国際刑事裁判所(International Criminal Court:ICC)とは、2002年7月に効力を発生したICC規程(ローマ規程とも呼ばれる)に基づいて設置された国際機関であって、戦争犯罪、ジェノサイド罪、人道に対する犯罪など国際社会にとって最も深刻な犯罪(コア・クライム)を犯した個人を訴追する史上初の常設国際刑事裁判所である。常設の国際刑事裁判所設立は、第二次世界大戦終結よりの国際社会の悲願であったが、それが半世紀以上にも渉って実現しなかったのは、法的な問題に限っていえば、そもそも国際刑事裁判所という各国の主権に介入するおそれのある機関を設立することに賛成が得られなかったところが大きい。ICC規程においてもその調整のために特に管轄権行使の部分においては複雑な構造になっており、今後の裁判所の活動に際しても恒常的な問題となることが予想される。本論文は、このICCの管轄権行使をめぐる問題に焦点を当てて検討を試みたものである。
本論文の概要は以下のとおりである。
第一章においては、問題背景としてICCの設立をめぐる歴史的背景について略述した。第二章においては、ICC規程の概要を紹介し、規程における管轄権行使に関する内容、特に管轄権行使の前提条件に当たる部分を概略したうえで、あるべきICC像として外交会議でかわされた代表的な議論を参照しながら、ICCの管轄権行使に関する規程上の問題点を検討した。第三章においては、ICCに強く反対する米国(アメリカ)の法的根拠を紹介し、それに対する賛成と反対の立場を法的視点および若干の実際的な見地から考察した。
これらの成果をふまえつつ、第四章においては、本論文独自の視点として、ICC規程の効力発生とともにICCの管轄権行使を妨げる目的で国連安全保障理事会で採択された決議1422を、採択までの過程を整理したうえで、ICC規程と国連憲章の両面から検討した。また、決議1422を更新する決議1487を含め、ICCの管轄権行使に関する今後の動向と課題についての指摘をおこなった。
(指導教授:住吉良人 明治大学名誉教授(国際法))