第二話 特訓

ログアウトが完了し、現実世界に戻ってきたエイラ。


時計を見ると、昼の11時を少し過ぎた頃。

「お昼作ろう...」とエイラは呟くと、自室を出てキッチンに向かう。


キッチンで冷蔵庫の中身を確認したエイラは、愕然とした・・・


「何も...無い...」

冷蔵庫の中には、僅かな飲み物以外たいしたものが入っていなかった。


「仕方ない...出掛けるか...」とやはり現実でもエイラは気だるげそうだった。

エイラ・シャドウ、現実での名は影月 結(かげつき ゆい)

現実では、ごく普通の女子高校生である。

「まずは...着替えるか...」と呟くと再び階段を上り自室に入っていく。


結は今日、学校が休みだったためお昼過ぎまで寝れると思っていたのだが、朝早くに電話が掛かってきて

(エイラちゃん! 手伝って!!)とだけ言うと、返事を待たずに通話を切られてしまったため、仕方なくダイバーズにログインし電話をかけてきた相手、アイカの手伝いをしていたのだ。

そのおかげでヴェイン・ツクモ対エス・ブラックベイの試合が見れたため、感謝していない訳では無い。

睡眠時間を削られるのは納得がいかなかったわけだが・・・。

部屋に戻ると結はクローゼットを漁る。

先ほどのアイカの電話のあと着替えるのは面倒臭いなと思ったため、寝巻きのままダイバーズにログインしていたのだ。


「これで...いいか」と取り出したのは、黒のジーパンと黒のTシャツ。

(アイカに、見られたらお説教される...)

そんなことを考えながら寝巻きを脱ぎ、着替え始める。

着替えを済まし、財布の中身を確認し玄関に向かう。

玄関には靴が二組、そのうちの1組、スニーカーを履く。

(近くのコンビニ...いや、スーパーでまとめて買ってきてしまおうか・・・)と、考え事をしながら外へ出る。

「曇りか...」

玄関を出てすぐに目に飛び込んできた薄暗い色に染まっている空を眺めぽつりとつぶやく。

1度、深呼吸をして肺の中の空気を入れ替えると「よし、行こう...」と呟き、自転車に跨り、家をあとにする。


数分自転車を漕いだ後、結は一つの後悔をしていた。

「寒い...」流石に、秋の終わりも近くに来ているこの時期に、Tシャツだけは少し肌寒く失敗だった。

(今度から気を付けよう)と結は心に決める。

途中、「デザートタイガー」と言う模型店の前を通り過ぎる。

この店は、結もよく利用する店であった。

店主の安藤さん、通称アンディはガンプラに関係する何かしらの資格を持っているようで、店のショーケースに飾られた様々な作品が、ビルダーたちの創作意欲を掻き立てる店として知られていた。

結が初めて自分だけの機体、ジェガン改を作ろうと決意するきっかけになったのも、アンディの作ったガンプラに創作意欲を刺激されたからである。

またアンディは、コーヒーも趣味らしく、交流用に店の奥に置かれたテーブルに座れば、店主自慢のブレンドを味わいながら店主の作品をのんびり眺められると、なかなかの評判である。

結も、コーヒーを飲むためだけに訪れたこともあった。

結がデザートタイガーを通り過ぎる時、中から1人の少年が出てくる。

髪はぼさぼさで、どこか貧相な顔をした少年。

結も「人が出てきた」程度で気に止めずそのまま、自転車を漕ぐ足を動かす。

デザートタイガーを通り過ぎ、数分後。

目的地であるスーパーにたどり着いた結は、数日間の献立を考えつついくつかの食材を買い物かごに放り込む。

レジで支払いをし買い物を済ませた結は再び自転車にまたがり帰路につく。

家に着くと、買ってきたものを昼食で使うもの以外を冷蔵庫にしまう。

冷蔵庫に入れなかった材料は手早く調理していく。

「いただきます...」

出来上がった料理を黙々と食べ続ける結。

食事が終わると使った食器などを片付ける。

片付けが終わったあと(シャワーでも浴びよう)と思い結は風呂場へ行く。

脱衣場で服を脱ぎ捨て、シャワーから出てくるお湯の温度を調整してからシャワーを浴び始める・・・。

そうしながら結は、一つ、考え事をしていた。

(新しい...機体か...)

