの人影。

静寂が空間を支配する中、人影がぽつりと「やっぱり、この宇宙はいつも綺麗...」と呟いた。 それと同時に、はるか遠方を映し出していた一つのウィンドウの中に一筋の光が煌めいた、そして大きく咲いた焔の球体。

(あれは、どっちの爆発かな)

先ほど、ぽつりと呟いた少女は、ウィンドウを見ながら気だるげそうにしつつ考えていた。


すると唐突に一つのウィンドウが開く。


soundonlyと書かれたウィンドウから、

「エイラちゃん! もう少しで予定どうりのとこに追い込めるよ!」

と響く綺麗な声。

それに対しエイラと呼ばれた少女は、どこか気だるげそうに「了解...」と呟くと幾つかのボタンを操作し始める。

ボタンを操作する度に高まっていく駆動音。


その駆動音が空間を支配していた静寂を追い払う頃には、エイラの準備は出来ていた。


彼女が操縦桿に手を伸ばし足元のペダルをゆっくりと踏み込むと、少しづつ外を映すモニターの風景が流れ始める。

彼女が操るのは鋼鉄で出来た巨人。

この巨人を人々は「モビルスーツ」と呼ぶ。

この機械の中に人が乗り込み、操縦し、戦っている。「纏う」、「着る」、と表現するにはそれは、人の体に対してあまりにも大きすぎ、この名は少し奇怪に思えるかもしれないが、これに関して論ずることはこの物語の趣旨ではない。

モビルスーツはその姿形も様々なものがある。


エイラの操るこの機体は、全体を黒に近い色で塗られており、肩には大型のスラスターユニットを備えているが、一番の特徴は右手に保持されている長砲身のライフルだろう。

エイラの得意とする射撃を行うために作られたこの機体を、エイラは『ジェガン改 影型』と呼んでいた。


その、宇宙の暗さに溶け込むような、黒い機体はスラスターを吹かしながら一つの漂う残骸に向かっていく。

たどり着くと同時に残骸に身を隠し、ライフルをジェガン改 影型に構えさせると、狙撃のための準備を進める。

その間にも、先ほどの焔の球体が生まれた当たりから飛び交う光の煌めきが近くなってくる。


「そろそろ、かな……」とエイラは相変わらずどこか気だるげそうに呟くが、先ほどとは目つきが変わり、その目は獲物を確実に捉える狙撃手の目つきをしていた。


そして先ほどの焔の球体を映し出したモニターに、二つの影が映り始める。

一つは赤色をベースにした機体で、手に日本刀とライフルを持っている。

これは先ほどのsoundonlyの通信をかけてきたエイラの友達の機体で、ガンダムアストレイ レッドフレームと呼ばれる機体。


もう一つの機体は紺色の追加装甲を纏い、背中にミサイルポッドとビームキャノンを備えたガンダムタイプの機体で、フルアーマーガンダム サンダーボルトと呼ばれる機体である。


その2機がお互いに持っている武装を撃ち合いながら、エイラの狙っているポイントに近付いてくる。

敵のモビルスーツを照準に捉えつつタイミングを見計らっていると、敵のモビルスーツはライフルの弾丸を撃ち尽くしたのかライフルを捨てサーベルを構えた。

それを確認したエイラは、トリガーに指を掛けると、相方の機体に通信を入れ「鍔迫り合い...」とだけ気だるげに呟く。

すると相方のレッドフレームから「了解!」と元気な声を返してくると同時に、レッドフレームもサーベルを抜きフルアーマーガンダムとの距離を詰めていく。

そして2機が互いのサーベルの距離に敵を捉え、鍔迫り合いを始めた途端、一筋の赤色の光がレッドフレームとフルアーマーガンダムのいる場所のはるか遠方から走り、レッドフレームと鍔迫り合いを繰り広げていたフルアーマーガンダムを撃ち抜いた。


撃ち抜かれたフルアーマーガンダムは力を失ったかのように、鍔迫り合いをやめ火花を散らしながら宇宙を漂い始めたが、しばらく漂った後に連鎖的な爆発を始め最終的には、一つの大きな火球となって宇宙の中に消えた。


