再刃を繰り返された宗三の話
12/25/2021
「主、また宗三、誰もいないところで話してる」
近侍が、疲れた様子で審神者に告げた。
「最近じゃ、ちゃんと誰かと話してることのほうが少ないよ」
戦の他にできることが、刀にはあまりにも少ない。この本丸の刀剣達は、もうずっと、無力感に浸かっている。
「そう…じゃあそろそろ、限界なのかもな」
審神者に強く諫言した薬研が刀解されてから、もうどれほどの時間が経っただろう。鋼の限界を知りたい、という審神者の好奇心を満たすためだけに再刃を繰り返された宗三は、いつからか、薬研が居ないこともわからなくなってしまった。それからはいつもああして、薬研の部屋だった空っぽの場所で、楽しそうに薬研と会話をしている。
「…牙みたいのが、生えてきたって言ってた」
近侍が、畳のほつれを弄りながらぽつりとこぼすと、ああ、と審神者の無感動な相槌が返ってくる。
「鋼が限界に近づくと、どうやら刀剣男士の身体は劣化するだけじゃなくて、変質していってるみたいだ」
それが何を意味するのか、人の子は気づかずに言う。かわいそうに。きっともうすぐ、この審神者は命を落とすだろう。宗三は落ちたそれを拾って、なぶって遊ぶに違いない。審神者が刀剣の心に無関心であるように、この本丸の刀剣は審神者に対して無関心だった。本日の近侍も、明日の近侍も、明後日も、その次も、審神者が生きる限りずっと、誰も、何も、審神者を慈しもうとはしない。皆、しずかに待っている。宗三が刀剣男士ではなくなり、政府とやらとの契約から解放されて、なんの感慨も無く、この本丸の異分子である唯一の人間をどうこうするであろうその時を。
それからすぐ、宗三はまた再刃された。今回もなんとか形を留めて、けれどもう万全ではなく、休んでいたのを無理矢理に起こされていくつかの検査をされると、いつものように誰もいない部屋でしばらく薬研と話をしていたようだった。が、気配も足音も無く、宗三は突然、審神者の部屋に現れた。
「ねぇ、あなた」
審神者は少し驚いて、けれどまだ何も理解せずに返事をしている。宗三は審神者を主と呼ばなかった。今日がその日なのだと、近侍は廊下へ続く障子を開け放った。きっと本丸中の刀が、事の顛末を知りたがっている。
「薬研、あなたのこと嫌いなんですって」
「え?」
審神者の、人としての終わりは、あっけなかった。宗三はただ、ふっと息を吹きかけて審神者の命を落とした。落として、拾って、こねこねと遊んでいる。宗三がつい、と視線を廊下に向けたので、近侍もそちらに目をやるが、そこには誰も、居なかった。
「薬研、これどうします?」
宗三だけが、会話を続ける。
「ねえ、もしかして」
つい先ほどまで近侍だった、主を持たないただの刀は、ふと、軽くなった心でまばたきをした。
「薬研、いるの?」
宗三にそう尋ねると、宗三もまた、ぱちぱちと目を瞬かせた。
「何を言っているんですか?」
「俺っちはずっと居たぜ」
宗三の言葉に続くように、忘れかけていた低い声が響いた。
~おわり~