先ほどのエス対ヴェインの試合のあと、アイカが呟いた一言が悩みの種になっていた。

結自身は、ジェガン改に不満を感じる事は少なかったが、これからエスやヴェインなどの腕の良いダイバーと対戦するいう可能性がゼロと言うわけでは無い。

それを考えると、やはりジェガン改以上の性能を誇る機体があった方が良い。

「作るにしても...ベースは...」

などとシャワーを浴びながら考えていたが、「エスのような敵が出てきたら...」と一つの問題点にたどり着いた。

結ーーエイラの得意とする射撃、それも中〜遠距離を得意とするエイラとエスの相性は悪いだろうと、エイラは自覚していた。

一定の距離を保ち続けれるならばエイラに勝機はあるだろうがエスやヴェインのような強敵が相手になったら一気に距離を詰められて撃破されてしまうだろう。

「機体を作る前に...自分の腕か...よし...」

結は何かを決意したらしく、シャワーを止め風呂場を出ると、髪を乾かし服を着る。

自室に戻るとエイラはダイバーズを起動、ジェガン改をスキャンすると自らの意識をダイバーズへと飛ばす。

表示されたログイン画面にパスワードを打ち込むと、視界は白い光に包まれた。

光が晴れるとそこは交流広場だった。

メニューを開きログインしているフレンドを調べる。

ちょうど目当ての人がログインしていた。

「少し、特訓に付き合ってくれませんか?」とエイラがチャットを送ると「('ω'◎)イイヨー 第二区画で待ってるよー(*゚-゚)」と顔文字付きのチャットが帰ってくる。

