手話通訳者アンケート調査2023
ろうLGBTQについての通訳を、通訳者はどのように考えているのでしょうか。
2023年8月にインターネットを通してアンケートを実施し、合計54人の方にご回答頂きました。
難しいと感じたテーマ又は内容
医学的なもの・法律関係(同性婚訴訟/パートナーシップ)・学会、学術的なもの・いじめ問題・ホルモン療法・スポーツ・デモでのメッセージ・自殺予防対策・当事者の経験談・ポリアモニー・カウンセリング・哲学的なもの・専門用語の手話表現が無い、または知らない時・性描写の表現・個人的な話(話者の背景がわからない)の時・当事者の体験談を通訳する際、自分も当事者で感情移入しコントロールに苦労した・読み取り通訳時の日本語の選び方・LGBTの歴史に関するものや海外の実践報告
LGBTQ通訳ではカタカナ語(英単語)を多用の傾向がありますが、こうした語は手話通訳を見ても理解が難しいです。できるだけ英単語を使用する事なく、訳せる単語は発信者が責任を持って一番適した日本語に変換してほしいものです。
通訳当日までにしたこと
一般的な通訳・LGBTQ通訳共通
手話単語や表現、意味の確認
資料や関連書籍を読む
講師との打ち合わせ時間を設けてもらう
NET・YouTubeで調べる
通訳者間で手話の共有
講師の過去の講演内容を調べる
通訳当日までにしたこと
LGBTQ通訳独自
ろうLGBTQ+当事者や友人に話して確認してもらう
ろうLGBTQの映画を見る
ろうLGBTサポートブック(2014年/2018年発行)の活用
歴史や背景を調べる必要がある
事前準備については一般的な通訳の場合とほぼ変わりが無いことがわかりました。LGBTQ通訳においては「サポートブックが役にたつ」という声が多数あると同時に、まだ表現が決まっていない性に関する用語の手話化を望む声も多く寄せられました。
事前準備で「当事者に話して確認してもらう」というのは理解できる一方で、自分が受けた通訳のことをどこまで話されているのだろうと気になる事柄でした(アウティングと紙一重ではと思うところです)
「思わない」と答えた理由
打ち合わせ時に確認する
指さし、氏名、手のひらで示す
男女ともに同じ表現、「〇〇さん」にするなどの配慮
特に気にしたことが無かった
手のひらで示す表現も登場人物の関係性を表す時は使いにくい(人称がわかっていればスムーズになる)
LGBTQ+通訳に特有の点については研修などを積極的に受けて学んでいってほしいところです。研修が必要な理由として「現場で当事者を傷つけないためにマナー(アウティング禁止等)や表現を知っておくべき」「間違った通訳をしないために必要」「ろうLGBTQとして求めていること、大切にしたいことを知る機会」「一人で調べられることには限界がある。当事者の声も様々なので周知、深堀りのために必要」という回答もありました。
知りたい単語表現
・ジェンダー・ノンバイナリー・セクシュアル・体の性・心の性・生物学的・男女2元論・フェニミズム・男の娘(こ)・アライ・結婚・離婚(男女使用せずに) ・配偶者・ジェンダーモダリティ・ゲートキーピング・家父長制・話者の性自認がわからない状況での「異性愛」・Theyの表し方・LGBTQ以外の分類の表現(デミロマ/デミセク/フィクトロマンティック/フィクトセクシュアル/Aro・Ace/Alloロマ・Alloセク/Aジェンダー/プログレス・プライド・フラッグ/フルイディティ/トランスセクシュアル/・SOGIEとSOGIE SCを区別したいときの表し方・パートナーシップ・ファミリーシップ・既にある『アライ』をシンプルに(「LGBT+支援+人々」だと指文字であらわす方が早い)
イベント主催者にお願いしたいこと
一般的な通訳・LGBTQ通訳共通
事前資料の準備・参考資料の提示(資料は「すべて整ってからまとめて」ではなく、「出来上がったものから順次」貰いたい)
講師・関係者との打ち合わせ(打ち合わせ時間も通訳に含め謝金に反映して欲しい)
通訳環境の整備(音響、PP使用時のライト、通訳位置、質問時は挙手して、声が重ならない、早口にならない・・など)
演者への情報保障について周知(資料の提出・話す速度や明瞭さ・略語/略称使用注意・氏名を名乗ってから話す)
