神経系による免疫系制御

神経系と免疫系は独立した統御系として考えられてきました.しかし近年, 神経系と免疫系は共通のリガンドや受容体を介してクロストークしていることが多くの研究により明らかとなってきました. つまり,昔から「病は気から」と言う言葉がありますが,気(神経系)が免疫系を攪乱することにより病(病気)を引き起こしたり, 悪化させたりする機序が科学的に解明されつつあります.この研究グループでは, 知覚神経の神経ペプチドであるカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)に注目し, 神経系による炎症・免疫系の制御機構の解明とその破綻による疾患発症・増悪について研究を進めています. これまでの研究では,マウスのCGRP受容体がRAMP1 (receptor activity modifying protein 1) とCLR (calcitonin receptor-like receptor) のヘテロダイマーで構成されていることを突き止め, CGRPはこの受容体を介したシグナル伝達により,樹状細胞の自然免疫応答を抗炎症的に制御し, またT細胞免疫系をTh2に偏倚させることを明らかにしてきました.さらに,RAMP1欠損マウスを作製し, LPS刺激による炎症性サイトカインの産生が促進されること, Th2型アレルギー反応が抑制されることやTh17細胞が関わる自己免疫性脳脊髄炎が抑制されることなどを発見しました. これらの結果は,

CGRPによる免疫系制御機構の存在を示すものとなりました.また最近,このRAMP1欠損マウスは高血圧であり,さらに高脂肪食負荷により高度な肥満を呈することが発見されました. 現在,内臓脂肪型肥満をベースとして高血圧,血清脂質異常と高血糖の3項目のうち2つ以上を有する状態をメタボリックシンドロームと定義されています. 最近このメタボリックシンドロームが動脈の硬化と肥厚により引き起こされる動脈硬化性疾患である心筋梗塞や脳梗塞などの危険性を高めることが明らかとされたいへん大きな注目を浴びています. 近年,日本におけるこのような動脈硬化性疾患による死亡者数は, がんに次ぐ死亡原因の第2位(心疾患)と第3位(脳血管疾患)を占めています. よってこの動脈硬化性疾患発症に関わるメタボリックシンドロームの発症メカニズムを解明するとともに, その知見に基づくモデル動物の作製と,予防法確立,治療薬の創出は社会的に急務な課題となっている. CGRP研究は.メタボリックシンドロームの発症機序解明やその新たな治療薬開発に繋がる可能性を示しています.

CGRPは神経系のみではなく,免疫担当細胞や脂肪細胞からも産生されることを認めており, 生体においてCGRPを介した巧妙な制御システムの存在が示唆されています.このグループでは, この制御システムを解き明かすとともに免疫疾患や生活習慣病の新たな治療創薬展開に向けた研究を進めています.