それを確認するとエイラは、メニューを開き区画移動を選ぶ。

表示されている四つの区画の中から第二区画を選ぶと、視界が光に包まれていった。

光が晴れた先にあったのは、煌めく海。

第二区画の中にはいくつかのエリアがある。

今、エイラの居るエリアは、海と浜辺をモチーフにしているらしく気温も他のエリアより高めに設定されていた。

黒の長袖、長ズボンのエイラは、「暑い...」と暑さに愚痴をこぼす。

服装を変更するため人目のつかないところに移動する。

メニューを開き、手持ちの服の中から暑くなさそうな服を選ぶ。

選んだのは青いジーパンと白の半そでシャツ。

服装が変わったのを確認すると、先ほどのチャットの相手を探し始める。

しばらく砂浜を歩いていると、1人の女性を見つけた。

その女性は、水着にホットパンツといった格好の女性だ。

「居た...」と呟くと、その女性に近付いていく。

近くまで行くとエイラは声をかけた。

「サクヤさん...」

こちらを振り向いた女性はにこやかな返事を返してきた。

「久しぶりだね、エイラちゃん。 特訓したいなんて急にどうした?」


「実は...ある試合を観戦して、自分もある程度、格闘戦能力を鍛えたいと...」

エイラが言うと

「なるほどね。

でも、それならアイカちゃんに頼むべき何じゃないかなぁ・・・」とサクヤが言う。

エイラは、「私は、強くなりたい...アイカを守るために...そのためには、アイカより強くならないと...」と答える。

「なるほどね・・・まぁわかった、特訓はいつからがいい?」サクヤが、特訓を引き受けてくれたのでホッとする。

その後すぐに、日程やどんな特訓をしたいかを話し合い始めた。


翌日、エイラがダイバーズにログインすると、サクヤは既にログインしていた。

エイラは、昨日と同じ第四交流広場に移動しサクヤに声をかける。

「おはようございます...」

と挨拶するとサクヤは

「おはよ。 早速、特訓始める?」と返してくる。

「はい...」とエイラが答える。

すると、ウィンドウが開き『サクヤ・ミナトさんからトレーニングルームに招待されました。』とメッセージが表示される。

エイラは、そのメッセージの下に出現した、二つのボタンのうちの一つ、参加を押した。

視界が光に包まれる。

その光が晴れた先は、慣れ親しんだ愛機の、ジェガン改 影型のコクピットだった。

目の前のスクリーンに広がるのは、赤と緑の光が点滅するカタパルト。

「頑張ろう...」と相変わらず気だるげなエイラ。

「エイラ・シャドウ、ジェガン改 出るよ...」と小声で呟くとペダルを踏み込む。

徐々に加速するジェガン改・・・

そしてカタパルトの端まで来るとレバーを操作してジェガン改をジャンプさせる。

カタパルトから飛び立つと一気に視界が開ける。

そこには、街が広がっていた。

「市街地戦...」とエイラは呟くと、ゆっくりと機体を街の通りの一つに降ろしていく。


ジェガン改の足が、路面につく。

それと同じタイミングで通信が入った。

「エイラちゃん、準備はいい?」とサクヤが聞いてくる

「何時でも大丈夫です、師匠...」と答えると、「ハハハ、師匠か 懐かしいな」とサクヤが笑う。

サクヤはエイラとアイカがダイバーズを始めた時に、戦い方や機体の動かし方など、様々な事を教えてくれていた人だった。

「それじゃ行くよ! 可愛い弟子だからって手加減はしないからね!」とサクヤが言う。

しばらくすると、ビルの角から1機のMSがスラスターを吹かしながら飛び出してきた。


「ジム・ストライカー」

機動戦士ガンダムに登場する量産型モビルスーツ、ジムを近接戦闘向きにチューンナップした機体である。


エイラのためにわざわざ近接型の機体を出してきてくれたのだろう。


エイラは、レバーを握り直すと、右手側のレバーに付いているボタンを押し込む。


するとジェガン改は、右手に保持していたハンドガンを、突撃してくるジム・ストライカーに向かって撃ちはじめる。


「その程度の牽制なら効かないよ!!」と言うとサクヤは、手に持っている槍、ツイン・ビームスピアを振る。

「くっ...さすが師匠...」

ジェガン改が放った銃弾は、すべてジム・ストライカーの振るったツイン・ビームスピアのビームにかき消されていた。

「さて、次はこっちの番!」と言うとサクヤは、ペダルを踏み込みジェガン改との距離を一気に詰める。

「くっ・・・」

エイラは、慌ててサーベルを抜こうとするが「遅い!」と言うサクヤの声とともに、ジェガン改はコクピットを切り裂かれてしまった。


「うーん、やっぱり機体が格闘に向いてないね」と、帰還したエイラに先程の戦闘の反省点を上げるサクヤ。

「やっぱり...そうですよね...」と俯くエイラ。

もともとジェガン改 影型は、中距離~遠距離での射撃戦を想定して作ってあるため、射撃時の反動を吸収しブレが少なくなるよう、機体自体を全体的に重くしてあるのだが、近接戦闘においてはそれが裏目に出てしまっていた。

「とりあえず、特訓は続けてあげるけど、機体は変えた方がいいかもね」とサクヤに言われるエイラ。

「わかりました...少しプランを考えときます。」とエイラは答える。


このあと、日が暮れるまで特訓したエイラだが、ジェガン改とともに爆発した回数は数え切れなかった。


そして、少し時間は遡る。


エイラと別れ、ログアウトしたアイカは、慌てて階段を駆け下り、お昼ご飯を食べようとしていた。

「藍華、少し遅いわよ。 またダイバーズをやっていたの?」

そう言われたアイカは「うん、ごめんね、お母さん」とだけ答えるとご飯を食べ始める。

「ハマるのはいいけど、やる事はちゃんとやるのよ」と先程、お母さんと呼ばれは女性が言う。

「分かってるって」と答える藍華。

アイカ・ライト、本名は、望月 藍華(もちづき あいか)

