RNAエピジェネティクス

エピジェネティクスはDNAの塩基配列の変化を伴わない後天的な遺伝子発現制御を対象とする研究分野であり、DNAやヒストンの化学修飾に関するDNAエピジェネティクスに関しては多くの知見が蓄積されてきています。またそれらにかかわる分子を標的とした革新的医薬の創製も世界中で激烈な競争により進められています。一方、DNAだけではなくRNAにおいても種々の修飾がなされていることは以前から知られていました。しかしmRNAのキャップ構造である7-メチルグアノシンなどの一部を除いて多くのRNA修飾に関しては、その詳細な存在状態、制御機構や生物学的意義は十分解決されていません。当研究室は世界で最初にRNA塩基の脱メチル化を制御する分子としてprostate cancer antigen-1 (PCA-1)を発見いたしました。PCA-1は大腸菌タンパク質のALkBと相同性あるドメイン2-oxoglutarete, Fe(II)-dependent oxygenase domainを有しており、また現在までにこのドメインを有するヒト遺伝子AlkB homolog (ABH,ALKBH)ファミリー分子として9種類同定されています。PCA-1はALKBH3とも呼ばれており、tRNAの脱メチル化を介してたんぱく質翻訳効率促進に機能していることが明らかになってきております。最近N6-メチルアデニンの制御分子機構や生物学的意義の研究が大きく進展しており、RNAエピジェネティクスという新たな学問領域において大きな展開がなされてきました。当研究室はALKBHファミリー分子によるRNAエピジェネティクス制御機構とそれによる細胞生理学的機能解明、さらには疾患との関係を研究しています。