それを確認したエイラのモニターに映し出されるミッションクリアという文字。


その下に現れた帰投というボタンを押すとエイラの視界は光に包まれた。


その光が薄れた先に広かったのは、先ほどの薄暗いコクピットの中では無く、光に溢れ多くの人が行き交う広場のような場所。

視界の端に映る交流広場と書かれた看板と、そこに大きく書いてある番号を確認するとエイラは一人歩き始めた。


インターネットが大きく発達し、人々の意識をネット上にダイブさせることが出来るようになった世界。

ネット上に様々な仮想空間が展開される中の一つに、人気を集めているサイトがあった。

その名は「ガンプラダイバーズ」。

CPUや他のプレイヤーと戦うことの出来る対戦アクションゲーム。それだけ聞くと普通のゲームに感じるかもしれないがこのゲームは一つの画期的なシステムを持っていた。

コンピューターに接続した専用デバイスにガンプラを入れ、スキャンすると、仮想空間上でその機体に乗り込んで動かせるようになるのだ。

つまりは、自分だけの機体を操り戦うことの出来るゲーム。

その画期的なシステムの影響かユーザーは瞬く間に増加し、今も世界中でユーザーは増え続けている。


エイラもまた「ガンプラダイバーズ」のプレイヤー 「ガンプラダイバー」の一人だった。


エイラは、前方に見えている草むらの近くまで歩いて行き、一つの空いている椅子に腰を下ろすと、徐ろにメニューウィンドウを開き何かを打ち始めた。


「広場の椅子に座っている」と、どうやら先ほどの相方にメッセージを送っているらしい。

それを打ち終わり送信されるのを確認すると「何、しよう...」と一人呟いた。

そしてあたりを見回すと立ち上がり、歩き始める。


その足の向かう先には売店、と言うより出店という方が正しいか、お店をやっているらしい物がありどうやらそこで何かを買うつもりらしい。


たどり着くとエイラはショップの店員に声をかけ「抹茶ラテ 1つ…」と小さな声で呟く。

店員から無事に抹茶ラテ、正確には抹茶ラテのデータというべきなのだろうが、この仮想空間では、すべてがリアルに作られているため、ほとんどの人が飲み物だろうと食べ物だろうとそれが「データ」である事を気にしなくなっているため、抹茶ラテとしておこう。

それを受け取ると先ほど腰を下ろしていた椅子に再び座って相方を待つことにした。

それから数分後、エイラの後方から聞こえてくる数多の音の中に一つの足音、どうやら走っているらしい、が混じり始めた。


来た、と悟ったエイラが振り向くと白色のワンピースを着た少女が走ってきているのが見え・・・盛大にコケたのが見えた、と同時にエイラは、ため息をついた。

(何をどうしたら、あそこまでドジができるのか)そう疑問を抱えながら、少女が起き上がり、再びこちらに走ってくるのを待つ。


先ほど盛大にコケた少女は、コケたことを気にする様子もなく、エイラの座る椅子に近づくと、空いている所に腰を下ろした。


彼女の名は アイカ・ライト

エイラにとって、一緒にダイバーズを遊ぶ友達でもあり、背中を預ける相方でもあり、一番のライバルでもある存在だが、

彼女は多くの事において、エイラの反対に位置する存在である。

例を挙げるならば、ダイバーとしての能力だろうか。

射撃を得意とし、格闘を苦手とするエイラに対し、アイカは格闘を得意とし、射撃を苦手とする。

椅子に座り、走ってきたため上がっている息を整えると、アイカは喋り始めた。

「さっきはありがとね、エイラちゃん、

おかげで欲しかったアイテムが買えるよ!!」と、とても嬉しそうに話しかけてくる。

先ほどの戦闘、正確には対NPC戦を行う「ミッションモード」の、ミッションをクリアした事により、不足していた金額は補えたらしく、付き合わされたといえアイカがとても嬉しそうにしていた為エイラも悪い気もせず「よかった...」、とだけ呟いたのだが「エイラちゃん、またそうやって一言だけになる せっかく可愛いんだからもっと喋らないと!!」と言われたため、少し複雑な気持ちになりつつ(どう返そうか)とエイラが悩んでいると、ピコンという音とともにウィンドウが開いた。

どうやら「ヴェイン・ツクモ」と「エス・ブラックベイ」なる人物が戦うらしいと、フレンドからのメッセージが届いたと言う通知だった。


それを確認すると、エイラはメニュー画面を開きその中にある幾つかのボタンの中から「観戦」というボタンを押すと、現れた検索ボックス中に「ヴェイン・ツクモ」と入力し検索をかけ、出てきた試合の観戦ボタンを押した。


「ヴェイン・ツクモ」

彼は、ダイバーの中でもそれなりに名の知れた人物であった。

そのためエイラは(試合を見たら何かを学べるかもしれない)とヴェイン・ツクモのファンであるフレンドの1人に「もしヴェイン・ツクモが戦う時があったら、教えて欲しい」と伝えていたのだ。

