国際刑事裁判所(International Criminal Court:ICC)と国連安全保障理事会(安保理)との関係の問題は、ICCへの政治的機関の介入が「司法機関の独立」の妨げになるとして、ICC規程が採択されたローマ会議においても重要な争点の1つとなった。成立した規程では16条にICCと安保理の関係が規定されたが、ICCの管轄権行使の枠組みを解明するうえで、この規定の趣旨の理解は欠かすことができない。
2002年7月12日に、 安保理は、同年7月1日のICC規程の発効をうけて、ICCに規程非締約国出身の平和維持要員に対する捜査及び訴追の停止を要請する決議1422を採択した。この決議は規程の起草段階からあった問題に具体性を帯びさせた。また、決議の採択過程は「米国(アメリカ)対ICC推進派諸国」という対立軸を色濃く反映しており、今後のICCのあり方についても多大な示唆を与えるものである。
以上の問題意識に基づいて、本稿は、決議の採択過程を概観した後、決議の効果、意義等についてICC規程と国連憲章の両面から検討をおこなうことで、ICCの管轄権行使をめぐる議論に一石を投じようと試みたものである。
本論文の結論は以下のとおりである。
まず、ICC規程と決議1422との関係であるが、決議と規程の文言を検討した結果として、ICCは決議1422が拘束力を持たないと決定することができると評価した。なお、その際に想定される問題点は、ICCが政治的機関である安保理の決議に対して、司法審査を行う権限を有するのかどうかであるが、ICCには安保理が採択したICCへの要請の根拠を再審理する権限は与えられていない。しかし、ICCがおこなう決定は、管轄権に関してのICC規程の解釈として、決議の「要請」が規程16条と一致するのかどうかということだけである。そして、この点から見る限り、決議の「要請」と規程16条は一致しない。
他方において、ICCによって決議の拘束力が否定されることは、国連憲章に基づいた安保理決議による国連加盟国に対する拘束力に影響を及ぼさないことには注意が喚起される。そこで、そもそも決議1422を安保理が採択する権限があるのかどうか、あるとするならば加盟国の義務の範囲が検討されなければならない。検討の結果、過去に採択された決議との比較では、決議の採択自体については国連憲章違反であると判断することはできず、加盟国は決議に拘束されることになるとした。そのうえで、加盟国の義務の範囲は、解釈の余地を残すものであって、今後、論争が継続するものであると結論づけた。
最後に、決議1422の更新状況について、決議1422を更新する決議1487の採択過程を一次資料を元に紹介し、現状の分析をおこなった。
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