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従来法は、対象が単軸の応力場で外部応力がないか、外部応力が単軸方向の応力の場合のみ有効
モールの応力円リバース解析の手順 各測定方向の (σφ, τφ) をプロットし、最適円を回帰的に推定する方法
回転と緩和
[0239]2次元・全方向・モールの応力円で見る応力変化
加工、熱処理、ピーニング、繰返し負荷などによって、残留応力は大きさだけでなく、主応力方向も変化します。
一方向の測定値は、その方向に対応する応力成分です。その値だけでは、主応力の大きさが変わったのか、主応力方向が変わったのかを区別できない場合があります。
モールの応力円リバース(MSCR)は、多方向の垂直応力とせん断応力から面内の応力状態を再構成し、その変化を大きさと方向の両面から評価する方法です。
■ 1.一方向の応力変化と、応力状態の変化
ある方向の垂直応力は、次式で表されます。
σ(φ) = C + R cos{2(φ − β)}
C:面内平均応力
R:主応力差の半分
β:最大主応力方向
φ:測定方向
この式から、一方向の測定値は、平均応力C、主応力差に対応するR、主応力方向βのすべてに影響されることが分かります。
したがって、一方向の応力値が低下しても、主応力そのものが緩和したとは限りません。主応力方向が変化したために、その方向の測定値が低下する場合もあります。
逆に、一方向の測定値がほとんど変わらなくても、主応力や主応力方向が変化している場合があります。
■ 2.MSCRによる応力状態の再構成
cosα法で、同じ位置の複数方向について垂直応力とせん断応力を取得します。
180°対向方向の測定値を平均し、方向反転で符号が変わる成分を相殺します。
その後、測定方向φを用いて、次式の共通係数を最小二乗法で推定します。
σ̂(φ) = Kcenter + Kσ cos(2φ) + Kτ sin(2φ)
τ̂(φ) = −Kσ sin(2φ) + Kτ cos(2φ)
推定した係数から、モール円の中心、半径、主応力方向を求めます。
C = Kcenter
R = √(Kσ² + Kτ²)
β = atan2(Kτ, Kσ) / 2
加工前後や疲労段階ごとに同じ解析を行うことで、応力状態の変化を比較します。
■ 3.モールの応力円の中心から分かること
モール円の中心Cは、面内の二つの主応力の平均です。
C = (σ₁ + σ₂) / 2
円の中心が右へ移動すると、面内平均応力が引張側へ変化したことを示します。
円の中心が左へ移動すると、面内平均応力が圧縮側へ変化したことを示します。
ここでいう平均応力は、同一状態における面内主応力の平均です。繰返し荷重の時間的な平均応力とは区別します。
■ 4.モールの応力円の半径から分かること
モール円の半径Rは、主応力差の半分であり、面内最大せん断応力に等しくなります。
R = (σ₁ − σ₂) / 2
τmax = R
半径が大きくなると、二つの主応力の差が大きくなります。
半径が小さくなると、二つの主応力が互いに近い値になります。
半径の縮小だけで、応力全体がゼロへ近づいたとは判断できません。中心の位置と、左右端の主応力も併せて確認します。
例えば、円が圧縮側にあるまま半径が小さくなる場合は、二つの主応力が近い圧縮値へ変化している可能性があります。
■ 5.円の左右端から主応力の変化を読む
モール円の右端が面内最大主応力σ₁、左端が面内最小主応力σ₂です。
σ₁ = C + R
σ₂ = C − R
引張応力を正、圧縮応力を負として、加工前後の左右端を比較します。
・引張の主応力がゼロへ近づく:引張応力の緩和。
・圧縮の主応力がゼロへ近づく:圧縮応力の緩和。
・主応力がより負側へ変化する:圧縮応力の増加。
・主応力がより正側へ変化する:引張側への変化。
円の移動と半径の変化を併せて読むことで、どちらの主応力がどのように変化したかを確認できます。