そして、その観戦の時がついに来た訳だが、相手の「エス・ブラックベイ」という名前は聞いたことが無かった。

しかし、ヴェイン・ツクモと戦うということはそれなりの腕なのだろうと思い、とりあえず観戦することにしたエイラは、観戦用に開かれたウィンドウを隣で見たそうに目をキラキラさせていたアイカにも見えるよう拡大した。




どうやらマップは、周囲を海に囲まれた、無人島が幾つかあるマップらしい。


その中の一つの島に、影が降りてゆく・・・いや「落下した」というべきか。


その影が落ちたところには、土煙が上がっているがやがて土煙が晴れ、落下してきた影の姿が露わになる。


その影は、自らが落ちてきた空を見上げていた。


その体は、全体を主に白、青、黒の三色で覆い、腕には一対の実体ブレード、サイドアーマーのウィングスラスターそしてウィングスラスター以外にも両肩、両脚にそれぞれ一対ずつ大型のスラスターを備えていた。

どうやら手持ちの武装は無いらしいが、それよりも・・・「なんでこんなに、ボロボロ...?」と浮かんだ疑問が、エイラの口から零れた。

その疑問の答えは、予想外のところからもたらされることになる。


「これ、多分ウェザリングだよ」とアイカが言うと、エイラは「なるほど...」と納得した。


「ベースはストライク、スタイルは近接か...」とその機体の特徴を上げると同時に(この機体と自分は相性が悪い...)とも感じていた。

エイラの駆る、ジェガン改が適切な距離を保ち続けられればバッテリー駆動であるだろうストライクの改造機に、勝ち目はないだろうが、あの6つのスラスターが生み出すであろう高い推進能力を駆使されれば一気に距離を詰められ、エイラの苦手とする格闘戦になりエイラの勝ち目は無くなると予想出来た。


そして、ストライクの改造機「ストライク改」と名付けられた機体が見上げている先に目を向けるとそこには・・・



宙に佇む天使がいた。



いや、それは天使と呼ぶには余りにも生物らしさが欠けていた。

しかし、金属でできたそのモビルスーツ、純白とバイオレットと金色の装甲に包まれ両翼を広げたその機体は、天使と呼ぶに足るほどに神々しい。

その天使「デルタフリューゲル」は右手に長銃「ロング・メガ・バスター・ライフル改」を左手には剣のような形状をした、大型のシールドをそれぞれ装備していた。

デルタフリューゲルの一対の目が緑の光を放ち、眼下にいる機体を睨む。


唐突にストライク改が動いた。

エイラの予想どうり、ストライク改の推力は相当高いらしく天と地の距離、例えでは無く文字通りの距離だったのだが、その距離は見る間に無くなっていた。

デルタフリューゲルに迫るストライク改が拳を引き、腰を捻ると腕のブレードを前方に突き出す。

それと同時にデルタフリューゲルも動いており、右手に保持していた長銃下部に備え付けられている実体ブレードでストライク改の攻撃を受け止める。

ぶつかり合う二つの剣は互いに火花を散らす。

鋼鉄の天使と黒の巨人は、互いに剣を交わらせつつ静止していかに見えたが、実際には相手の剣を打ち破ろうと互いに関節を軋ませていた。


それを見ていたエイラは、(叶うならこの人たちと戦ってみたい)と感じていた。


と、膠着していた戦闘が再び動き出す


ストライク改が、下方に向けていたスラスターを後方に向け一気に推力を増すとだんだんとデルタフリューゲルが押され始めた。


しかしその直後、ストライク改のバーニアがほんの一瞬だけ赤い炎を上げたのをエイラは見逃さなかった。


どうやら、ストライク改はバーニアに頼った機動を多用するらしく、バーニアが長くは持たないようだと推測するエイラ。


ストライク改は唐突に、左腕のブレードでデルタフリューゲルを切り裂こうとしたが、その刃がデルタフリューゲルを捉える直前、ストライク改とデルタフリューゲルの距離が一気に開く。

デルタフリューゲルがストライク改を蹴飛ばしたのだ。

体勢を崩していたデルタフリューゲルだったが、ストライク改を蹴飛ばした事により生まれた数秒はデルタフリューゲルが体勢を立て直すのに、充分過ぎる時間だった。


体勢を立て直すと同時にライフルを構え、引き金を引くデルタフリューゲル


その銃口から放たれた光がストライク改を捉えるかと思われたが、ストライク改が直前に右肩部のバーニアを吹かし機体をずらした事によって光がストライク改を捉える事は無かった。