結の幼馴染であり、大親友である。

「あっ、そうだお母さん。 私あとで少しデザートタイガーに出かけてくるね。」と藍華がいう。

「デザートタイガーに? 珍しいわね。」と少し驚く母に藍華は「自分だけの愛機を作ろうと思ってね」

と言うとおかずのコロッケに箸を伸ばす。

「なるほどね。・・・そうだ、デザートタイガー行くならファイアフライのプラモ買ってきてちょうだい。お金は渡すから。」と母親がいう。

藍華の家庭は母子そろってプラモデルを作っていた。

母親に関しては戦車や艦船などがメインなのだが。

そんなことはさておき、お昼ご飯を食べ終わった藍華は、食器を片付けると出掛ける準備をする。

自転車に跨り、漕ぎ出すと同時に作りたい機体のイメージを考える。

(どうせ、射撃は下手だから格闘戦メインかな・・・ 結ちゃんみたいに射撃が上手ければなぁ・・・)などと考えながら自転車を漕ぎ続ける。

しばらく自転車で走るとデザートタイガーにたどり着いた。

自転車を止め、デザートタイガーに入店すると、珈琲のいい香りがしてくる。

深呼吸をしてその香りを堪能する藍華。

そんな事をしていると奥の方から1人の男の人が声をかけてくる。

「おっ、いらっしゃい藍ちゃん。 今日もお母さんのお使いかい?」とこの店の店主、アンディが問いかけてくる。

「それもありますけど、愛機を作るための買い物もです。」と藍華がこたえる。

「おお! 藍ちゃんもついにオリジナルを作るのか!」と嬉しそうに言うアンディ。

「珈琲1杯貰って良いですか?」と藍華が聞くと、「もちろん、ゆっくりしていって。 いつものでいいかい?」と快く答えてくれるアンディ。

「はい、いつもので」と答えると藍華は、店の奥にある交流用の椅子に座りながら、アンディの作ったプラモを眺める。

(ストライクガンダムとかアストレイベースだとバッテリーの問題があるし、かと言ってファーストシリーズだとオリジナリティがなぁ・・・)などと考えていると、「お待たせしました。 ブラックです。」とアンディが珈琲を持ってくる。

「ありがとうございます。」と藍華が答えると「少しはイメージが固まった?」とアンディが聞いてくる。

「作るなら近接戦闘系の機体なんですけど、ベースが決らなくて。」と藍華が言うと、「ならモビルファイター系とかかな? 」とアンディが進めて来るが「流石にあのスーツ着るのは嫌です。」と言う藍華。

「うーん、ならストライク系とかどうだろうか、後々の改造もしやすいよ?」と再びアンディが勧めてくるが、「でも、バッテリーの制約が・・・」と藍華は、イマイチ決まりきらない表情をする。

「まぁ、あまり口を出すのも良くないか。 ゆっくりしてっていいから、じっくり考えていきな」と言うとアンディは店の仕事に戻っていった。

(どうしようかなぁ)

