第八話 力

「えっ…」

エイラは目の前で起きている光景に理解が追い付いていなかった。

なぜ目の前にガンダムイブリースがいるのか、なぜ自分を守るかのようにロストフリーダムの前に立ちはだかっているのかが理解できなかった。

「言いたいことは色々あるんだろうけど、とりあえず後で。

このいけ好かない奴を追い返したらね!」

ガンダムイブリースが受け止めていたロストフリーダムの対艦刀を押し返すと、双方共に距離を取る。

「対象変更、目標"NoNo"」

「そうやって相手を見下すと痛い目見るわよ"No1"」

"NoNo" ノーナンバーと呼ばれた紫の瞳を持つサツキと"No1"と呼ばれたサツキ

それぞれの乗機が得物を手に睨み合う。

先に動いたのはロストフリーダムだった。

両腰に装備されたレールガンを展開、発射する

ガンダムイブリースは即座に反応し放たれた2発の弾丸の内、1発を機体をずらす事で躱し、もう1発を右手に装備したビームライフル/サーベル両用のユニットから発振したビーム刀で切り裂き防いで見せた。

「舐めないでよね"No1"!」

お返しとばかりにガンダムイブリースが打って出る。

ロストフリーダムに対し左腕を向けると腕と一体化したビームバズーカを発射、それと同時に右手のユニットからビームを放ち牽制をする。

ロストフリーダムは迫り来る2つのビームをひらりと交わし、そのままガンダムイブリースの懐に入り込んだ。

「"NoNo"問題点、変化無し」

ガンダムイブリースの懐に入ったロストフリーダムが手にした対艦刀を振るう。

確実にガンダムイブリースを捉える一撃だったが

「ご忠告どうも!」

ガンダムイブリースが自身の左足、異形化し近接戦闘用のクローとしての機能も持つ左足でロストフリーダムの右手を掴んだ事で、その刃はガンダムイブリースを捉える事が出来なかった。

ガンダムイブリースはロストフリーダムの腕を左脚で掴んだまま自身の左腕を振り上げ、ビームバズーカの銃身下部に取り付けられた実体剣をビームバズーカごと振り下ろす。

すぐさまロストフリーダムが拘束を振り切ったため振り下ろされた実体剣はロストフリーダムの頭部アンテナを浅く切り裂くに留まった。

「さすがに一筋縄とはいかないか」

「"NoNo"想定以上の戦闘力を発揮」

そのまま2機は睨み合った。


「エイラちゃん、どうするの?」

上空で2機のモビルスーツが激闘を繰りあいだ、地上では2機のモビルスーツが上空の戦いを見つめていた。

「どうするって…」

頭上で戦闘を繰り広げる2機。

双方共に高レベルの操縦センスを発揮しているためとてもエイラとアイカは参戦する気にはなれなかった。

仮に参加してもガンダムイブリースの足を引っ張るのが目に見えていたから。

「また守られてばかり…」

詳しくは分からないが頭上で戦っているガンダムイブリース、そのパイロットであるサツキは私、エイラを守る為に戦っているのだろう。

それを分かっていながら何も出来ない自分が悔しかった。


「君は参加しないのかい?」

すぐ隣で発せられた声に驚き慌ててそちらを振り向く。

そこには上空で戦ってるはずのロストフリーダムがいた。

エイラのジェガン改とアイカのフリーダムガンダムが身構える。

「おっと、僕は君たちを襲うつもりはないよ」

声の主を乗せた黒い機体はその手に持ったライフルを肩に担ぎ敵対の意志がない事を示していた。

「あなたは誰?」

「いったい…どこから…」

二人揃ってこの機体がいつ現れたのか気がつくことが出来なかった。

黒い機体のパイロットは、顔の見えないヘルメットの奥で再び声を発する。

「ごく普通のプレイヤーさ」

そう答えた後再び言葉を続けた。

「なぜ君たちは戦闘に参加しないんだい?」

投げ掛けられた質問にエイラ達は答えにくそうに返事をする。

「実力差があるし」

「力の差が…」

二人の返事を聞いたヘルメットの奥の声は嬉しそうに笑っていた。

「そうか、力か

ならその力を見せてもらおうか」

声の主がそう呟くのと横にいたアイカのフリーダムのバックパックが爆発するは同時だった。

「えっ…」

爆発の衝撃をまともに受けたジェガン改のコクピットが激しく揺れる。

上下左右に揺さぶられながらエイラは一瞬のスキをついてアイカを襲ったロストフリーダムが、嘲笑うかのようにこちらを見ているのに気がついた。

「っ! よくも!!」

すぐさまガンダムイブリースがロストフリーダムに襲いかかって行ったがロストフリーダムはするりと躱すと再びアイカのフリーダムに攻撃をしかける。

バックパックを破壊され、なす術なく手を、足を奪われて行くアイカのフリーダムを見つめていたエイラの中で何かが弾け飛んだ。

それと同時に自らの意識が愛機と一体化するのを感じた。

「やったなぁぁ!!!」

ジェガン改はすぐ側に落ちていたアイカのフリーダムの大剣、バスターソードを掴み取ると跳躍した。

向かう先では、アイカを痛めつけた失われた自由が迎え撃つかのように滞空していた。

その姿がまるで大切な者を守れない自分を嘲笑うかのように見え、余計にエイラの神経を逆なでした。

「あんたを殺す!」

上段に振りかぶったバスターソードを振り下ろしロストフリーダムにジェガン改が襲いかかる。

「エイラ!ダメ!」

ガンダムイブリースを操るサツキから制止する声が聞こえるがそれがエイラの耳に届くことは無かった。

ジェガン改の振り下ろしたバスターソードはロストフリーダムに難なく受け流されるが、バスターソードを右手だけで持ちすぐさま左手でリアアーマーのビームサーベルを引き抜くと、右手のバスターソードの慣性を使いその場で回転。

