クニさんインタビュー

ゲイとして、手話通訳者として

IT企業に勤めています、クニです。沖縄出身です。名古屋で暮らして20年目になります。沖縄を出たのは20代で、当時、職場や友人、家族などあらゆる人間関係において「彼女はいるの?」「結婚はまだ?」と聞かれることが多く、その度に、バレる恐怖と差別を気にして嘘をつき続けなければならないことにうんざりしてました。

 そのため、遠いところへ逃げ出したくて、、紆余曲折を経て今は名古屋に住んでいます。全国に支社のある約2000名の社員を抱えているIT企業で働いており、社内でダイバーシティに関わる業務も担当してます。LGBTQに関することを当事者講師として話すこともあります。

〜カミングアウトしていますか?

 名古屋で山本さんたちに出会ったのは10年くらい前ですが、カミングアウトをしてオープンリーに活動している姿に衝撃を受けました。

 当時、自分はまだカミングアウトしていませんでした。自分らしく堂々と生きる多くのろうLGBTQの友人たちと関わるなかで、ずっと隠し続けている自分が恥ずかしくなり、少しずつ少しずつ、自分のペースで勇気を出してカミングアウトをはじめました。手話通訳者の仲間たち、母親や家族、そして会社の上司や社長にもカミングアウトをしました。気持ちがずいぶん楽になりましたね。幸い誹謗中傷はなく、今のところスムーズに生活できています。パートナーもおり交際4年目です。今は一緒に暮らしていませんが、いずれ同居したいと思っています。

〜手話のきっかけは?

 手話を始めて20年くらいです。きっかけはちょっと恥ずかしいのですが、名古屋にきて、初めてろう者でゲイの人を好きになったんですね。

 当時、手話ができなくてしどろもどろでしたが、彼と話したい!もっとわかり合いたい!という気持ちが会うたびどんどん強くなり、気づけば自然に手話を学び始めました。

ろうゲイ中心の手話教室にも通い始め、多くのろう者に教えてもらいながら少しずつ手話を覚えました。もともと愛知県にきたのはワーキングホリデーで海外へ出たくてお金を貯めるためでした、ある程度貯金ができて、いよいよという時、彼に聞いたんです。「あなたを好きになった、もし付き合ってくれるなら日本で暮らしたい、無理ならオーストラリアにいく」って告白したんですね。彼からの返事は「付き合おう」でした。

 結局1年で振られてしまいましたが(笑)、とても落ち込んでしまって、手話をやめようと思ったこともありました。そんな時、ゲイの手話教室の友達が支えてくれて・・・それで、立ち直ることができたんです。当時、手話とろうゲイの友達の存在は大きかったですね。

〜LGBTQ当事者+手話通訳者として思うことはありますか?


 手話を始めて20年くらいですが、2016年から名古屋市の登録手話通訳者として通訳をしています。昼間はサラリーマンなので月2回くらいです。それとは別に、ありがたいことにNLGR+(NAGOYA LESBIAN & GAY REVOLUTION PLUS:名古屋で開催されるセクシュアルマイノリティのお祭り) や名古屋レインボープライドをはじめ、全国のプライドイベントで通訳をさせていただく機会もいただいてます。当事者だからイベント主旨や登壇者の気持ちを汲み取りやすい利点はあると思います。また、ろうLGBTQからも同じ立場だと安心するし、わかりやすいという話も聞きます。当事者ならではの知識や言葉の意味を知っているので、そういった面ではスムーズなのだと思います。


 例えば「結婚」と聞いたら、多くの通訳者は「女性」+「男性」と表すでしょう。そうではなく「男」+「男」、「女」+「女」、または「薬指に指輪をはめる」もあるんだよ、という部分だと思います。男女二元論で語られなくなる社会に早くなってほしいですね。


 あるゲイの友達から「自分はHIVに感染していて、一般の通訳派遣を頼みにくい、だからお願いしたい」と通訳を頼まれたこともあります。通訳の世界もろうの世界と同様とても狭いです。通訳者に守秘義務があるとはいえ、もし知り合いがきたら・・・と思うと、頼みにくかったのだと思います。

〜印象に残った通訳活動はありますか?


 第一回のセクマイ大会(2013年)の通訳でした。自分は手話がまだまだで、終わった後は頭をガツンと殴られたようで自信をなくしかけましたが、 同時に頑張ろう!と心に火がつきました。大会での通訳者同士のチームワークは素晴らしかったですね。とても楽しかったのを覚えています。

〜クニさんはご自分の将来像をどのように描いていらっしゃいますか?


 自分自身のキャリアとマイノリティ性を掛け合わせて、特に若い世代の役に立ちたいと思っています。例えば、手話通訳者は一定数いますが、+LGBTQ当事者になると少ないです。希少だからこそできることもあります。


 少し前にキャリアコンサルタント(国家資格)を取りました。例えばIT知識、LGBTQ当事者、手話通訳者、キャリアコンサルタントなど、ひとつひとつの要素を掛け合わせることで希少性が高まります。


 幼いころ他の人たちと違うことに自分自身が悩んでいたので、将来は悩みを抱えた人たちに寄り添って伴走する、一緒に乗り越えられるよう支援する、次のLGBTQ当事者+手話通訳者をろうゲイと一緒に育てる・・・そんなことができたらとぼんやり考えてます。


(2023年9月)