東京電気製
「米国型オーヂオン・バルブ」
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左上の写真は、両翼型オーディオンです。東京電気が1917年の製品化前に製造した評価用サンプルと推定しており、現存する日本製最古の3極管である可能性が極めて高いと考えています。
1910年に逓信省電気試験所の鳥潟右一が米国でオーディオンを入手し、電気試験所で評価して得た知見を基に、オーディオンの試作研究が始まりました。オーディオンの実用化に至るまでには、多くの技術的困難を乗り越えなければならなかったと思いますが、その記録は殆ど確認できません。
1915年に米国ATT社が、改良型オーディオンによる電話中継増幅器を用いて、長距離電話中継実験に成功し、実用化したことから、オーディオン実用化が喫緊の課題になりました。1916年には、電気試験所でのオーディオンの実用化に成功し、ATT社と同様に長距離電話中継増幅器の実用化に成功しました。電話中継増幅器に使用していたオーディオンは、電気試験所の製造能力を超えた需要があった為、電気試験所は東京電気にオーディオンの製造を委託しました。
製造委託された東京電気では、試行錯誤を繰り返し、容易には実用化に至りませんでしたが、1917年6月に、東京電気でオーディオンの製品化に成功しました。東京電気では、製品化したオーディオンを「米国型オーヂオン・バルブ」の商品名(型番:UN-100)で販売しました。
展示しているオーディオンには、メーカー名を示すロゴがありません。オーディオンを製品化したのは、欧米ではde Forest以外にはありませんし、日本では電気試験所または東京電気しかありません。de Forest製にしても、東京電気製にしても、製品であればメーカー名を示すロゴは必ず記していますので、製品ではなく電気試験所での内製品か、試験・評価用のサンプルであった可能性が高いです。
製造メーカーを特定する手がかりとして、ガラス封入された電極の引き出し部分(左下の写真参照)にデュメット線(銅クラッド-鉄・ニッケル線)が使用されていることが分かりました。当時、デュメット線を使用できたのは、特許を保有していた米国General Electric社及び特許の使用権を持つ会社に限定されます。更に、オーディオンを製造した実績がある会社に範囲を狭めると、東京電気が製造したことが特定されます。先に述べた通り、製品化される前のサンプルだったと思われることから、東京電気が製品として製造開始した1917年6月より以前に製造された、現存する日本製3極管の中で最古の物である可能性が高いと推定しています。