ごえさんインタビュー

ろうパンセクの人工授精、出産、子育て

 ごえです。はっきりと断言はできませんが、自分ではパンだと思っています。男性、女性関係なく人としてその人に魅力を感じることが多いので。ろう学校育ちです。現在、実家でろうの両親と息子と暮らしています。家族の中で聞こえるのは息子だけです。

〜トランス男性との間に子どもを授かった経緯についてお聞かせください

 まず最初に自分で人工授精が可能な病院を検索し、4か所ほどの病院に問い合わせたところ、パートナーがトランス男性では対応できないという結果に終わりました。一般のクリニックでドナーを見つけることは諦めてLGBTQ当事者の子づくり支援をしている会社に問い合わせたところ『可能です』というお返事をいただけたので、そこからスタートしましたね。全てメールでのやり取りでした。

〜ご夫婦どちらもが子どもを望まれたのですか?

 そうです。二人で相談しました。最初、彼の父親から精子の提供をしてもらうことを提案しましたが、高齢であること、彼も嫌だという理由でやめました。親族からの提供は諦めてその会社にドナー紹介を申し込みました。私が当時、暮らしていた愛知に近い支社に相談に行き、ドナーについて血液型など私の希望を細かく伝えました。

〜ろう者のドナーに関してはどうですか?


 いなかったし、ろう者はドナーになることに積極的ではないと感じました。もしいたとしてもろう者の特性(ろう者あるある)で『僕が精子を提供した』とアウティングにつながる心配もありました。ドナーが決まると次はどこで精子の提供を受けるか決めます。ドナー登録者は東京に多く、愛知にはゼロでした。もし候補者に愛知に来てもらうとなるとドナーと同行するスタッフ2名分の交通費やホテル代などはこちらの負担になるので、私が東京に行く方が賢い選択だと思い、東京に行って自分とドナーのホテルを予約しました。

 ドナーとの連絡はすべてアテンド会社を通じて行い、私が直接ドナーと顔を合わすことはありません。私は朝と夜、2回分の精子の採取を依頼しました。顔を合わさないように部屋はなるべく部屋はなるべく離してもらって宿泊し、ドナーが採取に成功するとスタッフが私の部屋に届けてくれて、その精子を私は自分で器具を使って体内に注入しました。

〜排卵日に合わせるなどいろいろ工夫されたんですよね。


 アプリを使って排卵日を計算して予定日が決まったらスタッフに連絡、ホテルも予約して精子を届けてもらうという流れになります。朝と晩の2回注入します。それが終わると帰宅して着床したかどうか、結果を待つことになります。


〜何度かチャレンジされたのですか?妊娠した時のお気持ちは?


 いえ、1回で妊娠しました。人工授精で成功する確率が10%だと聞いているので、自分は本当に運が良かったと思います。

 うれしさもあり、驚きましたね。アテンド会社のスタッフから『厳しいと思う。何回も何回もチャレンジしている人もいる』と言われていた中での妊娠だったので。人工授精は費用もかかるし、その頃はまだ国からの補助制度もありませんでした。

〜人工授精についてご両親やご家族と話し合われましたか?


 頑張ってと言われました。彼と交際していた頃は理解はまだありませんでした。当時、情報もあまり無くて、ましてや親の世代には抵抗があったようです。その後、ドラマなどでLGBTQのことが広まってきたこともあって、今は両親なりに納得しているというか、驚くことに、母は東京レインボープライドにも2回参加しています。発見がいっぱいあって新しい世界が開けたようです。

〜アメリカの場合、同様のことをする際はドナーの職業から人種、瞳の色、IQテストの結果、ろう者である・・等、とても細かい情報が記載されています。ろうLGBTQ当事者で子どもを持つ人は多く、人工授精で子どもを授かった人達のネットワークや交流の場があります。成長した子どもが自分と親は血のつながりが無く人工授精で生まれたという自分史を話したり情報交換したりしますが、日本はまだそこまで進んでおらず、今後の課題ですよね。


 子どもが成長して悩んだときに話す場があればよいなぁと思います。子どもは4歳です。もうやんちゃで大変。聞こえる子なのでコミュニケーションも大変。指文字はまぁまぁ理解して、手話も少し使いますが、会話の中に知らない手話が出てくるとそこで行き詰まることがありますね。ある程度、成長してきた時に、きちんと子どもの顔と目を見て話そうと思っています。手紙を書くことも考えましたが、将来反抗期を迎えてぶつかることもあると思うので、やはり向き合って、元夫のことも含めて、今までのことを全て話そうと考えています。

〜LGBTQについて何か思うことは?


 まだまだ自殺のリスクが高いですよね。外からは明るく平気そうに見えても実は悩みを抱えながら生きている人がたくさんいます。仲間同士で心の中を打ち明けることができる場があれば良いと思います。私は周りの人に話しています。自分はオープンにしているけれどクローゼットの人も知り合いにいて、彼らの悩みは深いと思っています。アウティングの心配がなく信頼できる相談場所があれば良いと思います。私自身の人工授精の経験、それが選択肢の一つとしてあるということが子どもを持ちたいと願う当事者達の参考になったり希望につながればと思っています。


(2023年8月)