だが、デルタフリューゲルは、回避をした直後のストライク改をシールドに備え付けられた連装ビームキャノンの照準に既に捉えており、引き金を引いていた。


それに対しストライク改は、再び機体を右にずらして連装ビームキャノンを避けるとデルタフリューゲルに突撃を始める。


デルタフリューゲルはストライク改の突撃に対し、ビームキャノンによる牽制と各部スラスターの使用による後退で距離を保とうとしていたが、ストライク改の驚異的な推進力により一瞬にして距離を詰められてしまっていた。


距離が詰まった直後、ストライク改が横薙ぎの蹴りを放つがその蹴りが相手を捉えるより早く・・・

デルタフリューゲルの体当たりが炸裂していた。


どうやら、シールドを構えながら推進方向を一瞬にして切り替えたようだ。


体当たりを食らい弾き飛ばされたストライク改は、先ほどの島に再び落下していた。


しかし、ストライク系統の機体はフェイズシフト装甲を持っているため、落下や体当たりによるダメージはほとんど無いだろうと予想するエイラ。


フェイズシフト装甲とは、起動・維持に大量の電力を消費する代わりに、起動中は物理的なダメージ・・・先ほどの落下や体当たり、実弾式のライフルの弾丸などを、ほぼ無効化出来るという代物だ。


そんなに事を考えている間に、戦局は動いていた。


デルタフリューゲルは地に落ちたストライク改に、既にロング・メガ・バスターを放っていた。

放たれたビームがストライク改を呑み込む直前、右手を体の前に構えたストライク改の右手の甲から、青い光が膜のように広がっていた。


デルタフリューゲルが放ったビームは、その青い光の膜に触れると途端に拡散していってしまう・・・。


「ビームシールド...!」

「ビームシールドだ!!」

とアイカとエイラは、ふたり同時に感嘆していた。


しかし、どうやらデルタフリューゲルの持つ「ロング・メガ・バスター」の方が、ストライク改の持つ「ビームシールド」より強力であるらしい。


数十秒は続いていると思われるビーム同士のぶつかり合いの中、ストライク改のビームシールドが煌めいた直後、デルタフリューゲルの放っていたビームがストライク改のビームシールドを撃ち破っていた。



轟く爆音・・・燃え上がる爆炎・・・


終わりを確信したのか、デルタフリューゲルが燃えんばかりの熱気を銃口から発している銃を下ろした・・・


「ストライクの方、負けちゃったか・・・」と呟くアイカ。


しかし


「まだ終わってない」と返すエイラ。


「えっ?」とアイカが反応した直後、デルタフリューゲルの持つライフルが真っ二つになり、爆発した。

どうやらデルタフリューゲルのパイロットも直前に気がついたらしいが、あと少し機体を反らすのが遅ければ、勝敗は喫していただろう。


切断され半分だけ残っていたライフルの残骸を投げ捨て、背面のファンネルラックからサーベルを抜くデルタフリューゲルと、煤に汚れながらも左手のブレードを体の前に構えるストライク改。

緑と金・・・双方の瞳の光が交差する。

睨み合いながら動かない2機・・・タイミングを見計らっているのだろう。

「ストライク改はどうやってあのビームを避けたの?」とエイラも抱える疑問を口にするアイカ。

その答えは、ストライク改の右腕を見たエイラによってもたらされる。

「右腕を見て...」とエイラが言うため、ストライク改の右腕を見たアイカは驚いた。

なぜなら、ストライク改の右腕の肘から先が無いのである。

「多分...シールドが破られる直前に自分で腕を切って上空に逃げたんだと思う...」と言うエイラの言葉を聞いたアイカは、納得すると同時に、感嘆していた。


動き出すストライク改だが、とてもトリッキーな動きをしている・・・どうやらスラスターの幾つかが死んでいるらしい。

少しでも操作を誤れば水面や島に高速で落ちることであろう。

恐らくバッテリー残量が厳しくなっているであろうストライク改が、もしそうなればフェイズシフトを持ってるといえタダでは済まないだろう。

しかし、スラスターが死んだとにより生まれたトリッキーな動きは、ビームを避けながらデルタフリューゲルとの距離を詰めるストライク改にとっては大いに役立っていた。


「凄い機動・・・」と感嘆するアイカ。

「エス・ブラックベイ...彼は強い...」と感じるエイラ。


しかし、デルタフリューゲルのパイロット、ヴェイン・ツクモもやはり腕のあるパイロットだった。

トリッキーな機動で宙を舞うストライク改だったが、気が付くとストライク改はデルタフリューゲルの放ったファンネルの包囲網に捕らえられていた。

フィン・ファンネルとデルタフリューゲルの持つシールドにある連装ビームキャノンが幾つものビームを放つ。

角度、方向を変えながら幾度とビームを放つフィン・ファンネルと、シールドから放たれる連装ビームキャノンは少しずつ、しかし確実にストライク改の逃げ場を奪ってゆく・・・。