■ 6.主応力方向の変化を読む
主応力の大きさが同じでも、主応力方向が変わると、指定方向の垂直応力とせん断応力は変化します。
この変化を確認するには、モール円に測定方向が分かる点を表示し、主応力方向βも併記します。
モール円の輪郭だけでは、主応力方向は分かりません。同じ中心と半径でも、主応力方向が異なる応力状態が存在するためです。
同じ測定方向φの推定点は、次式で表されます。
σ̂(φ) = C + R cos{2(φ − β)}
τ̂(φ) = −R sin{2(φ − β)}
実際の主応力方向がΔβ変化すると、この符号規約では、固定した測定方向の推定点の円周上の角度は−2Δβ変化します。
主応力方向は180°周期で扱います。また、二つの主応力がほぼ等しい場合は、方向が定まりにくくなるため、主応力差と併せて評価します。
■ 7.応力緩和と主応力方向の変化を分けて評価する
加工前後や疲労段階の比較では、次の項目を分けて確認します。
【主応力の大きさの変化】
σ₁、σ₂を比較し、引張・圧縮の各主応力がどの程度変化したかを確認します。
【面内平均応力の変化】
中心Cを比較し、応力状態全体が引張側・圧縮側のどちらへ変化したかを確認します。
【主応力差の変化】
半径Rを比較し、二つの主応力の差と面内最大せん断応力の変化を確認します。
【主応力方向の変化】
βを比較し、応力の主方向がどの程度変化したかを確認します。
これにより、一方向の測定値の変化を、主応力の大きさの変化と方向の変化に分けて解釈できます。
■ 8.溶接部の応力状態を比較する
溶接部では、溶接線方向と直交方向だけでなく、主応力方向を含めた評価が重要になります。
MSCRでは、各測定位置の応力状態を再構成し、次の点を比較します。
・溶接線、止端、熱影響部、母材の位置ごとの主応力。
・溶接線に対する主応力方向。
・ピーニングや熱処理の前後における主応力と方向の変化。
・位置ごとの主応力差と面内最大せん断応力。
・実測値と再構成した応力状態との整合性。
複数位置の結果を並べることで、応力の空間分布と、位置による主応力方向の違いを確認できます。
■ 9.疲労試験における応力変化を比較する
疲労試験では、試験前と各疲労段階について、同じ位置・方向に対応させて測定します。
各段階のモール円、方向付き測定点、主応力方向を重ねて比較することで、次の変化を確認します。
・引張または圧縮の主応力の緩和。
・主応力差の増減。
・荷重方向に対する主応力方向の変化。
・応力状態の変化に伴う方向別測定値の変化。
・測定点群と推定値との整合性の変化。
疲労に伴って主応力方向が変わる場合、一方向の応力値だけでは、緩和の程度を十分に把握できないことがあります。
主応力の大きさと方向を併せて追跡することで、疲労段階ごとの応力状態の変化を整理できます。
■ 10.実測点と推定値を併せて表示する
多方向の測定点をσ–τ平面上に配置し、方向順に結んだものが、三島の測定多角形(MSP)です。
MSPと再構成したモール円を併せて表示し、さらに各方向の実測値と推定値との差を確認します。
垂直応力の残差:
rσ(φ) = σ̄(φ) − σ̂(φ)
せん断応力の残差:
rτ(φ) = τ̄(φ) − τ̂(φ)
これにより、応力状態の変化と同時に、測定値の整合性が変化していないかを確認できます。
比較する際は、測定位置、方向、照射径、入射角、表面状態などの条件も対応させます。
■ 11.応力変化を表示する際の基本項目
加工前後や疲労段階の比較では、次の情報をまとめて表示します。
・測定位置と測定条件。
・面内最大主応力σ₁と最小主応力σ₂。
・主応力方向β。
・面内平均応力C。
・主応力差2Rと面内最大せん断応力R。
・方向付きの実測点・推定点とモール円。
・方向別残差。
MSCRによって、指定方向の応力値の変化に加え、面内の応力状態がどのように変化したかを評価できます。
■ 関連ページ
モールの応力円リバース解析の説明