ろうLGBTQムーブメント、この10年の歩み

Deaf LGBTQ Center 山本芙由美 

■はじまり■

 ろうLGBTQの集まりもまだほとんどなかった頃、聴者のLGBTQの集まりも手話通訳等の情報保障はなく、ろうLGBTQの居場所はほぼなかった。各地に小さいグループはあって「受け皿」にはなっていたが、なかなか「交流」の次の段階へは進めなかった。

 2013年、関西の地で、さまざまなLGBTQ団体が集まって第1回「セクシュアルマイノリティと医療・福祉・教育を考える全国大会(略称「セクマイ大会」)」が開催された。この大会は、医療・福祉・教育の場面で、LGBTQの人々が何に困っているのか、すべての人が使いやすくなるためにはどうすればいいのか等を考えていく場だ。 

 この時、事前に大会実行委員会から大会に手話通訳等の情報保障を設置すること、ろうLGBTQの分科会を設置することの提案があった。私たち、ろうLGBTQの側は喜んでこの提案を受け入れ、手話通訳者の研修や事前学習なども行なった。LGBTQに関する様々な言葉の手話表現についてきちんと話し合われたのはこの時が初めてではないだろうか。そして、ろう者の分科会には全国から約70名が参加した。その中で、ろうLGBTQ独自の集まりを作っていくことの必要性などが強く提起された。これをきっかけに「ろう×セクシュアルマイノリティ全国大会」の準備が始まっていくのである。

 なお、セクマイ大会は、2023年に6回目の全国大会を開催したが、2013年の第1回から常に手話通訳、パソコンテイクなどを設置し続けている。もちろん、ろう者に限らず様々な障害者の参加しやすい条件を追求し続けている。

■第1回ろう×セクシュアルマイノリティ全国大会~東京~■

 2015年6月、東京都港区ヒューマンぷらざ(障害保健福祉センター)で、日本で初めてのろうLGBTQの全国大会が開催された。約70名が集まり、第1回ということで、今後の大会の進め方、大会の参加者の「範囲」(当事者+パートナーと家族だけに限定するのか?支援者等にも広げるのか?)などが話し合われた。また、難聴者も含まれるし、パートナーや家族の中には聴者もいるかもしれない。その場合の手話通訳はどのような形になるのかなども話し合われた。初めてのろうLGBTQ独自の全国規模の集まりで、「これから」に向け、皆が積極的に意見を出し合った。

■第2回ろう×セクシュアルマイノリティ全国大会~宮城~■

 第2回大会は、2016年11月、宮城県仙台市の戦災復興記念館などで開催された。参加者は約60名。この時は、東日本大震災の爪痕もまだ生々しい地での開催ということもあり、「LGBTと災害」というテーマの分科会も開催された。他には、「HIV」、「手話表現」。手話表現について、それぞれこだわりもあり、いろいろな意見が出る。年1回の全国大会だけで適切な手話表現を決めるのは無理がある。 もう少し(全国大会とは別に)相談していく場がほしいという意見もあった。

■第3回ろう×セクシュアルマイノリティ全国大会~大阪~■

 2017年12月、大阪市立青少年センターにて第3回大会が開催された。130人もの参加者があった。分科会は、初めてトランスジェンダーをテーマにしたものが設置されたほか、性自認・性指向についてのものが作られた。予想以上の参加者数に、どこの部屋も満員で、熱い話し合いが進められた。また、二日目は今井ミカ氏の「虹色の朝が来るまで」試写会がおこなわれた。初めて参加する人々が多く、ろうLGBTQの可能性を強く打ち出した大会だった。

■第4回ろう×セクシュアルマイノリティ大会~石川~■

 第4回大会は、2018年10月、石川県の金沢市で開かれた。参加者は約40名。毎回、ろうLGBTQ当事者のいろいろな声が出るが、第4回大会でも、同性婚合法化や当事者向けの老人ホームの必要性など、さまざまな意見が積極的に出された。大会実行委員会に地元から参加することができたろうLGBTQ当事者はただ1名だけだった。特筆すべきは、その1名を中心に、アライ(LGBTQを支援するストレートの人々)の人々が集まって、全国大会を準備し、成功させたのである。 このことは、他の道府県でも開催していける見通しを示してくれた。

■第5回ろう×セクシュアルマイノリティ大会~福岡~■

 2019年11月福岡県福岡市の福岡県中小企業振興センターで第5回大会が開催された。この大会の大きな特徴は、フィリピンのろうLGBTQの人々らを招き、講演してもらい、更に「アジアのろうLGBTQ支援を考える」というテーマでのパネルディスカッションも開催したことである。分科会も、「家族のかたち」や、「ろうLGBTQの視点で考える街づくり」など、新しい分野での討論ができた。参加者は約80名だった。

■「第5回大会」以降とコロナ禍■

 2020年は群馬県で第6回大会が予定されていた。第5回大会でのフィリピンの仲間の参加を引き継いで、第6回大会ではベトナム、ラオス、フィリピン、タイ、マレーシア、香港、韓国の7か国のろうLGBTQの参加が企画され、日本も含めてアジア8か国のろうLGBTQの交流が実現するはずだった。群馬の実行委員会も積極的に準備を進め、大きな前進が期待されていたが、コロナ禍の進行によって中止せざるを得なかった。代わりに、「東南アジアろうLGBTQ会議2021」をそれぞれの国で収録し、動画で配信した。その動画はセクマイ大会2022でも上映された。また、日韓で共同制作した動画「チュルゴプタ!(楽しい!)」はセクマイ大会2021でも配信されている。大会については、翌2021年も群馬の予定だったが、やはりコロナ禍のため、中止となった。

■そして、これから■

 2023年4月、これまでの積み重ねの上に全国組織として「日本ろうLGBTQ+連盟」が結成された。集まる場もほとんどなかったろうLGBTQが、2013年のセクマイ大会への参加を契機に独自の全国大会を毎年開催していくようになり、全国組織も結成された。

 また、全日本ろうあ連盟発行『新しい手話』の本にも、「LGBTQ」や「同性婚」「SOGI」などの手話表現が掲載された。NHKの「バリバラ」や「ハートネット」などの番組でもろうLGBTQの特集が組まれた。

 この10年間の歩みは大変、大きい。LGBTQ全体の様々な取り組みの中で、ろう者はどのような位置を占めていくのか、ろうLGBTQ独自の課題をいかに追及していくのか、また、何よりも、一人ひとりの当事者たちの苦悩と要望にいかに応えていくのか、私たちの課題は大きい。2024年には、沖縄で第6回大会が予定されている。