左手のビームサーベルでロストフリーダムの対艦刀の刀身を切り落とす。

得物を失った為かロストフリーダムが距離を取りビームライフル2丁を引き抜くと同時にドラグーンを展開、すぐさまジェガン改の周りを赤色のドラグーンが囲う。

「やらせない、行け!GNドラグーン!」

背後から飛翔した紫色のドラグーンが赤色のドラグーンを追い払う。

ジェガン改が1度地面に足を付けると隣にガンダムイブリースが降り立った。

「加勢するわ」

「勝手にして、私はあいつを壊せたらそれでいい」

「はいはい、とりあえず話はあいつを追い返したらね」

一足先に飛び立ったガンダムイブリースがロストフリーダムに切りかかる。

ガンダムイブリースが相手を低空に追い込むような動きで攻撃を仕掛けているのはジェガン改に飛行能力が無いのを見抜いてだろうか。

「気に食わない」

そう言いつつエイラは低空に追いやられていたロストフリーダムに斬りかかっていた。


目を開けると上空でロストフリーダムに対してガンダムイブリースとジェガン改が猛攻を仕掛けていた。

度々聞こえるエイラの声はかつて自分を守る為に戦ってくれた少女の声だった。

「エイラちゃん、ダメだよ、そんな声出しちゃ…」

少女のか細い声は自分のために怒ってくれる少女には届かない。


同じ時、遥か上空で黒い3機のモビルスーツの戦いを見下ろしている男がいた。

「ふははは、これはいい!!」

それは先程ジェガン改とフリーダムアイカカスタムの隣に突如現れた声の主だった。

「さぁ、エイラ・シャドウ、そしてアイカ・ライト、君たちはどんな素敵なものを見せてくれるんだい。」

ロストフリーダムによく似た機体の中で男は1人、世界を観測し続ける。

「もうしばらく君たちの敵になるのはやめておこうか」

ロストフリーダムによく似た機体のバイザーが眼下にいる4機のモビルスーツを見つめていた。


上空から襲いかかるガンダムイブリースの左腕を受け止めたロストフリーダムに下方から飛び上がったジェガン改がバスターソードで斬りかかる。

ロストフリーダムはそれを脚部に追加したジャスティスガンダムのビームサーベルで受け止め、2機に向かってそれぞれレールガンを放つ。

イブリースとジェガン改、共に難なくレールガンを躱すとガンダムイブリースの左腕、アームGNバズーカが砲撃。

ロストフリーダムはそれを腹部のビーム砲を放ち打ち消すと背後から迫っていたジェガン改を迎撃するためドラグーンを向かわせる。

四方から放たれたビームを機体を捩り躱すと、ジェガン改はドラグーンの攻撃が止んだ一瞬に左手に持ったビームサーベルを投げつけた。

持ち主を離れたビームサーベルは脅威となっていたドラグーンを3基同時に貫いていた。

攻撃直後、3基のドラグーンが一直線に並んだ一瞬を狙った一撃は的確に相手の武装を破壊したのだ。

ドラグーンを破壊した勢いのままロストフリーダムにジェガン改が突撃する。

大剣をまるで大槍の様に構え全速力で突撃、ロストフリーダムがその攻撃を避けた所に、ガンダムイブリースのGNドラグーンが襲いかかった。

「いい加減落ちなさい"No1"!」

GNドラグーンに追い立てられロストフリーダムが逃げ惑う。

しかし、逃げた先には黒いジェガンが立ち塞がっていた。

「これで終わり」

右手にバスターソードを持ち、左手に新たに引き抜いたビームサーベルを持ったジェガン改がロストフリーダムに迫る。

「これは私の分」

振り抜かれたビームサーベルの後を追うようにロストフリーダムの右腕が宙を舞う。

「そしてこれがアイカの分」

背後に回り込んだジェガン改の持つバスターソードがロストフリーダムのバックパックに突き刺さる。


それと同時にジェガン改の両手と頭部が切断されていた。

「は…?」

サブカメラに切り替わった為、荒い映像の中でジェガン改の両手と頭部、そしてガンダムイブリースの頭部が重力に引かれ落下していった。


「いや〜すまないね さすがにこれ以上やらせる訳には行かなくてね」

ロストフリーダムを抱き抱えた黒いフリーダムガンダムを操る男が言う。


一瞬で二機の頭部を切り落として見せた機体

ロストフリーダムによく似たその機体の名をNoNoは知っていた。

「ゼロフリーダムっ」

重力に引かれ地面に墜落したガンダムイブリースのコクピットでサツキが悔しそうにゼロフリーダムと呼ばれた機体を睨みつける。

「せいぜい足掻くといいさ"出来損ない"。

まぁ君が足掻いたところで計画に問題は出ない訳だが、人が足掻いてるさまを見るのは悪くない。

データも取れたようだし僕はここで帰らせてもらうよ」

ゼロフリーダムはロストフリーダムを連れ何処かへ飛び去っていく。

「クソッ!」

サツキはガンダムイブリースのコクピットで両手をモニターに打ち付けた。