音響
空間の形が音の響き方を決定する
ー良い空間の背後に音響設計あり?ー
空間の形が音の響き方を決定する
ー良い空間の背後に音響設計あり?ー
音の3要素として音の大きさ・高さ・音色がありますが、ここに時間軸を加えると音の響き方というのも音の感じ方で重要であるといえます。空間の形状の違いによる響きの差異を調べてみましょう。
音には大きさ、高さ、音色の3要素があります。しかし実際の空間中ではこれらに音の伝わる時間も聞こえ方に影響し、これを一般に音響と呼んでいます。さらに詳しく見ていくと先に述べた音の3要素は建築に直接関係しません。建築が影響するのは「響き」であり音の反射・吸収への作用なのです。
通常、学校や文化施設などでは空間の形に応じて音響設計を行い、最適残響時間を求め、音を聞き取りやすくする工夫がされます。もしかしたらこのテーマに取り組んだみなさんの中には卒業設計で音楽ホールや大講堂を設計しようと考えている人がいるかもしれません。ぜひこのテーマで空間による直接音と間接音の違いを注意深く観察してください。
この実験は騒音の実験テーマとは異なり、音の大きさを測ることが目的ではありません。何を比較したいのかを明確にし、本当にそれが計測可能なものなのかを事前によく検討しましょう。
音の反射や回折は私たちの生活にどのくらい影響しているか? ⇒ 遮蔽物や開口部の状況による違いの計測
空間形状による音の響き方の違いを調べる ⇒ 場所による音の聞こえ方のムラ・残響時間の計測
音環境へ影響しそうな条件例 音源の配置場所・実験空間の大きさ・開口部の開閉状態・天井や床、壁の材質 …etc
大学生にとって良い授業の要素の一つに“教員の声が聞き取りやすい”の項目が挙げられる。実際に授業で使用する教室はどのような音響環境を持っているのか?
声が発される地点から、教室で起こりえる様々な状況を想定し、実測を行うことで、教室の音響環境を評価し、考察を行う。
実際の授業では、よく聞こえない場所が出来てしまう。
824教室を対象に測定を行うことで音の聞こえ方を把握する。
AL教室などの大きな空間では場所によって聞き取りやすさが異なる。
距離と性別等で条件を分け、場所にとって適正な音量を考察する。
基本的には騒音計を使うことになると思いますが、もし残響時間を計測したい場合には研究室にはレコーダーがないのでスマートフォンのアプリや録音機と音波形編集ソフトなどを使って取り出すとよいでしょう。
騒音計を使用する場合には先に騒音のテーマのページを参考に使い方を学習してください。また残響時間をスマートフォンで計測する場合には音レベルの時間的変化の計測には誤差は少ないですが、音レベルそのものの大きさには機械内の信号変換の誤差が含まれるので適していません。
残響時間を実際に測定する例を示します。これはレベルレコーダの代わりにアプリを使用して、スクリーンショットを元に時間変化を記録したものです。
残響時間は目分量で決めていいものではなく、きちんとした定義があります。室内において音を止めてからエネルギー密度が60db減衰するためにかかった時間を残響時間としますが、実際には60db減衰するような波形は少なく線形近似した時間で求めます。
右の例では10号館の階段における吹き抜け空間の反響と、教室の反響を比較したものです。教室と比較して、室容積の大きい階段の空間の方が残響時間が少し長いことがわかります。
残響時間は室容積が大きいほど長くなる傾向が知られています。空間の大きさに注目して実験テーマを決定するのも面白いでしょう。
測定したデータをどのようにまとめるかで考察が変わってきます。特に音響のテーマでは測定した音レベルにハズレ値が含まれていることがしばしばあり、そのまま可視化するとその実験結果が何を示しているのかわかりにくくなってしまうことがあるでしょう。
そういったデータに含まれる特異値に引っ張られることなくデータのばらつきや性質を示すことができるのが累積度数曲線です。Excelの散布図機能などを使って作成することができます。グラフからは「データ全体の○%は△[db]から□[db]くらいのところに集中している」といったことが観察でき、定量的にデータの分布を比較することができます。
レポートでは次のような点に着目するとよいと思います。
どんな風に反射・吸音されてその測定点の音が大きく/小さく聞こえたのか?
音の聴き取りやすさ(明瞭度)はどうだったか?
対象の音を測定する前のノイズの分布はどうだったか?