第七話 失われし自由

広々と続く砂漠で爆炎が上がる。


赤と白で塗装された敵機に照準を合わせトリガーを引く。

構えたバズーカ砲から白煙を引きながら弾頭が発射された。

放たれた弾頭が敵機を爆散させるのと相方のバスターソードが別の敵機を真っ二つにするのはほぼ同時だった。

「お疲れ...」

「お疲れ〜」

いつもと同じく気だるげそうなエイラと少し疲れた様子のアイカ。

流石に20機のジムを相手して疲れた様子だ。

ジェガン改用の新武装のテストとアイカのお金稼ぎを兼ね「ジム40機殲滅」と言うミッションモードをやっていた。

「あと1回やったら集まるかなぁ」

「わかった・・・」

このミッションの報酬では、目標の金額までゲーム内通貨が貯まらなかったらしい。

自動で開かれていたメニューから帰投を選択し交流広場へと移動する。

「あれ、アイカさん?」

交流広場広場に戻った途端、隣にいたアイカが声を掛けられた。

「ゴウさん、こんにちは。

今日も一人で特訓何ですか?」

「うん、今度近くのお店で大会があるからそれに向けて」

「なるほど」

アイカとゴウと呼ばれた青年が話始めたのでエイラはすぐ近くにあったベンチに座って二人が話し終わるのを待つ事にした。


一昨日、エイラがずっと抱えていた想いを打ち明けたあと、泣いたり笑ったり忙しかったアイカだったが、それ以降は今まで通りに接してくれている。

アイカの方を眺めつつ物思いにふけっていると

「エイラはどうする?」

唐突に話題を振られた。

「え...何を...?」

「今度デザートタイガーでバーサスアストレイ大会って大会やるらしくてそれに出るか出ないかの話」

「なるほど...」

デザートタイガーでは、定期的に大会を開催しているのだが、まれに参加可能機体に制限をかけた大会が開催されていた。

聞けば今回はガンダムSEEDシリーズに登場するガンダムアストレイをベースにしたガンプラが参戦できる大会らしい。

「アストレイか...」

アストレイシリーズのガンプラならリアルグレードの「ゴールドフレーム天ミナ」が家にあったが大会当日まで1週間とない。

「今回は出場しない...」

たった1週間で大会で勝ち抜けるレベルの改造をゴールドフレームに施すのは無理だと考えた為に出場は断念することにした。

「エイラちゃんが出ないなら私も出ないかなぁ」

その後、学校を休んでいる友達の見舞いに行く時に焼きプリンを持っていきたいがオススメは無いか?とゴウに聞かれ、デザートタイガーのすぐ隣にあるコンビニでのみ売っている焼きプリンをオススメした後、ゴウがログアウトするというのでそれを見送る。


「さてとっ」

ゴウがログアウトしたのを確認するとアイカが少し伸びをしながらこちらを見てきた。

「わかった...」

僅かに目標に届かなかったお金稼ぎの続きをするべくエイラはベンチから立ち上がる。

「さっきと同じので良いよね?」

と問いかけてくるので無言で無言で頷く。

目の前に開いたミッションモード参加を問うウィンドウから参加を選ぶとエイラの視界を光が覆った。


目を開けるとそこは慣れ親しんだ愛機のコクピットシートだった。

ゆっくりと深呼吸してから操縦桿を掴む。

「エイラ・シャドウ、ジェガン改機動戦闘装備...出撃する...」

カタパルトを1機の黒いモビルスーツが高速で駆け抜けた。


フィールドの風景をみてエイラは違和感を覚える。

眼の前に広がる光景が先程のミッションの時と異なるのだ。

ミッションモードでは、フィールド固定タイプのミッションとランダムフィールドタイプのミッションがあるが、今回挑戦しているミッションはマップ固定タイプのはずだったのだが

今、目の前に広がっているのは燃え盛る市街地。

ジェガン改を燃え盛る炎の影響を受けない安全な場所に着地させつつ周囲の状況を探る。

地面に機体が触れた途端、重力を感じたという事はおそらくコロニー内なのだろう。

少し遅れて隣にアイカのフリーダムが降りてくる。

「バグかな?」

「さぁ…」

どうやらアイカも同じ疑問だったらしい。

「とりあえずミッション受け直すね」

アイカがメニューを開きミッション破棄を選択しようとする。

「あれ? 無い?」

「無い…?」

「うん、破棄のコマンドが無い」

エイラも確認するが確かに破棄のコマンドが無くなっている。

二人が困惑していると突如声がした。

「破棄は選択不能」

二人が声のした方を振り返るとそこには片翼の黒い機体が居た。

ベースに『ガンダムSEEDDESTINY』に登場するストライクフリーダムガンダムを用い、黒を基調としたカラーリングで赤と黒で彩られた翼を右側だけに持ち金色の大剣、シュベルトゲベールを手にした機体がこちらを見下ろしていた。

ジェガン改のモニターに表示されているその機体の名前は

「ロストフリーダム」

ガンダムイヴリースを操るサツキが気をつけろと言っていた機体名である。

ジェガン改とフリーダムガンダムの二機がロストフリーダムに対して身構える。

「エイラちゃん」

「分かってる…あいつは敵…」

この状況でミッション破棄が出来ないと知っていたとなればあのロストフリーダムが元凶なのだろう。

「対象の能力値、計測開始」

機械的に喋るその声は、紫の堕天使を操るサツキの声によく似ていた。


ロストフリーダムは片翼だけの翼を広げると一気に加速しジェガン改に迫る。

ジェガン改の目の前に迫ったロストフリーダムが二振りの対艦刀を振り下ろすが、二機の間に割って入ったアイカのフリーダムガンダムがバスターソードで受け止め弾き返す。

「エイラちゃん!斬って!」

「わかった...」

レーザー対艦刀を弾き返され少しよろけたロストフリーダムにフリーダムガンダムの後ろからホバー移動を駆使し即座に左側に回り込んだジェガン改がビームサーベルで切りかかる。