包囲網に捕まり逃げ場を失ったストライク改に止めが刺されるか、と思われたその時、ストライク改が包囲網から抜け出した。


青色の鬼神を思わせるストライク改、その金色の目がデルタフリューゲルを捉える。


一直線に向かってくるストライク改を迎え撃とうと、サーベルを振るうデルタフリューゲル。


袈裟に振るわれた斬撃を、左手の甲から発生させたビームシールドで横に受け流したストライク改が、左手を開きデルタフリューゲルを捕えようとする・・・。

その手は、どうやらHGのデスティニーガンダムの手であるらしい。

その手が、避けようとするデルタフリューゲルの右手を掴むと同時に、鋭い光を放った。


「パルマ・フィオキーナ」その武装は、『ガンダムSEED DESTINY』の主人公機 デスティニーガンダムの武装。掌に備え付けられたビーム砲で敵機を破壊するという武装である。


パルマ・フィオキーナによって右腕を破壊されたデルタフリューゲルは、距離を取るとシールドを機首とした戦闘機のような姿の高速巡航機形態「WR (ウェーブ・ライダー)」へと変形し空高く飛翔した。

「なるほど...変形機構は健在...」と、いつもどうりの様子の、エイラだったが(ここからどうなる...)と内心は凄くワクワクしていた。


飛翔したデルタフリューゲルは上空からストライク改に再び接近を始めると同時に、7基のフィン・ファンネルがストライク改に襲いかかる。

どうやらフィン・ファンネルで再びストライク改を取り囲もうとしているようだが、ストライク改はバーニアの損傷を感じさせないほどの機動を見せ、フィン・ファンネルから放たれるビームを避けていたが、ストライク改が唐突にデルタフリューゲルへと突撃を開始した。

「なっ、特攻!?」とエイラは驚く。


何故なら、ストライク改はデルタフリューゲルの真正面から突っ込んで行くのだ。


ストライク改とデルタフリューゲルの両機が接触するまでは、多く見積もっても半秒しかない。

そんな速度では、正面から飛来するビームを避けるのは不可能だ。


ウェーブ・ライダー形態のデルタフリューゲルの機首、シールドから放たれるハイ・メガ・キャノン・・・。

エイラも(これで勝負がつくだろう)と思っていた。

だが、ストライク改は驚異的な反応速度を見せ、迫り来るハイ・メガ・キャノンを機体をスラスターによって下方にずらすことによって避けたのだ。

「なっ、ニュータイプ...まさか...」と驚愕するエイラ。


そのまま交差する2機。


ストライク改の武装のリーチでは、デルタフリューゲルを捉える事は出来ない・・・はずだった。


突然、デルタフリューゲルが機首のシールドごと真っ二つに両断され爆散した。



爆炎を背に佇むストライク改は、左腕の実体ブレードから紅の光の刃を出していた。

どうやらストライク改の腕部ブレードは『機動戦士ガンダムSEED』に登場する「イージスガンダム」のクローを元に作られているらしい。そのクローはビームサーベルの基部を兼ねているため、ストライク改も腕部ブレードを基部としてビームサーベルを扱えたのだ。



観戦用のウィンドウに表示される戦闘のリザルト画面。


それをしばらく唖然としながら眺めていたエイラだったが、アイカの一言によって我に返る。


「凄い試合だったね!!」とはしゃぐアイカ、我に返ったエイラは「うん...」と返事をする。


「あたしも強くなりたい!」と言うアイカであったが、少し考え込む表情をした後・・・

「私、自分専用の機体が欲しい」と呟いた。


アイカの使うアストレイレッドフレームは、ただ素組しただけの代物であったためデルタフリューゲルとストライク改という二機の改造機を見て創作意欲が刺激されたのだろう。


「作れば...良い...」といつもの調子で気だるげそうに答えるエイラ。


「わかった!頑張る!」と意気込むアイカだったが、広場にある時計を見て愕然とした。


「もうこんな時間!? ごめんエイラちゃん、今日はもう落ちるね! お疲れ様!!」と言うと素早くメニューを操作してログアウトしていった。


どうも、アイカの親は時間に厳しいらしい・・・。

「お疲れ様ぐらい...言わせて」と先程までアイカがいた所を見ながら呟くエイラだったが、特にする事も無かったのでログアウトする事にした。