配布チラシや事前告知に「手話通訳あります」の表示
通訳者に事前の相談や許可無く手話を録画しないで欲しい
特になし
LGBTQ通訳
事前学習会の開催
人称について参加者に理解してもらう事が特に必要
講演で出てくる専門用語とその説明を資料として参加者に配布して欲しい
参加者が発言する機会が多いので、発言の前に挙手・呼称を言う等の配慮を。
オンラインイベントの場合、情報保障を含めたオンラインツールの使い方を十分に知っておいて欲しい。障がい当事者、手話通訳者、文字通訳者への聞き取りを行い、より良い方法を考えて欲しい
個人通訳について
良かったこと
信頼関係のもとに通訳が成り立っていたこと
当事者・医療スタッフ双方から通訳が入ることで「曖昧だったことがクリアになった」と言われた
面接の通訳で対象者(セクマイ当事者)の話が全て理解できたので普通の通訳通りに対応できたこと
当事者だからこその話題や内容は深く印象に残る
医療受診の際、相手のことをしっかりと理解したうえで通訳できた
戸惑ったこと
知らない手話表現があること
同席者(聴者)や家族から「これは通訳しないで」と言われた
労働関係通訳で「聞こえないこと」についてはアドバイスできるが、「LGBTQのこと」についてはアドバイスできない
HIV陽性に関する経緯を聞いたり、相談を受けたこと
ちゃんと通訳できているか?
読み取りの際の取捨選択
デモの時の通訳(話の内容がわからなかった)
司会者、パネラー等の人称を確認しておかないと呼称に戸惑う
医療受診の際、自分にしか依頼されなかったので責任の大きさと負担で戸惑った
研修が必要な理由
知ることが大切で知識はもっておくべき
現場で当事者を傷つけないためにマナー(アウティング等)や表現を知っておくべき
対象者の側に寄り添うため(当事者の生活・悩みを知ることは必要)
無意識の差別偏見を払拭し、固定観念に縛られないため(LGBT関連の通訳でなくても当事者はそこにいる)
通訳範囲を広げるため(今後、LGBTQ通訳が増えると予想)
通訳者によって知識や意識に差がある
LGBTQに限らずすべての人の基本的人権に関わることだから
信頼される通訳者になるため(通訳に対する安心感)
行政や企業で制度の導入が進むから
手話の言語的特徴のため表現に留意が必要だから
現在の養成講座では男女二元論の手話表現が当たり前になっているから
養成講座の講師、担当者、受講生にも当事者がいるかもしれないから
アウティングについて
アウティングされた例(ろう者の証言)
例えば、「あの人はろう学校の時に同性に恋をしてた」とか、「あいつ、同性が好きだと言ってるのが(手話で)チラっと見えたぞ」などと言いふらされて、LGBTQであることを勝手に広められてしまったなどがある。
LGBTQ関連の講演会などで、情報保障の席が決められていて、そこに座るとバレてしまわないか不安だったという声もある。
アウティングや失礼なことなど失敗例(通訳者)
LGBQTイベントに参加していた人の事を誰かに言う。
性別記載のある書類(証明書等)を性別が見える状態で「Aさん(当事者)に渡しておいて」と、Aさんの性別を知らなかった人に預けることなど。
ろうLGBTQの参加者に人称代名詞を手話で確認したら、そのやりとりを見られてしまった。(隠れて確認すべきだった)
ご意見
知ってもらう事や一緒に考えることが偏見を無くす。
研修を1度受けて終わりではなく積み重ねていくことで考えや思いを確認、整理する機会となる。
一人で調べられることには限界がある。当事者の声も様々なので周知、深堀りのために学ぶ機会が必要。
当事者による講演・研修を手話で受けてこそ通訳者の学びが深まり通訳者全体の底上げに繋がる。
手話の特性を活かしつつ当事者が許容できる手話表現が課題。
「セクマイに関する単語の手話がわかればOK」ではなく、どんな知識・マナーを身につけて通訳現場に臨んで欲しいかの発信をお願いします。
聴者のイベントに手話通訳をつけても内容が難しくて理解できないという声を聞く。ろう者講師も数が限られているのでろうLGBTQの大会や講演、イベントを増やしたり講師養成に期待します。