横薙ぎに振られたジェガン改のビームサーベルをロストフリーダムは逆手に持ち替えたレーザー対艦刀の先端を地面に突き刺し受け止める。

レーザー対艦刀とビームサーベルが火花を散らし一瞬だけ力比べした後、ジェガン改が飛び退く。

すぐさま、フリーダムガンダムがロストフリーダムの右側から両手に持ったビームサーベルで斬り掛かるがロストフリーダムはバク宙をして回避し1度、高度を取るとフリーダムガンダムに向け急降下。

急降下と共に振り下ろされたレーザー対艦刀を受け止めたフリーダムガンダムの足元が少し沈みこむ。

ロストフリーダムは鍔迫り合いの状態のまま腰部左右のクスフィアス3レールガンを展開、発射しようとするが何かに気が付いたような反応をした後すぐさまフリーダムガンダムから距離を取った。

直後、ロストフリーダムのいた地点を2発のビームが通り抜ける。


アイカがロストフリーダムの注意を引いているうちに距離を取ったジェガン改が、手にしたスナイパーライフルと背面のバインダーに取り付けられたビームライフルで狙撃したのだ。

エイラの狙撃を回避したロストフリーダムはこちらの様子を見るように空中に滞空している。


「アイカ...気を付けて...相手は本気じゃない」

「エイラちゃんもそう思う?」

「うん...」

ガンダムイブリースを操るサツキが気をつけろと言った相手、ロストフリーダムがこの程度な訳がない。

たった少し話しただけだが、あの紫色の瞳をしたサツキが「自分より弱い」相手に気をつけろなんて言うはずがないとエイラは分かっていた。


エイラは上空に佇む、ロストフリーダムに通信を繋ぐ。

そして、接続された通信の画面に映された相手の顔を見てエイラは目を見張る。

「サツキ...!」


そこにはサツキが居た。

しかし、よく見ればエイラやアイカの知るサツキと違い目の色が紫では無い。

驚きつつも通信繋いだ理由を思い出し、サツキに問いかける。

「貴方の目的は何...?」

エイラの問いに対してサツキは

「対象の能力値計測」

とだけ機械のような喋り方で答える。

「そう...」


エイラはロストフリーダムとの通信を切る。


エイラとの通信が切れたのと同時に、ロストフリーダムが動く。


「対象の能力値変化無し

計画をBへ変更。」

突如、背面の翼から赤色のパーツが脱落する。

そのまま地面に落ちるかと思われたパーツは自我を持つかのように動き始め、空中を舞い始める。


「ドラグーン!!」

その正体に気がついたアイカが慌てて回避行動を取る。


ドラグーンとはガンダムSEED作品に登場する無線誘導兵器である。

ファンネルやビットのガンダムSEED作品版であり、わかりやすく言ってしまえば、「パイロットの思った通りに動かせる機動力の高い無人砲台」のようなものである。

ガンダム作品をそれなりに見たことある人ならドラグーンやファンネルなどの恐ろしさは理解しているだろう。


四方八方からビームが飛んでくるのだから・・・。


フリーダムガンダムとジェガン改が回避行動を取りつつドラグーンを迎撃しようとするが動き回るドラグーンに苦戦する。

「素早い...なら...」

エイラはドラグーンからの攻撃を躱しつつロストフリーダムを見る。

予想どうりロストフリーダムの動きは止まっていた。

ドラグーンやファンネル系の武装を使用中はどうしても集中力をドラグーン、ファンネル側に持ってかれるので機体本体の操作は厳かになりやすいのだ。

「そこ...!」

一瞬のスキを見てエイラのジェガン改がロストフリーダムに対してビームライフルを放つ。

しかし、ロストフリーダムはそれを難なく躱してみせた。

「強い...」

思わず唇を噛む。

襲いかかってくるドラグーンを躱しながらエイラは策を練る。

「どうすれば...」

打開策を考えることに集中するあまり、エイラは周りを見れていなかった。


「エイラちゃん後ろ!!」

アイカの声で我に返り、慌ててジェガン改を振り向かせると目前にロストフリーダムが居た。


「誘い込まれた...!」

ドラグーンの攻撃によってエイラは知らず知らずのうちにロストフリーダムの前に誘い込まれていたのだ。


振り上げられていたロストフリーダムのレーザー対艦刀が振り下ろされる。

「殺られる...」

エイラは思わず目を瞑る。


金属と金属がぶつかる音が鳴り響き機体が揺れる。

そして、金属とビームがぶつかり合う音が響く。


数秒の間、目をつぶっていたのだろうか。

少し、違和感を覚え目を開ける。


ロストフリーダムに切り捨てられたと思っていたがエイラはまだジェガン改のコクピットに座っていた。

振り下ろされたレーザー対艦刀は何処に行ったのか気になり前を向くとすぐ目の前にレーザー対艦刀の切っ先があった。

「どうやら無事みたいね」

すぐ近くで発せられた声の方を見ると、こちらに背を向けた紫の堕天使の異形な左腕が失われし自由のレーザー対艦刀を受け止めていた。