珈琲を飲みながら、再びアンディの作った作品を眺める藍華。

すると、一つの作品に目を止める。

それは、HGのフリーダムを改造した機体らしい。

「フリーダムか・・・」と呟く。

交流用にテーブルに置いてあったノートとペンを手に取るとフリーダムガンダムの改造のイメージを絵に起こす。

「よし!決まった!」

そう言うと空になった珈琲のカップを返却し、ガンプラの並ぶ棚から目当てのものを探し始める。

「これだ。」

藍華が、手に取ったのは『HGCE フリーダムガンダム』。

それといくつかの塗料などを持ち、レジに進む。

「ほぉ、フリーダムか、イイねぇ・・・ 完成したらぜひ見せに来てくれよ」とレジに居たアンディが言う。

「あんまり期待しないで下さいよ」と藍華は、笑いながら答える。

デザートタイガーを出た藍華は、再び自転車に跨り帰路につく。

家に着くと藍華は、部屋に篭もり買ってきたフリーダムガンダムを弄り始めた。

―――――――――――――――――


翌日、身支度を済ませた結は家を後にする。

「眠い..」といいながらあくびをする。

(なんで学校なんて...)等と考えつつ

同じ制服を着た学生たちとともにバスを待つ。

すると「結ちゃ〜ん おはよ〜」と藍華がいいながら近づいてくるが、途中で木の根に躓き転びかける。

「うわぁ! っとと」

藍華は、両手を左右に広げバランスを取ることでなんとか転ぶのは回避した。

「やっぱりドジ」と結が言うと「そんなことないよ!」と返してくる。

そんなやり取りをしているとバスが来たため乗り込んだ。


座席に座ると藍華が「帰りにデザートタイガーに寄っていい?」と聞いてきた。

「いいよ・・・私も行きたい」と返事をする。

その後他愛の無い話をしながら、バスに揺られていると「野浦高校前、野浦高校前・・・」とアナウンスが流れる。

「さっ、行こう結ちゃん」といい、藍華が立ち上がるので、結も一緒に立ち上がる。

料金を払いバスをおり、校門をくぐると靴箱を目指す。

靴を履き替え教室にたどりつき、暫くするとロングホームルームが始まり、学校が始まる。


―――――――――――――――――

すべての授業が終わり放課後になると、藍華が寄ってきて「結ちゃん、デザートタイガー行くよ!」と言ってくる。

結は帰り支度を済ませると席を立った。

バス停に着くと丁度いいタイミングでバスがバス停に入ってきた。

乗り込んだバスが動き出すと藍華が「結ちゃんは何買うつもり?」と聞いてきたので「とりあえずは、新しく作るかもしれない機体のベースの下見...」と答える。

「結ちゃんも、新しく作るのか」と何故か嬉しそうに言う藍華。

結は「ジェガン改が気に入ってるから...乗り換えるかは未定だけど...」と言う。

そんな会話をしてる内にデザートタイガーにほど近いバス停に着いたのでバスをおり、デザートタイガーまで徒歩で向かう。

デザートタイガーにたどり着くとアンディが快く迎えてくれた。

「おお、仲良し2人組か。 いらっしゃい」

「その呼び方...やめて下さい...」と藍海と2人で来た時に毎回起こるやり取りをすると「ハハハ、まぁゆっくりしていきな」と、アンディが言う。

結はベースにする機体を探すためにガンプラの積まれた棚に、藍華は塗料の置かれているコーナーに、それぞれ別れていく。

いくつものガンプラが置かれた棚の間を歩きながら結は、新しく作る機体のイメージを膨らませる。

(それなりに機動力もあって重くない機体か...もしくは・・・)と一つの箱が目に止まる。

その箱を手に取る結。

「F91か...」その箱は、『機動戦士ガンダム F91』に登場する主人公機『ガンダム F91』の箱であった。

「これをベースか...」と結は呟いた。

すると、結と藍華以外の客の誰かが「アンディさん、F-4 ファントムのプラモって無いっすか?」と言うのが聞こえてきた。

それを聞いた結は「ファントム...幻影か」と1人呟く。

結は脳内でイメージを膨らませる。


エイラの操る、黒く塗装されたF91が宇宙空間を舞う。

デブリを避け、飛來するビームを避け、敵に近づき、すれ違いざまにビームライフルを放つ。


「悪くない...」と呟くと結は近くにあった買い物かごをとり、F91のガンプラを入れ、塗料コーナーに向かう。


塗料コーナーにたどり着くと藍華が悩んでいた。

「うーん、最後の一色が決まらないなぁ・・・」とボヤいているのが聞こえてくる。

そんな藍華を、横目に見ながら結は自分の塗料を買い始める。

「ファントムなら...ファントムグレー...赤い部分は...」ファントムグレーの缶スプレーをかごに入れ、もう一色を選ぶ。

(どうせなら好きな蒼にしよう)と、蒼い色の塗料も、かごに入れる。

すると、横に居た藍華が「なるほど、蒼か!」と言うと、結がかごに入れたのと同じ塗料を手に取りレジに向かって行った。

その後に続くように結もレジに向かう。

レジで会計を済ませると帰路につく。


「結ちゃん、今日はダイバーズやる?」と藍華が聞いてくるが「ごめん...今日も1人で特訓する予定...」と返事をする。

結は藍華に、サクヤと特訓をしていると言う事を話していなかった。

特に隠す理由も無いのだが、ただ結は藍華に自分が"弱い"と思われるのが嫌だった。

かつての、あの時のように自分の弱さを知られたく無かったのである。

「そっか、わかった。また今度だね」と藍華が言う。

「うん...」と結が返事をすると、結の家の前に着いたところだった。

「それじゃ...また明日」

「うん、また明日ね」

と藍華と交わし別れる。

帰宅し自分の部屋に戻った結は、ダイバーズを起動しログインする。

ログインが完了すると、第二区画に移動しサクヤを探し始めた。

「居た、けど...」

サクヤを見つけ声をかけようとしたエイラだったが、足を止める。

サクヤが1人の男性と話をしていたのだ。

(彼氏...?)そう思い、少し様子を見る事にしたエイラ。

その男性の名前を調べると『ウェルス』となっていた。

(あのふたりは...どうゆう関係...?)

などと思考を巡らせていると、どうやらサクヤとウェルスの会話は終わったらしくウェルスは何処かに歩いて行った。

ウェルスが戻ってくる気配が無いことを確認するとエイラはサクヤに近づいていく。

「サクヤさん...今日も特訓を...」と声をかけると「よし、来たねエイラちゃん」といつも通りの返事が返ってくる。

いつものように、特訓用のルームに招待されるので表示される『参加』のボタンを押す。

視界を覆っていた光が薄れると、そこは慣れ親しんだジェガン改のコクピット内だった。

「行こうジェガン...エイラ、ジェガン改...出る」

ペダルを踏み込みジェガン改を加速させる。

カタパルトから飛び立つと眼下には緑の木々が生い茂っていた。

「森林...」

どうやら今度の戦場は森林のマップのようだった・・・。